67 既視感(デジャヴ)
「ジトレフッ! 何やってんだよっっ!!」
アセウスの切迫した声がする。
あ、待てよ、これ、既視感。
なんだっけ、この状況。
ローサとの勝負の時か?
いや。違う。あの時は理由は分かってた。
「アイフレッドさん! 大丈夫ですかっ?! ジトレフッとりあえず剣はしまえっ!! 傷付けるなっ! 何も抵抗してないだろっ?! 彼に敵意はないっっ」
アセウス、それはちょっと違う。
違うって右手首も言ってる。
抵抗してないんじゃない、抵抗する隙がないだけだ。
敵意の有る無しに関わらず、相手を封じる、完全制圧。
それをジトレフが瞬時に行っただけ。
解いたら何が起こるかは分からない。
アイフレッド次第だ。
考えてみろ、突然こんな目に遭って何故黙ってる?
見たところ身体からは脱力している。
自分の置かれている状況は分かってるってことだ。
抵抗したら、あの黒い剣で即死。
なら、弁明するはずじゃないか?
俺は敵じゃないって。何故こんなことをするって。
止めろって、普通言わねぇか?
今、アイフレッドは何を考えているんだろう?
少しでも読み取れないかと、俺は綺麗な横顔を見つめた。
透けるような白い肌。
見開かれた茶色の瞳。
珍しく崩れた無表情に表れている感情は、恐怖、焦り、それと迷い。
俺は、この表情を知ってる。
「ジトレフッ!!」
いてもたってもいられなくなったアセウスが、慎重にジトレフ達に近づいて行く。
「何か理由があるんだな?! 分かった。でも大丈夫だって! 彼は……、アイフレッドさんは、タクミさんの友人だっ、例の料理人だし、何もしないっ、俺達に害をなさないっっ。ジトレフの理由が解消されないとしても、俺達三対一だろ。何かあれば対処できる。ひとまず落ち着いて、アイフレッドさんから手を放してくれっっ」
「アセウス殿、私は冷静だ。申し訳ないが剣を収める気はない。……この男の口から解放しても問題がないという説明がある以外は拘束は解かない。この男は、ローセンダールでエルドフィン殿を謀り、私に薬を盛った男だ」
「え……?」
アセウスは驚愕してジトレフからアイフレッドに視線を移した。
アイフレッドは何かを諦めたように目を閉じる。
膠着。
しばらく時が止まったかのようだった。
アセウスは、何も言えず、アイフレッドの顔を見つめている。
その蒼白い顔に、つぅーっと一筋汗が流れた。
俺はゆっくりと近づいて、組伏されたままのアイフレッドの頭から注意深く白布を外した。
ふぁさっと広がった金髪は、ジトレフの言葉が無稽ではないと俺達に思わせた。
俺自身は未だ信じ難いが、右手首は確信している。
「アセウス、ジトレフが正しい。拘束を解くのは止めた方がいいと俺も思う。未だに信じられないけど、女じゃなかったのかよ……」
そういや、化粧と匂いが凄かった。
髪だって瞳の色だって同じような人は何人もいる。
俺には右手首の映像・音声解析を信じるしかねぇ。
「本当にそーなのか……? 似ていると言われたら確かにそーだけど、似たよーな人なんていくらだっているし、似てるってのもその程度だろ。お姉さんとか、親戚ってことだってあるし……、あれは女の人だったよ」
アセウスがアイフレッドに気兼ねしつつしゃがみこむ。
アイフレッドは伏し目がちに目を開けたが、目の他は動かさず、一言もしゃべらない。
アイフレッドの顔をまじまじ見ながらアセウスは眉を寄せる。
「やっぱり、違うんじゃないか? ジトレフはアイフレッドさんが女装してたっていうのか」
「なんの話をしている。ローセンダールでエルドフィン殿から物盗りを図り、私を殺めようとした男だ。忘れたのか」
「いや、覚えてるよ、だから、あれは女の人だっただろ? あー、少なくとも女の人の格好をしてた」
「何を言っている? お二人にはこの男が女に見えるというのか? 着飾った、この男が」
は?
俺とアセウスは顔を見合わせる。
見ると、アイフレッドも目を見開いてジトレフをマジ見してる。
「え? お前、あの時から男だって気づいてたの?」
「……お二人は女だと思っていたのか? だとしても、そんなことはもういい。問題はその男が、ここに居るということだ。タクミ殿を呼んで欲しい。このまま殺すか、ローセンダール部隊に突き出すか、判断して貰わねばならない」
ジトレフの容赦のないバリトンボイスは、部屋の空気だけでなく、そこにいる俺達全員を震わせた。




