4.相談
「……それはまた……何と申しますか」
アナベルから一通り話を聞いたアルバートは、困惑した様子を見せた。どうやら彼は“アナベルの相談事”の内容について、ルイスから少しも聞かされていなかったようである。
「こんな相談でお恥ずかしいですわ。恋の悩みだなんて……お医者さまにお話しするような内容ではありませんわよね」
「いえ、そのようなことは……。ただ、このような内容は初めてだったものですから」
アルバートは難しい顔で「うーん」と唸ると、ルイスを横目で流し見る。
「ルイス、なぜ事前に伝えなかったのです。確かにサウスウェル卿の行動には目に余るものがありますが……あなたがあまりにも深刻な顔で報告するものだから、私はてっきり……」
「何をおっしゃいますか。これは十分に深刻な状況ですよ。それに患者について守秘義務は絶対だといつもおっしゃっているのは先生の方でしょう。そもそもアナベル様がいらしてくださるかどうかすら賭けであったのです。アナベル様が先生について調べ、私の言葉が嘘であると知ったら、どう判断なさるのか……と」
――それはルイスの本心であるのだろう。彼は申し訳なさそうにアナベルを見つめる。
その後再びアルバートに向き直ると、言葉を続けた。
「それで、先生。今の話を聞きどう思われましたか。確かにこの分野は先生の専門外。こう言ってはなんですが、私の知る限り先生には恋人がいたことすらありませんから。けれど私はどうしてもこの問題を解決して差し上げたい。アナベル様の為、そしてウィリアム様の為に」
「ルイス……先ほどから薄々気になっていたのですが、もしや私に喧嘩を売っている? 叱られたのがそんなに気に入らなかったのですか?」
「まさか、そのようなことは。先生のことは誰よりも尊敬しております。喧嘩を売るなど恐れ多い」
――が、本題に入るどころか二人は謎の口喧嘩――もとい、討論を始めてしまった。
言葉も表情も穏やかなのに、言葉の端々に悪意を感じる。
「思い返せばあなたは昔からそうでした。一言えば二返してくる……」
「それこそ教育の賜物では? 僕の師は今も昔も先生お一人ですから」
「……そういうところですよ」
けれど悪意以上に、二人の会話から伝わってくるのは確固たる信頼感。
アルバートを師と呼ぶルイスからは、確かにアルバートへの尊敬の念を感じる。
二人の関係性はよくわからないが、きっと深い絆で結ばれているのだろう――そう思った。
「お二人は……とても仲がよろしいのですね」
アナベルが呟けば、まるで示し合わせたようなタイミングでアナベルの方を振り向く二人。
「良くありません」――そう声を揃える二人に、アナベルはつい笑いが出てしまう。
「ふふっ」
エヴァンについて悩んでいたのが嘘のように、彼女は心からの笑みをこぼす。
ここのところずっと喉につっかえていた何かが取れ、自然と息ができていることに気付いた。
まだ何一つ解決していないのに。ただ、悩みを口に出しただけなのに。
――それでも、心が軽くなったのは確かだわ。
ルイスとアルバートの言葉の応酬を眺めながら、アナベルは思う。来て良かった、と。
そんなアナベルの変化に気付いたのか。口論をやめる二人。
彼らは顔を見合わせ、にやりと微笑む。
「やっと笑いましたね」
「やはり女性の笑顔はいいものです」
――と、わざとらしく言いながら。
「――っ」
瞬間、アナベルは悟った。
二人の今のやり取りは、自分の心を和らげようとしてくれてのことだったのだ――と。
「では今度こそ本題に入りましょう」
「議題は、“サウスウェル卿とアナベル様の恋路”について」
アナベルは二人の言葉に促され、無意識のうちに喉を鳴らす。
――そうしてようやく、彼らは本題に入った。




