2.二番街の邸宅
二人を出迎えてくれたのは見目麗しいメイドだった。
空色の瞳に、後頭部の高い位置でまとめられた美しいブロンドの髪。目鼻立ちはくっきりしており、体つきは女性らしい。
貴族だと言われればそう信じてしまう程の気品に満ち溢れていた。
「アナベル・オールストン様でございますね。お話は伺っております。さあ、どうぞ中へ」
加えて、声も鈴の音のように透き通っている。
アナベルはそんなメイドの声に誘われるようにして、クレアと共に室内に足を踏み入れた。
*
二人が案内されたのは、二階の一番手前の部屋だった。
どうやらこの家は一般的な部屋の使い方とは違い、一階が診察室、二階以上が居室となっているようだ。
その証拠に、どこか殺風景だった一階に比べ、二階の廊下の壁は家主の趣味と思われる多種多様な絵画で飾られていた。
「わたくしは二人を呼んで参りますので、こちらでしばらくお待ちください」
メイドの足音が遠ざかるのを確認し、アナベルは部屋の中を見回す。
広さはアナベルの部屋と同じほど。
壁紙は淡い緑色で、床にも同系色の絨毯が張られている。中央には一人がけのソファとサイドテーブルがそれぞれ四つ。奥には普段使われていないのか、灰の積もっていない暖炉があった。
掃除もよく行き届いているようでチリ一つ見当たらない。窓ガラスには指紋一つなく、太陽の明るい日差しが惜しげもなく注ぎ込んでいた。
――清潔感のある部屋ね。
そんなことを思いながら、彼女は手近なソファに腰掛ける。
「クレア、あなたも座っていいわよ。革手袋はそっちのテーブルに」
「はい、お嬢様」
アナベルはクレアに持たせていた化粧箱をテーブルに置くよう指示をする。
そして今さらながら、家主であるアルバート・ハドソンの人物像を思い起こす。
ルイスにアルバートの名を聞かされてから一週間。
通常であれば、それがどんな人物か調べるのに十分な時間があった。
けれど今回の訪問はお忍びだ。
だからアナベルは、屋敷の誰にもアルバートについて尋ねられなかった。
だからといって、まったくの事前情報なしに訪問する訳にはいかない。
悩んだ挙句、オールストン家に仕えている医師にこっそり尋ねることにした。“アルバート・ハドソンという名の医師を知っているか”と。
そうして返ってきた答え。
それは、“十年ほど前までウィンチェスター侯爵家に仕えていた医師がピーター・ハドソンという名だったはず。もしやその子供か親類縁者では”――というものだった。
この情報から分かったことは二つ。
一つは、ハドソンという姓はウィンチェスター侯爵家に縁があると言うこと。
そしてもう一つは、アルバート・ハドソンは名の知られた医師ではないと言うことだった。
けれどそれは仕方のないことだろう。
なぜならアルバートは精神科医なのだから。
精神科医――それは内科や外科とは違い心理学方面に特化した専門医のこと。医師を名乗る以上通常の医師免許の取得は必須であるが、属する機関も患者の種類も異なる。
通常のかかりつけ医は内科医であるから、オールストン家の医師が精神科医のアルバートを知らなくとも何ら不思議はなかった。
少しして、ようやく扉がノックされた。
同時に「入ってもよろしいですか」と声がする。ルイスの声だ。
アナベルは返事をし、ソファから立ち上がる。
それと同時に扉が開き、ルイスと共に長身眼鏡のスーツ姿の男が、部屋の前に現れた。




