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その変身は生き様そのものである

作者: 相沢 洋孝

変身ヒーローと悪の組織の幹部の最終決戦が今、火蓋を落とす


 変身、それはヒーロー、ヒロイン、そして悪の怪人定番の特撮では当たり前の特権である。

 メタリックな甲冑だったり、伸縮性の優れたスーツ。


 ヒーローもヒロインも若く、悪の怪人も顔出しするものは若かったりするが、顔を隠しているものもいる。


 そんな悪の怪人、幹部クラスが俺だ。ヒーロー側の姿とは異なり、邪悪なイメージを思合わせる甲冑であり、手にしているのは禍々しい作りの魔剣。鬼神の面の兜で顔を隠して、すべてを呪うがごとき印象を与えてくる姿だった。


 「きたか、貴様たちの歩みはココで止めさせてもらう」


 「暗黒剣士アルザレオス!お前を倒して邪神ジャアクダーの野望を阻止する!覚悟しろ!」


 若いヒーローとヒロインたち5人は変身すると色違いのスーツを持ち、各々が使う武器を構える。それに対してベテランらしいゆったりとした動きでアルザレオスは剣を構える。


 「はあ!」「せい!」「それ!」


 ヒーローたちの動きは若々しく、そして鋭い攻撃を放つ。


 「ふん、遅いな。ではこれぐらいしてもらおうか。耐えてみろ」


 その攻撃を見切ったように回避し、斬撃を受け流し、カウンターでケリを放ち、戦力差を見せつけると手にした剣が輝き、鋭い斬撃が連続して放たれてヒーローたち全員を吹き飛ばしていく。


 「つ、つよい」


 「貴様らごときはまだまだ小童。鎧袖一触ぞ。せめての情けである。我が剣の奥義を持って塵一つ、残さず消し飛ばしてやろう」


 両手に構えた剣を高々と構えていくと



 「カットー!オッケーだー!」


 その声を聴くと剣を構えていた剣士は剣を置き、兜を取る。そこには優しそうな壮年の男性の姿が見えていた。

 

 「相変わらず宗田さんはスゴイ殺陣ですよねー。本当に斬られるかと思いましたよ」

  

 赤いヒーロースーツを着たままの若者が声をかけてきたのを見れば苦笑している宗田と呼ばれた男性はタオルで顔を拭くと答えていく。


 「俺はな、お前さんが赤ん坊のころから役者やっているからな。大部屋役者として斬られ役していれば斬撃も銃撃も格闘技も流れで覚えれるさ。お前さんもスーツアクターやるなら本気で長く続けろよ」


 そう言ってスマホを確認すれば、いつもの居酒屋で待っているという簡潔なメッセージが残っていた。



 その夜、待ち合わせの居酒屋でいたのは同じ世代の男だった。


 「おーい、こっちだ。アルザレオスの中の人」


 「そういうお前こそ、アルザレオスの中の人だろ、沢口。まあ、お前は他の作品でも活躍だからな。声優として」


 店員に酒とつまみを頼めば、見た目は完全に親父の飲み会。話している内容が朝の特撮の内容というのは違和感を感じるだろう。


 「劇団の同期はついに俺とお前だけだな。とはいえ、俺は声優、お前はスーツアクターだから本職じゃないけどな」


 「仕方ないさ、劇団で演劇やっていても食っていけなかったんだ。沢口、お前は声優の資質があったのを見出された。俺は殺陣が評価された。しかし、同じ作品の同じ役の同じ中の人だって聞いた時は驚いたぜ。今や孫がお前の出演しているアニメを見ている時代だと思うと驚きだ」


 若き頃の劇団の二人に戻ったように微笑みあえば店員が持ってきた酒を酌み交わしていく。


 「で、来週、台本では俺たちの死に様を勇ましく撮影するけど、派手に行けよ。ヒーローどもを喰っちまえ」


 「それはこっちのセリフだよ。お前の渋い声で最後の大技と死に様を忘れさせないほどインパクト見せてやれ」


 お互いがお互いの得意な分野をからかうと真面目な顔をして沢口は宗田に聞いてきた。


 「お前、今回の作品でスーツアクターやめるって本当か?」


 「ああ、お前さんと違って身体にガタ来ちまった。今度は教官やってくれないかって言われているよ。引退するわけじゃない。むしろ俺の教え子がお前さんと共演するかもしれないんだ。次代は育っているさ。新しい時代が進むようにな」


 酒を煽り、飲み干すと、引退するとは思えないほどの笑みを見せる。


 「それより沢口、新人声優なんかに負けんじゃねーぞ。今は歌だ、ダンスだ、コンサートだとか言っているけど、俺たち劇団出身者は何でもこなすんだ。そしてお前は声を選んだ。お前にしか出せない声を聴かせてくれよ。俺は若造どもを扱き上げてやるさ」


 変身ヒーローの中の人、それは悪役でもヒーローでも中の人が一流だからこそ輝くアクションがある。

 悪役の中の人、仮面の悪役は声が命。如何にキャラに合う声がマッチングするかで決まる。


 声優とスーツアクター、同じ劇団出身者でも進む道は違い、そして交わり、再び離れる。

 それは本当に生き様という物だった。

はい、変身ヒーローと言われて特撮を思い浮かべて思いついたのが声優さんとスーツアクターです。

ハッキリ言いましょう。顔を出している俳優陣よりもスーツアクターの方が演技上手いです。

顔を隠しているけど、その動きは本当に流れるようにすごいです。

殺陣は時代劇から流れる格闘の演技力です。


そして声優さんは声だけで、どんな表情でも仮面の中でも思いを出せるほどの演技して見せるプロです。


今ではプロダクション出身者が多いですが、昔は演劇主体の劇団俳優から声優になった人やスーツアクターなった人も多いです。


そういうことを知っていると格好いいヒーロー、怖い怪人も見る目が変わります

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― 新着の感想 ―
[一言] 企画から参りました。 変身テーマの王道ですね。 戦隊もの、やっぱり魅力的な悪役が、存在していてこそだと思います。 最近、時代劇の有名な斬られ役の方の訃報があり、ちょっと残念に思っていたとこ…
[良い点] 流れるような文体に、この短いお話の中にしっかり登場人物たちの生きざまを凝縮していて、なんだか短編なのに長編を読んだかのような、満たされたなぁって感じの読後感を味わうことができました(^^♪…
[一言]  読ませていただきました。 いいですね~。 ベテランのスーツアクターさんと声優さんのやりとり。 苦難を乗り越え自信を持ってやってきた生き様は、やっぱりカッコいい。  ありがとうございま…
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