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残響リヴァーバレイション  作者: 齋藤睦月
第二章
18/24

一気に気が楽になった

 ◆


 それからおよそ三十分後。僕は正宗たちを東屋に呼び戻した。人払いをする前と同じように、池田加符華(かふか)はうな垂れてベンチに座っている。その姿を見下ろして、由香里は今一度ため息をついた。


「それで……どうなったの?」

「そんなに不安そうにするなよ由香里。首尾は上々。まずはスマホに入ってるデータだけど、これは今すぐに由香里の見てる前で消してもらう。僕が見るわけにはいかないから、由香里が自分で確認して欲しい」


 ロックを解除してあったカフカのスマートフォンを由香里に渡す。何度か操作を繰り返して、由香里は当該のデータを削除した。


「ツイッターのアカウントも消させたから、そこにデータが残ってたとしても削除されたはずだ」

「それはいいんだけど、どこか他にバックアップがあったら意味ないんじゃない?」

「わかってる。でも、池田加符華は絶対に僕たちを裏切らなくなったんだ。もしバックアップがあってもただちに消去するし、何があっても由香里の動画や情報をばらまくことはない。そういう約束をした」

「おい悠、小学生じゃあるまいし。約束ってだけじゃさすがに——」

「マサムネ君。そこは心配ご無用だ」春樹がさえぎる。「何しろ約束を破ったら、カフカの恥ずかしい写真が全世界にデビューしちまうことになるからな」


 春樹の言葉にカフカがビクッと反応する。それはそうだろう。容赦のない写真を僕らは撮った。はっきり言って人権無視だ。弱みを探すのは難しい。なら弱みを作ればいい。これは保険であると同時に、由香里を散々苦しめたクズにぴったりの罰だ。


「第三者にデータを盗まれても有罪だ。バックアップがあるなら今日中に抹消することを勧めるよ。そうやって約束が守られる限りこの写真が世に出回ることはないし、そうなることを誰よりも望んでる。それはわかるよな?」


 念押しした僕に対して、カフカはうな垂れたまま、はいとかはぁとか曖昧な返事をした。


「てなわけで取りあえずは解決かな。いつまでも怪我人と一緒に居ると怪しまれる。さっさと解散しようぜ」

「八潮、待って」そう言って由香里がカフカの肩を掴む。「あたしのキーホルダー返してもらえる? っていうかこれカバンに吊るしてたんだけど。どうしてあんたが持ってたわけ?」

「すいません……盗みました。誰も居ない時に教室で」

「最低。死ね。通り魔にやられて死ね」


 カフカからメシアのキーホルダーを受け取ると、由香里はもう一方の手で華麗に中指を立てた。


 ◆


 結局のところ、カフカは二学期の初め頃には由香里のことが気になっていたらしい。そんなある日、廊下でツイッターに興じていた由香里の画面が偶然見えて、運良くアカウント名を暗記することに成功した。由香里のツイートをこっそりチェックしているうちにストーカーじみた欲望が芽吹いてしまう。

 メシアのキーホルダーを盗み、動画を保存して脅迫する頃にはカフカの恋愛感情は相当ねじれたものになっていた。動画のことがなくても、遅かれ早かれ何かをやらかしていただろうと僕は思う。



 ともあれ、こうしてストーカー事件は一応解決した。由香里はツイッターのアカウントを作り直して、しばらくは動画や配信には手を出さないと言った。オンラインRPGは引き続きディープなプレイをしていくのだろう。

 僕らは比較的安全な国で暮らしてるけど、生きている限りどこでどんな悪意に巻き込まれるかはわからない。時には自分からつまずいてしまうこともある。せめて誰かが苦しい時に、互いに助け合える関係でありたい。



 教室に戻ると、文化祭に向けて飾り付けがかなり進んでいた。


「あ、八潮、藍澤。看板とメニューありがとな。佐藤も、助かったよ」

「俺なんにもしてないけどな」と八潮が笑う。その通り、僕や正宗の方が働いている。

「はは、そんなら飾り付けくらいは手伝ってよ。八潮の身長なら高いところも楽々だろ」

「人を高枝切りバサミみたいな扱いするんじゃねえよ」


 そう言って二人で笑っている。春樹はやはりみんなに好かれている。ぶっきらぼうに見えてコミュ力は高い。


 ひとしきり話すと、山下はミカに呼ばれて女子の輪に戻っていった。


「ああ、一気に気が楽になった」

「悠、なんでお前が疲れてるんだ。戦ったのは八潮だし、解放されたのは藍澤だろうに」


 正宗に突っ込まれて思わず苦笑する。


「いや、でも緊張するんだよね、ああいう場面って。もし春樹がやられたら次は僕の番なわけだし。んで、春樹を倒せるやつに僕が勝てるわけないし」

「胆力が足りないんだ、胆力が。俺も足りてないけどな。それくらい自覚してるぞ」

「度胸ってどうやったら身につくんだろう。場数なのかな。生まれ持った性質だとしたらなんか悔しいよな」

「そんなこと言ったら俺は身長が低い遺伝子を持って生まれてきてる。身長が高い連中みんな羨ましいよ。でも卑屈になるより自分が持ってるもので、あるいはこれから手に入れられるもので戦っていく方が大事なんじゃないのか?」


 軽く共感してもらおうと思ったら、ズバズバと正論が返ってきた。さすが正宗。時に凄まじい切れ味を発揮する。


「まあ、そうだね。わかってる、わかってるよ。——頑張るしかないよね」


 そう言ってポケットに手を入れた時に、入りっぱなしだった異物に手が触れた。先生にでも見つかったら厄介だ。慌ててコソコソとかばんにしまう。ほとぼりが覚めたら平山に返そう。


 ◆


 依頼された立て看板とメニューの作成は済んでいて、ストーカーの問題もひとまず片付いた。僕らはすっかりリラックスして、教室の飾り付けの仕上げを手伝っていた。


「あ、そういえば、明日なんだけど。真帆さんと一緒に回る約束しちゃったんで、よろしくね」

「サティ、そりゃ素晴らしいじゃねえか。みんな聞いたか? これぞラブコメだ。これぞ王道だ。見習って青春しろよキミタチ」


 茶化されないだけありがたいけど、なんで春樹が誇らしげなんだ。


「あれ正宗、また何か言いたそうだね。でもだめ。あたし達は悠の幸せを願うべきだよ。そうでしょ」

「藍澤の言う通りだよ。それはわかってる。でも悠と俺は中学からの腐れ縁なんだ。正直、取り残された気分だ」

「正宗……」


 おかしい、真帆さんは恋人なわけじゃないんだけど。みんながそういう方向にとらえ始めている。


「それはそれとして、今日はさすがに疲れた。あたし先に帰るわ」由香里がぐぐっと伸びをして言った。

「ああそしたらマサムネ、お前由香里を送って行ってやれよ」と春樹が言う。

「何で?」正宗は怪訝な顔をする。

「一応、カフカのことがあるから。何もないとは思うけど今日ぐらいはな」

「いや、何で俺なのかなと」

「何言ってんだよ、お前が一番家近いだろ。そもそも見張りしかやってないんだからそのくらいやりなさいよ」

「ぐっ、わかったよ。じゃあ行くぞ藍澤」

「うん、ありがと」


 妙な流れで由香里と正宗が二人で帰ることになった。平山は気が気ではないようだけど、彼の家は学校から逆方向。何も言えないのも無理はない。せめて昇降口までは一緒に行く気か、僕も帰るよと一言残して二人について行った。

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