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残響リヴァーバレイション  作者: 齋藤睦月
第一章
12/24

不毛

 ◆


 動画をバラされたくなければ従えってことか。なんて卑怯な奴だ。


「由香里、それで、言うことを聞いたの?」

「いくら動画が恥ずかしいからって、それと引き換えに裸を見せろなんて言われたら動画バラまかれた方がマシ。それはあいつもわかってるんだと思う。微妙なラインを要求してきたの。パジャマ姿の写真を見せろとか、水着を着ろとか、ホットパンツをはけとか」

「おお、微妙なラインだな、確かに」春樹が眉間にシワを寄せる。

「だけどこんなの耐えられない。いつ要求がエスカレートするかもわからないし。もう終わりにしたいの」

「保存されてた動画ってそんなにヤバイの? 案外見てみたらそこまでじゃないかもよ」

「ダメなものはダメ!」僕の言葉に由香里が眼光鋭く拒否する。「とにかく、このままだとネットにリアルの情報書かれちゃう恐れもあるし、放置するのも怖いの」


 リアルの情報——通ってる学校、名前を晒されるだけでも恐怖だし、住所まで調べられる可能性も否定できない。ネットとリアルをしっかり分けているからこそ、こういった情報を握られることが脅威になる。


 それにしても、絶対に誰にも見られたくない動画をネットで公開するとは。何か物凄く矛盾めいたものを感じるけど、案外誰もがそんなものなのかもしれない。自分という殻があると出来ないことは沢山ある。その殻を破るために別の殻をかぶるというのはどこか奇妙だなと思う。


 とにかく、他人に見せられない動画をにぎられた。さらにリアルの名前まで知られている。変な写真を送れば送る程こっちは不利になる。なんとかしてストーカーを捕まえて、データを削除しなくては。まずは少しでも多く情報を集めたい。


「写真の方だけど、いつどこで撮られたか、心当たりあるの?」

「それが、この背景、壁しか写ってないけど……よく見て。これ、うちの学校の校舎だと思う」


 再び四人の目が画像に集まる。確かに壁の色合い、汚れ具合はうちのオンボロ校舎の外壁に似ている。


「私の行動範囲なんてたかが知れてるし、この数日間にしぼれば他に心当たりはない」

「確かにこいつはうちの校舎っぽいな」春樹がスマホを自分の顔に近づける。「学校の敷地内で撮られたってことは、ストーカーはうちの生徒ってことか」


 僕もそう思ったが、由香里は腑に落ちない顔をしている。


「でも、そんな偶然ってある? あたしのフォロワーは二百人ぐらいしかいない。その中に同じ学校の生徒が居て、さらにストーカーだったなんて」

「それは順序が逆かもしれない」

「逆?」僕の言葉に由香里が聞き返す。

「元々リアルで由香里を知ってる奴が、何かのきっかけで由香里のアカウントに辿り着いていたんじゃないかな。ネット上で小出しにされた情報をかき集めてプライベートにたどり着くこともあるだろうけど、今回に関しては余りにも早すぎる。余程決定的なヒントを漏らしてなければ考えにくいよね。それなら物理的に近い距離に居た誰かが由香里のスマホを覗き見してアカウントを知ったとかの方がありそうだ。」


 電車などでも近くの人のツイート画面が偶然目に入ることはある。狙ってやれば出来ないことはないはずだ。


「そうだ、メシア」正宗がぼそりと言う。「メシアのキーホルダーは配信より前になくしたんだろ? それをこいつが持ってるなら、やはり元々のストーカーが藍澤のアカウントを見つけたってことだろう」

「順序がどうあれ」春樹が引き継ぐ。「リアルのお前にたどり着いた奴がいるのは間違いないんだ。いかに確率が少ないかを議論したって無駄だろうよ」


 由香里は「そうね。不毛ね」と言って再びうつむいた。


「そうだ、警察は? 最近はストーカー対策もかなり厳しくなってるって聞くよ。犯人を逮捕してくれるかも」


 しばらく言葉を失っていた平山が、突然思いついたように提案する。やけにジェスチャーがデカい。


「そうかもね。でも、できれば警察には相談したくないの。警察に言うと親にバレるでしょ? こんなこと知られたら絶対ネット禁止にされちゃう」


 こういうことに詳しいわけじゃないのでなんとも言えないが、実害がないとなると警察が動いてくれるかどうかわからない。結果的に親バレするデメリットだけが残る可能性も否定できない。となると——


「相手は同じ高校生だろ。警察が出る幕じゃない。俺らで解決できるだろ」

「だな。やってやろうぜ」


 当然そうすべきとばかりに、春樹と正宗が気炎を揚げた。


「二人ともマジ? やばい奴だったらどうするの?」

「なに言ってんだよサティ。所詮は学生ストーカー君だぞ? そんなザコ、俺のハドーケンでぶっ飛ばしてやる」

「春樹……ま、それもそうか」


 水を差すようなことを言ってみたものの、僕も止める気は無い。一応確認してみただけだ。友達を救うためにストーカーに立ち向かう。これで燃えない奴は男じゃない。


「八潮……」


 由香里もできれば春樹には頼りたかったのだろう。感極まった様子で涙目になっている。


「み、みんなで頑張ろう! 藍澤さんを守ろう!」


 乗り遅れまいと平山が熱く拳を握る。それを見た正宗と春樹が顔を見合わせて苦笑いしている。


 きっかけは由香里の悪ノリだとしても、彼女をここまで怯えさせたストーカーの罪は軽くない。このメンバーで犯人を探し出して叩きのめす。具体的にどうするかは決めていないけれど、とにかくきっちりお仕置きしてやる。



 友情のため、友達を助けるため。最善の選択肢かどうかは別として、こうしてストーカーとの戦いの火蓋が切られたのだった。

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