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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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19・4三人会議

 フェリクスは帰り、部屋には木崎と私、ヨナスさんだけとなった。ヨナスさんもカップを片手に、先ほどまでチャラ王子が座っていた椅子に座っている。


「……なんだか淋しそうに見えた」

 私が言うと木崎もそうだなとうなずく。

「とはいえ、あいつがうさんくさく見えるのも腹が読めないのも事実だ」

「ええ。あれほど魔法のレベルが高い王子をなぜ留学に出したのかが不思議です」ヨナスが同意する。「しかも来国してから今まで、本当の能力を我々に見せることはなかった」

「そう考えると宮本があいつを本気にさせているのは事実なのか?」


 木崎の言葉に首をかしげる。

「だとしても、私のために木崎の剣の練習に付き合ったりはしないんじゃないかな」

「そうだな。あいつはよく分からん」とムスタファはぼやいた。


「木崎。ありがとう。彼に頼んで彫刻のフラグを折ってくれて」

「別に。さっき言った通りだ。この三ヶ月の間にお前は何度、危ない目に遭った。このままじゃ俺ルートにならなくても、危ない気がする」

「うん。ありがと」

 それは薄々思っていた。ゲームと関係なしに痛い目に遭っている。でも私には彫刻を壊すなんてことは出来ない。見つかったらクビになってしまう。木崎の気遣いがとにかく、ありがたい。


「ところで、ひとつ質問」

 何、と木崎。

「カルラとシュヴァごっこをしているの?」

 ムスタファはあぁと唸り顔を背け、ヨナスさんは吹き出した。


「時々、姫がこちらまで戦いをしにいらっしゃる。乳母たちの目を盗んで」とヨナスさん。「ムスタファ様も結構、楽しんでやっていらっしゃる」

「ヒーローごっこは永遠に楽しいんだよ」と木崎。

「つまり中身は享年三十歳のオジサンじゃなくて、永遠の幼児ということか」

「三十はオジサンじゃねえし、俺はピチピチの二十歳だ」

「まあね。フェリクスのほうが大人に見えるもん」

「は? どこが?」

「すぐムキになるとこ」

「うっせえ」

「でも確かにフェリクス殿下は、言動は軽いのに物事に動じないし寛容さもある。大人びているというか、老成しているのを軽薄さで隠している感じがします」

「確かに」

「そうかも」

 ムスタファと私の声が重なる。


「マリエットの物語のこと、フェリクス殿下に打ち明けることは可能なのですか」とヨナスさんが尋ねる。

「もちろん」と木崎。「だがあいつに話すなら、先に綾瀬だ」

「私もそう思う」

 なるほど、とヨナスさん。

「物語の話はしても、俺の魔王化のことは言わないがな」とムスタファ。


 ここ数日の間、朝の髪の手入れの時間を使って三人で色々と話はしている。


 ヨナスさんからの情報は、シュリンゲンジーフ家に伝わる話だ。

 二代目以降は生まれたときに角を折ったとか、代を重ねるごとにサイズダウンをして明らかな角があったのは、五代目まで。それ以降は髪に隠れるサイズで今は完全にないとか。


 クォーターである二代目は、昼間起きていることが出来たとか。火事が起きたのは十三代目だとか。


 時おり強い魔力の持ち主が生まれるから、魔法研究は盛ん。だけどヨナスさん自身は平均しかないから詳しくないとか。


 ムスタファのために、お母様の肖像画が送られてくる予定だとか。


 あと木崎の話としてはやはり、何故ムスタファに角、魔力がなく夜行性でもないのかということ。同じく半魔だった異父兄には魔族の特徴が顕著だったことを考えると、不思議だ。お母様の角のあるなしに関係があるのか、他に原因があるのか。


 それで今朝がた木崎が言ったのは――

「前から考えていたものの、これを言うと宮本に中二病って笑われそうで黙っていたんだが」という前置きがあってからの、「俺の魔族の特性が封印されてるって可能性」ということだった。


 ただ、それなら誰がどうやって封印したのかという疑問がでてくる。フーラウムは強力な魔力の持ち主だから、できるかもしれない。だが封印するぐらいなら、殺したほうが合理的。なぜなら彼はムスタファの母に興味が無いから、という結論になる。


 上級魔術師たちが関わっているのか、先代の国王が何かを知っているのか。

 可能性は幾つも上げることができても、答えは分からない。


「魔王化のことは言わないが」と言った木崎は言葉を切って、目を伏した。考えているのか、迷っているのか。

 やがて目を上げた彼は

「今朝話した、封印の可能性を探ろうかと考えている」と言った。


「どうやって?」

「というか、実は以前から古い魔法書に何かヒントがないかを探している」

「あれはそれが目的だったのですか」とヨナスさんが珍しく声を上げる。

「ああ。だが芳しい成果はない。ここは思いきって、ヒュッポネンを頼ってみようと思う」

「ヴォイトを?」

「やはり本格的に魔術の勉強をしている人間のほうが、論理的に探せると思う。俺は闇雲に読み漁るしかできない」


 ムスタファは真剣だ。私は腕を組んで、ゲームのことを考える。ヴォイトはどんな人物だったか。エピソードは何があったか。

 だけどこれといって目新しいことは思い出せなかった。


「大丈夫かな。ムスタファ魔王化エピソードはふんわりしていて分からないことも多いんだよ。特に討伐のほうはバルナバスがメインだから、経緯なんてまるっきり不明。上級魔術師や近衛が関わってないと言い切れないんだよね」

「危険があるなら、私は嫌です」とヨナス。「魔法が使えなくたって、あなたは素晴らしい王子ですよ」


 だけど木崎にとっては、そういうことじゃないのだ。


「……ま。とりあえず、明日の面会が終わるまでは動かない」とムスタファ。

「それがいいでしょう。マリエット、変更はないか」

 ええと答える。


 明日は私の表向き後援者の公爵夫人に会いに行く。関係各所全ての許可はもらった。ただロッテンブルクさんが、本当の目的は口外しないほうがいいと言った。パウリーネ妃が不快に思うだろうから、だそうだ。そのため訪問の公的理由は、王子ムスタファが、私が公爵夫人を助けたエピソードを詳しく聞きに行くという、なんとも微妙な目的になっている。


「世間はこの訪問を、結婚の挨拶に行くかのように捉えると思いますが」と侍女頭。「頑張って下さいマリエット」

 と、彼女は訳の分からないエールを私に送ってくれたのだった。


 ちなみに私の出生の秘密をムスタファに伝える是非については、留保とされている。


「まずは夫人の話を聞いて、全てはそれからだ」と木崎。

 ヴォイトのことだけでなく。彼は実父フーラウムにも、母について再度突撃質問する予定なのだ。


 ムスタファの意図を知った上で、会うことを拒まなかった夫人。彼女は一体何を語ってくれるのだろう。


「ところで宮本。今日の鍛練見学はゲーム展開なのか?」

「違う。棚ぼたご褒美」

 ふうん、と木崎。「すっかり忘れていたが、シュヴァルツと進展しているのか?」

「ぐっ」


 どういう訳かここに来て、ゲームの展開が急激に減っているのだ。カールハインツだけでなく、他の攻略対象も同様だ。会うことは多いのに、とるに足らない会話をして終わり。何も起こらない。一体どうなっているのだ。


 ……と言いたいけれど、木崎理論でいくと、ムスタファ、フェリクス、レオンのせいではないかと思っている。世間では私が三股しているとか、三人で私を争っているとか事実と違う噂が横行している。だから攻略対象たちが私に関わらないようにしているのではないだろうか。


 かといって、今さら噂を払拭するのは難しいだろう。

「……がんばる」

「おう、頑張れ。今日は全く相手にされてなかったもんな」

「ぐっ」

 ケラケラと笑うムスタファ。


「仕事に戻るよ。いつまでも油を売っていたら、立派な侍女とは言えないもんね」

 そう言って立ち上がると、ヨナスさんがにこりとして、

「これは重要な作戦会議だよ」

 とフォローしてくれた。

 さすが、大人の対応だ。ムスタファなんて嫌みを言いそびれて、つまらなさそうな顔をしているもんね。


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