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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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15・2書類仕事

 城に戻ると次の仕事をムスタファに言いつけられた。昨日侍従がとった講義のノートを書き直すこと。ムスタファの私室で。


 長椅子で侍従ヘルマンの入れたお茶を優雅に飲む王子を横目に、朝食に使っていた円卓でその仕事を進める。


 しばらくして手持ちぶさたのヘルマンがやって来て、上から私の手元を覗き込み、

「素晴らしいけれど、マリエットはどこでそんな術を学んだのだ?」と尋ねた。


 それは当然の疑問だろう。私は教育機関に通ったことがないと身上書に書いてある。孤児院での教育が最低限であることだって知られているだろう。

 だから予め、答えは考えておいた。


「たまたまヨナスさんが書いた講義の書き付けを見せてもらったことがあるんです。その仕事は楽しそうと言ったら、コツを教えて下さいました」

 なるほどねと納得するヘルマン。

 何故かその向こうでムスタファが不機嫌な顔をしている。どうも今日の彼はよく分からない。


 やがてヘルマンは下がらされて、部屋は王子と侍女見習いのふたりとなった。

「進行具合は?」

 とムスタファが来て、向かいの椅子をくるりと半回転をさせ跨がると、背もたれの上に両腕をのせた。

「その姿勢、王子としてどうなの? 書類は、ぼちぼち」

 木崎が話していたとおり、これを書いた侍従は一言一句書き漏らさないように頑張ったようだ。速記を頑張りすぎて字が非常に読みづらい。


「ていうかさ。ヘルマンさんを下がらせなくて、よくない?」

 去り際の彼は、明らかに何かを誤解した様子の笑みを浮かべていた。


 午前中にロッテンブルクさんに『だから殿下たちが夢中になるのかしら』と言われたとき、てっきり『殿下』はフェリクスを指すのだと思ったけれど、よくよく考えたらあのときの会話の流れからはムスタファを指したのだろう。

 困ったことに、侍女頭にまで誤解されてしまっているのだ。

 これ以上、誤解の種を撒いてどうする。


「だって気になるだろう? カールハインツへの報告。詳細を話せよ」

 ペンを止めて王子の顔を見る。

「……詳細?」

 詳細とうなずく王子。人参の承諾を得たことはとうに連絡済みだ。それ以外となると……。


「綾瀬の友達に、めちゃくちゃレオン推しをされた」

「あいつに友達がいるのか。知らねえな」

「うん。良さそうなひとだった」

「つまりカールハインツにはまた何かをやらかしたから、話したくないんだな」


 ニヤニヤしている王子。その顔は月の王のイメージを壊しまくっている。が、すごく木崎みはある。


「好感度を上げに行かせてやったのに、何をやっているんだ」

「……まだ何も話してないけど?」

「早く話せよ」

「王子はやることないの?」

「魔術師のヒュッポネンと約束していたんだが、国王夫妻のシュリンゲンジーフ行きで上級魔術師団は総員でその準備になった。剣をやりたくてもヨナスはいないし、近衛も国王夫妻の外国訪問の準備中」


 なるほど。ヨナスのおばあ様である元大公夫人の告別式は明後日の午前中だそうだ。ロッテンブルクさんもパウリーネについて行くから、自分と主の準備で忙しくなると話していた。


「それにしてもヴォイトと親しかったんだ」

「親しくはねえけど。魔力ゼロの俺に辛抱強く付き合ってくれるのは彼だけだからな。攻略対象ってのは後で知った。で? いつまで話を逸らすんだ?」

「……本当、性格悪い」

「知っていることだろ?」


 ふうと息をついて、観念をした。

「そんなたいしたことではないよ。ちょっとばかり生意気に反論しちゃっただけ」

「さすが宮本」ムスタファが楽しそうに笑っている。「何を反論したんだよ」

「カルラ様の夢を知りながら、『女は近衛になれない』って吐き捨てるように言うから、つい」

「あいつの頭の固さは話にならねえな。いずれ総隊長になるんだろうから、もう少し柔軟になってくれねえと。でもお前もアホ。どう考えても性格が合わないのに、なんでそんなにあいつがいいんだか」

「ひとの好みにケチをつけないでよ。ほら、邪魔しないで」


 再び侍従の文章に目を落とす。

「それ、ヨナスに見せるから」とムスタファ。

「了解。これも興味深い内容だね」

「だろ? 魔石の使い道は灯りが主だからか、城の人間は産出が減っていることに危機感がないみたいなんだよな」

「うちは元から、――あ、うちって孤児院のことね、灯りは蝋燭がメインだったから産出減の実感はないけど、結構深刻な話なんだね」


 この講義によるとここ数年で魔石の輸入が爆発的に増加している。販売はクンツェ商会とは別の貿易会社だ。値段は高いが質は良いらしい。

 魔石は長く使えるものだけど消耗品ではあるから、需要が止まることはない。このままだと近いうちに輸入品が国産品より流通することになりそうだ。


「……宮本」

「ん?」

 殴り書きの字を目で追いながら、聞き返す。

 と、

「失礼していいか」と離れたところから声がした。

 見ると開け放したままの扉の元にフェリクスと、申し訳なさそうな表情の従者が立っていた。



魔石の灯り・・・LEDのイメージ。消耗品だけど、長く使える。火ではないから、火事の心配事や風で消えることもなくて安全で便利。質によって使える期間が変わる。

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