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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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33/211

9・2一枚上手

 ババ抜きはあっという間に終わった。一抜けはムスタファ、私はビリ……。


 とにかくも終わったのでムスタファが

「では」

 と腰を浮かせた。

 するとフェリクスが

「ムスタファとルーチェは帰りたければお好きに。君はあと二時間、ここにいろ。仕事はそれだけかかると連絡済みだから、時間いっぱい楽しいことをしよう」

 と言って私の手を握りしめてきた。とっさに振り払おうとしたけど、力が強すぎて払えない。


「遠慮します」

「ダメ」

「ロッテンブルクさんに……」

「彼女はパウリーネ妃殿下と外出したな」


 そうだった! フェリクスめ、計画的犯行だな。


「やめろ、見苦しい」

 そう言ったのはムスタファだった。冷たい眼差しをチャラ王子に向けながら、優雅に腰をおろす。

「ポーカーをすればいいのか」

「おや、帰らないのか」フェリクスがからかうように言う。

「侍女を口説くダシに使われたくない」とムスタファ。「マリエット、私のとなりに来い。教えてやる」

「それは狡い」とフェリクス。

 立ち上がろうとした私の手を更に強く握る。


「ムスタファ殿下側に座らせていただけるなら、時間いっぱいいましょう」

 私がそう言うとフェリクスは、それではつまらないと言いながらも手を離してくれた。

「ではルーチェ、こちらに」


 チャラ王子の言葉にほっとして彼女と席を替わる。


 フェリクスが卓上のカードを集めて二つに分けるとマジシャンのようにリフルシャッフルをした。手慣れている。さすがチャラ王子だ。

「きっかけはなんだ?」とフェリクス。目はムスタファを見ている。

「何のことだ」

「随分と変わったじゃないか。以前の君なら、侍女がどうなろうが、自分がダシに使われようが気にしなかった。そもそも侍女の名前なんてロッテンブルクしか知らなかっただろう?」


 フェリクスは笑みを浮かべているが、目だけは探るような嫌な感じがある。

 もしかしたら、これは親交を深める会ではないのかもしれない。


「お前がそんなに私を知った気でいるとは思わなかった」ムスタファが嘲るように言う。

「勿論よく知っているとも。この城で私を嫌うのは君だけ。なんとか友人になりたいと考えていたからな」

 フェリクスもなかなか役者らしい。彼は切ったカードを自分の前に置いた。


「ムスタファ。彼女に説明を。その間に私はルーチェと語らいながら散歩をしていよう」

 チャラ王子はとなりに座る彼女の手をとって立ち上がり、腰を抱くと部屋を出て行った。


「たらしが」とムスタファが吐き捨てる。

「木崎だってもう少しマシだったよね」

 一応、小声で話す。廊下への扉は開いたままだ。

「あんなヤツと比べるな」とムスタファも小声。

「タイプは一緒でしょ。女の子が大好き」

 月の王と呼ばれる美しい王子は、ふんと鼻を鳴らした。木崎みに、安堵する。


「それにしても意図がまったく読めないね」

「お前に焼きもちをやかせる作戦か?」

「そんなにおバカではないと思うけど」

 フェリクスはこちらの意思に関係なく口説いてくるけれど、分かっていないのではなくて気にしていないだけだ。私が本気で興味がないと理解しているだろう。


 ルーチェと身を寄せあって消えたからといって、焼きもちなんてやかない。むしろ彼女がオッケーを出しているなら帰って来なくてもいい。


「だけど助かった。ありがとう。フェリクスってばすごい力なんだもの。まったく振りほどけなかったよ」

「観念して一回食われてみれば? そうしたら飽きるかも」

「冗談じゃない!」

 せっかく礼を言ったのに、木崎はまた私ができないことをけしかけてバカにしてくる。性格が悪い。


 ふと、最後に会った晩に、からかわれた言葉を思い出した。

 あの時にもし私が『いいよ』と答えてキスをしたら、さすがの木崎も焦っただろうか。

 だけどこの男をやりこめるために、そこまで体をはりたくないしな。


「下らないことを言っていないで、ポーカーを教えて」

「それが侍女の態度かよ」

 木崎はそう言いながらも卓上のカードを手にした。


 説明をしながらカードをスペード、ハート……と並べる。それがマークの強い順らしい。


 ババ抜きをしていたときも気になったけど、王子の掌が荒れている。皮がむけてひどい状態なのが遠目でも分かるのだ。良い香りはするから、軟膏なんかで手当てはきちんとしているのだろうが。


「剣術その他、ちゃんとほどほどにしている?」

 意味のない質問だと分かっているけれど、尋ねてしまう。

「もちろん」と木崎。


 それ以外の答えなんて返ってくるはずがないのだ。倒れるギリギリだって、きっと『もちろん』と答えるだろう。


「本当だぞ。ヨナスがうるさいから」と木崎。「そういうお前こそ、カールハインツと進展はあったのか」

「幸い後退はない」

 ぶっと吹き出す王子。「そりゃ心強いな」

「嫌みな性格!」

「ご存じのとおりだ」


 それからまた説明を聞いて。終わったころにフェリクスたちが戻ってきた。ルーチェの顔は明るいから楽しかったようだ。






《リフルシャッフルについて》


 リフルシャッフルは紙製トランプではNGらしいのですが、フィクションなので突っ込まないでいただけると助かります。

 もしかしたらフェリクスが使っているものは、魔法でプラスチック風に強化されたトランプ、かもしれないです。


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