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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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43・2終幕②

 パウリーネとバルナバスを魔力を無効可する部屋に軟禁したあとに、フーラウムが目覚めたという。しかも彼が常に身に付けていた、妻からのプレゼントであるロザリオが粉砕。

 上級魔術師団の長によると、どうやらフーラウムには意識を改変する強力な魔法が、ロザリオにはそれを隠すための魔法がかかっていたようだという。

 そこでフェリクスが、魔法の痕跡を辿れる魔法を使えるといって捜査に協力。犯人はやはりパウリーネと判明した。


 しかし魔法が解けたフーラウムは非常に混乱していて、現在の状況を理解できないらしい。



 それからもうひとつ、変化があった。

 カルラの髪と瞳の色が変わったという。どちらも黒に。

 パウリーネによく似ていると思われていた彼女は、黒騎士に瓜二つとなった。本人は神様が願いを叶えてくれたと、大喜びしているという。


 無邪気な彼女を思うと泣いてしまいそうになる。




 ◇◇




 城内の混乱はすさまじく、古株の侍従長でも経験したことのない状況だという。冷静沈着な彼が何度も、『今日は嵐だ』と呟いている。


 実のところ、ムスタファ暗殺未遂(ついでに侍女と見習いの監禁)と、その犯人がパウリーネたち三人であることの証拠はない。私たち、仲間内の証言だけ。ムスタファが受け取った脅迫文はバルナバスに取り上げられたらしいし、私のものも気づいたらなかった。ブローチ風鏡に映っていたのも礼拝堂に入ったところまで。その鏡自体もみつかっていない。


 フェリクスが痕跡を辿る魔法で、礼拝堂にパウリーネとバルナバスが張った魔方陣が、図書室にもパウリーネ作の魔法陣があることを確認してみせたのだけど、それだけでは確たる証拠にはならないらしい。


 しかもバルナバスはムスタファとフェリクスにはめられたと主張していて、依然として瀕死のカールハインツは黙秘。パウリーネは何のことか分からないととぼけているという。


 そのため証拠探しに城中が躍起になった。夜中を回ったころ、まず最初にパウリーネの温室からカールハインツの兄、エーデルトラウトの白骨死体がみつかった。片腕がないことと一緒に埋められていた剣にシュヴァルツ家の家紋が彫られていたことから、彼であると断定された。

 それを見極めたのはオイゲンさんだそうだ。


 黙秘を貫いているカールハインツは、彼にだけは会いたくないと懇願しているという。


 それから温室の休憩エリアの下には、地下室があった。魔術書など雑多なものが隠されていたらしいのだけど、その中から解凍しかかった血の氷が幾つも出てきた。それが入った箱にはご丁寧に『ファディーラ』と書かれていたという。発見した近衛たちに意味は分からないだろうが、さぞ気味が悪かったに違いない。


 パウリーネが呪った人たちのリストもあった。それにはルーチェや自殺したふたりの令嬢の名前が書かれていたそうだ。


 また宰相ベーデガーの執務室も捜査され、国費横領の裏帳簿が出るわ出るわ。ざっと見ただけでも何十冊にも及び、彼は即刻逮捕された。


 こっそり城から逃げ出そうとしていたベレノも捕まった。彼は減刑と引き換えに全て証言すると約束。長年に渡り庭師の作業小屋で、パウリーネが使う怪しげな魔法薬を作っていたと白状した。

 また、彼女が国王暗殺を企んでいたと知っていたことや、ムスタファを殺すために私を捕まえる協力をし、その際にクローエさんを殴り縛り上げたことも告白した。

 それから温室にエーデルトラウトを埋めたのは自分であることも、王妃と近衛隊長の密会の手助けをしていたことも。


 どうやらパウリーネの専属侍女のひとりと、カルラの乳母も近衛隊長とのことを知っていたらしい。でも彼女が数々の悪事をしていたことは全く知らなかったと言って、ひどく恐慌しているそうだ。

 侍女のほうはどうだか分からないけど、乳母のことは信じられると思う。悪い人ではないと思うから。





 ところで。私とクローエさんが礼拝堂に向かうことを伝えたカルラの侍女。彼女は時間が経てば経つほど、誰も探しに来ないことに安堵していいのかと不安になったそう。何しろ自分が仕事を頼んだことがきっかけで、私とムスタファがとんでもないめにあったばかり。それでロッテンブルクさんに相談したらしい。


 そしてふたりで私やムスタファ、ヨナスさんを探したけれどみつからず、礼拝堂に向かった。そこで近衛隊と遭遇。中でムスタファと私が殺されかけているらしいと聞いて驚き、その場で様子を見ることにしたという。

 そうしたら厳重に縛られ担架に乗せられたカールハインツ、眠らされ後ろ手に縛られたバルナバス、そしてパウリーネが運ばれてきて、首謀者は彼らだと知らされた。


 カルラの侍女の話では、その時ロッテンブルクさんは一瞬にして蒼白になり、よろめいたという。私たちが礼拝堂の外に出たときふたりはそこにいた。そしてロッテンブルクさんは幽鬼のような様子でありながら私たちの前にひざまずき、パウリーネの専属侍女でありながら何も気づけず、このような事態になってしまったことを謝罪したのだった。


 それに対するムスタファの答えはカッコよかった。

「侍女頭としてあるまじき失態だ。この責任はいずれとってもらう。だが今は己の仕事をまっとうしろ。これから城内は大混乱に陥る。数多(あまた)いる侍女をしっかり統率するように」

 そう言ったのだ。

 悔しいから絶対に言わないけど、惚れ惚れするほどの王子っぷりだった。




 そのムスタファは夜中に一度、フェリクスの私室にいる私の元に来た。だいぶ疲れた顔をしていた。大混乱の中でムスタファは本来ならば国王や宰相がやらねばならないことをしているのだ。近頃王子としての責務を果たしていたからとはいえ、内容も重責もまるで違う。

 私が手助けできるものならしたいけど、ムリなことだ。ヨナスさんとエルノー公爵がサポートをしているらしい。


「こんなときにそばにいられなくて悪い」ムスタファはそう言って、私を抱きしめた。「これは俺の活力補給」

「それなら私もムスタファを補給。――だから大丈夫。安心して仕事をしてきて」

 木崎を相手にこんなことを言っているのかと思うと恥ずかしくて悶死しそうだったけど。紛れもない本心だった。


 この時間でも私たちへの聴取は続いていて、私も疲れていた。

 後から後から確認事項が出てくるのだ。


「……全部終わったら、また庭で飲まないか」

 ムスタファが私の肩に顔をうずめたまま言う。

「いいね。美味しいチーズを楽しみにしてる」

「期待しとけ」


 ムスタファはそんな約束をして仕事に戻って行った。

 さて私も自分のやるべきことの続きを、と思ったら聴取をしている何人かが書いたものを見せ合っている。

 私が椅子に座るのと入れ違いに立ち上がったフェリクスがふらふらと歩いていると思ったら、彼らの書き物を取り上げた。


「なになに。『挙式の準備も即刻開始ですな』『忙しくなります』だそうだ」にやにやとするフェリクス。「気の早いことだと言いたいが、それだけ誰が見てもムスタファの溺愛が深いということだ」

「あなたもだけどね」とオーギュストが混ぜっ返す。「忘れているだろう。戦いの最中のふたりの会話、私は全部聞こえてた」


 リーゼルが真っ赤になる。が、フェリクスは

「聞かれて困るものではないぞ 」とどこ吹く風だ。

 クローエさんが私に

「あとで詳しく聞きましょう」

 と笑顔を向ける。

「そうですね。あとで、落ち着いたら……」


 窓に目を向ける。夜中だから当然暗く、何も見えない。

 一向に帰ってこないレオンや、呪われてしまったルーチェ、みんなが揃って話を聞けたらいいのだけど。


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