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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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43・1終幕①

 ムスタファの治癒魔法は成功し、カールハインツは一命を取り留めた。とは言っても傷を治しただけで失われた血液の補充はできていないらしい。自力で立ち上がることもできない彼は仲間の近衛兵たちに縄で縛られたうえで、担架で運ばれていった。


 その間もひたすら歯を食い縛り声を押し殺して泣いているレオンにムスタファは、髪をぐしゃぐしゃにかき回して

「助けに来てくれてありがとな」

 とだけ言い、レオンは何も答えず静かにうなずいたのだった。


 パウリーネとバルナバスは後から到着した上級魔術師団に眠らされて、運ばれていった。バルナバスは抵抗しようとしたけどムスタファに

「その気になれば一瞬で殺せるぞ。俺はダメージを全く受けていない」

 と言われて諦めたのだった。パウリーネのほうは泣きどおしで、

「カールを助けて」

 としか言葉を発しない。

 ふたりは魔力が無効になる魔法をかけた部屋に軟禁されるという。


 図書室内は本や書棚の破片が散乱し荒れていたけれど、例の珠は無事だった。派手に魔法で攻撃し合っていたフェリクスとリーゼルが、そこだけは近寄らないよう気をつけていたらしい。あの状況で気を回してくれたふたりには頭が下がるばかりだ。


 魔力の消費と激しい攻撃に口を開くこともできないほど弱っていたフェリクスとリーゼルだったが、幸いなことに回復魔法を受けてかなり元気を取り戻した。ふたりとレオン、ヨナスさんのケガもすぐに治してもらうことができた。


 私は邪魔にならないよう、壁際に座りそれらの様子を見ていた。ムスタファがすまないが少し待てるかと尋ね、私はもちろんと答えたから。王子である彼は、近衛と魔術師団に指示を出し場を取り仕切っていた。その顔に感情は見えない。ケガはなくても彼が最大の被害者なのに。

 だけど今は貫禄のある立派な王子の立ち振舞いだ。


 一段落つくとムスタファは私の元に来た。無表情は崩れて泣きそうな顔になっている。床に膝をつき手を取り、水ぶくれになっている手首をみつめる。それから視線が下がる。スカートには膝上辺りに大きな血の染みができていた。


「……宮本の金属を変える魔法はすごいな」

 ムスタファの目には涙が浮かんでいる。

「でしょ?」

「助かった。おかげで死なずに済んだ」

「うん」

 ムスタファに抱き寄せられる。その背に腕をまわす。

「私も。ムスタファのおかげで命拾いをした。ありがとう」

 あの時確実に死の縁を覗いていたと思う。

「二度と枯渇するほど魔力を使うなよ」

「そっちこそ。二度と剣を向けられないでね」

 私も懸命に涙をこらえているけど、鼻声は誤魔化せない。ムスタファはパウリーネから酷いことを山ほど聞かされた。せめて今日くらいは私がいっぱい甘やかしてあげたい。

「……遅くなったな。怪我を治すぞ。痛いだろ」

 痛いけど、こんなものはムスタファの心中に比べればたいしたことじゃない。だけど案外過保護な木崎は、私がケガをすることも辛いらしいから、

「さすがの私でもキツいや。お願いするね」

 と素直に答えた。


「ムスタファは」とリーゼルの腰を抱いたフェリクスが話しかけてきた。すっかりいつもどおりの顔だけど、服はズタボロで血にまみれ悲惨だ。「私が君を治していたのが気に食わなかったのだよ。絶対、何が何でも治癒魔法を習得すると鬼気迫る様子でね。一朝一夕で使えるようになる術ではないのに根性で可能にした。全く、マリエットが関わったときのムスタファは凄まじい」

「そのとおりです」クローエさんがうなずく。「彼女が倒れたとたんに魔方陣の拘束を解きましたもの」

「マリエットが全ての原動力」リーゼルが笑みを浮かべている。

「本当、マリエットあってのムスタファ様です」とヨナスさんまでも言う。いつの間にか、恋人の手を握りしめている。

「君がこれほどまでに他人に執心するとはなあ」とオーギュスト。

「うるさいぞ、散れ」ムスタファがしっしと手を振る。「傷を治すんだ。あっちへ行っていろ」


 はいはいとみんなは離れていく。フェリクスはリーゼルさんと別れ、レオンの元へ行った。レオンは仲間に声を掛けられながらも、うつむいたままひとりで静かに泣いている。フェリクスはそんなレオンの肩を無言で抱いた。

 その様子を見たムスタファは、

「あとであいつのケアをしないとな」

 と小さな声で言った。

「そうだね」

「宮本は?」

「平気。レオンが騙されていたことのほうが辛い」

 そうか、と私の前にひざまずいたムスタファは手にキスをする。

「でも一番心配なのは木崎――ムスタファだよ」

 紫色の瞳が私を見上げた。

「お前が隣にいてくれるから、俺は大丈夫だ」

「そうか」


 荒れた部屋にはヨナスさんたちの他にまだ近衛や上級魔術師がいる。だけどそんなことは気にしない。

 ムスタファの頬にキスをした。




 ◇◇




 図書室から引き上げたあともムスタファと彼の信頼する従者であるヨナスさんは大忙しで、私はフェリクスに預けられた。またも彼の私室に集まったのだけどムスタファ、ヨナスさんの他にレオンもいなかった。彼は涙でぐしゃぐしゃの顔をしているのに、カールハインツ隊の仲間に事情の説明に行ったのだ。


 こちらの方も聴取のための近衛やら大臣、書記官、侍従まで色々な立場の人たちが押し掛けて来ている。

 彼らからの質問に答えることにより、ムスタファやフェリクスたちの動きを知ることができた。


 私がカルラの元に行っている間に、ムスタファは、フーラウムの病状について大臣たちに呼び出されたらしい。従者であるヨナスさんも一緒に。

 このときムスタファはブローチに見える鏡を付けて行ったそうだ。念のためくらいの軽い気持ちだったけど、これが後々役立ったという。


 一方でフェリクス・リーゼルの元には大使が訪れて、フーラウム崩御に備えて母国と緊急会議になったという。


 ひとりになったオーギュストはブローチと繋がっている鏡を持ってフェリクスの私室を出て、近くの部屋で私とムスタファの様子を見守りつつ、みんなが帰ってくるのを待つことにした。


 ところが私のほうの鏡が礼拝堂に入ったあと、突然何も映さなくなった。不安に思った彼は廊下にいた侍従に様子を見てくるよう頼み、自分はフェリクスの元へ。

 それを受けて異国の王子は手こずりながらも会議を無理やり終了させ、ムスタファに戻ってくるようヘルマンに言伝てた。そうしてひとまずフェリクスとオーギュストのふたりで礼拝堂に先行しようとしたところで先の侍従が戻ってきて、礼拝堂は普段どおりだった、ただどうしてか庭師のベレノがうろうろしていて声を掛けたら去っていったのだと話した。


 ベレノからパウリーネを予測したフェリクスは、ムスタファはおびきだされると考えた。時同じくして、ムスタファが持っていたブローチの鏡がおかしなマーク(社章だ)の入った脅迫文をうつした。『礼拝堂に来なければマリエットを殺す。誰にも話すな』というもの。あきらかに鏡を通じてこちらに見せていると考えたフェリクスは、これは完全な緊急事態だと判断。オーギュストに近衛総隊長に、ムスタファがパウリーネに殺されると伝えろと指示を出し、なおかつ自分に魔法をかけ、自分が聞こえたものがオーギュストにも聞こえるようにしてリーゼルと共に礼拝堂に急行。

 途中、主を見失って狼狽していたヨナスさんと、近衛府から帰ってきたレオンと合流して、わざとムスタファがバルナバスに捕まるのを助けずに、全てが解決する最適なタイミングを見計らっていたという。


 フェリクスたちはパウリーネが先代国王陛下を殺したと話した辺りから、隣室に隠れていたそうだ。気配を極力消せる魔法をフェリクスが使っていたという。ちなみにリーゼル情報によると、今日一日様々な魔法を駆使していた彼は、図書室に突入した時点でかなり魔力を消費していたそうだ。


 その頃オーギュストは父親を連れて近衛総隊長や侍従長にムスタファの危機を必死に説明していたという。国王の意識がなく王妃もみつからない状況ゆえに、話を信じない者、判断を先延ばしにしたい者が多かったのだが、総隊長が全責任を取ると言って近衛を出動させてくれたのだそうだ。


 フェリクスが総隊長を名指ししたのには、きちんと根拠があった。総隊長がパウリーネの仲間ならば、ムスタファの部屋の警備には子飼いの部下を当たらせる。わざわざ眠らせなければならない者を警備に立たせない、ということだそうだ。




 そうやって話し話されの聴取を受けている私たちの元に、驚きの知らせが飛び込んできた。


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