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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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40・3発見③

 礼拝堂に戻るとフェリクスがオーギュストとクローエさんに幾つかの質問をして、それからムスタファ、リーゼル、オーギュスト、レオンと共に再び地下に入った。

 ムスタファはオーギュストが望むなら自身のことを明かすと言い、オーギュストはそれを望んだ。今頃地下を進みながら話していることだろう。


 残った私たちは、クローエさんを真ん中にして参列席に並んで座った。

「クローエさんは行かなくていいのですか」

「そこでやるべきことがあるなら行くけど、今日は無さそうだから」

「大方のことは私が話してあるからな」

 ヨナスさんとクローエさんは目を合わせて微笑んでいる。

 それを見て、もしもムスタファが良くない立場になったら、この恋人たちの幸せも危うくなるのだと気がついた。


「ヨナスさん、ごめんなさい」

「うん? 何だね?」

「私は木崎の――、ムスタファ殿下の好きなようにしてもらいたいです。でもヨナスさんのことまでは考えていなかった」

 そんなことかと彼は苦笑した。「君はいつだってムスタファ様のことしか考えていないではないか。今更だよ」

「えっ。そんなことないです」

「そんなことある」

 くすくすとクローエさんが笑う。「私が聞いている限り、ヨナスが正しいわよ」

「そんなバカな」

「まあ、いいじゃないか。ムスタファ様の従者としては嬉しいことだ」


 でも何と言うか。私が木崎のことばかりというのは悔しいというか恥ずかしいというか。


「私だってムスタファ様の望むようにしてあげたいとは思っている」ヨナスさんは声音を一変させて言った。「特に彼が悩んでいるのは、何故ファディーラ様は惨殺されたのに自分は生かされているかということだ。フーラウム陛下は昔からバルナバス殿下を贔屓にしていてムスタファ様には無関心だ。その上で生かされているには理由があるのでは、とね」

 それは私も聞いた。一度だけだけど、やっぱり悩んでいたのか。


「陛下が犯人とは限らないがムスタファ様はそう信じている。はっきりさせなければ、彼はいつまでも疑念と不安を抱えていなければならない。

 私は危険なことはしてもらいたくないという思いもあるけど、ムスタファ様のお気持ちも分かる。

 だからマリエットは、私のことは気にしなくていい」


「違うわよね」とクローエさん。「彼女が気に掛けているのは『私たちのこと』よ。大丈夫よ、マリエット。私はヨナスのムスタファ殿下第一のところも含めて好きなのだから、どのようなことになっても受け入れるわ」

「そうか、私たちのことか。彼女の言うとおりだ、心配はいらない」ヨナスさんは優しく微笑む。「君は自分のこととムスタファ様のことを最優先にしてくれ。それが私の一番の願いだ」




 ◇◇




 しばらくしてオーギュストとリーゼルが戻り、入れ替わりにヨナスさんが地下に降りた。ムスタファが結界魔法の練習をするという。

 私たちの一列前に座ったオーギュストは心なしか青ざめていた。けれど誠実そうな顔に笑みを浮かべ、

「君はムスタファを選んだそうだな。心からお祝いを言うよ」と言った。


 今このタイミングでとか、どうして知っているとか、木崎はそんなに惚気まくっているのかとかいくつもの質問が沸き上がる。


「安堵したよ。君は彼に恋慕の気持ちはないのかと心配していたんだ」

「二言目には思い人はシュヴァルツ隊長と言っていたものね」とクローエさんが苦笑する。

「本当、マリエットは全然ムスタファ殿下の好意に気づいていないから、殿下が不憫でなりませんでした」リーゼルまでそんなことを言う。


「先日ムスタファに結婚話が出たときに相談されてね。幸いなことに父が策を弄する間もなく解決したけれど、彼が一番心配をしていたのはもし自分が城を出ることになった場合の君の立場だった。あれで片思いというのは気の毒だと父と話していたんだよ。もっとも」ふふっとオーギュストは笑った。「手を握りあっている様子は恋人同士にしか見えなかったけど」

「そんなことをオーギュスト様の前でしましたっけ」

「君のレポートについて話したときだ」


 記憶をたどる。レポートにかこつけて、エルノー公爵が両親について教えてくれた。あの時は確かに手を繋いでいたかも。というより号泣してムスタファにずっと抱き締められていたんだ。

 あれは他の人にも見られていたのだったろうか。動揺していたからよく覚えていない。


「顔が赤いわよ。可愛いわね、マリエット」

 クローエさんが大人びた笑みを向けてくる。


「庭師小屋の事件が起こる直前にもムスタファから連絡をもらっていた」とオーギュストが続けた。「父と僕は君たちの仲を歓迎するし、必要な手は打つ。だけど」

 オーギュストが地下へ降りる入り口を見た。

「教えてもらったことは、あまりに予想外で驚いている。ムスタファは陛下に問いただすつもりのようだが得策だとは思えない。彼が君との幸せを望むなら、やめるべきだ。そこのところをマリエットはどう思っているのだ?」


「得策かどうかで言えば、そうではないと思います。でも私は彼のしたいようにしてもらいたいし、私との幸せのために自分の望みを押し殺すような人には惹かれません」

 はっきりと言うとオーギュストは何に驚いたのか、目をまばたいた。


「彼女は強いですよ」リーゼルが言う。「ムスタファ殿下もそれをよく理解していらっしゃいます」

「見た目の愛らしさに騙されてしまいますよね」とはクローエさん。

「そうか。余計な気遣いだったか」

 オーギュストに返事をしようと口を開いたところでハタと思い付いた。クローエさんを見る。

「私も先ほど余計な気遣い(それ)をしたばかりです」

「うん?」とオーギュスト。それから、「見慣れない侍女がいるなとは思っていたが──、ふむ。私の推察が正しければ、君はヨナスの恋人だな。みな、相応の覚悟はしているということか」


「ここに呼ばれたくありませんでしたか」

 今度は私が尋ねる。

「いや、嬉しいよ。ムスタファとは腹を割って話せる友になれそうだと思っていた。だからこそ軽率な真似はしてもらいたくなかったのだが、どうやらそう考えているのは私だけのようだな」

「他の方に軽率だと思われようとも私たちには必要なことです。殿下と私はお互いに母のことを知りたいと願い、協力を約束しあいました」

「なるほどね。――私も母の記憶はあまりないな。だが父や家の者たちが教えてくれる」


 そういえばエルノー公爵は妻を亡くして長いと言っていた。


「ムスタファは良い伴侶を見つけたのだな」

 伴侶!?

「いえ、伴侶では。ええと、交際を始めただけで……」

 なぜかリーゼルとクローエさんが吹き出し、オーギュストはおかしな表情になった。

「あのムスタファの溺愛ぶりで、結婚を考えていないはずがないではないか」

「彼女は少々ズレているのです」とリーゼル。


 でも求婚されてはいない。昨日はレオンも何か言っていたけどムスタファは無視していたし。

 というか木崎と結婚なんて段階が飛びすぎていて、実感がない。交際というだけでむず痒い、ヘンな気持ちになるのに。


「彼にはきちんと言葉にするようにと話しておこう」とオーギュスト。

「結構です。殿下がそのようなお気持ちになったときにお言葉にしていただければ」

「だからとうにそのつもりだよ。いや、これは私が伝えることではなかったな。だけどこれだけは言っておこう。エルノー家は君がムスタファと結婚するための協力は惜しまない。父はもうそのつもりで動いている。生い立ちなどを気にする必要はないからな」

 協力態勢が整いすぎだ!とはいえ、

「ありがとうございます」と侍女なのでおとなしく礼を言う。


「何の話だい」

 フェリクスの声がしたかと思うと、入り口から彼が出てきた。続いてムスタファも。

「何かあったの?」

 オーギュストが戻ってきてからそれほど時間が経っていない。結界は上手くできなかったのだろうか。立ち上がりムスタファの元へ行く。だけど彼はドヤ顔だった。


「まさかもう習得したの?」

「当然。俺を誰だと思っている。完璧だ」

「ああ、彼は凄いよ。魔力が強いからといってすぐにできる術ではないのに」

 フェリクスが手放しで褒める。

「ヒュッポネンに基礎をひたすら学んでいたのが効いているのだと思う」とムスタファ。「あの時間は無駄じゃなかった」

「あなたの努力の賜物ですよ」とヨナスさん。

「先輩のど根性は筋金入りですから」何故か誇らしげなレオン。

「宮本に負けてられないからな」ムスタファはそう言ってフンと鼻を鳴らした。

「そうでこなくちゃ!」とレオン。

「『ミヤモト』とは誰だ」不思議そうなオーギュスト。

 一方でフェリクスはもうリーゼルの腰を抱いて、ただいまと言いながら額にキスをしている。


 なんだかみんな楽しそうだ。

 ――できることならこの先もずっと、このメンバーでいたい。

 強くそう思った。


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