37・3ゲームの影響は、
心臓が破裂しそう。
ムスタファにキスをされている。
多分。勘違いではない、と思う。
何で?
唇が離れた、と思ったら抱き寄せられた。
ムスタファは私の肩に顔を埋めている。
「俺に惚れろよ。絶対に後悔させないから」
切羽詰まったような声。何これ。胸が苦しい。泣きそうだ。
「木崎、どうしちゃったの!」声が上ずる。「ゲームの影響を受けているよ、しっかりして」
「受けてない」
「いやいや受けてるよ、正気に戻って」
「俺はいつでも正気だ」
「しっかりしてってば!」
「ゲームの影響なんてものは最初からない。――誤判定もバグも」
「え?」
ゲームの影響がない?
誤判定もバグも?
心臓は激しく動いているし頭もうまく回らない。
影響も誤判定もないのなら、今までのは何だったんだ。
「数値は全部正しい。俺は俺の意思で動いている。今も」
体にまわされた腕に力が入る。
「た、だしい?」
数値って好感度と親密度のことかな。何か他にあっただろうか。だってあれが正しいって、そんなの――。
「好きだ」
「……また、悪ふざけ?」
「違う。悪ふざけなんてしたことない」
「だってこの前――」
「そう言う他ないだろう! シュヴァルツしか眼中にない宮本に言えるかよ、惚れてるとか、他の男に嫉妬しまくってお前に八つ当たったり訳が分からない行動とっちまうとか」
ますます強く抱きしめられる。
「この俺が全然余裕ないなんて、そんなカッコ悪いこと宮本に知られたくねえじゃん」
それはつまり。
心臓がドクドクと鳴っている。自分の音なのか、ムスタファの音なのか。
「……ルート選択のときに『絶対溺愛なんてしない』、『ハピエン回避する』と言ったよね?」
「『俺とハピエンしてくれ』って言ったら、宮本はオーケーしたか?しないだろ?」
「……」
「それにゲームのハピエンは回避する。俺のハピエンは必定!」
「『必定』」
急な木崎み。
「宮本を溺愛なんてしたくないし」
何だそれは。
「溺愛って一方的で対等っぽくない言葉だろ」
その言葉に胸を突かれた。
「そうだね」とだけ答えて声が詰まる。
私も木崎と対等でいたいと思っている。
「なのにずぶずぶにお前を溺愛してるし、バカみたいに過保護になるし、こんなのは俺じゃないんだ」
「うん」
思いきってムスタファの背に手をまわした。
「宮本?」
顔がこちらを向く気配。
「見ないで、大事なことを言うから」
「うん?」
「私だってこんなの、絶対に絶対に認めたくないんだけど」
ずっと気づきたくなくて、目を反らせていたことがある。
「あなたが好きみたい」
ムスタファが私の顔を見ようともぞもぞ動く。
「見ないでってば」
「――本気か? ゲームの影響?」
「なんで急に弱気なのよ!」
「いや、だって。信じられないだろ」
「私も信じたくない」
ハハッと笑い声。ムスタファはまたぎゅっと抱きしめてきた。
「いいんだな。訂正は聞かないぞ」
嬉しそうな声だ。
「そのまま返すよ」
私もぎゅっと抱き返す。
「……ひとつ確認していいかな」
「何だ」
「これ、現実? 都合が良すぎる展開な気がする」
「それは俺も思ってた」
「やめてよ、木崎と意見が合うなんて」
「そのセリフが返ってくるなら、現実だな」
「そうか」
そうか。現実か。
どうしよう。めちゃくちゃ嬉しい。もう何日もムスタファのことで頭いっぱいで泣きたい気分だったのに。今は嬉しすぎて泣きそう。
「宮本。こっち向け」
「イヤ。絶対今、変な顔になっている」
「キスしたい」
何だそれは何だそれは何だそれは!
迷ったものの、目をムスタファの肩にぐしぐしとこすりつけて見苦しいものを落とし、顔を向けた。
「可愛いな、宮本」
「うるさい、もういい」
再び顔を背ける。
「はっきりさせておくが、今の俺はさっきのがファーストキスだからな」
「……何のアピール?」
「言っただろ、悔しいけど俺は余裕がないんだよ」
「素直な木崎なんて気持ち悪い」
ドキドキしながらムスタファを見る。
目が合うと、すかさずキスされた。




