32〔幕間〕煩悶する第一王子
第一王子ムスタファのお話です
宮本をが自室に入るのを確認すると、自分も部屋に入った。彼女が魔石の灯りは全て消したから、残っているのは炎が揺らぐ燭台がひとつ。それを手にして寝室に向かう。
宮本にとってハピエン回避が絶対である以上、俺が決定的な言動をするわけにはいかない。かといって何もしなければあのアホはシュヴァルツに惚れたままか、フェリクスや綾瀬に絆されるかのどちらかだ。
燭台を枕元の卓に置き、火を消す。一瞬にして闇に包まれる。今夜あたりは満月のはずなのに、この暗さ。明日は雨かもしれない。
それでも慣れているから、難なく寝台に入り横になる。
少しでも宮本に俺を意識させたい。
触れたい。
そんな思いで色々仕掛けてみたが……。
喪女ゆえの初々しい反応は可愛かったが、いやあの宮本を可愛いとか思っている自分が信じられないし終わっているが、可愛いとしか言い様がないのが事実だし、とにかく宮本のくせに力一杯抱き締めたいぐらい俺の理性を揺さぶってくるし、あんな様子を見たら今あいつに興味がないシュヴァルツだって墜ちること間違いないだし、そうならないようしっかり俺を意識させておかないと……
……。
息を吐く。
落ち着け。
宮本はシチュエーションに反応をしているだけ。俺への意識は皆無だ。先程はもう慣れてしまったのか、手を握るだけでは平然としていた。
ただ。イケメン王子にモテて嬉しくないのかとの質問に彼女は、
『ゲームの強制力ではね』
と返事をした。
それは裏を返せば、強制力でないのならば嬉しいということになる。
とはいえそんな深い意味などない言葉だろう。なにしろ宮本だ。喪女だ。
というか乙女ゲーム好きなら、もう少し恋愛脳でもいいんじゃないのか。どうしてあんなにも鈍感なんだ。この俺が、ゲームの強制力なんかに負けるはずがないじゃないか。
……それを口実に触りまくったのは俺自身だけど。
情けない。木崎のときには散々モテまくっていたのに、今じゃ卑怯な手段に頼る他がないなんて。
だがフェリクスの奴が本気の告白をするし、宮本は動揺しているし、のんびり構えているわけにはいかないのだ。
アイツも、俺がしばらくは身動きが取れないのを知った上で、俺の目前で告白なんかをしやがって。フェリクスは俺のために陰でこそこそせず、正々堂々勝負に挑んだのだと胸を張っていた。確かにそういう見方もできはするが、腹が立つ。
そろそろ綾瀬が帰ってくるだろうし、彼女が俺の専属になっているのを知ったら猛然とアピールすることだろう。
右手を目の前にかざしてみる。だが暗闇の中ゆえ見られない。
宮本の手は小さい。俺はけっして大柄ではないけれど、片手で包み込めてしまいそうだ。
『木崎に守ってもらおうなんて思っていない』
昨日のアイツの言葉がよみがえる。
アホめ。俺は宮本を守りたいのだ。元同期としてではない。おやすみのキスだって狙っていた。ゲームのせいにすればいけるかもと思っていたのだ……。
宮本は鈍感アホ喪女だが、今の俺はそれを上回るカッコ悪さだ。




