表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/211

27・4不毛だろ?

 目覚めたとき、自分がどこにいるのか分からなかった。

 ぼんやりした頭で、また転生したのだろうかと考えて。辺りを見回し、剣と縄跳び、ダンベルが目に入ったところで、ここがムスタファ王子の寝室だということを思い出した。


 跳ね起きる。


 あまりの怠さに寝台を借りてしまったけれど、もう大丈夫。ぐっすり眠って復活した。誰かにみつかる前にさっさと起きて、自室に帰らなければ。


 床に足を着き、裸足であることに気づく。私、靴を脱いだっけ?

 まさか木崎に脱がされたのだろうか。恥ずかしすぎる。霜焼けの跡が残る足なんて王子は見たことがないだろう。

 気が利きすぎるのも考えものだ。


 気恥ずかしさからくる怒りを感じながら立ち上がり、枕元のお守りを取る。

 と、そばの卓上に、ハンカチを掛けられた軽食と飲み物があることに気がついた。本当によく気の回る男だ。


 ――木崎の彼女は、こんな風に優しくされていたのかな。


 そんな考えが頭をよぎる。

 ハンカチをめくり、グラスを手にする。


 と、コンコンとノック音が続き部屋からして、

「起きたかい」とヨナスさんの声がした。

「はい」と答えると、彼が姿を見せた。体調は、大丈夫、そんな会話を交わす。やはり軽食は木崎が置いたようで、ヨナスさんはやけにそれを強調した。

 そんな木崎のムスタファは外出しているという。


「ヨナスさんなしで?」

「君をひとり残して出かけるはずがないだろう? 彼はへルマンを連れて行ったよ。戻るまでここで待っていてくれ」

「ここで?」

 何のために?

「ムスタファ様は不安なのだ」とヨナスさん。「媚薬の効果がぶり返さないかとね」

「そんなことはないと思いますけど……」

 体も頭もすっきりしている。だけど木崎なりに責任を感じているのかもしれない。やりたいことはあるけれど、ここでもできる。


「分かりました。そうしますね」

 仕事の早いヨナスさんは、既にロッテンブルクさんには適当に話を作って連絡済み。ついでにルーチェはあのあと綾瀬のレオンと昼食を食べに再度外出して、まだ戻っていないそうだ。


 王子の寝室を借りて帰宅を待つなんて、ゲーム判定がまた狂いそうではあるけれど。もう、なるようになれという気持ちもなきにしもあらず、というかなんというか……。



 ◇◇



 隣部屋から話し声が聞こえてきた。木崎が帰ってきたらしい。だけどへルマンの声もするので、気配を消して座ったまま手だけサクサクと動かす。

 それほど待つことはなく、ムスタファがやって来た。

「体調はどうだ」

 第一声がそれか。

「ふかふかベッドのおかげで絶好調。お帰り」


 そばまでやって来た木崎は、卓上に置かれた私の成果に目を見張った。

「ミサンガか」

「そう。手芸店で刺繍糸を見ていて思い出したの。作るのなんて高校ぶりだけど、案外覚えているものだね」

 大会前になると先輩に贈ったり、同学年の子たちと交換したり。職人かってくらい作りまくった。


「俺も山ほどもらったな」と木崎。

「はいはい」

「本当だぞ。当時はストイックな木崎先輩って大人気で、部活のときはタオルを持った女子が並んで俺を待ってたんだ」

「スゴイネー」

「信じてねえ口調はやめろ。で、なんで幾つもあるんだ?」


 ミサンガは今のところ完成品がふたつ、編みかけがひとつ。

「自分の分でしょ。それからルーチェさん。ちょっと悩むのが、綾瀬」

 作ろうと考えたときは綾瀬も普通に頭数に入っていた。カールハインツとの外出をセッティングしてくれたお礼のつもりで。だけど私にとってはお礼でも、綾瀬はそれ以上に喜んでしまいそうだ。


「綾瀬?」不機嫌な声。「気をもたせるなと言ったよな」

「だから悩んでい……」

「悩む必要はねえだろ、当然なしだ。そんなことも分からねえのかよ、喪女は。三十路のくせに恋愛経験値が低すぎ。天然が可愛いのは高校生までだろ」


 なんだそれは。そんな頭ごなしに貶さなくてもいいじゃないか。


「まさかフェリクスの分もあるんじゃねえだろうな」

 それは、昼間のことから数に入れようかと悩んでいたところだ。

「もっと考えろ。シュヴァルツを攻略するんだろ。あちこち愛想を振り撒いているから好感度が上がらねえんだよ」


「確かにそうかもしれないけど。助けてもらったお礼をするのは普通だよね。誰かさんみたいに付き合う相手を取っ替え引っ替えしたことがないから、機微が分からなくても仕方ないじゃない。そっちこそ、いいトシしてもう少し優しい言い方はできないの?」

「宮本相手にか? 不毛だろ」

「木崎は訳が分からない」


 優しかったり、そうじゃなかったり。昔は常に優しくなかったから、悩むこともなかったのに。

 手芸店の紙袋にミサンガや刺繍糸を詰めて立ち上がる。


「戻るね。綾瀬によろしく。木崎に牽制されてるって勘違いしているから、誤解を解いておいて。カールハインツにはね、『ムスタファ殿下のマリエット』なんて言われたの。泣くかと思ったよ。自分こそ言動をよく考えてね」

 じゃ、と続き部屋を出る。と、眉を下げたヨナスさんがこちらを見て立っていた。雰囲気の悪い会話が聞こえていたのだろう。


「お世話になりました」

「……いや」

 廊下に出る扉へ向かう。きっちりと閉じられている。

「マリエット」

 ヨナスさんに呼び掛けられて、扉に伸ばしかけていた手を止めた。

「明日の朝、ちゃんと来るのだよ」

「もちろん。仕事ですから」


 王子の従者に頭を下げて、部屋を出た。



 ◇◇



 自室に戻り着替えを済ませて気がついた。

 ホタテ貝のお守りがカルラの分しかない。カールハインツにもらったものは、区別できるように別のところにしまっておいたのだけど、そこには入っていなかった。

 記憶違いだろうかと服も持ち物も全てひっくり返して探したけれど、みつからなかった。きっとムスタファの部屋に落としてきたのだ。





おまけ小話ミニ

◇従者は見た◇

(従者ヨナスのお話です)




 マリエットが部屋を出て行ったので、忍び足で寝室に向かう。そっと覗き見すると、こちらに背を向けたムスタファ様が苛立たしげに頭をかいていた。


「情緒不安定すぎだろ。思春期か」


 ええ、そう思います。どうして優しさと意地悪さを交互に繰り出すのですか。


 そう問いたいが、今はまだ様子見にしておこうか。


 私にとってはまだ二十歳で恋愛経験値とやらはゼロのムスタファ様だけど、本人は三十路で恋愛上級者だと思っているのだ。


 上級者は拗らせたりはしないだろうに。


 再び忍び足で部屋の中央に戻り、今度は普通に寝室に向かう。

「マリエットは帰りましたよ。服を着替えましょうか」

 ムスタファ様は返事も面倒なのか、黙って首を立てに振った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ