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溺愛ルートを回避せよ!  作者: 新 星緒


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24・〔幕間〕空振りな元後輩

元後輩の近衛兵、レオンのお話です




 昼休憩をまあまあ良い時間にもらえたので、侍女の食堂に向かってみる。だけどマリエットの姿はなかった。

 今日は二日に一度のカルラ姫と遊ぶ日で、この日は彼女は早々に食事を終えて、その時間に備える。大抵は雑用を済ませているらしい。

 ぎりぎり捕まえられるかと考えたのだけど、ダメだったようだ。


「一足違いよ。残念だったわね」

 食堂から出て来たルーチェが言う。はい、と手渡されたのはパンだ。

「どうせ、まだご飯を食べていないのでしょう?」

「見抜かれてる」思わず笑う。

「だってシフトを教えてもらったばかりだもの」


 先日彼女に、マリエットのためにカールハインツ隊のシフトを知りたいと頼まれて教えた。友人のための作戦を練っているとのことで、だけど作戦が何かは教えてくれなかった。僕にとっては面白くないことだからと言って。


 廊下の壁にもたれて、パンを口に運ぶ。

「昨日のは驚いたわ。どういうつもり?」

 昨日の、とは宮本先輩のために隊長を外出に誘ったことだろう。

「マリエットはご褒美をねだられたと言っていたけど」

「そ。それが目的」

「本当かしら」

 ルーチェが疑い深そうな顔をする。

「彼女って律儀でね。受けた恩はきっちり返す」


 前世では、そんな話だった。僕自身は知らない。木崎先輩の敵だと思っていたから。だけどその木崎先輩の同期が、彼女の長所をあれこれ力説しているのは聞いたことがある。第二営業部の部員は賛同し、先輩は『だから?』と答えたのだった。

 あの木崎先輩が、今じゃ……。


「それならご褒美には何を頼むの?」

「考え中」

 二人きりのデートが一番だけど、まあ無理だろう。本人的にも外野的にも。


「でも私たちがお守りを考えていたこと、よく分かったわね。私、あなたに話してないわよね?」

「話してはいないよ」思わず笑う。「だけどアレについて詳しく教えてくれと尋ねてきたじゃないか。それに隊長の休日も。で、あの状況だ。それで作戦が何か分からないほど僕はマヌケではない」

「そうね」ルーチェの顔がうっすらと赤い。「あなたを侮っていたわけではないわよ!」

「分かっているよ」


 食堂から出て来た侍女たちが、僕をちらちら見ながら去って行く。中には新しいパンをくれる娘も。

「マリエット以外にならモテるんだけどなあ」

「みんなそうじゃない。フェリクス殿下も、ムスタファ殿下も」

「そうだね」


 ルーチェは、ふうと大きなため息をつくと僕の隣で壁にもたれた。

「妬ましくなっちゃう。孤児の貧乏人なのに、いい男たちにモテモテ。私は全然ダメなのに」

「そう?」

「そうよ。声をかけてくるのは遊びたいだけの男か財産目当て。たかだか成金豪商風情の娘を、正妻に迎えようなんて貴族のご子息はいないの」

「ふうん」

「父はどうしても伯爵家以上の男と私を結婚させたいの。屋敷で着飾っていても縁談がまとまらないから王宮の侍女になったのだけど、ムダだったわ」

「そっか」


 確かにな、と思う。噂によれば彼女の実家は結構な資産家らしい。彼女を妻に迎えたら財産目当てだと揶揄されることは間違いなしで、それは一般的な貴族にとっては屈辱的なことだ。ルーチェは綺麗な娘だが飛び抜けてというほどではない。

 高位の貴族が彼女に結婚を申し込むことなんてことは、ほぼあり得ないだろう。


 きっと地方の豪商だから、その辺りのことには疎かったのだ。可哀想に。それとも父親は分かった上で娘を城に送り込んだのか。


 もしゃもしゃとパンを食べながら考える。

 良い娘なのに。紹介できる友達はいるだろうか。


「最初はね」とルーチェが言う。「本当に妬ましかったの」

「ふうん?」

「でもね。良い子よね。面白いし。随分と苦労をしているみたいだし」


 苦労、という言葉に胸が痛む。最初は僕も孤児院出身の肉食女が隊長を狙っていると思い込んでいた。偏見甚だしい。


「難しいわ。彼女の可愛い恋を応援してあげたいって思うのよ。だけどあなたと仲良くなっちゃったから、あなたにも幸せになってもらいたい。でもムスタファ様のことも気になるの。初恋って噂だもの」


 宮本先輩のは恋じゃない。アイドルに向かってキャアキャア騒いでいるのと一緒だ。僕はそう思っている。


「というか、何で急にムスタファ様が出てくるんだ? 君は殿下と繋がりがあったか?」

「ないけれど。でも、あの方も本気のような気がするから」

「ちょっと。マリエット以外を応援するなら、僕にしてくれよ。ムスタファ様は論外!」


 どうしてと、ルーチェが不思議そうに僕を見上げる。


「僕よりもずっと分がいいからだよ。しかも牽制がすごい」

 彼女はまばたきをする。

「……マリエットの話だと、シュヴァルツ隊長とのことは応援してくれているそうだけど」

「そうやって友人のふりをして、好感度を上げているんだ」

「そうなの?」

「そう。彼女を油断させておいて、しっかり捕まえているんだ。さすが――」

『木崎先輩』という言葉だけは飲み込む。以前のあの人は女の子の扱いも上手かった。意地悪だったのは宮本先輩に対してだけだ。


 ルーチェは首を可愛らしくかしげて、ますますよく分からないわ、と呟いた。


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