三日月
こんばんはー。あてんです。
今回は師匠が本格的に出てきます。
カスミちゃんの技も出ます。刀とか好きな人とかは結構好きなやつです。
では、どうぞ。
サナギユリちゃんを見てから数日。
私は初めて、師匠に技を打ち込む練習をさせてもらえることになりました。
「さあ、どこからでもかかってきていいよ。私はアンタの技全て受けきってやるからさ。」
そう上から目線で言ってくる、私の前に立つ凛とした女性。
私とユリちゃん、二人の師。
名を真宮 瑠璃。
武闘会で何回も優勝している、有名な武士。
私達はこの人に憧れ、何回も二人で弟子入りを頼んで、今に至る。
師匠のその手に持つ刀身はどこを見ても水色で、いまにも吸い込まれてしまいそうな美しい刀身。
練習の時にいつも使う木刀ではなく、師匠が大会で使っていた愛用の刀であった。
「...っ。師匠。師匠に技の練習をさせてもらえる日が来るとは、光栄です。」
「ふふん。そろそろ技を極めないと、アンタ達文句抜かしそうだしねぇ。技の練習となると、今までみたいに木刀じゃすぐ勢いに負けてすぐに折れるしね。」
黒いショートカットの髪に似合う勝気な微笑みを彼女は浮かべる。
何回も大会で優勝しているだけはある。圧倒的なオーラ。強者の余裕というやつだ。
そんな師匠と、いつか肩を並べる為に...私はここにいるんだ!
(...あれ?...どうして私は師匠に憧れたんだったっけ...刀が好きだから...?違う...“守るための力が欲しかった...?”何を...守るんだっけ...)
(ううん、今は考えない。今は...目の前の師匠に集中するんだ...)
「頑張って!カスミ!私の髪の毛を切り刻んだにっくき師匠に一撃を!」
「ああん!?元の髪型に戻したからいいじゃないか!サナギになったお前なんか気持ち悪かったし!」
...ユリちゃんの応援と共に、意外と根に持ってた髪の毛の恨みが来た。
刀でユリちゃんの髪の毛を元のセミロングに戻した師匠もおかしかったけど...
そんな軽い喧嘩を聞き流し、私は手に持つ刀に意識を預ける。
「...スゥーーー...。」
「っ!」
息を...整える...私の手に持つ刀。
“刀身に桜の花と三日月を模した刀”に、全てを込める。私の意識を込める。
集中。集中。集中...。
“目で視ない” “耳で聴かない”。
“刀で視る” “刀で聴く”。
集中しろ。集中しろ...。集中...しろ...。
「ほう...前に一度だけ見た時よりも...これはまた...綺麗な...」
「わあ...カスミちゃん、綺麗...。」
カスミの周りには、刀に込めた想いで具現化した桜の木が現れ、その場にだけ桜の花が舞っていた。
そして気付くと、昼間だったはずの明るい空は黒く染まり、星が光り、三日月が現れる。
「ふふ...面白い、やはり特別な力がこもっている...来い、カスミ!」
カスミは、居合の体勢を取り...三日月だった月が消えたその瞬間。
カスミも消えた。
「っ!!?くっ!」
即座に上へ飛び、ギリギリの所で避ける。
「っはー...なんって速さだよ、私じゃなかったらマジで死んでたぞ、それ!」
カスミの力。それは、強制的に夜にする事でもなく、具現化した桜の木が現れる事でもない。
圧倒的な速さである。
その居合切りを初見で避ける事が出来た事を、私は自画自賛する。
そして、夜だったはずの空は、さっきのように昼間に戻り、空色に変わった。
「師匠なら避けられる事が出来ると思っていたので、本気でやりました。」
「私でも危なかったわ!ってあちゃ〜...傷は付かなかったけど、服が切れてるわ...でも...うん。気にしない!あと、カスミ。今のそれをもっと早く。かつ、デメリットも少なくしないとダメだね。」
師匠は私の後ろから告げる。
そう、カスミの今の居合切りの弱点。それは、夜に光る三日月が新月になるまで時間を要すること。
そして放った後に、激しい筋肉痛のような痛みが数秒続く為、動けなくなる。
その為、後ろから話しかけてくる師匠の方へ体を向けられない。痛い。
「...はい...っ、そう...ぐっ...ですねっ...。」
「か、カスミちゃん大丈夫!?」
「だ、いじょう...ぶっ...ですっ...!...すぅ...はぁ...」
深呼吸して、痛みを和らげ、なんとか持ちこたえる。
それにしても痛い。これの弱点を克服する事は果たして出来るのだろうか...
「という訳で、ユリは技を編み出す特訓。カスミは毎日今の技を1回やる事!」
「えっ!?嫌です!キツイですって!」
「そんなっ!?技を編み出すなんてできないよ〜っ!」
ユリと一緒に師匠に文句を告げるが...
「ダラダラ文句言わない!私の弟子になったからにはビシバシやるって決めたからな!ユリ!さっさと特訓開始!カスミは文句言った罰!もう1回今の技!」
「ひ、ひぃ...ごめんなさいぃぃ...」
「も、もう1回...だと...!?むりぃ...」
この師匠、非常に鬼。鬼だっ!
そう心の中で愚痴を垂れると、何かを疑問に思ったのか、師匠が私に言う。
「そうだ、カスミ。今の技、名前はあるのか?」
「あっ、そうだよ!あの綺麗な技、名前付けてあげようよ!スーパーウルトラバーストみたいな!」
「...ユリ、ダサいぞ。その技名」
「えっ、そ、そんなぁ...意外と良いと思ったのに...」
...ユリちゃんは無視。
技の名前...そう師匠に言われ、そういえばと私は思った。
確かに、今の技に名前を付けていなかった。
「うーん...技名かぁ...あんまり思いつかないな...」
「じゃあじゃあ!ビッグバンスラーッシュ!みたいな!?」
ユリちゃんを無視しながら私が悩んでいると、師匠が技名の提案をする。
「なら、今の技を軸にして技の派生をしていこう。そして派生していけば、カスミ。お前だけの刀の技の型が作れる。例えば、月の型とかな。お前のさっきの技を見て思い付いたんだ。意外とイケてるだろ?」
「月の型...いいですね!それにします!では...今の技は...そうですね。“月の型-一の舞-”<夜桜一閃>にしましょう。」
「夜桜一閃!かっこいい!カスミちゃんと言えば桜のイメージだもん!ピッタリだよ!」
ちんまりとしたユリちゃんがぴょんぴょん跳ねながら私の付けた技名を肯定する。
...当然ながらアホ毛は跳ねているユリちゃんよりも一層激しく跳ねている。
「ふふっ、ありがとう、ユリちゃん。」
「うん、夜桜一閃。いい名前だ。この技を軸にして、いくつも技を編み出していけ。それだけでお前は多数の戦い方を持つ相手に対して有利に出られる。まぁ、まずはデメリット克服の特訓からだな。うん。」
鬼師匠は、新しい技はどうしようと考えていた私の思考を一刀両断してきた。最悪だー...。
帰りたい。
はい、どうだったでしょうか。
皆さん大好き居合でございます。
ちなみに、師匠のフルネームが出ましたが、ユリちゃんのフルネーム出してませんでしたね。
物部 百合“もののべ ゆり”です。
そして次回は、裏で鬼師匠の特訓を受けているカスミちゃんから視点が外れて、ユリちゃん視点になります。
ユリちゃんの技...考え中です。
でもユリちゃんって刀使うよりアホ毛使う方が強そうだよね。
(ちなみに名前が百合なだけでそっちの気はないです)