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第4話:幼女と化した唯一神

 存在しない最高神オシャンティのせいで信仰心が失われ危機が訪れた=わかる。

 オシャンティを生み出したお前が責任を取れ=まあ分かる。

 だから聖女になれ=???


「話の流れは理解したんですが、なんで聖女になる必要があるんですか?」

「それについては、真なる最高神からのお言葉をいただくがいい」


 ザフキエルが合図をすると、白い衣に身を包んだ清らかな女性天使達が、まるで神輿(みこし)をかつぐように巨大な物体を運んできた。


 それは玉座だった。ダブルベッドよりも大きく、金で縁取られ、深紅の高級そうな布で作られた豪勢な一品だった。ただ、玉座自体はいいのだが、中心で猫のように丸くなって寝ている金髪の愛らしい幼女がいていまいち締まらない。


「こちらが至高にして唯一神、ゼウス様であられるぞ」

「はぁ……」


 ザフキエルは眠り続ける幼女の前に(ひざまず)くが、エクリプスは曖昧な返事をしただけだった。どっからどう見ても美幼女にしか見えない。


「ゼウス様、ゼウス様、おねむなのは分かりますが、そろそろ出番ですので……」

「うるさーい!」

「あ゛に゛やぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ザフキエルがゼウスを優しく揺り起こすと、おかんむりになったゼウスの神の雷がザフキエルを直撃した。ザフキエルは悲鳴と共に煙を上げてぶっ倒れた。


「大丈夫ですか!?」


 さすがにやばそうだったので、エクリプスはザフキエルの元へ駆け寄る。だが、ザフキエルはそれを手で制し自力で立ち上がる。


「大丈夫ら。何て事はなひ」


 感電してるせいで微妙に呂律(ろれつ)が回っていないが、それでもザフキエルは普通に立ち上がった。すみれ色のストレートの美しい髪も、電撃のせいでもじゃもじゃになっている。


「我々の代表として力を消耗し続けたゼウス様は、信仰の力を失い、幼児退行されてしまわれたのだ……なんとおいたわしい」


 ザフキエルは手櫛(てぐし)で髪を直しながら、未だにむにゃむにゃと玉座の上で転がっているゼウスの方を見て目を潤ませた。雷をぶち込まれたのに文句を言わないあたり、本当に敬愛しているようだ。


「ゼウス様は雄々しく、唯一にして無二たる神であった。だが、幼児退行するに従い、生来の女好きが災いし、自分自身が女だと思いこみ、このような幼い少女の姿になってしまったのだ」

「なんとなく理解しましたが、それと私の女性化に何か関係が?」

「うむ。ゼウス様に今回の計画をご進言したところ、『おとこのせわになるなんて、いやだもん』という神託があったのだ。よって聖女として活動してもらう事となった」

「そんな理由で!?」

「何を言う! 偉大なる唯一神ゼウス様のお言葉なるぞ!」


 そんなくっだらない理由で勝手に性別を変えないで欲しいのだが、ザフキエルは本気で怒っていた。敬愛する主のご金言なのだから当然と言えば当然なのだが。


「もー、うるさいなぁ。さいばんおわった?」


 ザフキエルとエクリプスが騒いでいると、金髪幼女と化したゼウスが眠たげに身を起こした。どこからどう見てもただの金髪ロリ美幼女にしか見えないのだが、その力は先ほどエクリプスも見ている。


「ゼウス様! お目ざめになられましたか。ご要望通り大罪人エクリプスは巨乳美少女として聖女をやらせることになりました。いかがでしょう」

「おお! でかい! いいぞ!」


 急に意識を覚醒させたゼウスは、ものすごい勢いでベッドから飛び降り、弾丸のようにエクリプスの豊満な胸に飛び込んだ。


「ちょ、ちょっとー!?」

「うん、よい。じつによいぞ。ザフキエル、ほめてつかわす」

「はっ! 神々と悪魔、両方の祝福を混ぜ合わせました。人間界では二人と並ぶ物はない美貌となっております」

「勝手に人の身体を改造しないでください!」

「お前が播いた種なのだから仕方あるまい。大罪人……いや、聖女エクリプスよ。先ほども言った通り、貴様が責任もってオシャンティ神の信仰を失わせるのだ」

「そんな事言われても、私一人でどうしろっていうんですか」


 大陸全土に広まった一つの思想を丸ごと変えるなんて、そんな事は歴史に名を残す英雄か偉人しか出来ないだろう。当たり前だがエクリプスにはその自信が全くない。


「もちろん、お前一人で出来るなどとは思っていない。天界の者はもちろん、魔界の者もみな貴様を全力でサポートする。そのために二千年の間、下準備を進めたのだ」

「私、大罪人なのにいいんですか?」

「仕方ないだろう。我々が異界に顕現(けんげん)するのは多大な力を使うのだ。貴様を依代(よりしろ)にする事で、その負担を大幅に下げる事が出来る。我々からは天の祝福を、魔界からは悪魔の戦闘力を提供する。貴様は、両者の加護を受けた現人神(あらひとがみ)となれ」

「現人神?」

「貴様に信仰が集まれば、祝福を与えた我々にも還元される。その力を我々に提供するのだ」


 エクリプスは、コアラの赤ん坊みたいにしがみついている金髪幼女ゼウスに顔を向けた。ゼウスは気持ち良さそうに胸に顔を埋めていたが、エクリプスと視線が合うと、金の瞳でまっすぐにエクリプスを見つめた。


「せきにんとってよね!」

「そう言われましても」

「では、ゼウス様の『せきにんとってよね』のお言葉を持って、これにて閉廷とする。最後に聖女エクリプス、何か言いたい事はあるか?」

「あるにきまってるでしょう! 反対! 断固反対!」

「貴様に拒否権があると思っているのか!」


 原因を作ったのは自分ではあるが、いくらなんでも荒唐無稽すぎる。インチキ教祖から現人神は、いくらなんでもグレードアップしすぎだ。


「ならば全体の採決を取ろう。聖女エクリプス計画に反対の者は声を上げよ」

「はいっ!」


 エクリプスはびしっと手を上げた。彼女一人だけだった。


「では次、聖女エクリプス計画に賛成の者、声を上げよ」


 大轟音が巻き起こった。それは人のような声もあったし、獣の咆哮や、金属音のようなよく分からないものもあった。音の洪水でエクリプスの耳が悲鳴を上げる。


「聖女エクリプス計画は可決となった!」

「暴力だ! 数の暴力だ!」

「一応、聞く権利は行使させただろう」

「うぅ……」


 エクリプスはゼウスに抱きつかれたまま、がっくりとうなだれた。異端審問ってこんな気持ちなんだなと、初めて魔女狩りをされるものの気持ちが理解出来た。


「だいじょうぶ、わたしもいくから!」

「えっ!? ゼウス様も!?」


 驚愕の声を上げたのはザフキエルだった。ゼウスは椅子で寝ているだけで問題無いのだが、エクリプスに付いていくと言い張るのだから無理もない。


「ゼウス様、何もそこまで慈悲を与えなくとも……」

「ちがう。ひまだから」

「……確かにゼウス様に現状出来る事はないのですが」


 ザフキエルが困惑の表情を作る。そりゃあ、現状だとゼウスはほぼ活動停止状態なので暇なのだろうが、エクリプスに付いてくと色々な意味で不安がある。


「偉大なる御身の決断であれば仕方ありません。聖女エクリプスよ、あなたには本物の最高神の加護が付いている。くれぐれも注意するように」

「最高神の加護が付いてるのに注意?」


 エクリプスが疑問を口にすると、ザフキエルは肩をすくめた。


「いいか? 弱体化したとはいえ、ゼウス様は至高の神だぞ? 私だからこそ先ほどの雷撃を耐えられたが、あんなものを地上に落としたら街一つ崩壊しかねん。ゼウス様はご機嫌斜めになると雷を落とす癖があるので、くれぐれも扱いには注意するように」

「ちょっと待って! そんな恐ろしい加護いりませんよ!」

「ゼウス様が『ついていく』と言ったら、それは天界の意思なのだ。聖女エクリプスよ、早速だがお前を人間界へ転生させる。場所は聖都オシャンティだ」

「聖都オシャンティ!?」

「貴様が殺されたあの辺境だ。今では大陸の中心都市となっている。そこの一部に異教徒……我々を(まつ)っていた廃教会がある。まずはそこを拠点にしろ」


 いきなりの無茶ぶりに困惑するが、ザフキエルの全身が淡い光を放つ。おそらく、あれが転移の準備なのだろう。


「心配するな。我々も常に貴様を見守っている。貴様に死なれたら計画が全て破綻するからな。貴様の肩には神と悪魔、それに人間の未来が掛かっている。いいか? これは戦争なのだ。オシャンティ神と、我々神々や悪魔、それに人間たちの連合軍とのな!」

「いやあああああああ!」


 エクリプスの叫びも空しく、こうして聖女エクリプス育成計画は決行された。こうしてエクリプスは、聖女として聖都オシャンティに身を置く事になった。

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