第8話 乱心。そして……
昼休み。
里奈はいつも通り私の友達、桜井巴と藤原あい、齋藤かなえと一緒に食事を取りながらいつも通り奈々の会話に耳を澄ませていた。
そう澄ませていたのだ。
奈々が光姫をデートに誘うその時までは。
奈々が光姫のほっぺを触った。これはまだ我慢できた。だがその次に奈々の口から発せられた言葉が里奈の知らない気持ちを発生させた。
里奈は奈々に対して独占欲を持っている。
そのため奈々の隣にいる女は里奈にとっては邪魔でしかないのだ。
消してしまいたい。
常日頃から白崎光姫に対してはそう思っていた。それでも今まで踏みとどまれたのには訳があった。
『白崎光姫という存在は佐倉奈々の中で掛け替えの無い、なくてはならない存在』
という確信があったからだ。
奈々が光姫と接している時の表情。声のトーン。一緒に帰る時の歩く速さ。手の力の入れ方。肩の動き。足のまげ方。呼吸の速さ。水を飲む回数。服のシワ。ポケットに手を入れる回数。指先の動き。視線の動かし方。
その全てが普通の友達や人と話す時とは、目を凝らさなければ見えない程度のものであっても違ったのだ。
もっとも目を凝らすの表現は里奈が感じたものなので、常人からすれば何が違うのか分からないだろう。少なくとも奈々のことに少し興味がある。または、好きだレベルの人達ではお話にならないだろが……。
里奈には分かっていたのだ。
奈々にとって光姫がそういう存在だということに。そしてそれを無理矢理引き剥がしてしまうと奈々が壊れてしまうことに。
かつての自分が━━━
だから里奈はいつもしているように光姫を消して離すのではなく、
自分が光姫の代わりになって何の変化もなかったかのように光姫を消すという方法にしたのだ。
しかしその方法は里奈に強烈な屈辱と嫉妬、怒りを与えることとなる選択でもあった。
ただ里奈は耐えてきたのだ。全ては私が奈々の隣にいるために。奈々の特別になるためにと。
そして今日のほっぺぷにぷに。これも許されるのであれば今すぐ辞めさせて、更には光姫のほっぺを切り落としたかった。
それにも里奈は耐えたのだ。心の中から溢れる憎悪に身を焼かれそうになりながも……。
苦しいと言えばそれまでだろう。まだそこまでしか辿り着けていないのだ。
目の前で最愛の人が他人と触れ合っている。しかもその人は最愛の人にとって大切な存在であり、その人はは最愛の人に密かに想いを寄せている。止めたくても手出しができずただただ見ることしか、聞くことしか出来ない。
ただの地獄である。
里奈がそれでも踏みとどまれているのは
【愛】
故の事なのか。
そんな里奈に今日今まで感じたことの無い知らない感情が発生した。
里奈の心の黒のキャンバスに黒ではない絵具が一滴たれる。黒のキャンバス故にその色がなんだったのかは分からない。しかしその色は黒と混ざりその部分を黒ではない何かに染めたのだ。
一滴されど一滴。
しかしその一滴はムラのない黒のキャンバスに圧倒的なまでの違和感をもたらした。
里奈はそれが憎悪の類では無いことが直ぐに気づいた。いつもは頭の血管が切れそうなくらい苦しいのに対し、今回のは心の底から小さな針でチクチク刺されるような苦しみ。
明らかに今までとは違うためだ。
しかしそんな疑問も直ぐに消えていった。
そう。あーんのためである。
漆黒。
そう表すのが一番適しているだろう。里奈のキャンバスが元の黒よりさらに黒く染った。
唇を噛み切りそうな怒りに襲われる。
しかし顔には出さず、なんとかして怒りを抑えようとするものの衝撃が強すぎて抑えられない。
(なんで私じゃなくてアイツなんだ)
(ちょっと奈々の隣にいるだけで調子に乗りやがって)
(消したい)
(消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい消したい)
そんな思考が頭の中をループする。もういっそのこと……なんて考えも生まれてくる。
(私だってあーんして欲しかった)
そんな事を意味もなく考えた途端心に針が 深々と刺さったような感覚に気づき里奈は正気を取り戻した。
(そうだよ。今ここでやってしまったら奈々が壊れてしまう。)
(それだけは絶対に嫌だ。)
(私は奈々の折れずに明るく進むところが一番好きなんだ。)
(それを私自身が壊してどうする)
(正気に戻れ。頭を冷やせ。大丈夫。きっと最終的に隣にいるのは私なんだから。)
そうして心を落ち着かせる。しかし光姫に対する黒気持ちが消えた訳では無い。里奈のキャンバスは相変わらず黒色だ。
しかしそれは里奈から見たらの話だろう。
きっと誰かがその色に表すとするなら
黒とは呼びがたいのだろう。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今日でテスト週間がとうとう終わりましたので帰って急いで書いてきました。
長い間更新していなかったのにこの作品を忘れないで読んで頂いて本当に幸せです。(いると信じて書いている)
これからも頑張ります!!




