治療師と灰色の子獣(制限時間1時間)
絶望を塗り替える色って知ってるだろうか。
俺の場合は泥にまみれた灰色だった。
その日俺は、ギルドの依頼の帰りに森の中で魔物の群れに遭遇しちまった。
高難度の貴重な薬草の採取とは言え、薬草の扱いが難しいだけで、危険自体はないはずだった。
「何だってこんな町の近くに群れてやがるんだ!」
後で聞いた話だが、初心者グループが無理して森の奥まで突っ込んで、魔物引き連れて逃げ帰ってきたらしい。
迷惑なこった。
俺も冒険者なら魔物の一匹や二匹狩れるだろうって?
ちちち、俺は戦闘はからっきしの回復役、治療師だ。
普段は町の中で患者の相手をしてるんだが、少し金が入用になってな。
一株何千万の薬草採取に手を出したわけだ。
「う〜ん、十匹二十匹なら俺も逃げ切る自信があるんだけどなぁ」
数十から百匹とか、何がどうしたらこうなるのか。
「虎の子使うしかないか? 金稼ぎに来て金使っちゃうのか?」
首から提げた魔法アイテムに手を掛けて、俺は冷や汗を流す。
昼には帰れると思っていたのに、午後からの熱気で空には黒雲が集まっている。
保護している獣人の子供が助けに来る。
ほめてほめて。
「あーぁ、俺もお前も泥まみれだな」
「大丈夫、俺が舐めてやる」
「お腹壊すぞ」
天に溜まった水分を全て落として、にわか雨が上がったら。
カラッとした青空と、眩しい陽射しが現れた。
「これはいい。洗濯日和だな」
ずぶ濡れの毛皮に指を絡めれば、こいつは尻尾を地面に叩きつけて不満を露わにしている。
「俺の毛皮を洗濯物扱いするなよっ。せっかく助けてやったんだから、もっとありがたがって俺の事、頼りにしていいんだからな!」
「はは、お前が大きくなったらな。それまでは、情けなくても俺が保護者だ」
「俺が大人になったら、ちゃんと稼いで、治療師のお前が前線に出なくていいように守ってやるから。怪我したり、帰ってこなかったり、するなよ」
しゅんと垂れた耳と尻尾が、彼の不安を増長する。
彼の両親は、ギルドの依頼で飛龍を討伐に行った切り、帰ってこなかった。
俺が隣の家に住む、小さな獣人を保護してる経緯だ。
「安心しな、俺は結構強かなんだ。自分の逃げる道だけはいつも確保してんだよ。ほら」
俺が首から提げる魔法アイテム、テレポート。
獣人の成長が人よりずっと早いって事を俺が知ったのは、一月後の事だった。
追加メモ
薬草は魔力で包み、薬効が消えないように運ばないといけない。
採取の森は、初心者が入れるくらい普段は穏やか。
獣人はこの国には少ない。
獣人は身体能力が高く、国から頼られるほど強い。
初心者の森の魔物の群れなら、子供でも頑張れば倒せる。
飛龍との数ヶ月に及ぶ激闘の末、意気投合し、酒飲み仲間として帰ってくる獣人の両親。