序 フロスト銀河史Ⅳ
あと一話で前書きは終わります。それからはようやく(笑)本編に入ります。
後に第一次星系間戦争と呼ばれる戦いが始まった時、惑星連合政府は殆ど状況を楽観視していた。
支配下の市民の熱狂的な支持があるとはいえ、星間同盟に加盟する星系は100にみたず、戦力差は歴然としていたためである。
或いは数百年に渡って続く平和が彼らの感覚を鈍らせていたのかもしれない、第一期宇宙開拓時代に起きた第二次惑星間戦争以来、大規模な紛争は後を絶ち、宇宙海賊かテロリストを除けば惑星連合に楯突く者は存在しなかった。惑星連合軍はそれらの無法者達を鎧袖一触に蹴散らす事が出来たのである。そうして育まれた根拠のない不敗神話は精強な兵器群と巧妙な戦術を駆使する星間同盟軍の前に脆くも崩れ去った。
クローヴィスは兼ねてからパイプを繋いだ軍部のシンパと傘下の軍需企業を利用して周到な軍備を整えたのだ、泰平のぬるま湯に浸かった惑星連合軍がこれに抗しうる筈もなかった。
開戦から一月の間に起きた11の戦いは尽く星間同盟の勝利に終わり、数十の星系が彼らに降伏、その傘下に加わることとなる。
短期間に累積される余りの損害に慌てた惑星連合は中枢領域全体から主力艦隊を招集。数にものを言わせて星間同盟を押しつぶそうと「濁流作戦」を発動した。星間同盟軍もこれを正面から迎え撃ち、銀河系外縁部の要衝ヴァルダミア星系で両軍は激突する。
星間同盟軍を率いるのは後に「宇宙の狐」と恐れられるアルベルト・ウィンザー中将である。
彼は革新的な用兵と最新鋭の艦艇、高い士気を持って惑星連合軍を圧倒、壊滅させた。「第一次ヴァルダミア沖海戦」と呼ばれるこの戦いの勝利によって惑星連合の加盟宙域には動揺が波及。勢いに乗った星系同盟に各所で押されることとなる。
星間同盟大統領ジョセフ・クローヴィスは全宇宙に向けて誇らしげに声明を発表した。
「この崇高なる聖戦の帰趨は既に決した。堕落した惑星連合の圧政に苦しむ人々は遠からず解放されるだろう。」