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2 青葉は主人公巻き込む前に雅への気持ちに気付こうよ!


 5歳になった誕生日。あの悪夢のような出来事から1ヶ月経った頃。私の心は穏やかだった。


 これからやるべき事を明確にしたのが良かったのかもしれない。まだ全員の名前はわかってはいない。現時点でわかっているのは『一条青葉(いちじょう あおば)』と『西門黄泉(にしかど よみ)』の2名だけ。


 確か雅の婚約者は『一条青葉』だったはずだ。


 幼い頃から決まっていた婚約。そこに愛なんてなかったけれども、情はあった。何年も一途に自分を慕う雅に彼は告げたのだ。


『君のことを激しく求めたことはないけれど、傍にいてくれると落ち着くんだ』

『……私は青葉様のことお慕いしておりますし、おそばに置いて欲しいです』

『知ってる。君は本当に僕のことが好きだよね、……だからこそ、そんな君の気持ちに応えたいと思ったんだ。これから僕は君と同じ気持ちになれるよう努力していきたいと思う』


 そんなふうに穏やかな恋心を育んでいた。けれども出会ってしまったのだ、青葉は彼女に──『結城桃子(ゆうき ももこ)』に。


 攻略キャラが4名と、あまり多くないこともあってか、1人1人のルートが多岐にわたる。主にBad Endが占めている。


 乙女ゲームにしては珍しく、全然Happy Endにならないことと攻略キャラが全員冷めてることが当時は乙女達の間で話題となった。もちろん私もその1人。


 青葉だけでも数十ルートはあった。その半分が雅への想いを自覚するとかなんとか。


 そもそも雅は青葉以外の男なんて眼中になく、婚約者以外でまともに会話する男なんて、しいていえば弟のように可愛がる幼馴染くらいだった。だからそんな彼女を見て誰かに取られるのではと不安になったり、誰にも渡したくないと思い強く求めたことなどなかったのだ。その必要がなかったのだから。


 しかし、主人公が転校してきて、全てが変わる。


 いじめられている桃子が心配で、傍にいることが多くなる。初めは本当にただの人助けのつもりだった。だが、周りはそうは思わない。


 あの一条家のご子息が元庶民と一緒にいるのだ。婚約者である雅よりも優先して。雅に愛想をつかしたのでは? もう既に2人は恋仲なのでは? 様々な噂や憶測が飛び交った。


 そして、辛抱堪らず、雅は尋ねてしまうのだ。


 ──彼女のことを好きになってしまったのですか、と。


 ぽろりと零れた彼女の悲しみ。もちろん、本当にそんなふうに思っていたわけではない。ただ一言、青葉にそんなはずないと笑い飛ばして欲しかったのだ。


 そんな彼女の真意には気付かず、青葉は彼女に落胆した。彼女は自分を信頼していないのか、あのような馬鹿げた噂を信じるほど愚かだったのかと。


 そうして出来た溝。傷ついた青葉の心を癒したのは、雅ではなく桃子だった。桃子の助言で、雅には言い過ぎたと謝りに行く矢先に目撃してしまうのだ。


 ──幼馴染と彼女が抱き合っているところを。


 もしかしたら強引に彼女の幼馴染が抱きしめたのかもしれない。そんな青葉の淡い期待を砕くように、雅はつぶやく。


『……私、もう疲れたの。……お願い、青葉様のことを忘れさせて』

『ああ、もう独りで悲しまないで……これからは僕がずっと傍にいるから』


 初めて激しく彼女を求めたことで雅への想いを自覚する。嫉妬に狂った青葉は婚約解消を彼女が求めた時に遂に刺し殺してしまう。


 このルートはさすがに雅が可哀想だと話題になった。青葉だけでなく赤色の彼も確かルート半分の時点で親愛度が80%以上でないとやはり雅がすきだと言って振られる。


 大半は雅とお幸せにルートだったが、先程のようによそ見をした雅を殺したり、監禁したりするルートもあった。


 青葉と赤色の彼しか私はプレイ出来ていないので他のルートはわからないが、とにかくこの2人はクーデレよりもヤンデレって感じだ。あ~重い重い。凄まじく重い。


 あと青葉に関しては自業自得なのに、裏切られたと雅を責めるのはお門違いてはないか? 初めに裏切るような行為をしたのは青葉自身だと言うのに。


 とにかく、『立花雅』という2人の心を離さない鉄壁の悪役令嬢がいるため、攻略は一苦労だった。そのため、彼女のことは『今まで一途に想っていたんだから可哀想だよね』派と『でも主人公が現れたくらいで他の男に目移りとかどうなの』派で別れた。


 私はどちらかと言うと『青葉は主人公巻き込む前に雅への気持ちに気付こうよ!』派だった。


 少し嫉妬した雅に対して落胆したり、いじめられているからと言って婚約者を放置したり。その上自分が放置されたら嫉妬に狂って刺し殺すってどうなの? 主人公もこんな男やめておきな? 嫉妬に狂っていつ刺されるかわからないよ? と何度思ったことか。


 とりあえず、こんな未来にならないためにも、私は幼馴染も婚約者も作らない! 刺されるくらいなら一生独身だっていい! とにかく彼らとは関わらない。




 そう心に固く決めた矢先。父は私に仕切りに幼馴染の『アリスちゃん』の話をした。その子どもも『アリスちゃん』に似て少し恥ずかしがり屋だけど、天使のように可愛らしいと。


 ……まあ、女の子の幼馴染なら別にいいよね? 顔合わせだけなら、合わなかったらもう会わなきゃいいだけだし!


 そんなふうに父の言葉に絆されたのが全ての始まりだった。


 父よ。本当になんてことしてくれたんだ。





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