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苦手な方はご注意ください。

Real Outer

作者: まひろ☆ロビン

長年かけて作ってた小説をやっと形に出来ました。

主人公の山田くんとヒロインの佐藤さんをよろしくお願いします。(^O^)/

読書家でもないので文がめちゃくちゃかもしれませんが楽しんでもらえたら嬉しいです。

 01



 ねぇねぇ知ってる?夏休み前のあの大っきな火事あったじゃない。テレビじゃ火事って言ってたでしょ~。あれ、実は事件だったらしいよ。


 事件の内容?


 実はあのビルで女子校生拉致って監禁してたらしいのよ。でもね、女子校生が逃げだす為に監禁した奴ら殺して火を着けて逃げたらしいの。


 事件が報道されなかった理由?


 それがね、その女の子、実は政府の関係者でその子を公にしたくない為に権力使って丸ごと火事って事にしたらしいわ。


 女の子はどうしてるのかって?


 その女の子、今も学校に通ってるんだって。怖くない?


 それでね、それでね、・・・




 聞きたくもない話が耳に入ってくる…


 それもそのはずだ。会話をしていないのは僕ぐらいなのだから。手に持った本には 『Legend of fantasy』ゲームの攻略本。前髪を伸ばし眼鏡をかけているだけでも十分だが、無口で他人と関わらない所まで来ると周りにはこう見えてるのだろうか…。


 ゲームヲタク・・・



 02



(まずい・・・まずいまずいまずいまずい!)


 握り締めた拳は汗で湿っている。


 目をそむけたくなる光景が今まさに訪れていた。


 同じ文字が黒い壁に何度も…何度も浮かび上がる…


(このままじゃ…でも僕一人の力じゃ…)


 そして終わりの時が訪れた…。


「は~い。それじゃぁ開票の結果~学級委員長は佐藤、副委員長は山田で決定な~。おい佐藤、一言挨拶しろ~」


 二学期初日のホームルームでは役員を投票という形で決めていた。


(…ちょっと待ってよ…なんで僕が…か…帰れなくなるじゃん!LOF出来ないじゃん!)


 どう考えてもこれはめんどくさい仕事を押し付けているようにしか考えられない…


(抗議…抗議だ。)


「あ…あの…」


 勇気を振り絞り右手を上げようとしたその時、黒ぶち眼鏡をかけた今時珍しい長い黒髪の女生徒が席を立ちあがった。


 ガタッ


「佐藤です」


 ガタッ

 座った


 一瞬の出来事にクラス全員が唖然としていた。



 佐藤 美咲


 性格は攻撃的で回りの人との関わりを酷く拒む。いわゆる、ひとりで出来るもん、である。


 成績は優秀、学年ではだいたい10番位にはいつも入っている。


 運動神経の良さは抜群だが、部活にはいっさいは要らず、体育の時間は常に適当にやっている様に見える。そもそも性格からして団体行動は苦手なタイプなのでペアを組む時はいつも最後に残っている。


 黒渕の魔女や窓際の防衛線といった異様なあだ名がついている彼女。たまたま飛んできた野球ボールを教科書で撃墜させたり、うるさいカラスを文房具で木に縫いつけて黙らせたり、突然の雨を的中させたり…とそれ以降窓際の席を譲られる様になったとされているが、本当のところは座った席に誰も何も言わないだけなのだ。


 周りからすれば付き合いにくい性格なのでいつも一人だ。



「お…おいおい、佐藤もうちょっと委員長らしく…」


 ガタッ

 先生の言葉を遮るように、佐藤という女生徒は溜息を吐きながら再び立ち上る。そして一つ大きく息をすった。


「この度、学級委員長というとてもとても面倒な役員に任命頂きました佐藤美咲です。二学期はイベントが沢山あるので委員長という大役を頂きまして、これからかなりストレスを感じる日々が始まるのだろうなぁととてもわくわくしております。」


 無表情で淡々と話しだす姿に僕も含めクラス全員凍りついていた。


「水泳大会、陸上記録会、体育際、文化祭、絵画コンクール、十五夜、弁論大会、様々な催し物があります。そこでこの数多くのイベントを円滑に遂行、成功させて行く為に『最高施行権限』があった方が良いかと思われます。」


 何を言っているのか解らないのは僕だけじゃないようだ。


「『最高施行権限』つまり委員長による権限になりますが…『委員長権限』とでも呼びましょうか。


 この『委員長権限』につきましては、先生の指示無く私の判断の元、決断や指示を行う事が可能になる、というものです。しかし、皆さんも不安になられるかと思いますので、私個人の利己的ではない決断や指示において発動可能と致しますので、ご安心頂きたい。


 これだけ多くの人数をまとめ上げるにはとても大変です。一年で一番行事の多い2学期の間、委員長を務める為にも必要不可欠な事かと思われますが…先生如何でしょうか?」


 先生の方へと視線を移すと無表情から一転して満面の笑顔を投げつけた。


「そ…そうだな…これだけの人数をまとめ上げ…」


「そうだな、との言葉を頂きました。只今を持ちまして委員長権限は先生より承認を頂きました。皆さん拍手を」


 非常なまでに先生の言葉を遮り、一人無表情でパチパチと手を合わせる佐藤。


 皆の口が開いている。


「それでは、委員長権限を大いに利用…失礼、活用し今学期を成功させたいと思います。それではまず、クラスの他役員を決定するにあたり副委員長の山田君が大いに意見がある様なので、各役員分担は山田君に決めて頂く事に致します。」


 エー


 クラス全員の声が一つに重なる。ある意味クラスがまとまった。

 そしてガヤガヤとクラス内が騒然となる。


(ちょ…ちょっと待ってよ…何それ!うわっどうしよう)


 佐藤を見た。鋭い眼光が自分を射していた。


 蛇に睨まれた蛙。そんなことが起こりうる事を僕は初めて知った。


 いつの間にか真っすぐ正面を向いて座っていた。


「みなさんお静かにお静かに。文句…失礼、意見がある方は山田君ではなく私佐藤まで申し出て下さい。返り討ちに…失礼、説明を兼ねて意見をお伺いし、必要であれば考慮致しますので。あ…ついでなのでもう一つ、黒渕の魔女やら窓際の防衛線などと呼ばれている方々がいらっしゃる様ですが、今後そういった類のあだ名は『委員長』に変更をよろしくお願い致します。以上」


 ガタッ


 水を張った様にクラス内が沈黙に包まれた。


「じ…じゃぁ山田―、各役員が決まったら佐藤に説明してから俺の所に持って来てくれっ。なっ。」


 ざわつきだしたクラスの中、僕は正面を向いたまま固まっている。


 鋭い視線が感じられるのだ。動けないのだ。これが恐怖というものなのか…。


 ガタッ


 佐藤は何か思いついたかの様に急に立ち上がった。


「なっ…なんだ、佐藤?」


「先生、ホームルーム終了です。」


 キーンコーンカーンコーン


 計ったかの様に終業の鐘が鳴り響く。


「起立。礼。解散」


 しばらく沈黙ののちクラスはまたガヤガヤとした日常の風景に戻っていった。


 ピンポンパンポン


『えー美術の川端です。2年生に連絡します。夏休みの課題をクラスの代表の方は美術室まで持って来て下さい。えー繰り返します。2年生の夏休みの…』


「おぃ佐藤。今の放送聞こえたなー集めて持って行っとけー。」


 そう言うと担任はそそくさとクラスを出て行った。佐藤が苦手なようだ。もっとも佐藤と気が合う人がいるのかどうかという話でもあるが、それを象徴するかの様に殆どの生徒は数名でクラスを後にしていく。


 佐藤はというと、先生の声も耳に入ってない様子で机の上に乗せた大きなボストンバックの中をごそごそとあさくっていた。


(美…美術室か…あそこは嫌だなぁ…ど…どうしよう…)


 しばらく考えてそして僕は決心をした。




 03



「よし、始めましょう。」


 クラスの生徒が出て行ったのを確認すると佐藤は大きなボストンバックを持って教室の前に座り込みガチャガチャとコンセントをいじり始めた。


「あっ…あのぉ…佐藤さん…ちょっと…いいかな?先生が…」


 僕は美術の課題を抱えおどおどしながら佐藤に近づいた。


「あら山田君すごいわね。ステルス機能を兼ね備えているなんて…。てっきりみんな帰ったと思ってたわ。それにしても挙動不審な動きはあれね、しゃがんでいる私の胸チラでも見に来たのかしら?」


 佐藤は横目で僕を確認すると手を止めずにガチャガチャと続けながら言葉の攻撃を開始する。


「ちっ違いますよっ!ぼっ僕はただ美術の先生のアナウンス…聴こえてたかなって思って…佐藤さん聴こえてない様子だったし…」


「あっ美術の課題の件ね。残念ながら聞こえてないわ。」


(聞こえてるじゃん!)


「大変だわ、明日先生に怒られてしまいますわね、山田君。困ったわぁ山田君。私は今大事な作業で忙しいし山田君、誰か手の空いてる人がいればいいんだけど山田君。」


 持って行けと言わんばかりに『山田君』を語尾に付ける佐藤。通常ならばその言葉に駆られてしまうが僕の答えは違った。


「う…うん持って行きたい所なんだけど…」


 僕は言葉を詰まらせる。予想外の返答に佐藤の手が止まった。


「あ、あのっ。僕、美術の川端先生苦手っていうか…あと美術室ってさ、なんか異様っていうか…幽霊出そうっていうか…荷物は僕がもつから…」


 思いついたかの様にしゃべる僕に対して佐藤はスクッと立ち上がり両手をはたいた。


「しょうがないわね…解ったわ、どんな理由があるのか解らないけれど…その異様な美術室には私も同行するから。その代り、少しばかり手伝ってもらえるかしら?」


 ドライバーを逆手にして僕の前に突き出した。


「え…?佐藤さん…これ何してるの?修理?」


「何って、盗聴器を設置してるだけよ。」


「なっ!?」


 あたふたと焦りだす僕を横目に佐藤はまたしゃがみこみコンセントをガチャガチャといじり始めた。


「あと3箇所の設置と、後ろのスピーカーにカメラを設置して終了よ。」


「さっ…佐藤さん盗聴器とかカメラとか不味いって」


 佐藤の行為が解らず誰かに見られていないかキョロキョロと廊下の方を目で確認する。


「そうそう、山田君?こんな映画知ってるかしら?共犯に裏切られた人が裏切り者に全ての罪をなすりつけ復讐を遂げるって映画…題名は…忘れちゃったわ。不思議よね…盗聴器とかカメラってすぐ男の子が疑われちゃうのよね…。まぁ女子生徒にメリットないものだからかしらね…。」


(こ…この人は…)。


「わっ解った。でも…でもなんでこんな物を…教えてよ。」


「私は夜、とても忙しいの。だから授業中よくうたた寝してしまう事が多いのよ。」


 (威張って言うなよ…)


「でもこうやって、授業を録音し、黒板を録画しておけばかえって復習になって良いものよ。登下校時にも聞けるし。」


「な…成程…。そうか…だから佐藤さん頭良いんだね。…あ…夜忙しいって何してるの?」


「あらやだ、意外と山田君攻めて来るのね。夜に女の子が忙しいっていったらあれしかないじゃない。」


「あれって?」


「いろんな男にネットを通して色々見せつけるのよ。困ったわね、山田君は女の子に全てを最後まで言わせたいのかしら?」


「いやっ!いいっ!こっコレ!はっ外して着け変えれば、いっいいのかな!?」


 赤面してごまかす。そんな僕をチラリと見て佐藤はクスッと笑った。





 04


「よし完了よ。共犯が出来て嬉しいわ山田君。お望み通りちゃんと女子の生着替えのデータは送るから安心しなさい。」


「な…なまっきっ!だっ!駄目だって!」


 手をはたくと僕の肩をポンポンと軽く叩いたついでに手をシャツになすりつける。


(もういいや…)


「さっ佐藤さん急がないと…もう5時だよ…」


 僕は教卓に置いてあった課題をトントンと整え抱えると佐藤の机へと向かった。


「半分持つわ」


 佐藤は僕から半分課題をとり、自分の課題をその上に乗せると胸に抱えスタスタと出口に向かう。


「あっ佐藤さん待ってよ」


 慌てて佐藤の後を追いかけた。


 佐藤は身長が高い。たかいといっても僕と比べてなのだが。だいたい165センチくらいだろう。僕の身長は60無いくらい…


 廊下の真ん中を堂々と歩く佐藤とは反対に挙動不審に歩く僕。まるでお使いに着いていく幼児の様だ。まぁ理由はあるのだけれど。


「山田君はいつでも挙動不審ね。大丈夫よ。大半の生徒はもう帰ってるし、私達を恋人視する人もいないから安心しなさい。」


 僕に気を使っているのか、佐藤はからかい調子に話かけて来た。


「あの…佐藤さん…さっき…チラッと見えたんだけど…」


「あら山田君。そんな直接的にいわなくてもいいのに。恥ずかしいわ。85よ。結構大きいでしょ。」


「ん?85?何の事…」


「胸のサイズに決まってるじゃない。チラッと見たんでしょ?」


「ちっ違います!かっ課題の事です!」


「あらそう。残念だわ」


「残念って…その…失礼だけど…課題…色が見えなかったから…何描いたのかなぁって思って。」


 質問を受けて佐藤は僕に見える様に課題を傾けた。真っ白の画用紙に楕円が一つ。


「ゆで卵よ」


 絶句した。


「私ゆで卵大好きなの。表面はツルツルで感触はプリプリ。歯を立てるのが惜しいくらい。ツルツルでプリプリって言ったら、まるで私の身体の様ね。山田君ゆで佐藤ってどうかしら?」


「どうかしらって言われても…」


「じゃぁ一度食べてみる?ゆで佐藤」


「なっ!何言ってるんですか!?」


 顔面に血液が充満する感覚を初めて体験出来た。


 顔があげられない…


(あ…初めて会話するけど…案外気さくな人なんだなぁ…)


 そんな事を考えていた。


 ドンッ



 うつむいて歩いていたせいで急に立ち止った佐藤に気付かず、佐藤の背中にぶつかった。


「あ…ごめん…」


 明け開いた美術室の手前で佐藤は立ち止っていた。


「山田君、たしか美術の川端先生が苦手って言ってたわね。」


「あ…うん…そうだけど…」


「ここでいいわ。課題は私が渡してくるから。あ…山田君…『私が渡し』って面白いわね。」


 くるりと振り返り乗せなさいと言わんばかりに課題を前に突き出した。


「え…あ…うん…面白い、面白いね。」


 本当は先生が苦手では無くてこの部屋が嫌なだけなのだが…。


 そして佐藤の向こう側が視界に入った。


「!?」


 つい半歩下がる。


「山田君?どうしたの?そんなに先生嫌い?」


 佐藤の言葉に我に返る。


「だ、大丈夫…なんでもない…」


 生唾を飲み込み意を決する。気を張っているのがばればれである。


「そぅ…じゃぁ私の後ろについて来なさい。私が川端先生とは話すから。離れちゃだめよ。」


 佐藤はくるりと反転するといつもの様にズカズカと美術室に入って行く。


 その姿に一瞬見蕩れてしまう…


 はっとして慌てて佐藤の背中を追いかける。


 美術室の奥では何やらブツブツ独り言を言いながら絵を描く人物がいた。美術講師の川端だ。


 僕等の様子を見かけると描いていた手を止めた。


「ほぉ…面白い生徒がいたもんだ。」


「あら先生。私、可笑しな人とか変な人とはよく言われますけど未だかつて『面白い人』とは言われた事ありませんわ。それに生徒とはいえ、本人を目の前にして『面白い生徒』とは少しばかり失礼ではございませんか、川端先生?課題、お持ち致しました。」


「すまん、すまん。失礼した。美人が堂々と歩く姿がどうも滑稽に見えてね。あと芸術を好む同じ香りがしてね。ああっ課題は其処に置いてくれ。」


 川端は机の一つを筆で指さすと僕達を横目にまた絵に筆を移し描き始めた。


「失礼致します。山田君。行きましょう。」


 じっとうつむいている僕から課題を取ると自分の置いた課題に乗せ僕の背中を押すようにしてその場を離れる。


『どっちかな…そうだね…そうしようか…』


 川端は小声で何かブツブツと独り言をしゃべっている。そして山田と佐藤が美術室入口手前に着いた所で急に声をかけて来た。


「あっ君、クラスは何組かな?」


「C組です。」


 その場に立ち止まり、佐藤は振り返らずに答えた。


「名前は?」


「私は佐藤です。彼は山田君です。」


「ああそうか、ありがとう。佐藤君、今度の秋に美術コンクールがあるんだが、そのモデルを今探しているんだ。君みたいな美人がモデルになってくれると嬉しいのだけど…。あっ嬉しいっていっても君みたいな美人が被写体で有れば大臣賞もまちがいないって意味だから。どうかな?」


「だっ!だめです!」


 僕は大きな声を張り上げた。


 しばしの沈黙が続く。


「んんっ?なんで君が答えるんだぃ?」


 川端がにやにやとゆっくりと立ち上がる。



「えっ…あのっ…その…」


(やばい…ど…どう…する…なんとか…)


 手に力がこもる


 徐々に川端が近づいて来る。


 その時だった。手を佐藤がギュッと握って来た。


「健一君…大丈夫よ。」


「えっ?さ…佐藤さん?」


「川端先生ごめんなさい。健一君が…失礼致しましたわ。」


(健一君?)


 急にに握られた手と名前を呼ばれて頭の中が真っ白になる。


「先生ごめんなさい。健一君ったら結構嫉妬深くて。川端先生?モデルっていっても何もヌードじゃないですわよね?」


 佐藤が何を言っているのか、何が起こっているのか解らない。


「あぁ…そういう事…。被写体はヌードじゃないから安心してくれ。山田君…だったっけ?」


「あ…僕は…。」


 何を言おうとしていたのか解らないが佐藤はその言葉すら遮った。


「先生、私以上のモデルは見当たらないと思うから、少しばかりお時間頂きたいですわ。あと今からデートの予定なので失礼しますわ。」


(え?デート?)


 佐藤は固まったままの僕の手を握ると引っ張る様に美術室を出ていく。



 スタスタスタスタスタスタスタスタ



 二人は終始無言だったが握られた手は教室までずっと握られたままだった。




 教室へと辿り着くと佐藤は自分の机へ向かうと帰りの支度にとりかかった。


 握られていた手を見ながら呆然と立ちつくす。


「山田君何しているの?帰りましょう」


 ボストンバックを肩にかけ僕に声をかける。


「あっうん、ごめん」


 慌てて自分の机に戻るとバックに手に取った。


 不思議でならなかった。佐藤の行動全てが解らなかった。だが結果良かったのかもしれない。そう思いながら佐藤の靴を取る様子を見ていた。


「あのぉ…佐藤さん…さっきは…」


「山田君、今から時間ある?」


 急に質問された。少し驚いた。きょろきょろと周りを見渡す。大きな壁掛け時計はもうすぐ六時を回ろうとしていた。


「えっ?じっ時間って…もぉ6時前…だよ?」


 佐藤は玄関にかけられている時計を確認すると溜息を一つこぼして山田の方を振り向いた。


「羽原の街で母さんが仕事しているの。今朝、母さんに色々と頼まれて羽原に行かなきゃならないのだけれど。その後に家まで一人に…。夜道を一人で歩くのは怖いから一緒にお願い出来ないかなと思って」


(あ…何だ。デート…じゃぁないのか…)


 少し期待した自分が恥ずかしかった。


「あ…そうなんだ…うん、大丈夫。いいよ。どうせ僕も両親今日は帰って来ないし」


「ありがとう。嬉しいわ。でも山田君。『両親帰って来ない』を強調しちゃって、ラブフラグでも立たないか期待しているのかしら?」


「ラブフラっ…ちっ違っ!りょっ両親が…」


 慌てふためく僕を見てクスっと笑った


「行きましょう。山田君」


 くるりと身を返しスカートが膨らむ佐藤の姿に僕は少しドキッとした。



 05


 学校を後に2人は羽原の町に向かう為、駅へと向かっていた。


 6時を回っているのにも関わらず日はまだ明るい。


 前にも説明したが佐藤の身長は165センチで僕の身長は150ちょっと。たんたんと歩く佐藤の後を追うので正直いっぱいいっぱいだ。


 会話は無い。


 まるで喧嘩をした恋人同士の様じゃないか。


 無言で進む。


 無言で進む。


 無言で進む。


 そして僕は決意する。


「あ…あの…佐藤さん…ちょっとスピード落として貰えないかな…」


「あら山田君ごめんなさい。草食系の中でもインパラの部類かと思ってたんだけど、実はカピパラの部類だったみたいね。」


「ははは…すごい例えだね…」


(どんな例え方するんだ…佐藤さんはキリンじゃないか…)

「キリンみたいに長い脚でしょ?」


(心読めるのか?)


「ついでに…変な事…聞いていいかな?」


 佐藤が速度を落としてくれたおかげで心にも余裕が出来て来た。


「あら、山田君。何かしら?。パンツの柄はいちごか熊さんの2種類だけよ」


「な…何言ってるんですかっ。」


「山田君が変な質問って言うから予測して答えたまでよ」


「…佐藤さんはいっつも…」


 はぁ~っと肩を落とし頭をごしごしとかきあげた。これは僕の癖で。頭がかゆい訳ではけしてない。


「聞きたい事って何?」


 佐藤はなにか嬉しそうに僕を見ながら聞き返してきた


「あ…その…全然大した事じゃ無いんだけど…」


 別にきいた所で僕の日常が変わる訳でもない。世界が変わる訳でもない。聞かなくてもいいことかもしれない。


 そんな事が頭を過る。


「何よ。じれったい」


「あ…うん。佐藤さんのご両親…クリスチャンか何かなのかな…と思って…」


 佐藤が急に真顔に変わった。


「ご!こめん!プッ…プライベートだよねっ…気にしないで。」


 頭をごしごしとかき揚げながら慌てて質問を撤回する。


 そして佐藤は僕の身長に腰を落としてこう言った。


「山田君?あなたもしかして…見えてる?」



 佐藤のスカートを撫でる様にひとひら風が通り抜けた。



 全ての時が止まったように感じた。



 佐藤の言葉に耳を疑った。



 目を丸くして固まっている僕の前の人は確かに言ったのだ。覗き込む様に…。


「ただ感じが良いだけかと思ったけど…山田君。見えてる?」


 驚きを隠せなかった。美術室でのやり取りの中で僕にはある物が見えていたのだ。


 地面いっぱい這い寄る黒い物体。川端の肩に身体半分埋もれている小人。そして見えていただけではなかった。川端先生はその小人と会話していた。



「佐藤さんも…みえて…」


「ええ。見えてるわ。」


「床の…」


「うじゃうじゃ異常にキモかったわね」


「先生の肩の…」


「あれもちょっときもいわね」


「あの時の言葉…」


「我ながら良いアイデアだったでしょ?私にも見えているし聞こえてたわ。」


「い…いつから?」


「初めからよ」


「は…初めからって!怖く…怖くないの?!」


「そうね、馴れたわ」


「な…馴れたって…そ…そうだ!あいつ等はなんで佐藤さんから逃げる様に…」


「それは…わからないわ」


「わか…らない…?どれくらいから…いくつの時からあいつらが見えるの!?」


 あれらの存在に気付く様になったのは小学校六年の頃であって、自分の見えている物を、世界を理解できる人が目の前に現れて。必死だった。


 ふわりと身をひるがえす佐藤。


「山田君、電車、遅れるわ。走るわよ」


「えっ?」


 大きなバックを抱えると佐藤は全力疾走で走り出した。そんな佐藤の顔が何故だか少し嬉しそうに見えた。


「えっ?ちょっ!ちょっとまっ待ってよ―!佐藤さーん!ちょっとぉぉ!」


 声は空しく空に消えていく。



 06


 ヘトヘトになりながら駅にたどり着いた。


 佐藤は先に駅に着いていた様で疲れる様子もなく切符と水のペットボトルを準備していた。


「はい、山田君」


「あ…あり…がと…う…」


「どういたしまして。」


「それに…しても…さ…佐藤さん…速いね…運動部…入れば…いいのに…ぷはぁ―」


 グイッと水を飲んで息を整える。


 そんな様子を佐藤はニコニコしながら見ていた。


「なっ何ですか?」


「部活はできないの」


「出来ないって…なんで?」


「下僕た…お友達が待ってるからよ。」


「ん?今下僕って…」


「あっ電車来るわ、行きましょ」


 佐藤は誤魔化す様にくるりと反転するとプラットホームに向かう。


「今たしかに下僕って言いましたよね?。」


 再度聞き直す山田。無言で歩く佐藤。


「ねぇ佐藤さん?」


 すると佐藤は急に立ち止り腰に手をあて山田に向けて指を差す。


「お黙りなさい。山田君。じゃないと今夜はお仕置きしてあげないわよ」






 世界の時が止まる





 回りの人々の冷ややかな視線が一気に突き刺さる。


「えっ!あっ!ちがっ!違いますっ!ちょっとっ佐藤さん!」


 思いっきり手を振り顔を振り周りにアピールをするが、更に冷たい視線が突き刺さる。


 逃げる様に佐藤の後を追いかけ電車に乗り込むとドアから一番近い向かいに並ぶ席に2人は座れた。



「ひどいよ…佐藤さん」


 クスっと笑うと視線を窓に移した。


「小学校の時よ」


「えっ?」


「みんなが見えてないって判ったのが」


 唐突に佐藤は話始めた。


「僕も…です…」


「あら、そうなの?」


「小6位から…佐藤さん…あれも見える?」


 フラットホームに並ぶ自動販売機の影を指さす。美術室の黒い物体とは形状は違うが猫位の大きさの目玉の開いた黒いのネズミの様な物が数匹蠢いている。


「ええ、黒ネズミいるわね。見ちゃ駄目よ」


「えっ?あっうん。あれはいったい…」


「闇の生き物って母さんが言ってたわ。あれが見えるのも血筋らしいのだけれど…」


 プラットホームにベルが響くと電車はゆっくりと走りだした。よく見ると至る所に黒い影は存在していた。


「じゃ…じゃあ…佐藤さんのお母さんも…見えるんだ…」


 佐藤は頬杖をついて流れる景色をいっとき眺めていた。


「小学生の時だったわ。私とみんなの反応に食い違いが出て来たのは。次第にソレは大きくなっていったの。」


 佐藤は思い起こす様に静かに目を閉じる。

「人はね…『自分達と違う』って認識した時点で境界を引いてしまうものなのよ。まぁ離れていったのは私なのだけれど・・・。気付いたら他の人達を羨ましく思って距離を置いていたわ。」


 小さい頃の自分を重ねる。周りからの気持ち悪がられる視線…ひそひそ話が脳裏に過る。


「それ…解るな…」


「私は母さんに聞いたの。そしたら母さんは少し笑ってこう言ったわ


『やっぱり美咲はママの子ね。実はママにも見えてるのよ。』って。他の人には見えないけどママにはちゃんと見えてるって言ってくれた。


[ぷにぷに]


 心配しないでいいって。


[ぷにぷに]


 でも一つだけ言われたの。見えてる物も聞こえる声も全て、見えないふり、聞こえないふりをしなさいって『闇が憑くから』って…。


[ぷにぷに]


 ソレからはずっと見えないふり…聞こえないふりを。」


[ぷにぷに]


「さ…佐藤さん…」


「驚いたでしょ?」

 ぷにぷに

「いやっ…そうじゃ…なくて…」

 ぷにぷに

「何よっ?あ…」


 佐藤は目線を僕に向けると、自分に起こっている異変に気が付いた。


 正面に座った深い帽子を被った和服姿の爺さんが杖で佐藤の胸をつついていたのだ。満面の笑みで。


「あらっおじいちゃん。いつからいらしたの?」


 何事も無かったように向かい側に座ったお爺さんに声をかける。佐藤の知り合いのようだ。


「いや~大きくなったの~どこもかしこも。弾力が違う。ついさっきじゃよ」


「えっ?佐藤さんのお爺さん?」


 動じない佐藤にも驚いていたが、佐藤のお爺さんと聞いて更に驚いた。


「なんじゃこの若造は?生意気に美咲の隣に座りおってからに…美咲のあれか?ずっと美咲の乳を見ておったわい」


「見てません!」


「おじいちゃん、山田君ならいいの。気にしないで」


「いいのじゃないです佐藤さん。観てないです。変な誤解招きますから!」


「それよりおじいちゃん珍しいわね、どうして電車なんかに乗ってるのかしら?うたた寝してる女子大生でも観察でもしてたのかしら?」


「いやいや、大した事ではないんだが、ここらで不穏な動きがあってのぉ…偵察がてら眺めがいのある女子大生をさがしていた所じゃよ」


 結局女子大生探してんじゃん…ぼそっと呟く。


「不穏な動きって…抗争でも始まるの?」


 恐ろしい言葉が普通に出て来た。生唾を飲み込む。


「こ…抗争?」


「あっ山田君ごめんなさい。おじいちゃんこう見えても東日本を治めてるお頭よ」


「お頭!?やく…しっ失礼致しました!」


「そうかしこまらんでもよい。抗争までは行っておらんが…、はっきり分からんのじゃよ…西の者から有らぬ疑いをかけられとるし…うちのもんも何人か行方知れずなんじゃよ…」


「おじいちゃんも大変ね。あっお母さんの所行くんだけどおじいちゃんも行かない?」


「いやいや、わしはもう美咲の乳で十分じゃ、美咲も色々と気をつけるようにな。最近の若者は何をしでかすかわからん。」


 おじいちゃんはヨッコイショと椅子から降りるとチラリとこちらを見る。


「若造。なかなかいい目を持っておるな。美咲の事を頼むぞぃ」


 お爺さんの言葉の意味が解らなかったが一つ返事をするのにいっぱいだった。


 お爺さんの姿が見えなくなり肩をなで下ろす。しばらくすると佐藤は何かに気付いた。


「ちょっと!山田君!貴方おじいちゃんにいつ気付いたの!?」


 珍しく佐藤が慌てた口調で山田に聞いて来た。


「えっ?いつって…始めからだけど…」


「始めからっていつ?」


「えっ…え~っと…おじいちゃんが向こうの車両から一つ一つ席を覗きながら近づいて来て~、変なおじいさんだな~って思ってたら佐藤さんを見みて『おっ』って顔して…何も言わずに向かい側に座ったとおもったら…佐藤さんの…む…む…む…胸を…」


 あの場面、佐藤の乳を思い出し顔を赤く照れたように頭をごしごしとかきあげながら上を向いて誤魔化した。


「そう…」


 佐藤はまた視線を窓に移して黙り込んだ。


「えっ?何?どうしたの?」


 不安に駆られて佐藤に問いただす。


「山田君。もしかしたら…。」


「えっ?何?」


 意味も解らず佐藤に繰り返す。


「心配しないで母さんに会えば解るわ。母さんまだまだ若いし、私が見ても綺麗だし、何よりも私よりおっぱいも大きいから」


「おっおっおぱっおぱっ!」


 顔を赤くし頭が沸騰していた。


 佐藤は嬉しそうに笑っていた。






 07



「山田君って可愛いわね」


 唐突に佐藤の口からグングニルの槍が放たれた。


「なっ何ですかっ急に…可愛いって…ぼっ僕は男です。」


 胸がバクバクと音を立てる。なんだこの展開は?こ…これは…人生の春…なのか?そう思った。


「さっ佐藤さんあのさ…佐藤さん綺麗って言われるでしょ?彼氏とか…」


 勇気を出して佐藤の顔をチラリと見る。


「あら嬉しいわ、ありがとう彼氏はいないわ。それはそうと山田君メイド服絶対似合うと思うんだけど…可愛いはずだから一度着てみなさい。」


 上から目線のグングニルの槍が突き刺さる。期待した自分に腹がったった。


「コスプレ?そんな事した事も着た事も無いです。しかもメイド服は女性が着けるものですしそもそもどこにあるんですか!」


「私が持ってるわ」


 ガガーーーン!!

 全身に稲妻が走った。


「さっ佐藤さんコスプレするの?」


「えぇでも山田君にはサイズが合わないわね…」


「おっ…主にどんなコスプレを…」


「そうね…主にメイドがメインだけど少し悪魔系に偏ってるわね。まぁイベントによりけりですけど興味あるの?」


「きっ…興味はない事は無いですけど…見かけに依らすだな…まぁ僕の妹もコスプレしてますよイベントとかで。魔法少女とか…」


「へぇ…山田君シスコンだったのね」


「どこからそうなった!」


『羽原~羽原~』


 そうこうしているうちに羽原駅に着いた。


 ゲートを出ると時間を見ようと携帯を取り出す。マナーモードにしていたので気付かなかったが数件の着信が入っていた。妹のちえからだ。何事かと折り返す。


「あっ…ちえ?、ごめんごめん。マナーモードにしててきづかなかった。」


『健ちゃん、今どこいるの?』


「今クラスメイトの佐藤さんと…」


 喋っていると佐藤に携帯を奪われた。


「委員長の佐藤です。初めまして。妹さん、ごめんなさい。クラスの所用で羽原まで行かなきゃならなくて、女子一人だと危険だからって先生がお兄さんに付き添いする様にと…。」


『あっ…そう…だったんですね…わかりました。健ちゃ…お兄ちゃんに替わって頂けますでしょうか?』


「かわ。」


『えっ?』


「お兄さんに替わりますわ。」


 佐藤の行動が今一よく解らない。


「びっくりしたでしょ。ごめんごめん」


『取り分け理解したんだけど…健ちゃん、ちゃんと連絡頂戴よ。心配するじゃない。それより…なに?彼女とかじゃないでしょうね?』


 なぜか怒り気味な感じでちえが聞いて来た。


「そんなんじゃないって~彼女は委員長。まぁ10時には帰るから」


『わかったぁ。あっそうそう。ギルドのみんながデートか?だって。リア充反対って盛り上がってたけど。』


「だから違うって。あっごめん。忘れてた。今日ギルドバトルだったね。今日はちえが指揮とってよ。アスガルドのTETUYAさんに遅れるって伝えてて。うん。じゃ…よろしく」


 一つギルド仲間にメールを打ち携帯は鞄に直した。



 09


 カランカラン


「いらしゃいませ~。あっ美咲さんでしたか~今日シフト入ってましたっけ~?」


 出迎えたのはゴスロリの服に小さいコウモリの羽根を付けた黒髪のショートカットのキュートな女の子だった。


「蓮さんこんばんわ。今日は所用よ。母さんは?」


「あっ店長ですね~店長~店長~美咲さん来ましたよ~」


 すると、長い赤髪の女性が電話片手にカウンターから身を乗り出してこちらを確認する。『ちょっと待って』と言わんばかりに手のひらを見せ一度姿が見えなくなるがすぐに出てきた。


「う~ん…そうね…あっちに行けばいい子見つかると思うんだけど…行くってなるとそれなりに手回しが…えっ?知り合い?長く連絡とってないからちょっとどうかな…来週?う~ん…判ったわ~なんとか努力してみる…うん…解ったわ。連絡するわね、んじゃ」


 超色っぽいその女性こそ佐藤の母親だ。


 佐藤はバックの中からゴソゴソと何やら取り出すと、ひょいひょいと母親に投げていく。


 器用に飛んでくる箱をキャッチする佐藤の母親は山田の存在に気付いた。


「美咲ごめんね~お母さんついうっかりしちゃって~。あらっ後ろの男の子は?」



「あっクラスメイトの山田です。」


 佐藤の姿に隠れていたが山田は身体をひょこっと出して挨拶をした。


「あら、美味しそうね。美咲の母です~。美咲、こんなんだけど~結構可愛い所も胸もあるからよろしくね~」


 不可解な言葉が少し混じっていたがあえて聞こえないふりをした。この人の娘という裏付けが確認された。


 ガタッ


 スーツ姿に眼鏡、髪は長く後ろで結っている。見るからに痛い男がノートパソコンをカタカタしながら大声で立ち上がった。


「何!またロストしただと!8体目だぞ!霊体の元は!回収不能?ちゃんと探したのか!?これがふごっ!!」


 彼の顔面に先ほど佐藤が母親に投げていた箱がのめりこんでいた。


「明智さ~ん。お仕事熱心ですわね~。」


 男は解った解ったと身ぶり手ぶりで返事を返す。


「引き続き捜したまえ。協会の威信に関わる問題だからな…何!!局長が来るだと!!そんなふごっ!!」


 またも箱がおでこに命中する。


「明智さ~ん。他のお客様のご迷惑ですわ~。ってか存在自体迷惑ですわ~」


 ニコニコしながら佐藤の母親は手にある物を明智という男顔面に投げつけていた。


「すみません。すみません。気をつけます。じっちゃんの名に掛けて」


「それは金○一」


 またも佐藤の母親の砲撃が顔面に放たれた。


 冷や汗が止まらない。くいっと佐藤の袖を引っぱって無言で佐藤を呼ぶ。


「ドキュン」


「えっ?」


「何でも無いわ。それよりも何かしら?」


「あ…あの痛い厨二病のお方は?」


「あれは明智さん。常連客よ。ああ見えても鑑査官として少し偉いポジションにいるみたいなのよね」


(あんな大人にはならないようにしないとな…)


「お母さん。それより大事なお話しがあるの」


 佐藤はいつもながらの無表情でテーブルに着いた。




「早速なんだけど私ね、今日学級委員長になったの。そして山田君は副委員長に。」


「すごーい。お母さん嬉しいわ」


「そしてね山田君とはちょっと仲良くなったんだけど、彼色々悩み事があったの。」


「あら、美咲はその悩み事に乗ってあげたのね?」


「いいえ、彼の悩み事っていうのが、私と一緒なの」


「何よ一緒って?」


「見えてるの。しかも闇の声まで」


「あらっ美咲良かったわね。お友達が出来たじゃない」


 シリアスな話のはずなのだが佐藤の母親の反応が今一シリアス感が無くなる。

 

「彼、何も知らなくて常に挙動不審で回りを警戒しまくっている分安心なのだけれど、身を守るすべ知らないと思うの」


「あらっそれは大変ね~どうしましょう~」


「それだけじゃないの。さっきおじいちゃんと電車で会ったんだけど…。山田君、おじいちゃんの存在にずっと」気付いていたのよ」


 とたんに母親の顔が真剣な表情に変わった。


「そぉ…それわ凄いわねぇ…山田君ちょっと聞いていい?」


 真面目な顔の母親に少し身を強ばらせた


「あなたご両親には相談したことは?」


「えっえぇ…母親には少し…ただまったく相手にして貰えませんでしたけど…」


「そぉ…それだけの力があるなら家系かとおもったんだけど…ご両親のお仕事は?」


「父が貿易会社をしておりまして…母親も役員として働いてます…」


「あらっ山田君ボンボンなのね。これからたからなきゃ」


 コーヒーを注ぎながら佐藤が割って入って来た。


 娘の暴言にも関わらず佐藤の母親は何かに気付いた様だった。


「んっ?貿易会社?もしかして山田君のお父さんってYTCの社長さん…っとか?」


「あっそうですけど…なんで解ったんですか?ご存知なんですか?」


「なぁーんだぁーご存知も何も~さっき電話してた相手。山田君のお母さんよ。」


「ええっ!?」


 佐藤も驚いていた


「山田君のお母さんとも長い付き合いよぉ~お父さんとも。そう言えば息子がいるって言ってたわね…問題ないわ~今度お母さんから話あると思うわよ~。お母さんからよ~くお話しを聞きなさい。」


「はっはぁ…」


 山田は肩透かしを喰らったかのように一気に全身の力が抜け肩を落とした。


(母さんが知ってる?あの時は…知らないふり?でもなんで…)


 カップのコーヒーを眺め、しばらく考えていた。


「お母さんもう一ついいかしら。うちの学校の美術の講師がなんか…そうね…小人みたいな奴が講師の右肩に身体半分埋まってたわ、そして『悪魔の臭いがする、喰いたい』って」


『ふごっ!』

 佐藤の母親はメニュー表をなぜか明智に投げつけていた


 そしてニコニコしながら指をポキポキと…


「う~ん…死刑ね。来週始末するわ。」


 持っていたフォークはもはや原型を留めていなかった


「お母さん山田君がドンビキしてるわ」


 カランカラン


『おか~さん!おか~さん!ちょっとコイツを見てくれないか!』


 アタッシュケースを片手にバーコード頭のスーツを着たおじさんが慌ただしく入って来た


「あら~お父さんいい所に、ちょっと座って~」


 バーコード頭のおじさんは佐藤の父親だった


「おおおおおっ!み~さ~き~ちゃ~ん。た~だ~い~ま~で~す。」


 超がつく程うざい絡み方だったが僕が視界に入るや否や肩に腕をかけ、眉間にシワをよせ覗き込む。


「われ~なにもんじゃ~?」


 次の瞬間に父の顔面に佐藤の拳がのめり込んでいた。



 10


 佐藤の父親は地べたに正座させられ太ももにブロックを乗せられ佐藤の母親に今までの経緯を聞かされていた


「…要するに、山田君が泰造の息子で…あれが見えてて…美咲の講師があれと同化していて…ふむふむ。ふむふむ…どうするかって事だな…、そうだ山田息子君…君にプレゼントを上げよう。あっ美咲カバン取ってくれ」


 父親はカバンをごそごそとあさくりだした。中から一つのビンを取り出した。


「てったらてったて~!無茶~苦茶~ビ~ビ~だ~ん!」


 ドラ○もんの効果音に合わせて高々と掲げ上げる。もちろん殴られた。


「え~っと…あっあったあった」


 ゴトッ


 机の上に置かれたのは拳銃だった。


「お父さん…銃刀法違反で捕まるわ」


「いやいや、これはモデルガンだよ。普通の人間が使っても単なるモデルガンとBB弾だ。美咲。お前のハリセン出してみろ」


 佐藤はバックの中からハリセンを取り出す。


 ハリセンを持ち歩く女子校生に会うのは初めてだ。

 だがどうしてだろう?この数時間一緒にいただけなのにそれすらも日常に…当たり前な事に思えてくる。


 佐藤のバックは4次元ポケットの様なものらしい。


「山田息子君、このハリセンよーくみてくれたまへ。どこから見てもただのハリセンだ…が、実はこの柄に見える模様は全て私の書いたお経なのだよ。

 私の今の仕事は筆経師。念を込めたこの経が効果的なのだよ。そしてこのモデルガン、内部をお経で埋め尽くしておるのだよ。試作品だがね。もちろんBB弾も元は白。黒く見えると思うが全て文字なのだよ」


「ふーん」


 不思議そうに佐藤はモデルガンを手に取る。


 カチャ


 パンッ


 佐藤はトレガーを引くと迷わず父親の額を撃った。


 ズドーーーーン!!


 弾が額に当たった瞬間轟音を立てて煙を上げる…


 父親はのけぞりそのまま後ろに崩れていった。

「へぇ大した威力じゃない…」


「護身用には使えそ~ね~」


 平然と会話する母娘に驚愕していた。


「…まだ続きが…」


 父親は這いつくばりテーブルに登ってきた


「霊力が高ければ高いほどダメージは大きくなる…闇の者達ならば消滅し兼ねないので扱いは十分に気をつける…よぉ…に…」


 父親は力つきた。


「これならなにか事が来ても対処出来そうね。山田君コレは貴方が持っておきなさい。」


 佐藤からモデルガンを受け取ると、佐藤の父親が机の下から顔をのぞかせて一言。


「ち…ちなみに…弾と…モデル…ガンで…1500万…円…」


 一斉に父親の顔を見合わせる。


「1500万!?無理ですよ!?そんな高価なもの受け取れませんよ!」

 

 慌ててモデルガンを母親につきかえした。


 カチャ。


 パンッ


 佐藤の母親はトレガーを引くと迷わず父親の額を撃った。


 ズドーーーーン!!


 弾が額に当たった瞬間轟音を立てて父親が沈んでいった…


「あら~困ったわね~このままじゃ~美咲がその先生にあ~んな事やこ~んな事までされちゃうわ~」


「あ、お母さん、私あ~んな事やこ~んな事されちゃうのね。困ったわ」


「そうよ~美咲~困ったわね~誰かコレで美咲を守ってくれる様な勇気ある人がいてくれればいいんだけどな~」


「あ、そうよ山田君。あなたLOFでもマジックガンナーなんでしょ?」


「まぁそううだけど…」


「それなら銃の扱いは慣れてるじゃない」


 にこっとモデルガンを差し出す。


「まぁマジックガンナーなんだけどぉ…1500万って…。」


 躊躇する顔を見るや否や銃口をこちらへ向ける。


 カチャ


 パンッ


 ズドーーン!


「なぜに…私が…」


 バタッ


 ほほをかすめ後に座っていた明智が崩れおちていた。


「あ、山田君ごめんなさい誤発したわ。」


「はっははっ。わっ解ったよ…はっっははっ」


 笑うしかなかった。


「よかったわ。あ、お礼にあ~んなことやこ~んな事してあげましょうか?」


「あら美咲。お母さんの前でそんな事言っちゃ駄目じゃない。山田君今夜は泊って行くかしら?」


「いや!すみません!今日は帰ります!帰らせて下さい!」


 佐藤はクスクスと小さく笑っていた。


「すみません!お…おトイレお借りします!」



 (ほんと佐藤さんはお母さん似なんだな…性格までとんでもない…でも…なんか楽しいな…)


 そんな事を考えてる最中だった。


 ガチャ


 佐藤の父親が入って来た。

 父親は手洗いの鏡の前に立つと胸のポケットから櫛を取り出し少し乱れた(パーコード)を直し始めた。



「お父さん…だ…大丈夫ですか?」


「あぁいつもの事だ。大丈夫だ。山田君…今日はありがとう。」


「ありがとうって…僕…何もしてませんけど…。」


「いやっ…いいんだ。」


 佐藤の父親は顔をバシャバシャと洗うとハンカチで顔を覆った。眼鏡を外した佐藤の父親は意外とイケ面だった。整えた髪はまた少し乱れていたが…。


「泰造の息子とは因果なものだ…帰りは家まで送ってあげよう。」


 キメ顔でそう言って佐藤の父親はトイレを後にする


「あ…ありがとうございます。」


 その声が届いたかどうかは解らなかったが…その背中がとてもさみしそうに見えた。


(佐藤さんのお父さん…今…涙ぐんでたよな…}


 そしてトイレを出た瞬間。全てを疑うような光景が目の前に繰り広げられるのであった。


「おか~さん今日はぱふぱふさせてくれよ~」


「あら~おと~さんったら~美咲の前で恥ずかし~わ~ん」


「おっと~」


 飛んでくるメニューを父親はイナバウアーで避けた。


『ふごっ』


 明智が犠牲になった


「山田君帰るわよ」


 一言言って佐藤は先に玄関を出ていった。


「あっうん」


 急いでバックを手に持つと佐藤の母親がモデルガンとBB弾の入ったビンを手渡してきた。


「山田君…今はまだ話せないけど…こんな楽しそうな美咲久しぶりなの…ありがとう…美咲を頼みます。」


 真剣な顔だった。


 それがどんな意味なのか解らなかったが「はい」と答えた。


 カランカラン


「山田君遅いわよ。お母さんの胸が名残惜しいのかしら?」


「違いますよ!今行きます!すぐ行きます!」


 顔を真っ赤にそめカバンにモデルガンを直しそして振り返る。


「母には今日の事話して自分の事を問い唯したいと思います。佐藤さんのおかげで僕…救われました…あと、お食事ご馳走様でした。失礼致します。」


 カランカラン


 深々と頭を下げ、山田は飛び出すように玄関を出ていった。


 5分ほど歩くと駐車場についた。


 車では父親がエンジンをかけてスタンバイしていた。


「山田君乗りたまへ。夜間割り増しで送ってあげよう」


 そんなジョークを交え二人を乗せて車を出す。


 カーステレオから流れてくるクラシックに少し眠気に襲われてハッとすると佐藤が肩に寄りかかっていた。


「あ…あの…佐藤さん…佐藤さん…」


 佐藤はスヤスヤと寝息を立てていた。


「山田君、そのままにしてやってくれないか?美咲も疲れたんだろう…久しぶりにはしゃいでたからな…」


 ミラーごしに父親は話し掛けていた。


「あぁ…解りました…でもお母様もおっしゃってたんですが…久しぶりだって…嬉しそうな美咲さんを見たって…」


「そうだねぇ…山田君、噂話しは好きかね?」


「あぁ…いぇ…実は僕…学校では殆ど友達いないんで…まぁ隣のグループの人達の話ならなんとなく聞こえてきますけど…」


「そうかい…嫌な質問をしてしまったな…」


「いえっ別に問題ないですけど…こんな目をもってる自分ですから…人を避けて生活していたので…噂話がどうしたんですか?」


「ああ…大した事ではないんだが…噂話の真実を追った事はあるかい?」


「えぇっと…いまいちよく解りませんけど…ないです」


「実はね、私達はね、そんな仕事をしているんだよ。国の要請でね」


「公安…ですか?」


「まぁ似たような仕事さ。正義が正義でなく、悪が悪でない真実。そんなものを毎日見ているよ」


「大変なお仕事ですね…」


「まぁ普段は筆経師と言ってね、部屋に込もってお経ばかり筆っしているはげたおじさんをやってるけどね。そうそう君のご両親とも若い頃は一緒に仕事もしていたんだよ。お父さんもお母さんも優秀でね…」


「うちの父や母をご存じなんですね。知らなかったな…じゃぁ父や母も同じような仕事してるんですか?」


「表向きは違うが…まぁそんなところだ。君のお父さんやお母さんはあれだな。わざと君をとおざけていたんだな…詳しくはお母さんに聞いてみると良いよ」


「そうします。あのぉ…佐藤さん…美咲さんはどんな子だったんですか?」


「興味あるかい?」


「まぁ…」


 ほんと大した事もない話をしていた。


 佐藤の父親は話し上手だった。佐藤さんの小学校の話、中学校の話。両親の若い頃の話…自分の知らない事を笑い話に変えて話してくれた。


 聞きあきない途切れない話をしているうちに家まで着いた。


 車を降りようとした時に佐藤も目を覚ました。一言お礼を言い車が見えなくなるまで見送った。



 ガチャ


「ただいま~ちえ~遅くなった~」


 バタン!

 ドッドッドッドッ!


 2階から大きな音が鳴り響く


 妹のちえが走って来る音が近づいて来る


「あわわわっ!」


 ドッスーン!


 あらぬ事に階段途中からちえがダイブして来たのだ。


「健ちゃん!」


 マウントポジションを取られた形でちえが叫んだ。


 危険を察知し両腕で頭を抱える


 …


 何もおこらない


 …


 恐る恐る構えを解くと目を赤く腫らしたちえがグスッていた。


「よかったぁ…健ちゃん…心配したんだよ…連絡つかないし…あたしどうしようかと…うわぁぁぁん」


 あまりの予想外の展開にあっけに取られていたが状況を飲み込むとちえの頭を軽く撫でた。


「大袈裟だなぁ~ちゃんと帰って来るって言ったじゃないか~心配かけてすまな…フゴッ!」


 ちえの右フック


「ごめっごめんなさっフゴッ!」


 ちえの左フック


「やめっフゴッ!フゴフゴッ!」


 ラッシュが止まらない。


 ちえはその場で高くジャンプするとそのままエルボ―を腹に叩き下ろした。

「うげっ!」


 K・O


 その後はリビングに正座させられ説教の嵐だった。




 11


 ふと目を覚ます。


 何気に目覚ましを手に取ると時刻は9時を回っていた


「やばい…」


 飛び起きて慌てて支度をする。


 1階に降りるとリビングに朝食と置き手紙があった


『昨日の罰よ、先生にた~んと怒られなさい♪~追伸~今度連絡返さなかったらブチ殺す ちえ』


 心配してくれる家族に少し嬉しくなりその手紙を丁寧に折りたたんだ。


「昨日数回殺されたじゃないか…9時…か…遅刻確定だし…ゆっくりして行こっ。」


 机に座るとカバンからペンを取り出す。そして折りたたんだ紙の裏側に一言。


『ちえ様へ カシコマリマシタ 朝食ありがとう。』



 鞄の中身を確認していると役員割り振りの紙が出て来た。

「あ…そういえば役員決めて無かったな…」


 鞄からまだ未使用のノートを取り出すと、先ず役職を書いていく。そしてクラスの名前を違うページに書き出すと少し考えて役職に名前を書いては名簿の名前に斜線を引いて消していく。思った以上にスラスラと名前は埋まって行きほんの5分程度でそれはおわった。


 その後、皿を流しに片付けて部屋の電気を確かめて靴をそと履きに履き替える。


「行ってきます。」


 何故だか解らないが誰もいない家に一声かけた。


 昨日まではここから学校までの距離が本当に長かった。


 気が重かった。


 黒い生き物がいないか?得体のしれない物がいないか?

 見つけ次第迂回、見つけ次第迂回、挙動不審と呼ばれようが挙動不審にならない方がおかしい。そんな日常を送っていたのだから。


 昨晩佐藤の両親から聞いた事を口に出して繰り返す。


「気にしない…気にしない…見えないふり…見えてない見えてない…平然が一番…見えてない…僕は見えてない…」


 自販機の下の影でもぞもぞ…


 電信柱の影でもぞもぞ…


 (はぁ…慣れだって言ってたけど…やっぱ嫌なもんだな…)


 そんな事を思いながらも真っすぐ向う学校までの道のりだったが、今まで遠回りして通った半分くらいの時間に自分も驚いた。


 校門の目の前まで来ると見た事のある和服姿の爺さんがはなを伸ばして校庭内を見ていた。


「あ…佐藤さんのおじいさん…ですよね?」


「おぉ…若造は電車の…っという事は、ここは美咲の学校かいな?」


「そうですよ。昨日は大変失礼を致しました。学校に用事でもあるんですか?」


「わしか?わしゃあそこのプルンプルンを見ていただけじゃ」


「プルンプルン?」


 どうやらただの散歩らしい。視線を追いかけて見ると校庭では男子学生がサッカーをしていた。


「サッカー?ですか?」


「何を言っておる。男に興味などないわい。野郎のプルプル見てなにが楽しいのじゃ。その向こうじゃよ、その向こう。」


 杖を指す方向を目で追うとそこには体育館があったが人の大きさと言えば小指程度にしか見えない遠さだったのだが…女子がバレーをしている様に見えた。


「体育館…ですか?こんな事言うと失礼ですけど…こんな遠くから見えますか?」


 素直な質問だった。確かに視力が5.0ある民族はあるのだけれど…日本人のちっこい爺さんにはそんな視力有るはずがない。


「馬鹿を言うでない!ちゃんと胸のゆさゆさまで見えとるわい!」


「あの…乳…見てるんですか?」


「あたりまえじゃ!こんな堂々と乳が眺めれれば最高のポジションじゃよ、わしの視力を侮るでないわい。なんじゃお主?わしの事は美咲からはなんもきいとらんのか?」


「東日本のお頭されてらっしゃるんですよね?」


「うむむ…間違いはないのじゃが…そうか。ならば仕方ないのぉ。おお…そうじゃ…お主はよい目をもっておったと思うが、学校で何か変なものを見た事はないか?」


 変なものと言われ率直に答える。


「毎日見てますけど…おじいさんも見えるんですか?」


「見えると言うかなんと言うか…この学校からえらい臭いがしてのぉ…」


「臭い…ですか?」


「そうじゃ…先日うちのもんが行方不明になっておってのぉ…部下に探らせたらこの学校にたどり着いての。まぁそうゆう事じゃ。お主もせいぜい気をつけるのじゃよ。それと美咲にもよろしく言っといてくれ」


 お爺さんはくるりと背を向けると軽く手を上げその場を去って行った。お爺さんの背中を見送ると僕はげた箱へと向かった。


 誰もいない玄関。授業中なのだから当たり前なのだが主達のざわつきのない空間は異様な感じがする。


 所定の位置に付いた所で知らず知らず佐藤の靴だなを見る。


(佐藤さんは登校してるみたいだな…それにしても佐藤さんのお爺さんの言ってた事…暴力団…闇…川端…何が一体どうつながるのか…?学校に別の暴力団組員がいて…う~ん…なんか違うな…)


 靴を履き替えながら頭がぐるぐる回っていた。そんな時だった。


『やぁ、こんにちは』


 後ろから男の声が僕に声をかけて来た。


 振り返る。


 振り返ってしまった。


 其処には自分と同じくらいの背丈の女の子が一人。

 その後ろにタキシードを着た長い髪の男が一人立っていた。


「へぇ~川端の言ってた通りじゃん。あんた見えてるんでしょ?ってことはあんたも持ってるんでしょ?悪魔」


 うかつだった。振り向いたと同時に誤魔化すべきだった。しかしそれよりもなによりも彼女の言葉に耳を疑った。悪魔を持ってる?女子高生の日常会話の中でそんな言葉はありえないだろう。


「え?悪魔?あ…えーっと…悪魔とかは解んないけど…君は?」


「私が誰とかあんたには関係ないでしょ?しらばっくれちゃって。持ってんでしょ?どんな悪魔もってんのよ?」


 おかしな質問をしてくる。頭のねじ飛んでるのか?そう思ったが自分も他人の事を言えた義理は無い。見えない物が見えているのだから。


 彼女のスカートがブルーなのでこの学校の1年だろうが。ショートカットの女の子がうっすらと笑いながらこっちを見ていた。


「チビチビが逃げる位だからよっぽど強い悪魔手に入れたんでしょ?あんたの悪魔見せてよ」


 その少女は一方的に話かけながら近づいて来た。


 僕は少し後ずさりをしながら気付かれないよう鞄の中に手を差し入れる。


「きっ君、悪魔って何かな?ちょっと…意味解んないんだけど…」


「ふ~ん…まだしらばっくれるつもり?コノチビ」


 彼女の態度があからさまにでかい。僕の方が年上だぞ…


「チビって…君も身長ならおんなじくらいじゃないか…」


 女生徒の眼が座った。正直な意見を言っただけなのに彼女の目が据わっている…おこだな。


 現状、言葉からして彼女は悪魔を所持している様だ。


 川端のあれが悪魔というのなら話が解るが彼女の身体にはそれらしい物、闇の様なまがまがしい物は見当たらない。彼女から何か引き出せるのかを考える。


「殺しちゃおうかしら?」


「わ…わかった!わかった!しょうがない!。でもさ、ここじゃなんだし、もう授業終わっちゃう時間だし人に見られるのもなんだしさ!あと僕も副委員長やってるからさ何かと忙しいんだよね。放課後!放課後とかはどうかな?」


「なんで副委員長が堂々と遅刻してくんのよ?いいわ。放課後美術室来なさい。」


 薄暗い教室。黒い闇が蠢く床。脳裏にあの光景が思い浮かぶ。


「美術室?美術室はちょっと…」


「美術室よ。それ以外は無いわ。」


「えーっと…なんで美術室なのかな?川端先生もいるから?」


「そうよ。川端があんたの事いってきたんだから。」


「…そう。解ったよ美術室行けばいいんだね。」


「遅れたらぶち殺すわよ」


 どう考えても女子高生の言葉ではない。心が病んでいるのか?ただ言える事は彼女が背中を向けた事でこの場の安全は保障されたという事だ。


 僕は安堵して鞄から手を抜いた。


 授業終了のチャイムが学校に響き渡る。


 彼女が振り向き様に聞いて来た。


「あんた何組よ?名前は?」


「2年C組の山田…です…君は?」


「1年A組 渡瀬よ。それじゃ放課後」


 そう言って廊下の階段を小走りに上がって行った。


 渡瀬が見えなくなると急に全身の力が抜け、靴箱にもたれかかるように安堵した。


『あ…どうしよぉ…とりあえず佐藤さんに相談してみよぉ…』


 うつ向きトボトボと廊下を歩く。授業が終わった事もあり、学校全体がまたガヤガヤと日常に戻っていた。


 ガラガラ


「おはようございまーす。佐藤さ~ん役員決めて来ましたよー。」


 ノートを手に取り振って見せた


 クラスが一瞬にして静まりかえる


「んっ?何?」


 キョトンと回りを見渡す


「やっ山田がしゃべった―――!?!」

 男子A


「何っ!うそっ!」

 女子B


「山神のたたりじゃー1」

 男子C


「山田が進化した!」

 男子D


「あれは山田を被った偽物だ!」

 男子E


「しかも堂々と遅刻!」

 女子F


「あいつロボットじゃ無かったのか?」

 男子G


「違う!おそらくAIが搭載されたんだ!!」

 男子H


 驚きの声と突き刺さる言葉が飛び交う


 失礼な事を好き勝手言う物だ。だが無理もない。


 思えば学校で口を開くのは質問を受けた時くらいで人と関わらない様に生活をしていたのだから。


 忘れてた。平凡な日常を送っていなかった自分を忘れてた。大事なことだったのに忘れてた。


 昨日一日の出来ごとが有っただけでこんなにもたやすく日常って、自分って変わるのかと感じたのだが。


 まぁ自宅やネットの中では普通に会話もしているのだから結局何も変わってはいない。


 僕は肩を落とすととりあえず自分の席に着いた。鞄を開け机の引き出しに書物をかたずける。


 すると数名が回りを囲んで来た。人になれていない僕にとっては凄く圧迫感があった。


「な・・・何?」


「おい山田。その役員のノート見せろよ。」


 てっきり僕とおしゃべりをしたいのかと思ったが(嘘)役員の名前を書いたノートが目的だった。


 その学生はおもむろにノートを取り上げると別の机の上に音を立てて開いた。


「おいおいおいおい!山田!なんで俺が体育委員なんだよ!運動神経なら中島がいいじゃねぇの!インターハイ選手なんだし!」


 剣幕な顔をして机をたたく男子A。


 その声につられた様に数名のクラスメイトがたかって来た。


「えっ何っあたし文化委員?吉岡と一緒?なんで!?絶対嫌!」

 けばい女子J


「あけみ~風紀委員だって~残念ね~」


「うそっちょっと山田!何考えてんのっ?あたしこないだ先生に服装違反で呼ばれたの知ってるでしょ?馬鹿じゃないの!?」


 好き放題フリータイム。

 言われ放題である。

 勿論無料だ。


 始業の鐘がなると担任が入って来た。


「何さわいでんだ~席につけ~。」


 クラスの扉を閉め卓上へと向かう。


「先生~山田の役員決めがめちゃくちゃなんです~」


 1人2人と先生に文句を言い出す始末である


 ガヤガヤと収拾がつかない。先生も授業を始めようと声をかけるがそっちのけである。


 そんな時だった。


「きり―――――――――――――――――――つ」


 文字通り一線の声が響き渡った。


 佐藤である。


 皆の顔は一度佐藤を見るやいなや自分の席へと帰って行く。羊飼いの羊の様だ。座っていた生徒もガタガタと皆が立ち上がる。


 全員が立ち上がると


「礼」


「お願いします」の声が響き渡る。


「着席」


 ガタガタと音を立てて座りだす。しかしまたガヤガヤと生徒達が騒ぎ出す。


 途端


「きり――――――――――――つ!!」


 再度佐藤の声が響き渡る。


 何事かと皆が佐藤を黙って見つめる


「授業が始められないわ」


 佐藤はきっぱりと前を見据え言う。


「さ…流石は委員長だな。佐藤ありがとう」


 先生も圧倒されたのかたじたじしていた。


「先生授業時間が過ぎています。どうぞ。」


「あ…ありがとう…それじゃぁ教科書開いて~」


 当然この流れだと授業が始まるばかりと思ったのだが今回は違った。恐れ多くも一人のけばい女子が手を挙げて立ちあがったのだ。


 ガタッ


「ちょ…ちょっと委員長!山田君の役員決めに異論があるんですけど!」


 完全に気圧されているが大した勇気だ。佐藤にかみついたのだから。


「ぼ…僕も異論あります!」


 勇気ある行動はまれに仲間を連れて来る事がある。僕も私もとわいわい言い出した。実に必要のない勇気だ。


 収拾がつかなくなった教室の雰囲気に困り果てる教師は教科書を閉じた。


「あ~わかったわかった~山田~その役員割り見せてみろ~」


 席を立つ。遅刻の事を突っ込まれないか心配だったが何故かそれは気付かれなかったようだ。ノートを先生に手渡すとそそくさと自分の机に戻る。


「ふむふむ…おい佐藤~お前は見たのか~」


「まだです。少し拝見させて頂けますでしょうか?」


 佐藤は席を立ち先生からノートをもらうと一通り目を通した。


「副委員長前へ来て貰えるかしら」


「あっはい…」


 そそくさと前に出るとこつこつと音を立てて佐藤が近づいて来る。


「先生お願いがあるんですが…このままじゃ授業が出来ないのでお時間10分程頂けますでしょうか?」


「そうだな…よしわかった」


「あと…お手数なんですが、役員割を黒板に書いて頂けませんでしょうか?その間副委員長に確認をさせて貰いますので…」


「あぁ…わかった」


 担任はどれどれと黒板に教卓に置いたノートを見ながら書き始めた。


 クラスはガヤガヤなっている。


 佐藤の袖を引っ張る行為に気付きクラスメイトに背をむける。


「山田君昨日はありがとう。それにしても…さっぱりわからないんだけど…適当にあしらっていいかしら」


 ぷはっ


 佐藤の答えについ笑ってしまった。


「何よ。山田君。」


「佐藤さん『適当にあしらう』って、大丈夫だよ僕が説明するから」


「山田君…なんかかわったわね?」


「僕はかわらないよ。あ、でも…一日佐藤家と関われば誰でもかわるかも。」


「あら山田君。言ってくれるじゃない。辛くなったらフォロー入れるから、任せるわ」


 そう言うとくるりとクラスメイトの方を向いた。



「それでは、役員割の説明を致したいと思います。副委員長よろしくお願いします。」


 クラス全員が佐藤が説明するものだと思っていたのか、どよめきが広がる


「あっ…えーっと…説明の前に一つお願いというか…説明はするんですけど…その…異論とかあったらごちゃごちゃどこまで説明したか解らなくなるんで…一通り説明終わった後にお願いします…。」


 流石にクラス全員を相手に緊張するものだ。佐藤さんは凄いなぁとそんな事を思いながら左手にノート持ち目を閉じて一つ大きい深呼吸をする。


 ごしごしと頭をかきむしる。

 眼鏡を正す。

 一つ咳払い。

 目を閉じる


 これは僕のスタイルだ。

 っといっても、仮想空間ゲームの中での話だが…


 そしてゆっくり目を開くと同時に呪文を詠唱するかの如く口を開いた。


「体育委員、森川君 有田さん

 2学期は体育際や陸上競技があります。森川君はリーダーシップと負けん気があって先導する役に適任だと思いました。あと女子に対しても物事をはっきり言えるので。体育際の際は森川君でないとクラスがまとまらず、だらけるんじゃないかと思います。


 また有田さんは女子に対しての耐性…あぁ影響力は弱いですが、男子はみんな天然の有田さんのお願い事って無視出来てない所があります。また、森川君の男子への影響力が弱いのでその部分をフォロー出来るんじゃないかなと思い選びました。


 保健委員、大山君 中島君 成山さん


 大山君は身体が大きいので負傷者が出た時に担げるメリットがあります。中島君はスポーツを通して即時の応急処置が可能なのと足も速いので誰かを呼びに行く際、手際が良いんじゃないかなと思いました。

 成山さんはだれでも気さくに声をかけやすい人物なので体調不良時とか声かけやすいので適任じゃないかと思います。


 文化委員、吉岡君 松本君 田中さん 中山さん


 吉岡君と田中さんはしょっちゅう言い合って相手の弱い部分を中傷していますが。これは逆に言えば、相手の問題な部分に気付けるからだと思います。そこで仲裁役の中山さんやいつも無口でボソッといい事を言ってる松本君がアドバイザー的な役割をになえば文化祭もいい物が作りあげれるんじゃないかと思いました。


 風紀委員、太田君 山崎さん


 先に山崎さんなんですがオシャレや流行に一番速いからです。学校の風紀にはしばし制限が多いような気がします。そこで太田君。先生方には誠実な人で通ってまして先生方に話が通り安いので生徒の意見も取り入れて頂ける役割かつ秩序としては誠実が不可欠なので選びました。


 文芸委員、中村君 下井田さん

 etc… etc…


 以上が全員の役割分担になります。」


 ふぅ~っと息を吐いた。


 そしてクラスの異変に気づく


 水を張ったように静かだった


 パチ…


 一人


 パチパチ…


 二人、三人…


『ワー―――!!』


 パチパチパチパチ

 パチパチパチパチ


 拍手喝采が巻き起こった。


「すっ…すげー!山田すげー!」


「山田君見直したわ!」


「お前影人間じゃなかったのかよ!」


「ちょっといまのなんかイケてな~い?」


「流石趣味が人間観察だ!」


「決まり!コレで決まり!」


 クラスメイトの反応に戸惑いを隠せずにいた。


 先生が山田の肩を叩き一言


「すごいな」


 そして耳元に佐藤が顔を寄せる


「惚れちゃいそうだわっ」


 佐藤の言葉にはっと我に帰る。佐藤はクスクスと自分の席に戻っていった。


 そのあとといえばあまり覚えていないが先生がその場をまとめ上げ授業に入った。


 休み時間に入ると僕を囲むようにして群れていた。実に慣れない空間で僕は質問攻めにあっていた。


 佐藤の方をちらちらと救援視線を飛ばしても効果は無かった。


 それから数学の授業を挟み授業終了のチャイムと同時に僕は席をたった。そして佐藤の座る席へ移動する。


 誰一人として僕の周りには来なかった。


 それが何故か無性に腹正しさがこみ上げたのは嘘じゃない。


 佐藤の席まで来ると小声で話しかけた。


「佐藤さん。話があるんだけど…」


「何かしら?一日で人気者になった山田君」


 佐藤は僕を見もしないで答えた。


「なんで嫉妬じみた発言なんですか、それよりちょっとここじゃ話せないんだけど…」


 回りの目を気にする様にキョロキョロと見渡す。


「愛の告白ね。判ったわ。私も話があるの。屋上に行きましょう。」


 いつも通りの(昨日からの付き合いだが)たんたんとした口調で冗談を返してきた様子を見て何故かほっとした。


 そして佐藤の『愛の告白』に遅れて気付き否定をしながら一緒に教室をあとにした。



 屋上には誰も見当たらなかった。


 当たり前だ。うちの学校の屋上は施錠されているのだ。しかしなぜ佐藤が合いカギを持っているのかは聞かなかった。


「…っと言うわけで放課後なんだけど…美術室に行くはめになっちゃって…」


 僕は鞄の中からパンを取り出し食べながら朝の内容を佐藤に説明する。


「要するに川端とその一年は貴方が同じ側の人間と勘違いしてる…という事ね」


 お弁当のおかずを口に運びながら佐藤は内容を理解する。


「悪魔見せなさいって言われても…」


「面白いじゃない。絞り上げて悪魔の事、聞き出しましょう。」


「え?聞き出すって何を?」


「2人がどういった経路でその悪魔と契約を結んだのか、どうやったら悪魔と契約出来るのか?とかかしら?」


 佐藤は端をツンツン僕の方へつつく仕草を見せた。下手したら目をつつかれそうな気がして僕は少しのけぞる。


「でも知ってどうするの?」


 佐藤はしばらく動作を止めて考え込んでいる。そして弁当箱をかたずけ始めた。


「悪魔と契約結んでみましょう。」


 とんでもない事を言うお嬢さんだ。


「いやいや…それは辞めた方がいいよ…悪魔だよ?絶対危険だよ。」


「危険じゃない悪魔もいるじゃない。」


「もぉ佐藤さん。危険じゃない悪魔って聞いたことないですよぉ。それにどこにいるんですか?危険じゃない悪魔って。」


 僕はコーヒーをストローですすりながら食べ終えたパンの袋をクシャリと握りつぶす。


「ここにいるじゃない。」


 ブーーーーーッ


 口のコーヒーが霧の様に散って行く。


「いやいや佐藤さんコーヒーがもったいないじゃないですか。ここってどこですか。」


「汚いわ山田君。それにここって言ったら山田君と貴方の目の前の人しかいないじゃない。」


「えっ?またまた~まぁ佐藤さんは悪魔的な所はずば抜けてるけど…」


 ジョークで佐藤をからかう。


 返答がない


「佐藤…さん?」


「川端の悪魔の言ってた事覚えてるかしら…」


「え…?喰わせろって…」


「その前よ。」


「その前?って言うと…」


「同じ臭いがするって…」


「いやいやあれは僕等が悪魔の存在が見えるからじゃ…」


「私ね…悪魔というか…妖し…化け物なのかもしれないの…人じゃ…ない…」


「いやいや…何言って…」


 言葉を遮る様に僕に背を向けると佐藤はフェンスに肩を預ける。


「去年の夏、隣町のビル火災知ってるかしら?」


「えっ…あっ…うん」


「じゃぁその噂話も当然知ってるわよね?」


「あまり興味無かったけど…女子高校生の拉致監禁事件だっけ…」


「あれ…私なの」


「え…」


「少し噂の内容変わってるけど…拉致にあったのは間違いなく私なの…」


 その時僕の脳裏に佐藤の父親の言葉が過る。


(噂話の真実を追った事はあるかい?って…)


「えーっと…佐藤さん…続き…聞かせて…ほしい…かな…」


 驚いた様子で佐藤が振り返る。


「山田君は…私が怖くないの?人殺しの私が…」


「噂話では佐藤さんが人殺しになってはいるけど…僕には…そぅ思えない…かな…」


 二人の間に風が横切る


「あの日は私が17を迎えた日だった…


 母さんのお店で誕生会をした後、いつもの様に家に帰宅する予定だった。


 だけど母さんに貰ったロザリオが嬉しくて誕生日記念にプリクラを取りに寄り道をしたの。もちろんひとりでよ。


 いつもより30分ずれて帰宅してたわ。


 自宅すぐ近くの自動販売機の前にワゴン車が止まっててたのを覚えてる。横切ったあと車のドアが開く音が聞こえて振り返ろうとした時には口になにか押し当てられて…。


 気が付いた時にはどこか知らない部屋に連れ込まれてたわ…」


 淡々と想い返し話す佐藤を見つめながら僕は何も言葉が出てこなかった…手に持っていたコーヒーパックは握り締められぽたぽたとしずくを落としていた。


「幸い気付いた時には何もされて無かったけど…柱か何かに手を縛られて目隠しをされて…


 その時2人の男の話声が奥で聞こえたの…


 話の内容はね、一人は私を弄ぼうと言っていたけど…もう一人が反対していたの…


 でも反対してた一人が部屋から居なくなるとすぐ、もう一人の男が私の元へ来て身体を触りはじめたわ…


 当然私も抵抗したけど手は縛られてるし身体全体で暴れて抵抗したけどその度に殴られたわ…殴られたッて云っても平手だったからよかったけど…


 その衝撃で目隠しが緩み隙間から男の顔がみえたわ…そいつは私の開かれた胸のロザリオを見つけると高値で売れそうだって…その後すぐにもう一人の男が帰って来て私への乱暴は止まったたわ…


 でも男は私のロザリオを引き千切って奪ったの。私は安堵と悲しみがこみあげてきて…


 そしたら…そしたら男達の私を見る目が変わっていくのが見えたわ…


 二人は手に棒を持ち何故かこちらへ向かってくるの…


 映画の化け物を見る様な目で…


 でも…次の瞬間私は自分の眼を疑ったわ…。


 2人の男達の首が飛んだの…


 バットで打ったボールの様に壁に叩きつけられて…


 血渋きを私に降りかかけながら崩れていく身体…


 その後ろに人影があったわ…


 ボソボソッと何か言ってたのだけれど…笑ってる様で…


 その人影は奥へ消えて行ったわ…


 そして気付いたら周りに火が上がってて…


 縛られてた手もいつの間にか自由になってて…


 ただ逃げなきゃと私は火の立たない方へと向かったわ…


 妙に身体が重く上手く歩け無かった…


 洗面所だったんだと思う…


 意識が朦朧とする中で、倒れまいと壁に持たれかかっていた私が…


 鏡に映ってたの…


 真っ赤に染まった身体に羊の様な角…背中には大きな羽根を生やした私が…


 映ってた…


 意識があるのはそこまでだけれど…


 遠くで父さんと母さんの声がして、気が付いた時には病院のベッドだったわ…


 母さんは怖い思いをして闇が重なって見えただけと言うけど…


 私は…自分が何なのか解らない…人間じゃないの…私は…」


「それじゃぁ佐藤さんは悪魔的な化け物の美人な学級委員長…かな。」


 自信を持って答えた。


 佐藤は今まで見せた事のない驚いた顔で僕を見つめる。


「山田…君…」


「細かくい言えば悪魔的要素を兼ね備えた佐藤さんって感じかな?


 時に悪魔的な抑止力持ってたり悪魔的なジョーク飛ばしてきたり悪魔的な誘惑…誘惑じゃないなぁ…魅了?使ってくるし、悪魔的な素敵な笑顔見せてくれるし。


 そもそも人間とか悪魔とか妖怪とか僕自身あんまり解んないし…。


 ただ…


 僕の見えてる世界には佐藤さんは佐藤さんでしかないし…。佐藤さんが仮に悪魔だったとしても化け物だったとしても佐藤さんには変わりないし。


 もしも委員長が佐藤さんじゃなかったら僕はこの世にはいない存在になってたかもしれないし…


 佐藤さんに手を引かれて…佐藤さんとおしゃべりして…佐藤さんの家族に出会って…なんかこの一日で今までの生きて来た世界観が一気に変わって…


 なにいってんのかな?ごめん。佐藤さんは佐藤さんで悪魔でも化け物でもなんでもない。僕の恩人だよ。」


 くるりと背を向けしゃがみこむ佐藤の肩は小さく震えていた。


 なにもできないけれど隣に腰をおろしそのまま寝そべって空を眺める。


 青い空にゆっくりと雲が流れていた。


「ごめんね…嫌な事…話させちゃって…」


 無言で首を横に振る佐藤。


 キーンコーンカーンコーン


 昼休み終了のチャイムが流れる


 …


「山田君…ありがとう」


「あ…そうそう。LOFの事なんだけど。僕がLOFにはまってる理由があってね。ほら。この世界じゃ見えてる世界みんなと違うけどさ、LOFの中じゃみんな一緒でさ。挙動不審にならなくて良い所とかさめちゃくちゃ羽を伸ばせるんだよね。ほんでもってさ…………」



 そのまま僕等は5時限目の授業をサボった。




 12


「委員長、副委員長がさぼりとはどういう事だ…全く…。」


 放課後僕と佐藤は職員室にいた。


「申し訳ございません…以後気をつけます」

 佐藤が頭を下げる。


「なんの話かは聞かないが…せっかく山田も見直した所だったんだがなぁ…もぉいい、ちゃんとしろよ」


 二人が屋上から降りて来た際に偶然担任が通りかかり5時限目をサボったのがバレたのだった。


 そして今に至る。


 鍵を没収されたがそこまで内容を問われる事は無かった。佐藤の赤くなった目を見て先生が何かを察したのであろう。


 再度謝り職員室を出る事が出来た。


「山田君ごめんなさい。巻き混んじゃったわね」


「全然。それに呼んだのは僕なんだし」


「山田君…優しいのね」


「でしょ~」


 照れながら頭をゴシゴシとかく。


「そこは否定した方がかっこいいわ」



 教室に着くとクラスメイトは既に帰っていた。


「山田君、とりあえず何が起こるか判らないからあれは所持しときなさい」


「あっうん。佐藤さんはハリセン隠せないけど…どぉするの?」


 不良っぽくズボンからシャツを出すとモデルガンを後ろ腰に差し込んだ


「私はバックごと持って行くわ。色々あるし。あっ山田君ちょと待って」


 振り返ると佐藤は首元に手を伸ばしシャツのボタンを一つ外した


「なっ何?」


「シャツを出すならボタンも外した方が『らしい』かなって思って」


 ニコっと笑う佐藤に少しドキッとした。


「さぁ行きましょう」


 いつもの様に佐藤の後ろについて行く事はなかった。ただ佐藤の隣を気にはしたが…今は並んで歩いている。



 美術室に着いた。


 相変わらず床一面に渡瀬の言っていたチビチビが見えた。


 美術室に入るとチビチビは逃げる様に二人の回りを避けていく。


「ん…話が違うじゃないか。お嬢さんまで連れて来ちゃって困りますね…」


 口を開いたのは川端だった。


 他にも川端の近くに二人姿が見えた。


 髪は三編み、ふちなし眼鏡、スカートが青色なので2年生だろう。机に座り読書をしている。


 そしてもう一人、髪は茶髪。ミディアムボムの男子生徒がヘッドフォンをつけて椅子に持たれかかる様に目を閉じ座っていた。人差し指がコツコツとリズムを取っているのを見ると音楽を聴いている様だ。


 渡瀬の姿が見えない


「あの…渡瀬さんに呼ばれたんですけど…」


「渡瀬さん?彼女も困ったもんだ。良いもの見せるから此処に来いと彼女が言い出したんだがね…見ての通りまだ来てないよ」


「川端、彼と彼女は何者?」


 三編みの女子生徒は先生を呼び捨てにして質問する


「彼女は知らないが、彼はおそらく僕達と一緒…らしいね。君も感じないかね?」



「どうせ弱い悪魔なんだろ?今の今まで気づかないんじゃ…ん?うぉっ!めっちゃ美人じゃん!あんた名前なんて言うの!?」


 ヘッドフォンを首にかけ下ろし話に割り込んで来た。



 ミディアムボムの男子生徒は飛び起きると佐藤に近づいて来た。


「人の名前聞く前に自分の名前を先に言うのが礼儀ではないかしら?」


 佐藤は川端をじっと見ながらミディアムボムの男子生徒に声をかけた。


「うひゃ~つんつん美人じゃん!あっ俺は斉藤。後ろのチビ…もしかして彼氏…とか言わないよね?なんかびびっちゃってない?うけるっ」


「斉藤。うるさい。黙れ」


 三編みの女子生徒が斉藤という男子生徒を睨みつける


 緊迫した空気が漂う。


「あっあの…僕は山田って言います。渡瀬さんに呼ばれて来ました。彼女の名前は佐藤さん。僕のクラスメイトです。唯一僕の秘密を知ってる人なんで今日は一緒に来て貰いました。」


「あれっ?君達付き合ってるんじゃ無かったの?」


 川端は質問する


「川端先生。貴方のその肩のまがい物が『私を喰いたい』とか言うから咄嗟に嘘を着いたの。ごめんなさい」


 三人の表情が険しくなった。


「川端、ちゃんとそいつ教育しなさいよ。おかげでこんなざまじゃない」


 三編みの女子高生今度は川端を睨みつける。


「おいおい松本~先生くらい着けろよな~。まぁ川端先生もそいつ使いきれてないんじゃ、しょうがないか~ははっ」


 ボブ髪の男子生徒はチャライ事がすぐ解った。


「さっきから聴いてると凄い複雑な関係ね。松本さん…でしたか、歳上の方に呼び捨てはあまり感銘受けませんわね」


「うるさい。黒渕眼鏡」


「あらごめんなさい。渕なし眼鏡さん」


 佐藤の応戦


「ちょ…佐藤さん…辞めようよ…」


 仲裁に入ろうとした時だった。


「おまたせ―――!おっみんな速いじゃん!んっ?おいチビ!何他人連れてきてんのよ!何なのこのおん…あ…あ…みっ…みっ…みっ美咲様!?」


(美咲様?)


 その場にいる全員が思ったと思う


 渡瀬が勢い良く入って来たかと思うと佐藤を見るや否や態度が一変した


「み…美咲様…なんで美咲様がここにいるのよ…あ!初めまして!。私一年A組の渡瀬遥と申します!。美咲様とお近づきになれるなんて…」


「遥遅い。様って何よ、様って」


「うっさ…うるさいですわ松本さん。美咲様は私の憧れの先輩ですのよ。高貴で勉学も優秀で…窓際で空を眺める姿は…まるで…」


 もじもじしながら佐藤に近づく


「あの…握手して頂けますか…?」


「あら可愛らしい一年生ね。佐藤美咲よ。よろしく。」


 佐藤は自己紹介をすると右手を伸ばした。


「きゃ~よろしくお願いします。」


 渡瀬はスカートで手の平をゴシゴシすると右手を伸ばした


 バシッ


 握手する寸前で何かが渡瀬の手を弾く


「ちょっと…どういうつもりよ、悠里」


 渡瀬は松本を睨む。松本の隣にサッカーボール位の真っ黒い丸っこい猿がケケケと笑っていた。


「聞きたいのはこっちの方よ。遥、あんた何しに来たのよ?」


「ええーっとーあっそうだった。ねぇ山田、あんたの悪魔見せてくれるんでしょ?」


 渡瀬は佐藤の手を握り数回振るとそのまま離さずにいた。


「あの…悪魔の件なんだけど…」


 説明をしようとした時に佐藤は一歩前にでて話を遮った。


「渡瀬さん実をいうと、私も貴方の言う悪魔が見えるの。貴方達の悪魔に興味があって山田君に頼みこんで来た所なのよ。」


「あ…そうでしたか。美咲様。私の悪魔、結構イケめんですのよっ見ます?」


 渡瀬は右手を真横に上げる。右手首には一円玉位の魔法陣が赤く光って見えた。


 その手首から一滴の雫が落ちると五方正の魔法陣が浮かび上がる。


 魔法陣が一瞬輝くとそこにタキシードの長い黒髪の男が片膝をついて現れた。


『御呼びでしょうか…』


「ん~ちょっと野暮用で~。美咲様、これが私の契約した悪魔で…す…け…ど…何よベリウス?美咲様がそんなに輝かしいかしら?」


『いえいえそうではないのですが…ただ…』


「ただ何よ?」


「凄いわね。渡瀬さん、だれでも悪魔と契約する事って可能なの?」


 佐藤は何かを遮る様に話に割って入った。


「可能はだとは思うんですけど…まぁ契約って言ってもむっちゃ簡単でしたけどぉ…悪魔の種類は人によりけりで…ほらっ悠里の悪魔は黒猿ですし…えっ?山田に聞いてないんですか?」


「山田君も悪魔とは契約してないわ」


 ズバッと言った


「えっ…え――――!ちょっちょっと!山田!あんた嘘ついたわけ?!」


 渡瀬の手がわなわなと震える


「いやいやいやいや!しょうがないじゃないか!君が勝手に思い込んで効かないもんだから!」


「じゃぁ…じゃぁなんであんたは見えたり聞こえるのよ!」


「なんでって言われても…」


 後ずさりをする。


「私をこけにしたわね…やってやる…やってやるわよ」


「ちょっ!ちょっと待ってよ渡瀬さん!」


「山田をやりなさい!ベリウス!」


『…』


「あ~あ、怒らしちゃった~ははっあいつ死んじゃうよ~ははっ」


 他人事の様に笑う斉藤。


「はぁ子供はこれだから困りますね…ベルベット…」


 川端が何かの名前を呼ぶと肩が赤く光る。そして例の小人の半身が現れると右腕がみるみるうちにメキメキと音を立てて大きくなった。


『喰イタイ、アイツ喰ワセロ』


 川端の右肩に身体半分埋まった小人現れ奇声を上げる


「知~らな~い」


 美術室の隅に移動する松本



「殺れ!」


 渡瀬が叫んだ瞬間タキシード男の目が赤く光る。


 瞬間という文字の如くタキシード男は目の前に移動して首元めがけて手を伸ばしてきた。


 バシーーーーッ


 佐藤がハリセンでその手を振りはらう。


「私の山田君に触らないで!」


 言い放つとハリセンを大きく振り被り思いっきりタキシードのの身体に叩きつけた。


 ド―――ン!!


 轟音と共に身体が吹き飛んだ。


「な…」


 唖然とする4人


「退魔師…退魔師なのか!?」


 斉藤は手の平を地面に付けると魔方陣が浮かびあがり、手に真っ黒い幹の様な物が巻き付き、それを引き抜く


『キョエ――!』


 絡んだ黒い幹の顔が叫び声を上げる


「捕えろ!」


 真っ黒い幹が数本佐藤に向かって飛んでくる


 パンッパンッパンッ


 バァン!バァン!バァン!

 黒い幹が炸裂した。


「今度は何?!」


 本当に普通のモデルガンの感じだった。


「貴方達退魔師なの!?」


 松本は焦っているようだった。


「退魔師?そんな古くさい集団がいると思ってるのかしら?渕無し眼鏡さん…。」


「じゃ…じゃああんた達は何者なのよ!?」


「私達?私達は…そう!ヤマダーマンよ!!」


 …


 …


 …


 しばしの沈黙が流れる。


「さっ佐藤さん…ネーミング…無茶苦茶…イケてないんだけど…」


「あらっそう…イケてると思ったんだけど…まぁいいわ…山田君、拘束プレイは好きでしょ?コレっ使いなさい。」


 佐藤はバックの中から何かを僕に投げた。手錠っだった。


「なっ何してんのよ!山田を殺りなさい!」


 しかしタキシード男は行動を起こさない…じっと佐藤を見ているのだった。


「早く!何ボーっとしてんのよ!」


 動かないタキシード男にワーワーうるさい渡瀬。


「渡瀬さんごめんなさい。山田君には触れる事さえ許さないわ。」


 渡瀬が気を取られたのを僕は見逃さなかった。


「渡瀬さんちょっとごめん」


 瞬間時に渡瀬の懐に潜ると溝内に拳を一発入れた。


「うっ…美咲様…」


 山田は渡瀬の溝内を打つと崩れる渡瀬を抱えた。


 渡瀬が気を失うとタキシード男は佐藤に喋りかけて来た。


『…いや…まさかな…』


 男は呟き消えさった。


「おいおい君たち、美術室をこんなにしちゃって困るよ。」


 川端だった。


 パンッパンッパンッ


 川端を狙い打ったが川端の異様なスピードでそれをかわした。


「やるじゃない川端!」


 松本が川端の後ろに身を隠す様に動いた。


 ガシッ


「うっ…なんで…」


 川端は大きくなった異様な腕で松本を掴み上げていた。


「どいつもこいつも判ってない。身勝手な奴ばかりだ。」


「川端てめぇ!」


 斉藤が叫ぶ。


「あのね…歳上の人を呼び捨てにするのはどうかと思うんですよ…斉藤君!」


 掴んだ松本を斉藤めがけて投げつけた。


「君たちのそれとは格が違うんだよ。君たちは育て方を知らないみたいだからね。何体こいつに喰わしたと思ってるんだい?」


 斉藤は黒い幹で松本を受け止める。


 次の瞬間斉藤の目の前まで川端は移動していた。


 なぎ払われた腕で斉藤の身体は飛ばされ壁にぶち当たる。


「くっ…そ…あぐっ!」


 斉藤の頭を異様な右手で掴み上げると右肩の小人が叫ぶ。


『喰ワセロ!ソイツ喰ワセロ!』


「そうですね…生徒が居なくなるのは立場状問題がでるんですけど…とりあえずその悪魔だけ喰わせてあげましょうか…」


『喰ワセロ!喰ワセロ』


 左手で黒い幹の絡んだ手を持ち上げると小人の顔が大きく膨れあがり斉藤のうでに食らいつく…


「うっ…うが―――!!」

 斉藤が叫び声を上げる


 軽い銃声音と同時にひしゃげた音が鳴り響く。


 川端の背中の一部が弾け飛んだが、いぜん斎藤をつかみ銜えた腕はそのままだった。


 振り返る川端の目は白黒逆転し口が異様なまでに裂けていた


 佐藤が川端に駆け寄りハリセンを一閃。


 裂けた口でハリセンを受け止めていた


 首は半回転しておりもはや人ではなくなっていた。



「くっ…」


 ハリセンを離すと佐藤はスカートを捲り上げる


 太ももにはベルトが巻かれておりそこから2本の鉄杭を抜き出すと川端の両肩に突き刺した。


『ギャァ―――!』


 斉藤に食らいついた顔が悲鳴にも似たような声が響き渡る。


 そして斉藤をつかんでいた手を離し佐藤を突き飛ばした。


「佐藤さん!!」


 パンッパンッパンッパンッカチッカチッ


 打ちながら佐藤に駆け寄る


 川端は叫び声を上げながら両肩の鉄杭を引き抜いた


 ドス黒い血を撒き散らし佐藤の方を見る


『オノレ小娘ガァァァァ!!』


 そして引き抜いた鉄杭を佐藤に向けて投げつける


「佐藤さん!!」


 ドスッドスッ


 鈍い音が響く


 咄嗟に佐藤をかばい、鉄杭は背中に深々と突き刺さっていた。


「山田…君…?」


「よ…良かった…無事で…おじさんと…おばさんに…怒られちゃう…」


「山田君!山田君!」


 佐藤を抱きしめる力が抜けていく。


「嫌!嫌よ!しっかりしてっ!」


「…僕…佐藤さんの…おかげで…少し…いや…ほんとに…変われたと…思う…」


「何言ってるの!山田君ともっと!これからっ!」


「佐藤さん…僕…佐藤さんに…出会えて…良かった…」


「嫌よ!山田君!死んだら許さないわ!」


「佐藤さん…あり…がとう…」


「山田君!山田君!い…嫌――――!」


 力の抜けた身体を抱きしめて佐藤は叫んだ


 叫び声と共に佐藤の回りに炎があがる


「…痛たたた……ん?何?えっ!何何何何!!」


 気を失っていた渡瀬がようやくめを覚ました。


 目の前の怪物化した川端と燃えあがる炎。


 パニックを起こさないはずがない


「斉藤!?悠里!?ちょっとどうなってンの!?ちょっと!どこよ!出て来なさい!」


 魔法陣からまたもタキシード男が現れた


「斉藤と悠里を助けなさい!!今すぐ!」


 タキシード男は瞬時に斉藤と松本を抱える


「ベリウスあの川端は何なの!?」


『あれは…既に悪魔と同化しております…』


「同化?同化って何よ!美咲様…美咲様は!?」


 部屋を見渡すと炎の中で力ない身体を抱え泣き叫ぶ佐藤が目に入った。


 そしてまた怪物化した川端が佐藤の方へ向うのが見えた。


「ベリウス!2人を外に運びなさい!」


『解った…』


 2人を抱えたベリウスの姿は瞬時に消えた。


「ど…どうすればいいのよ…美咲様が…」


 渡瀬は転がる椅子を握る。


「うぉりゃぁぁぁ!」


 川端めがけて椅子を投げつけると見事に川端の背中に命中した。


「こっち向きなさい川端!!」


 怪物化した川端が振り向く。


『呼ビ捨テスル奴、喰ッテヤル』


 机をなぎ倒し渡瀬に向かって走り出す川端。


「来るな!来るな!来るな!来るなぁ!」


 ガシィッ!!


 突っ込んで来る川端をベリウスが止めた。


「ベリウス!殺りなさい!」


『解った…』


 川端の振り回す巨大な腕を次々とかわしていく。

 合間合間に打撃を繰り出し川端に当てて行く。


 渡瀬は佐藤の近くまで行くと必死に呼びかける


「あっつ!美咲様!美咲様!」


 炎は天井まで達していた


「あ…渡瀬…さん…山田君が…山田君が…」


「美咲様!こちらへ!急いでっ!」


 渡瀬はひきずるように二人を引っ張る。


「こりゃまた派手に暴れたの~」


 渡瀬の横にはいつの間にか和服のお爺さんが立っていた。


「なんでじじぃがこんな所にいんのよ!?あんた何してんの!?ちょっと手伝いなさいよ!ってかいつからいるの!?危ないから助け呼んで来てよ!」


「じじぃ扱いとは…いや~助けは来んよ。ワシが結界を張ったからの~」


「結界?何言ってんのじじい!」


「あのタキシード小僧はお主の所有物かぇ?」


「タキシード小僧って何よ?私の悪魔よ。わるい?」


「ふむ…何の理由があるのか知れんが…あのままじゃぁいずれ朽ちるじゃろう…」


「ベリウスは強いわ!絶対に強いはずよ!イケめんだし!適当な事言うなじじい!」


「あ奴は強いのは解るのじゃが…何故力を押さえておる?」


「押さえてる?」


 優勢に思えていた二人の殴り合いは川端の拳が当たりだしていた。

「ベリウス!何してるの!そんな奴早く潰しなさい!」


 叫ぶ渡瀬を横目にベリウスは少しハニカミ殴り合いを続ける。


「何を気にしておるのか…もぉよい。あの化物はワシが何とかするから、ぺちゃ娘、お主は相方をさげなされ。」


「じじぃあんた何者なの?」


「ワシか?ワシはただのぬらじゃよ」


 佐藤は山田を抱き抱えながら入り口まで来るとおじいさんの存在に気付いた。


「おじいちゃん…山田君が…山田君が…」


「美咲…少し眠っておりなさい」


 佐藤の額をトンと指で突くと佐藤はその場に倒れこんだ。そして杭のささった背中を見ると険しい顔をした。


「こりゃ無理かのぉ…鎌鼬…おるか?」


 その言葉と同時に黒装束をまとった男が膝まづいて現れた。


「はい…ここに」


「小僧を頼む」


「御意」


 そう言い残すと一瞬で美術室の二人のそばに移動していた。二人を肩にかけると両サイドにももう二人黒装束が現れ二人を運び出す。


「ちょっとじじぃ!?あんた正気!?」


「ぺちゃ娘、お主の相方ももう限界じゃ。下がる様に命令せい。うちのもんを喰いよってからに…」


「じじぃあんた…」


「ぬら様なら問題有りませぬ。ぬら様のご指示に従われた方が得策かと…」


 鎌鼬と呼ばれた男は杭を抜くと傷口にツボの液体を擦り込むように塗っていた


「くっ…ベリウス…戻りなさい!」


 一言かけるとベリウスはスッと姿を消した


 怪物化した川端の前にいつの間にか佐藤のおじいさんが立っていた。



「のぉ~ワシはぬらと申す…お主の喰らった者達の頭じゃぁ…お主…ワシの組以外にも…喰らっておるな…皆の念…はらさせてたもぉ…」


『オ前モ喰ッテモット喰ッテ、モットチカラヲ手ニ入レナイト。喰ワセロ!喰ワセロ!』


「どこまでも救われぬの…滅っせよ…」


『ウガァ―――!』


 怪物と化した川端が叫び声をあげながら拳を叩きつける。


 ドギャ!!

 拳は教室の床を破壊し突き刺さる。


 直撃したかの様に見えたが床に拳を突き刺した手前にお爺さんは立っていた。


 そしてもっていた杖を両手で握るとサイドに腕を開く。


 その杖の半身から刃が姿を現した。


 そして一閃


 床に突き刺さった腕が血しぶきをあげる。


『ウギャァァァァァァ!』


 叫び声とともに川端の身体から腕が崩れ落ちる。


「うるさいのぉ…叫ぶでない。」


 いつの間にかおじいさんは隣の椅子の上に座っていた


 川端は反対の拳で椅子ごとなぎはらう


 一閃


 ゴトッ

 腕が落ちる


 一閃


 ドスン

 川端はバランスを崩す。


 一閃

 ドスン

 支えていた足が落ちる。

 いつしか四肢が落とされ首を差し出す様に四つん這いの形で身体を支えていた


「残す言葉はないか?」


『ク…喰ワセ…』


 一閃


 ゴトッ


 川端の頭が床に転がり落ちる。


「何処までも…」

 目をつむり眉間にしわを寄せて川端に背を向ける。


「ぬら様…お時間です…」


 黒装束の一人が膝をついてお爺さんの横に現れる。


「おぉそうか…そこのぺちゃ娘…この場を離れるぞ…」


 お爺さんの圧倒的な力を目の前に呆然としていた渡瀬に声をかけた。


「えっ?離れる?ぺチャ?私?」


 渡瀬は咄嗟のことで軽いパニックに陥っていた。


「お主も消される事になるぞ?」


「えっ?えっ消され?」


「門を開けぃ」


 佐藤のおじいさんが一声かけると目の前に古い扉が現れ扉が開く。


「ついて来なさい。」


 渡瀬に一言かけるとお爺さんは扉の中へと入っていった。黒装束の男達はそれに続く様に気を失っている佐藤達を抱え入って行く。


「何?どこ行くの?何これ?ドコデ○ドア?えっえ~い!」


 パニクリながらも渡瀬は閉まりかける扉に飛び込んでいった。


 音を立てて扉は閉まると煙の様に姿を消した。


「霊魂消息地域!ここです!」


「くそ…結界が邪魔をしてたか…」


 燃え上がる美術室にスーツ姿の男達が数人入って来た。


「先を越されたか…直ぐに取りかかれ」




 その晩ニュースが流れた。


『今日未明私立倉森高等学校で火災があり焼け跡から一人の遺体が見つかりました。遺体の身元は同高等学校教論川端みのる38才。警察は事故と自殺両面で捜査を進めている模様です』



 13


 佐藤は気が付くと見慣れない天井を見ていた。


「山田君!」


 身体を起こして叫ぶ。


 回りを見回すとカーテンで仕切られていた間から他のベットが見える。


 病院の一室の様だ。


「美咲…気が付いたの…?」


 カーテンごしに母親の声が聞こえた。


「母さん!山田君は…山田君は無事なの!?」


 母親は終始無言だった。


「ねぇ!答えてよ!ねぇ…山田君は…」


 肩を震わす佐藤に母親が重たい口を開いた。


「美咲…もぉ…山田君の事は…」


「あたし…まだ山田君に…」


 母親は佐藤の隣に座ると肩を抱えた。


 母親の胸に泣きすがる佐藤。


 小さな子供の様に肩を大きく震わせながら…


 病院の窓から入るそよ風がゆらゆらとカーテンをゆらす。


 まるで時間が止まった様に…






「あれっ?おばさん?美咲さん目ぇ覚めましたぁ?」


 カーテンがシャシャーっと音を立てて開かれる。


 パジャマ姿でスナック菓子をポリポリ。


「あ、美咲さん。やっと起きたんです…ん?あれっ?えっ?あっ?どうしたの?」


 ゴシゴシと頭をかきむしる。


 顔をゴシゴシと腕でぬぐう佐藤。


「お母さん…どうして何も言わないの」


「なによ~だって第一声が山田君!とか言われたら~流石にお母さんでも~嫉妬しちゃうわ~」


 頭をゴシゴシ照れ臭そうに…。


「おはよう佐藤さん」


 佐藤は母親から身体を立て直すと、ベッドの上で正座をする。


 そして


「山田君、ちょっと来なさい」


「えっなにっ?」


 次の瞬間佐藤はベッドから飛び込む様に山田に抱きついた。


 そして一言


「おはよう山田君」


 第一部 おわり


最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

第2部では一気にリアルアウトの世界が進みます!お楽しみに!


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