プロローグ1
はじめまして。
よろしくお願いします。
あーあ。またあの家に帰るのか……やだなぁ。
なーんて思って、遠回りをしたのがいけなかったんだと思う。
いつもは通らない公園の側を通った。ボール遊びをしている子供たちがいた。犬を連れて散歩をしている人もいた。ベンチで昼寝している人も。
公園の側を離れようとしたとき、危ない、という声が聞こえた。
え?って思っていたらボールが私の頭に命中した……後ろからだったから見えなかったけど、状況的にそうだと思った。
「いったーい……」
私はふらふらと立ち上がった。ボールはどこにも見当たらなかった。
しばらく突っ立っていたけれど、誰も私に声を掛けてこなかったので、私は振り返ってこう言った。
「あのねえ、あんたたち、自分のボールが人にぶつかったっていうのに、あ、やま……え?」
言おうとしていた言葉は、途中で地球の裏側か宇宙か、もっと他のどこかにまで飛んでいった。
だって……子供たちはおろか、誰も公園にいなかったから。
「幻でも見たのかなぁ。」
よくよく辺りを見回すと、さっきよりも暗くなっている気がした。
でも、私はすぐに、どうでもいいかと思って家に帰った。
家では、母が夕食の用意をしていた。
「おかえり。」
「あれ……今日は休みだったの?」
母は働いていて、木曜日は仕事のはずだった。
「えっ?……うん。」
「ふーん。」
部屋着に着替えて時計を見ると、いつもより一時間も遅かった。
「やっぱりあれは幻じゃなかったのかな?だとしたら、あの公園にいた人たち、倒れている人を放って帰ったってことだよね。酷っ!」
ぶつぶつ文句を言っていると、母が夕食の用意ができたと呼んだので、リビングに行った。食事が二人分しか用意されていなかった。
「今日は二人だけなんだね?」
「うん。栄人さんは出張で、陸くんはお友達と食べに行くらしいから。」
「ふーん。」
栄人さんというのは、母が半年前に再婚した人で、陸というのは栄人さんの連れ子で義理の兄。一歳年上。この二人が私の憂鬱の原因。絶対に父さん兄さんなんて呼んでやるもんか。でも、別に嫌いな訳じゃない。むしろどちらかというと好きなのかもしれない。二人とも優しいし。だけどやっぱり、家族とは認められない。ただの同居人だ。
私の実の父は五年前に事故で亡くなった。私にとって父は実の父一人だけだけど、母にとっては唯一の夫ではなかったらしい。その事に気付いたときから母とは何となくすれ違っているような感じがする。……あ、母とのことも、立派な憂鬱の原因だったみたい。
夕食後、宿題をしようとしたとき、私は異変に気付いた。机の上に置いていった……というか忘れていったはずのノートが見当たらず、その代わりに、去年使っていた教科書が置いてあった。
「んっ?何で高一のときの教科書?ノートはまさか学校の机?しょうがない、宿題は明日朝早くに行 って探そうかなー……あれ?」
机の上に置いてあるカレンダーが二〇一六年になっていた。ケータイの画面を見ると二〇一七年なのに。
もう一度リビングに行って、リビングのカレンダーを見たが、結果は同じ。二〇一六年と書いてあった。
「母さん、カレンダー、何で去年のに変えたの?」
「え?」
母はきょとんとした顔をして、カレンダーを見てから、新聞紙を見た。そこには二〇一六年という文字が……。
「え!?今って二〇一六年!?」
もう一度ケータイを見ると、二〇一七年と表示されていただけでなく、圏外になっていた。