6. 目標設定とちょっぴりの散策
しばらくベッドで悶々とすごし、ある程度気持ちが落ち着いてきた僕は、これからのことを考えることにした。過ぎたことはしょうがないのだ、人は過去ではなく未来を見て生きるべきなのだ。そう思いこますことにしたのであった。
さて、僕は体を起こしベッドに腰掛けた。
入ってから碌に見ていなかった部屋を眺める。
外見同様、部屋の中もとても雰囲気があってよろしい感じである。看板がないだけ点数は高い。家具はベッドの他には机といすが1つクローゼットが1つのシンプルな部屋である。広さは8畳ほどで、申し分がない。もともと6畳の部屋に住んでいたのでグレードアップした気分だ。
部屋に文句は全然ないな。
文句あるとすればあの憎たらしい少女だな。今度あったら挨拶もしてやらないんだから。
おっと、よくない。よくない。
過去は気にしない。未来を考えよう。
まずは長期的な目標と短期的な目標を設定しよう。
目標がないと行動しずらいしね。
長期的な目標はやっぱり『元の世界に戻ること』だろうか。
正直戻ってもしょうがないという気もする。大学卒業してから仕事にもつかずにだらだらしていただけだし、友達だって別にいない。親も僕がいなくなってスッキリしているんじゃないだろうか。とはいえ、結果として戻れる戻れないは置いといたとしてもやりがいのある目標にはなると思う。
もしくは『Aランク冒険者になる』というのも楽しそうだ。
この場合、元の世界に帰るのはスッパリ諦める。この世界での人生を充実させるべく努力するのだ。Aランク冒険者とかよくわからないけどかっこいいしね。まぁ、今まで運動とかあんまりしてこなかったからかなり難しい目標だと思う。もしかしたら元の世界に戻るより難しかったりしてね。
う~ん、どうしようか。
とりあえず二つを合体して、『Aランク冒険者を目指しつつ元の世界に戻る』というのを長期的な目標にしようかな。よくよく考えたら別に両立できるもんね。
次は短期目標だ。
まずそもそも元の世界に戻るとか行ってるけど、ここが本当に異世界なのかもわからない。だからこの世界の情報を集めないとだめだと思う。よって『この世界の情報をあつめる』というのが目標の一つだ。次に、冒険者として名を上げる前に生活を安定させないといけない。ここだって一週間しか泊れないしね。よって『安定した生活をおくれるようにする』というのを第二の目標に設定する。
こんなもんかね。
立てる必要があるかわからない目標だけど、こんな感じで頑張って行こうと思う。
なんだか元の世界の時よりもやる気で満ち溢れてる気がする。まぁ、いつまで持つかはわからないけどさ。ていうか冷静に考えると、もともとできるやつは元の世界でも上手くやれてただろし、元の世界でうまくできてなかった僕が何かできるわけないんだよ。そうだよ。きっとこのままここで野たれ死ぬんだ。さっきだって隣の人にわーって一方的に変なこと話しちゃったし。
おっと、ネガティブはよくないぞ。
ポジティブに考えよう。お気楽に考えよう。深く考えるのはやめよう。
ふぅ。
では具体的に何をすればいいだろう。
僕はばっと立ち上がった。
「とりあえず靴を買おう。あと洋服も」
裸足で歩いたから足の裏が痛いのだ。
洋服もこのままスウェットでいるのはかっこ悪い。
そうと決まれば、とりあえず靴と洋服がいくらくらいするのかを調べに行こうと思う。
もうそろそろ日も暮れ始めるだろうし、冒険者ギルドの依頼をみたりするのは明日でいいだろう。今日はご飯代と宿屋代とか、生活するのにいくら位お金が必要かを調べる日にしよう。そういうのがわからないとどらくらい稼げばいいかもわからないしね。
「では、出発進行だ!」
僕は意気揚々と部屋を飛び出した。
さてさて、とりあえず最初に通ってきた道を探してみようと思う。
商業地域とか言ってたし、お店があるとしたらきっとここだろう。
噴水の横を通り、元いた道の前までやってきた。
だいぶ日も落ち始めてきていたが未だ人は多い。
お目当てのお店をみつけるのも大変そうである。
でも、知らない土地を探検するのは気分が上がる。かなりわくわくしてる自分がいる。
一つ一つ、中を覗き込みながら歩く。
よくわからない薬品がいっぱい並んだお店、見たことのない食べ物が並んでいるお店、珍しいお店がたくさんあった。僕はとりあえず、そんな中で剣や防具が置いてあるお店に入ってみることにした。洋服とか靴だって防具でしょという軽い気持ちである。
「失礼しまーす」
僕は武器屋の扉をあけて、店の中へと入った。
中は嗅いだことがない独特な臭いが充満していた。これが武器の臭いなのか。
「おう、いらっしゃい」
ひげを蓄えた小さめだががっちり体型の男がそう応える。
ドワーフというやつだろうか。
「すみませんが、洋服とか靴を探してるんですがー」
「あ?そんなもん置いてねーよ。うちは武器屋だぞ?」
「そうですよねー。すみませんでしたー」
僕は男の声にビビって、こそこそと店を出ようとした。
すると、バンと扉の前に立ちふさがった。
「ひー、ごめんなさい。ごめんなさい」
僕がとっさに謝ると、男は穏やかな声でこう言った。
「いや、別に怒ってねーよ?兄ちゃんここは初めてか?」
僕はそーっと男の顔を窺うが、確かに怒っている感じではなかった。
ちょっぴり安堵して質問に答える。
「はい。実はこういうちゃんとした町に来るのは初めてで、どこに何が置いてあるかもわかないんですよ」
「そうか。服とか靴は雑貨屋に行かないと置いてないんだよ。ほれ、ここの向かい側が雑貨屋だからそこに行けば買えると思うぞ」
男は扉を開いて外を指さしていた。
「ありがとうございます」
「おう、気にすんな。代わりに今度武器が必要なときは内にきてくれよな」
そう言って男はガハハと笑っていた。
僕は再度お礼を言って店を後にした。
見かけによらず優しい人でよかった。
一瞬冷やかしはお断りだとか言って怒られるかと思った。
今度武器や防具を揃える時はここに来よう。
さてさてようやく洋服と靴が売っているお店に辿りつたぞ~。
僕はさっくりと値段だけ確認して店を後にした。
洋服が一セット銅貨五枚位
靴が銅貨三枚位
であった。
大体銅貨一枚で千円位の感覚なのかなと思う。
とりあえず明日は何かしらの依頼をこなして銅貨8枚を稼ぎ、外見だけでもこの町になじみたい。最初に道を聞いた人も眉をしかめていたけれど、やっぱりこの格好は奇妙なようで店を覗いている時もちらちらと見られていたように思う。僕はイケメンではないので、きっと格好が変だったんだろう。
あんまり見ていたつもりはなかったんだけど、気付けば辺りは暗くなり始めていた。
今日はこの辺で引き上げることにした。