4. 冒険者ギルド
僕達が受付の前までくると、そこに座っていた女性がぺこりとお辞儀をした。
受付嬢はとても綺麗な人であった。すらりとしたキャリアウーマンといったクールビューティーな感じである。耳が尖っているけどエルフってやつだろうか。ちなみに、他の受付ゾーンの人もみんな綺麗な人であった。こんな荒くれ者がいっぱいいそうな場所なのに綺麗どころが集まるなんてなんか不思議だ。色々問題も起きそうな気がする。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。依頼を無事にこなしてきました。これが証拠の書面です」
そう言ってマリ―が腰袋から書面を取り出して、受付嬢に手渡した。
受付嬢は受け取った書類に目をとうし、こちらに向き直った。
「確かに受け取りました。今賞金を持ってまいりますので少々お待ちください」
「あ、ちょっと待ってください。それと引き取ってもらいたいものもあるんです。タイチさんちょっとその荷物をいいですか」
マリ―はそう言って、ずっとテレサにもたらされていた荷物を僕から受け取り、受付嬢へと手渡した。 受付嬢はそれをうけとり中身をチェックする。
「各種薬草が数点ですね。かしこまりました。賞金に上乗せいたしますので少々お待ちください」
そう言って受付嬢が奥の部屋へと移動した
とりあえず僕は後回しみたいですね。そりゃそうか。
しばらくしてレジの小銭入れのようなものに何かを乗せて受付嬢が戻ってきた。
「合計で金貨5枚となります。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
そう言って、マリーは金貨を受け取り腰袋へとしまった。
おお、リアル金貨にちょっぴり感動。ピカピカしていてとても綺麗だ。
「それともう一つ要件があるんです」
「その人のことですね?」
「ええ、どうやらこの人記憶喪失でみよりもないみたいなのでギルドで助けてあげてほしいんです」
「わかりました。では、お名前などを教えて頂いてもいいですか?」
どうやら僕の番になったらしい。
「タイチって言います。記憶喪失みたいでどこからきたかもわからないし荷物やなんかも全くもっていないんです」
「わかりました。では意識を取り戻してからの経緯を教えてください」
僕は草原で目を覚ましてから今までのことを説明した。
目を覚ましたら草原にいたこと。なんでここにいるのかわからなかったこと。ウサギに襲われたこと。そしてマリ―に助けてもらってここまでつれてきてもらったこと。
ウサギのところは大分簡略化して話した。
「わかりました。それでは身分証と一週間の宿の手配と最低限の装備を支給しましょう。少々お待ちください」
そう言って受付嬢は再度奥の部屋へと入って行った。
さきほどよりも時間がかかっているようである。
待っている間にマリーに質問をすることにした。
「でも、どうして冒険者ギルドは僕みたいな身元不明の人に宿を手配したり装備を支給してくれるんですかね?すごい無駄な出費な気がするんだけど」
「それは、そういう役割を持ってできたギルドだからってのもありますけど、結果として助けた人が立派な冒険者になればギルドが儲かるからじゃないですかね?」
「なるほど。そういうものなんですね」
そうこうしているうちに受付嬢が戻ってきた。
手には少し古ぼけた剣と盾とぼろぼろな袋を持ってきていた。
「こちらが支給品の装備と、身分証です。冒険者ギルドのFランク冒険者として登録してあります」
「Fランク冒険者?」
「はい。冒険者のランクはA,B,C,D,E,Fで分かれており、それぞれ自分のランクと一つ上の依頼しか受けれないようになっています」
「へ~、そうなんですか」
「依頼はそちらの掲示板に張ってありますので後でご覧下さい」
そう言って受付嬢は僕の後ろの壁を指さした。
受付嬢の指さした方を見ると、確かに掲示板に何枚か紙が貼ってあるのがみえた。紙には色々な色の判子が押されているのがみえる。きっとそれでランクがわかれているのだろう。
僕は再度受付嬢の方へと向き直る。
「わかりました。ありがとうございます」
「わからないことがあれば私が後で教えてあげますよ」
マリ―がこっそりとそう言ってくれる。
とても心強い。
「えー、ではあとは宿ですが、身分証を町の宿屋に見せれば一週間泊らせてもらうことができます」
装備品と一緒に渡された身分証は、四角いカードのような厚い紙でできており表には名前とFランクという文字が書かれていた。また、裏を見ると、宿という文字の判子が押されていた。きっとこの判子をみせると値段がただになろのだろう。
「何から何までありがとうございます」
「いえ、仕事ですので。それから最後に一つ、装備品は一週間を過ぎると一日銅貨一枚のレンタル料がかかるようになるのでお気を付けください」
「はい、わかりました」
そう言って、手続きが完了した。
なんだか思っていたよりもあっさりしていて拍子抜けである。
こんな簡単に身分を保障したりして大丈夫なのだろうか。
「よかったですね」
「ええ、マリーさんも色々とありがとうございました」
「いえいえ、冒険者として当然のことをしたまでですよ。それではこれからどうしますか?」
とりあえず寝床の確保だろうか。
思ったよりも装備品が邪魔なのでいったん置きたかったのと、一人になってこれからどうするかゆっくり考えたかった。
僕が質問に答えようとすると、こちらに向かって誰かがやってきた。
「あー、ちょっと私抜きで受付しちゃったの?」
テレサが集団の中から抜け出してたようだ。
手にはグラスをもっており、顔も心なしか赤くなっているように見える。この世界には飲酒に年齢制限はないのだろうか。というか、さっき冒険者の面汚しとか言ってたのは何だったんだよ。
「テレサが悪ノリしてるからよ。ハイ、今回は金貨五枚になったわよ」
そういってマリ―が腰袋から金貨を取り出してテレサに見せる。
「キャー、やっぱり金貨っていいわよね。五枚なら二枚二枚でわけて残りの一枚は冒険資金にしましょう」
「ええ、そうね」
そう言って取り出した金貨のうち二枚をテレサに手渡した。
金貨をうけとったテレサはそれをにまにましながら眺め、大事そうに腰袋へとしまった。
「なによ?」
「いや、お金好きなんだな―と思って」
「お金を嫌いな人なんていないでしょ。そんなじーっとみないでよね」
じろじろと見ていたせいで不快な思いにさせてしまったようである。
「それで、あんたこれからどうするの?」
「とりあえず宿屋を確保しようと思ってるよ」
「そうですか。それだったらこの噴水の近くに“グランマの家”って宿屋がありますよ。私たちが最初にこの町に来た時に泊った宿なんですけど、おばあちゃんがすごく優しいし御飯も美味しかったですよ。ね?テレサ」
「そうね。おばあちゃんのグラタンは絶品だったわね」
「じゃあそこにしてみますね。ではちょっと行ってきます。本当にここまで連れてきてくれてありがとうございました」
僕はぺこりと頭を下げた。
「ま、次はないと思いなさいよ」
「いえいえ、これから冒険者仲間としてよろしくお願いしますね」
こうして僕は二人と別れ冒険者ギルドをあとにした