2. 猫耳少女との出会い:後編
こうして僕も奴隷を持ついっぱしの冒険者になったわけだけど。
なんだか怪しい壺を買わされてしまったような気分だ。あのシルクハットの男、最後の方はすごく胡散臭い感じになっていた。
しかし、まぁ、あまりネガティブな考えを持つのはやめよう。
僕は今日、不幸な運命を送りそうになっていたかわいそうな獣人の少女を一人救ったのだ。一人の人生を考えれば、僕の全財産であった銀貨三十枚なんて安いもんだ。これからまた無一文になったわけだけど、良いことをしたのだから最高に気分がいい。うん、最高に気分がいいのだ。楽しい、嬉しい、ハッピーだ。
僕はそう心を切り替えて少女の方へと向き直った。
少女はフードを深めに被り、きょろきょろとあたりを見渡している。
「まずは自己紹介をしようか」
僕はそっと語りかける。
少女はきょろきょろするのをやめて、僕の方をじっと見つめる。
「僕の名前はタイチ。冒険者をしてます。まだまだ駆け出しの冒険者で、今は一角うさぎを狩ったり薬草を集めたりしています。どういう因果か、今日から君のご主人様になりました。よろしくね」
僕はそう言ってしゃがみこみ、少女の方へと手を差し出す。
少女はその手をじっとみつめてから、おずおずと手を取った。
「私の名前はミーシャ。よろしくおねいがいします」
礼儀正しくていい子そうである。
僕達はぎゅっと握手をして、手を離した。
「それじゃあ、ちょっとフードをとって顔を見せてくれる?」
さっきからフードが邪魔でしっかりとは顔を確認できないでいた。
別に外見がどんな感じだろうが全然関係はないのだが、でもしかし、その素顔にちょっぴり興味があった。
「わかりました」
少女が被っていたフードを外す。
僕は、少女の姿にくぎ付けになった。
腕がもふもふとしていたし、獣人だと聞いてはいたが、それでも実物をみると驚いてしまった。顔全体を毛が多っており、思っていたよりも獣感は強い。ほとんど見た目は人間なのに耳だけ獣耳だったりするタイプではないようだ。腕と顔の様子をみると、おそらく体全体が体毛で覆われているのだろう。ぱっと見た感じは猫っぽい気がする。辺りは暗くなり始めていたので、黒目は丸いが、明るいところでは黒目が細くなったりするのだろうか。そして、気になるお耳はしっかりとした猫耳であった。
「おお~、猫っぽい」
僕は思わずそう呟いていた。
僕の言葉を受けて、少女はあからさまに嫌そうな顔をする。
「すみませんが、私はピューマ系の種族です。確かに猫系ではありますが、猫と一緒にしないでください」
「あ、ごめん。そういうのあんまり詳しくなくて」
「次から気を付けてください」
どうやら獣人にも色々とあるようである。
あんまり迂闊なことは言わないように気をつけよう。もしかしたら、耳を触ったりするのも特別な意味があったりするかもしれないら止めておくか。
しかし、この子は見た目よりもなんだか少し大人っぽいような気がする。
「ミーシャって年はいくつ?」
「十五歳です」
「そうなんだ」
おお、まぁ、思ったよりも上すぎるというわけでもないけど、見た目よりははるかに年齢が上のようだ。見た目だけなら十歳と言っても過言ではない。メルと同い年くらいに見える。
「言いたいことはわかります。私たちの種族は成人してもあまり大きくはならないんですよ。私ももう成長はほとんど止まっています」
僕が驚いているのがわかったのだろうか。ミーシャは見た目の説明をしてくれた。
でも、その説明を受けて、僕はちょっぴり腑に落ちない光景を思い出す。
「でも、なんだか会った時は男の人の足に不安そうにしがみついてるように見えたけど」
「ああ、あれはそうした方が買ってもらいやすいだろうということでそうしていたにすぎません」
「そう、なんだ」
うーん、なんだろう。
やっぱりなんだか騙されたような気分になるなぁ。絶対獣人の子供って言ってたし、成長が止まってるってことはもうほとんど成人なんじゃないだろうか。まぁ、確かに、中学生は大人か子供かって言われたら子供なんだろうけど。なんだか釈然としない。
「もう暗くなってきましたし、お屋敷の中に入りませんか?」
「あ、うん、そうだね。じゃあ、中を案内するよ」
こうして、僕はミーシャを連れて屋敷へと入ることにした。
豪華な扉を開けて、ミーシャを中へと入れる。
「わ~、すごい。見た目に負けないくらい中もゴージャスなお屋敷ですね」
「そうでしょう。なんでも領主の依頼をこなしたお礼でもらったらしいよ。僕のうちではないんだけどね」
「そうなんですか」
ミーシャはきょろきょろと屋敷の中を観察している。
「じゃあ、君の部屋を案内するね」
「お願いします」
「ここの家主が帰ってきたらここを去ることになるかもしれないから一時の借り宿だけど」
「わかりました」
そう言って、僕はミーシャを僕の部屋の隣にあるもう一つの使用人室へと案内をした。
正直勝手に知らない人を住まわせるというのは常識はずれなことだとは思うけど、事情を説明すればきっとわかってもらえると思う。少なくともマリ―はわかってくれるはずだ。
「ここですか」
「うん、僕はこの隣の部屋に住んでるから」
「わかりました。それで、今日は何をすればいいですか?」
「もう今日は遅いし、何もしなくていいよ。のんびり過ごしてね。あ、もう夜ごはんって食べてる?」
「いえ、まだです。お作りしましょうか?」
「いや、いいよ。今日は僕が作るからのんびりしててよ」
そう言うと、ミーシャは眉をしかめる。
「なぜですか?そういうのは奴隷の仕事なんじゃないでしょうか?」
「うーん、実はあんまり奴隷とかよくわかってないから、あんまり固定観念に縛られずゆるくいこう」
「そう、ですか。わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて今日はゆっくりさせてもらいます」
「うん。じゃあ、夜ごはん楽しみにしててね~」
僕はミーシャの部屋を後にして、屋敷の厨房へと向かった。
内心で僕はにやにやとしていた。
奴隷なのに優しく接する僕。そんな僕に次第に興味を惹かれていくミーシャ。そして、二人は種族を超えて愛し合うことになるのであった。
「なんちゃって。ぐふふ」
ミーシャの年齢を聞いて以降、ほんの少し、本当に少しだけだけど、ミーシャを女性として意識してしまっていたのであった。
そんな明るい将来を夢見ながら料理を始める。
ここで生活を始めるようになってから、三日のうち二日は自分で料理を作るようになった。この世界は案外地球にいたころと食材に差異がなく、ほとんど食べ物に関しては不自由することはなかった。僕は地球にいたころはほとんど料理なんて作ったことはなかったのに、ここにきてからは思いつく限り色々な料理にチャレンジしていた。そして、今日はその中でも一番上手く作れたと自負しているハンバーグを作ることにした。
「ま、本当はもともとハンバーグを作ろうと思って具材を準備してただけなんだけどね」
無一文になってしまったため、今ある食材でしか料理を作れないのである。
こうして、僕はせっせと料理を作る。
料理は火や水の魔法の練習にもなるし、一石二鳥なのである。
そして、あっという間に料理を準備した僕は、ミーシャを呼んで夕食タイムを取る。
「美味しいです」
「でしょう?僕の一番得意な料理を作ってみました~」
「でも、本当にご主人様と同じ料理を食べてよかったんですか?」
「いいの。いいの。気にせず食べてね」
「そう、ですか」
ミーシャは予想通りこんなことを言っていたけど、僕は気にせずに同じ料理をふるまった。
奴隷に対しても同じ料理をふるまう。これって、異世界のテンプレでしょう?僕は美味しそうに料理を食べるミーシャをにやにやしながら見つめていた。
あれ?なんだろう。なんだか、すごく上手く言っている気がする。
始まったのか!?僕の異世界ライフ。
こうして突然始まった僕と奴隷の猫耳少女との生活は順調にスタートしたのであった。




