夢に見たプロローグ
異世界ファンタジーが書きたいと思い、書き始めました。不定期投稿が続くと思いますが長い目でよろしくお願いします。
なんだか、とてつもなく長い夢を見ている気がする。長い長い夢の中、僕はそれが夢だと知りながら漂っていた。
遠くから、いや近くからか。誰かが僕を呼んでいる気がした。必死に叫んでいる。体は軽く、フワフワと漂っている。僕個人としては気持ちがいいのに、誰か、懐かしい響きを持つ声が無理やり起こそうとする。
その声が誰だったのか、思い出そうとしてみたが、不意に頭が痛くなったのですぐに辞めた。こんなに気持ちがいいのだから、わざわざ気にする必要もないのかもしれない。
だから僕は、もう何も気にせず、真っ白のような、真っ黒のような、カラフルのような、モノトーンのような、平坦で凹凸の激しい晴天で土砂降りな世界を浮遊した。
矛盾も相対する言葉も、ここでは全てが調和されているらしい。僕はこの世界に溢れる全てのものに目を通した。それはどれもが懐かしいようで、それでいてどれもが身に覚えのないものばかりだった。
イルミネーションが絡まったクリスマスツリー、スパイスのよく効いたカレーパン、チャイムの音が外れている学校。僕はそれらを見て、懐かしいような、ワクワクするような感覚に襲われた。
そんな中、一冊の本を見つけた。題名は『走れメロス』。いつだったか、授業で読んだのを覚えている。それ以降、父が何度も読み聞かせてくれたものだ。内容はハッキリと覚えていないが、ただ死ぬ気で走り続ける主人公に、どこかしら憧れを抱いたのを思い出した。何日も、誰にも負けない速度で走り続ける人間に、関心を持った。人はどれくらい走れるのだろうかと、ひとりグラウンドで苦悩した。そうだ、思い出した。僕はメロスに憧れて誰よりも早い走者を目指してたんだ。
そう思うとこの世界がなんなのか理解出来た。これは記憶だ。すべて僕の記憶で、全てがバラバラに飛び回っているのだ。その中を僕は泳いでいる。記憶を思い出しているのだ。
なんでこんな夢なんか見ているんだろう。そういや、今日は運動会の日だっけか。僕がいれば絶対勝てるさ。そう思って自慢の足を見下ろした。
そこでまた一つ思い出した。足が無くなっているという事を。何故だろう、どうして足がないんだろう、どこだ、どこだ。僕の足はどこだ。
死にものぐるいで足を探した。僕はいつどこで足を失ったんだ。取り戻せるのか。その思いで必死に探した。探し求めた。そうしてようやく、僕の足を見つけた。
僕の足は、大型のトラックに、むしゃむしゃバリバリと食べられていたのだ。
その衝撃に、僕は動揺を隠せなかった。そんな中、再び誰かが僕を呼んだ。今度は僕の名前ではない。
「ねぇ、君。起きて、起きて」
そんな声が脳内に木霊した。聞いたことのない女の子の声だ。誰だろうと、僕はゆっくりと目を開けた。
それに合わせて、僕の夢や記憶は薄れていく。カメラのしぼりを緩めたみたいに、視界がぼやけて、そしてピントが再び元に戻ってくる。
そして物事を認識できるくらいになって、僕は気づいた。ここが僕の知っている世界ではないということに。