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6.前田慶次郎利益

 授業の方は、剣術、槍術、弓術、馬術、格闘術といった武芸教程と生活魔法と戦闘魔法に分かれた魔法教程。


 それぞれに教官が数人付く。

 教官は怪我で退役した軍人か、老齢で退役した軍人さんがメイン。

 弓術では退役したという軍人上がりの女性教官も。

 魔法の教官はもう高齢者だけ。


 クラスは15~19歳までの生徒ばかりで、俺の稽古にはどうなんだという気がした。

 ところがねえ。


 剣術の時間には、騎士爵や平民の軍人志望の生徒たちが稽古の相手に10人ばかり名乗り出てきた。

 高級貴族のお坊ちゃまたちは様子見みたいだ。


 相手になった皆さんは、気合が空回りという感じかな。

 皆さん、力み過ぎでしょう。肩の力を少し抜いてさ。

 俺、一本も取られなかったです。


 そうしたら教官が面白がって相手をしてやろうと。

 老齢の教官殿相手に5本やって全勝。

 足を怪我して退役したという教官相手に3本やって全勝。


 槍の時間も、全く同様のパターンで同じような事の繰り返しだった。

 あれ、なんだか物足りないぞ。


 教官方は軍での階級では軍曹あたりのクラスだったらしい、高級士官ではなかった模様。

 で、ずっと軍人としてやってきたと。


 どうやらオイラ、森で40日以上の時間をVIP級有力武将の精鋭部隊と過ごしていたことで、見極め能力が凄く上がったみたい。

 相手が止まって見えるという奴です。


 基本的に本多様の陣営にいて、大物退治の局面で担当武将に同行することをやっていたから、周りにいたのは本当に精鋭のエリート騎馬部隊の皆さんばかり。

 通常任務の平均的な軍人さん達とは、練度が異質だったみたいです。

 なんせ武田騎馬軍団の皆さんに絶賛された騎馬兵ですよ、俺は。

 平均的な軍人さん相手では、物足りないみたいだ。


 強力なモンスター相手に、精鋭部隊と共に戦う。これって物凄く練度があがる。

 環境が人を作るのは間違いない。


「出雲伯爵様は魔法抜きでも大変にお強い。そのお歳でなぜそこまでお強くなれなのでしょうか?」

 教官殿にぶっちゃけた質問されちゃったよ、困ったねどうも。


「先日まで森でモンスター殲滅戦に従軍してきました。精鋭部隊の皆様に囲まれて実戦で血を流してきたのが練度向上につながったと思います」

 正直に回答しておく。


「そういえば、前田公と共に戦功随一であったとか。武田公からもご褒美を賜った由も」

 教官がオズオズと生徒に尋ねてどうすんのよ。

 この爺ちゃんは大人しいみたい。どっかの爺ちゃんとはえらい違いだ。


「ええ、前田公からは備前兼光を頂戴いたしました。武田公からは扇子を頂戴しております」

 このあたりの話は従軍していなかった人達には、まだ広がっていないみたいだ。

 そんなに日も経ってないし、当然なのか。

 劇にもなってないし。絶対に演劇化するなよ。


 そうか、高級貴族のお坊ちゃま達は実家から言われていたのかもしれない。

 間違っても手を出すなと。

 有力な武将の皆さん揃っていたから、一部には噂が流れただろうし。


 前田と武田というBigネームが飛び出すと、教官の皆さん急に憧れの眼に変わっちゃいました。

 そりゃ、戦場でこうした雲の上の方からご褒美もらうなんてのは簡単にはできません。

 兼光と扇子は王都別宮の宝物殿で、昨日から一般公開を始めました。

 完全に宝物扱いになるようなもんです。



 弓術と馬術の時間は楽勝ですね。

 まあ、得意ですし。今更何もないという感じ。

 むしろ模範演技を披露する側になってます。

 学校に何しに来てるんだろう、俺は。


 でもねえ、格闘術はいけません。

 そりゃね、12歳の子供が大人相手に取っ組み合いしろと言われても困ります。

 ひたすらスピード重視で、避ける、躱すに徹すると簡単には捕まらないけれど、勝てないからつまらん。面白くないのですよ、全くなあ。


 次行ってみよう、次!


 お楽しみの魔法の時間だ。


 この世界では魔法を使えるのは10,000人に1人くらいの割合。

 結構いる。

 でも、そんなに凄い魔法でバンバン相手をやっつけるというものでもない。

 大部分は一応普通の人にはできないような、ちょっとした事ができるくらい。

 弓の届くような範囲内で、熊や猪を黒焦げにするとか、切り刻むという程度の威力の魔法が使えればとっても立派な高位魔法師として扱われる。

 そんな立派な魔法師は魔法師の中でも100人に1人位しか出ません。


 有力な騎士と並の魔法師が決闘やっても、下手すれば騎士が勝つという程度の力関係になる。


 でも、魔法の場合には空を飛べるとか、隠形術で姿を消すとか、瞬間移動とか。

 防御面でも障壁を張ると簡単に弓を弾くし、ある程度の攻撃魔法も無効化できる。

 極め付きは治癒魔法か。


 要するに騎士連中への支援部門としての魔術師集団として捉えると、とても有効な使い方ができる。


 そして、今一つ威力不足の攻撃魔法でも、魔法師の持つ魔力だけではなくて、魔石の魔力を併用すると俄然強力な魔法を行使することが可能になる。


 優秀な魔法師がワイバーンクラスの魔石を使って火炎魔法を行使するなら一撃で直径50m範囲を焼き払う。ワイバーンの魔石一つで、それを10発くらい撃てるパワー源になる。

 大きな魔石が高価に取引される。

 それは戦場のあらゆる局面をひっくり返す可能性があるからです。

 もっとも、上位ドラゴンが出てくると例外だと、前田家の皆さんが実戦で証明してしまいました。


 優秀な武将が適切に魔術師と魔石を運用するなら、人間同士の戦場を簡単に支配できる。

 本多様が王都の別宮にある8個の魔石を見て慌てたのは、ご本人がそれを運用するならどんな戦場で、どんな局面であっても、戦況を確実に支配できると理解したからです。


 上杉様が俺に気を使うのは、与力として確実に押さえておきたいのです。

 絶対に手放せない存在なのです。


 10万人単位で激突する大会戦であっても、魔石が数十個あれば戦況は変わる。

 この世界は、そうした世界です。


 あの森で有力所の武将連中にバランス良く大物を分配する。

 それはパワーバランスを上手く配分しておくという意味合いでもあります。

 王家の侍大将がそれを上手く割り振る。それが重要だったんです。


 ましてや上位ドラゴンの超巨大魔石に至っては、王家で独占しておかないといけない戦略兵器になる。

 あれは門外不出の切り札なのです。

 それを調達できる人物が突然現れる。完全に突然変異だと認識されています。


 話を戻そうかな。


 俺のクラスで一応派手な魔法を使えるのは3人程。

 でも、短時間にそう何度も使えるものでも、そんなに強力という事でもない。

 火炎放射器みたいに豪勢に火がでるけど、一瞬だけとか。

 竜巻みたいなものが出せるけど、それも一瞬だけとか。

 そういうレベルなので、切り札というよりも牽制用という感じみたいだ。


 もっと地味というか、チョロチョロという感じの術を使えるという点ならクラスの全員ができる。


 ある意味では魔石を使うのなら、一気に化けるかもしれない。

 やりようによっては有望になるかもしれない集団という訳です。


 生活魔法と戦闘魔法に分かれている魔法教程だけど、生活魔法とは正面戦闘用の魔法以外の全般を差す言葉らしい。


 具体的には飛行術、隠形術、瞬間移動、治療術などの支援系魔法がメイン。

 初級の魔法入門は既に終了している課程になる。


 もっとも、全員が飛行術を使えるとか、治癒魔法を使えるという事ではなくて、使える奴は使える。使えない奴は使えない。

 それでもどういう術なのか、理屈的にはどうなっているのか。

 なんかの切っ掛けで使えるようになるかもしれないから、そうした術があるということを全員に認識させておこうという意味合いも兼ねている教程らしい。


 俺の場合は、召喚魔法しか使えません。

 俺自身で派手な火炎だとか、雷撃だとかは一切ダメ。

 治癒魔法なんてのも、一切ダメです。

 空飛ぶのは埴輪にオンブして貰ってますよ。


 要するに魔法師的にはどうなのか?という程度に、能力的には低いのです。

 やーい、落ちこぼれ!と言われても、文句言えません。その通りです。


 でもね。

 えへん。


 上位ドラゴンを2匹殺したら急激に能力があがっていました。

 1匹殺しただけでは駄目でしたけれど、2匹殺した今なら上位ドラゴンを召喚して使役できる身の上です。

 俺的にはドラゴンを召喚して、使役できるのですよ。


 高位ドラゴン魔法を行使するドラゴンを上位ドラゴンと言うのです。

 魔法使わないドラゴンなら、“もどき”です。


 俺様の場合は、上位ドラゴンを使役して高位ドラゴン魔法を行使させることができる!

 ぬははっ。

 ドラゴンブレスをぶっ放せるんだぜい!

 俺様、無双状態。


 面白かったのは、概ね殺したドラゴンと同等かそれ以下のドラゴンを自由に召喚できるようになったこと。

 逆に、本宮奥の神龍なんてのは、全く及びもつかないと理解できてしまう。


 頭の中に何を召喚できるのかリストが浮かび上がるような感じ。

 そして、それぞれに何ができるのかも頭の中でピックアップできる。

 これは便利です、召喚魔法万歳!


 数キロ単位の範囲内を火炎で焼き払うのも、雷撃で打ち払うも、衝撃波で吹き飛ばすも、凍り付かせるのも自由自在です。


 瞬間移動?楽勝です。

 隠形術?楽勝です。

 治癒魔法?死んだ奴でも甦らせるよ。

 俺自身死んでも再生できる術をかけてある。怖いから効果は試せないけどね。

 でも、不老の術はないみたい。

 上位ドラゴンって長寿だけれど寿命はあった。加齢を遅らせる術はあるけれど、完全に止めてしまうのとは違うみたい。


 ドラゴンを召喚しても隠形状態で魔法を使わせると、俺が魔法使っているように見えるのですよ。

 無能な召喚魔法専門術師、転じて無双状態。

 内緒にしているけどね。だって、誰も聞いてこないんだもの。気が付きもしないし。


 かくして、生活魔法の時間も戦闘魔法の時間も余裕綽々だぜ。むっふふん。

 お爺ちゃんたちの教官魔法師さん達、目がテンでした。


 4日程で一通りの教程を一巡したけれど、格闘術以外は楽勝ですね。

 なんだか、これだと学校に来る意味ないよねえ。

 全然、修行らしくない。剣や槍の稽古にもなってないくらい。

 かといって、十六夜とイチャイチャできるでもないし。


 救いは、珍獣を見るような眼差しから、妙に尊敬された態度で接して貰うようになっていることくらいかな。

 生徒に限らず、教官までが。


 学校だと稽古相手がいないので困る。

 どうしたものかと、上杉様に正直にご相談してみました。


 そうしたら最悪の暇人に聞きつけられてしまいました。

 前田利益様。


 前田利長様の甥御さんでありながら、不仲で現在は上杉家の家臣。

 無双の武芸者と同時に粋人としても高名で、歌人との交友でも知られた方です。

 古文書を借りに神社にもお顔を出されることもありまして、顔なじみのお一人です。


「伯父御が世話になったな、稽古相手に困るなら拙者が師範をつとめよう。武芸だけではなく詩歌や茶道も師範をやろうではないか」


 楽しそうに快心の笑顔です。

 なんだか手頃な玩具が見つかって嬉しくて仕方がないという風情です。


「うむ、よかろう。師範として推薦状をしたためておく」


 上杉様ってば、放って置くと騒ぎを起こしかねない御仁を俺に投げたな。

 うん、間違いなく投げられたなこれは・・・。


「魔法の教官には、心当たりはございませんでしょうか」


 懸案はもうひとつあるんです。


「天海殿に手配していただこう、心ゆくまで修行せよ」


 うわー、話が大事になってしまいました。

 教訓、相談事は相手をよく見てからね。



 んで、翌日です。


 もうなんと申しましょうか。

 やる気満々、完全に本番の実戦用装備ですね、前田様。

 戦場に決戦やりに来たかのように、気合入りまくった顔しています。


「いざ、出雲殿。魔法無しの武芸勝負と参ろう」


「いや、ちょっと待った。今、勝負って言ったよね。勝負って。

 勝負じゃなくて稽古だから、稽古。そこの所間違えないで~」


「問答無用、ぬああっー」


「だー。もう、どうにでもなっちゃえ!」


 赤い甲冑に肩口からは鳥の羽をあしらったような飾りをつけて。

 手にするのは勿論、皆朱の大槍。

 名馬に跨って疾駆する姿は、これぞ歴戦の騎士という前田様の華やかさ。


 対して、俺はというと相変わらず軽量の革甲冑。

 でも、今日は新調したトリケラの革製で丈夫な奴ね。

 見た目でいきなり負けています。

 手にするのは弓矢です。

 前田様は突撃かましてきていますが、こちらは距離をとりつつ弓で勝負掛けます。

 こちらの馬だってご自慢のご神馬です。

 前田様の野風にだって、馬の脚ならそうそう負けていません。


 距離は開かず、狭まらずという状況で、俺は早打ちの矢を2本かます。

 1本目は上体を伏せて避けて、2本目は槍で叩き落とす前田様。


 避けている隙に距離を取って、さらに矢を放ちます。

 最初から馬を殺すつもりで射かけるなら勝負も楽ですけれど、流石に実戦でもないので自粛しておきます。


 本人を狙う以上は、矢を躱す、叩き落とす、という事が手練れの前田様には可能です。

 奇襲で射かけるのではなく、見えている場所からやっているのですから、タイミングもつかめている。


 残念ながら矢が尽きてしまえば、弓騎兵はお役御免。

 仕方ない、圧倒的に不利ですが皆朱の槍相手に、せめて一太刀なりとも当ててやろうじゃないですか!


 正面から交差するように槍を合わせると見せかけて、棒手裏剣を投げ込む卑怯な俺。

 それを前田様が弾く間に。脇をすり抜けて左後ろを取る。

 そこからこちらの馬上槍を叩き込みます。


「せいやっ」


 目一杯の一撃を入れて行きますが、さっすが戦場往古の強者です。

 ガキごときの軽い槍なんざ、屁でもないとばかりに弾いてくれます。


 こちらは断固後方に占位しておいて、槍を出し続けます。

 こちらの攻撃は弾かれる一方。

 あちらの攻撃をこちらがまともに受けると、手がしびれることこの上ない。

 5回、6回と打撃を食らうと、手がしびれてダメ。

 最後は槍を叩き落されます。


 慌てて距離を取って、今度は抜刀。

 兼光ではなくて日常用の普通の刀です。

「この野郎!」と怒声を上げつつ突撃を敢行。

 皆朱の槍に刀を叩きつけること2回で、むなしくポッキリ。


 しつこく脇差にチェンジして、突撃再開。

 でも、これも飛ばされて。


 ヤケクソになって、馬上から跳び蹴りを敢行。

 革足袋の底には、滑り止めの鋲が打ち込んであるのさ。

「食らえ!」


 ・・・食らったのはフル・スイングの朱槍でした。

 痛いつーの。


 5m位すっ飛ばされて地面に激突。

 むむ、我轟沈す。

 目の前真っ暗っす。

 ああ、これ駄目。


 気が付いたら、治癒魔法が得意なクラスメイトの女子の膝の上でした。


「・・・あれ?ああ、しっかりと吹き飛ばされたのか俺?」


「はい、意識が飛んでいたようです。外傷はないようですけれど、お気分はいかがですか」


 あれ、ちょっと可愛いじゃないの。


「ああ、世話をかけたね、有難う。気分最悪。くっそう、せめて一太刀入れたいね」


 脱がされていた革兜を手に取って立ってみる。

 脇腹がズンと痛い。まあ、骨は往って無いでしょう多分。


「で、あの死屍累々の光景は?」


 訓練場はぶっ倒れているクラスメイトと見覚えのないような顔の数々。


「伯爵様が前田様と1時間くらい一騎打ちをされておられたら、クラスの男の子たちの士気が上がって次々に挑んだのです。皆さん、鎧袖一触でしたけれど。

 そうしたら武芸専科クラスの生徒たちもやって来て」


「ああ、前田様は活き活きとしておられるね。何で、ああ楽しそうかな。

 ええい、俺はつまらん。もう一丁だ。訓練刀はどこだ?」


 折れた刀の代わりに訓練刀を腰と背中に2本装備。

 その上で馬上槍を抱えて、再度見参。


「前田殿!出雲貴志、いざ参る」


 今度は後ろを取らせて貰えず。

 ひたすら正面からの打撃戦になりました。


 俺でもね、槍で熊の魔物くらい始末したことがあるのよ。

 そう、目の前の奴は無双の武士ではない、野生の熊なんだと自分に言い聞かせて。


 ひたすら熊の爪や牙を躱して、もう一つ躱して、「そりゃっ」と心臓を狙って刺突を入れて。

 躱されたら、もう一回繰り返して。

 もう無我夢中です。


 最後は槍が折れて。

 訓練刀も2本とも折れて。

「参りました」

 いやー、勝てませんよ。魔法無しじゃ、全然ですね。


「2本目は面白かったな、突きが急に鋭くなった。悪くない仕合だったぞ」


 にっこにっこの前田様です。


「いやー、以前神社の森で熊の魔物に槍で挑んだ時を思い出して」


「お?俺は熊かい」


「でっかくて強いし」


「あははっ、そりゃ傑作だ」


 本当に楽しそう。多分、前田様って人生を楽しむ達人なのだろう。


 腹が減ったので、訓練場で斃れている連中を叩き起こしてメシにします。

 まあ、なんとなく戦場のメシが懐かしくなったので、今日は叩きのめされた連中全員で同じ釜の飯でも食いますかね。


 訓練場に即席竈をでっち上げて、米と味噌と猪肉に野菜を召喚。

 猪汁で飯。

 ちょっと前には、こんなメシばっかりだった気がする。


 思う存分に戦働きして、生き残ったら、肉食って同僚と生還をよろこんで。

 うん、わずかばかりの軍務経験の思い出って、そんな感じ。


 軍人上がりの教官連中が、なにか懐かしそうにテキパキと飯炊きを手伝ってくれて。

 生徒達と車座になって座ってメシを食いながら教官が昔話を始めて。

 それをまた前田様が嬉しそうな顔で眺めていて。

 なんか、戦働きってのも悪くないかなと思う。


 途中から天海様がお弟子さんを連れて乱入して。

「おい、俺達にもメシを食わせろ」ですって。

 王宮筆頭魔術師様も、懐かしそうな嬉しそうな顔している。


 俺は全く気が付いていなかったのだけれど、クラスの女子から奥様が遠くから見ておられましたよって。


 普段なら一緒に食堂でご飯を食べていたから、俺の様子を見ていたんだろう。

 なんなく近寄りがたい雰囲気だったのかな。


「戦わない私が入ってはいけない場所のような気がして・・・男の方が少し羨ましいです」


 流石に嫁さんは空気を読んでくれていたみたいだ。はあ、いい嫁だなあ。


 前田様は沐浴して着替えて、雰囲気を一変。

 戦装束から粋人モードに。


 午後からは女性専科で、連歌会と茶席。

 華道教室でお花を活けたら、その花を愛でてまた一句。

 普段なら、女性の世界は高級貴族家、下級貴族、大商人と身分差別が結構キツイものらしい。

 それが前田様にかかると、ふわりとした空気で全体を包んで普段発言できないような娘も巻き込んで和やかな歌会になって。

 笛や琴まで持ち出して、舞の披露まであったそうだ。

 舞を披露したのは出雲の巫女だったって話-おい、嫁よ。学校で何してんの。

 気が付いたらいい時間になっていたそうだ。


「風流という言葉の意味を初めて知りました」

「粋とはこういうものなのですね」

「すばらしい歌会でした」

 女性軍絶賛だったようです。


 嫁さんに言わせると、「前田様は教養の幅と奥行きが大変に広く深い」という事らしいです。

 むう、槍で無双して、教養と粋もばっちり体現していると。

 俺はそういう大人になれるのかいな。絶対、勝てないよな。


「あなたは、あなたです。

 私に示してくださった誰よりも深い愛。

 そして龍に立ち向かう勇気と天下無双の魔法。

 あなた以上に私を慈しんでくださる方など、どこにもおりません。

 私はずっとあなたのお傍にいます」


 うう、ありがとう、いい嫁だ。十六夜にも再生魔法はかけてあって、万一の時には安心さ。

 でも、何もないのが一番だけど。




「前田様、午前中は俺達相手に大暴れして。

 古参の元軍人たちの昔話を生徒達と一緒に聞きながらメシを食って。

 午後からは、貴族の子女の皆さんに囲まれて雅やかに歌会やって。

 人生の達人ですね。


 武芸クラスの生徒からは尊敬されて、女子専科からは憧れを持って迎えられる。

 ああ、ソウイウヒトニ ワタシハナリタイ。

 でも、無理だよなあ」


 翌日、クラスで平民の軍人志望のあんちゃん相手にそんな話をしていたら。


「あの、伯爵様。

 やんごとないご令嬢たちから側室になりたい貴族NO.1の呼び声高いのは、どこのドナタかご存知でしょうか?」


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