5.出陣
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
上杉家忍び衆による報告書抜粋
(陛下と家臣団の会話)
本多忠勝の意見
・子爵から伯爵への昇進。
・120年ぶりの武功に見合う土地というのは判断に悩むので領地は与えず。
・ドラゴンの素材に見合う金銭を出し惜しむと王家の面目にかかわる。
・素材に見合う程度の金銭を下賜すべき。
・将来は近衛騎士団に迎えるべき。
陛下の言葉
・恩賞はそれでよい。
・この先に竜殺しの力をどう使っていくか、近衛なのか宮廷魔法師なのかもっとよく検討せよ。
筆頭宮廷魔法師天海の意見
・あれだけの魔石があると、ほぼ全ての局面であらゆる魔法の行使が可能になる。
・王都の守護用に大規模な結界を張る。
・あるいは北方の国境に結界を張る。
・移動手段を検討して攻城用大規模魔法の魔力源に使用する。
・国土維持という方針を維持するのか、国土拡大という方針に舵を切るのか。それにより使い方も考慮する必要があるだろう。
・竜殺しは宮廷魔法師として採用すべし。
再度、陛下の言葉
・優先順位として、王都の守護結界、次いで国境線の防護、攻城兵器として研究せよ。
・将来に関しては今後の本人の適正を考慮せよ。
本多正純財務卿の意見
・子供に多額の金銭を下賜するのかいかがか。
・恩賞なら王女を降嫁すれば十分面目を保てる。
再度、本多忠勝の意見
・武功に女子供を与えて報いるだけでは、王家の威信にかかわる大事になる。
宰相の意見
・恩賞としては伯爵への昇進と金銭。
・今後の進路としては、学園に通わせて適正を見てから判断。
・近衛騎士団長でも、王家筆頭魔法師でも、お役に立つ立場に据えればよい。
陛下より明日謁見を行うとご下命。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
メデタク伯爵になりまして、そして褒賞に20年分割払いで500億円も頂いてしまうことになりました。
ワイバーンを狩って喜んでいたのは、つい最近の事だったんですけれどねえ。
もう、金銭感覚がバカになってしまいそうです。
ワイバーンの串焼き何本買えるんだろうか。
そんなに食えないよなあ。
そうだ、十六夜にかわいい服を沢山買ってあげよう。
金剛石や金のアクセサリー買おうね。
それがいい。
うん、それがいい。
わーい、十六夜とお買い物に行こう!と、はしゃいでいたら・・・・。
完全武装の本多様が怖い顔でおいでになって、またドラゴンの森に連行されました。
折角、手の出なかったドラゴンが消えたのだから、この際に王都近郊の森から魔物を一掃しておこうということになったそうです。
そりゃ、馬で3時間の場所で魔物にウロウロされたら困りますよね。
俺も貴族として王家の命令に従って従軍命令という訳です。
軍務系の家柄の皆さん張り切って兵を出して来て、都合5万人ほどで殲滅戦を仕掛けるのだそうです。
取りあえず俺にはワイバーンの翼をヘシ折って飛べなくしておくこと、ティラノの足を折って走れなくしておくこと、他にも大物がいたら動けない程度にしろと。
今回の軍務の場合は、王家からの軍事費用は一切提供されない。
狩り上げた獲物で軍事経費を賄う必要があるそうです。
で、俺には目立ち過ぎるな、他の家に手柄を回してやれと。
どうせ、一生掛っても使い切れないカネなら手に入れた訳です。
後は同僚の皆さんも豊になるチャンスをやれと、本多様は言いたいらしいのですね。
「はい、わかりました」
と優等生モードに切り替えて。
まあ、ぶちゃけ本多様が怖いだけです。
前回のように偵察隊を出して、大雑把に敵情を調べて。
本多様が各武将に担当を割り振って。
やばそうな敵相手には埴輪部隊を同行させてと。
召喚術はいいなあと思うのは、自分自身は高見の見物モードなところです。
まあ、埴輪にダメージが入ると、俺も痛い思いはするけれど。
予想外の大物としては、沼地に10mになるような大鰐がいた。
魔石が獲れていたからやっぱり魔物なんでしょう。
革と肉もいい値段になるそうな。
あとは巨大な角を持つトリケラ。これなんかは角が非常に高価だそう。
こうした連中にはある程度ダメージ入れておいて、止めを譲るカンジで。
人間型というかオークやオーガもいたけれど、こうした相手は普通に完全武装した兵士で隊列組んで組織立って戦闘するなら負けないそうで、俺はノータッチでいいそうです。
逆に、猪や鹿なんかの魔物を狩る場面では騎兵として参加させて貰いました。
騎馬からの弓矢でやる狩りは好きなの。
やっぱり、お肉はこうして自分で獲った奴が最高だと思います。
今回は5mほどの大猪の目玉経由で脳みそを直撃できたみたいで、毛皮に一切傷つけること無しに仕留めることに成功しました。
同行していた井伊家の家臣団一同の皆さんから、これは大絶賛頂きました。
魔法無しでも一流の騎兵じゃないか!って。
ふふん、剣や槍はヘボだけど弓矢は上手いのさ。
弓騎兵ってカッコいいでしょ。神社で流鏑馬の練習したのは伊達じゃないぜ。
出雲一族は弓騎兵って噂でも立ててやろうか。爺ちゃんも流鏑馬で見事に的に当てまくっていたもん。
んで、一流の騎兵って噂が流れたら早速食いついてきたのが、武田騎馬軍団の雄である山県家。
鹿の魔物を見つけたから狩りに行こうって、お誘いがかかりました。
ホイホイとついて行ったら、出てきたのはデッカイ熊。
まあ、いいんだけどね。
熊さんは立ち上がってこちらを威嚇したので、これ幸い。
動かないならただの的です。サクッと猪と同じ運命を辿ってもらいました。
武田家はどうやら戦場での報告網はすばらしいみたい。
すぐさま武田信玄公からお呼ばれされて、お褒め頂いて扇子を頂きました。
これって、正真正銘自慢できるよな。
うん、俺って偉い。
武田家としても、与力だった馬場家の不祥事の事は水に流して欲しいのでしょう。
俺も武田には遺恨はないし。
素直に信玄公の前ではしゃいで感謝しておきました。
信玄公からご褒美貰ったとなると、黙っていられないのが謙信公です。
それはねえ。
鹿狩りするから付き合えと。
内心、有名どころの二人からご褒美となりゃ、どこ行っても自慢話ができるじゃんかとウキウキしていたら世の中は甘くない。
本多様から伝令が飛んできた。
20mクラスの上位ドラゴンが出てきて、前田勢が大苦戦していると。
15m埴輪を召喚して背負って貰って現場に急行。
ああ、なるほどね。
機動力が高い奴が飛んでいると弓矢では全く話にならない。
そして、前田家魔法師軍団の気合の入った大規模魔法でもドラゴン相手には弾かれる。
これが永年ドラゴンに苦しめられる理由なのかと実感です。
可哀そうに前田勢は結構な損害を出しています。
この戦では一番の被害じゃないのかな。
15m埴輪を20体召喚して、一気にドラゴンに飛びかからせます。
空中で翼と尻尾を取り押さえておいて、そのまま首の骨をへし折らせてしまう。
途中で埴輪3体がドラゴンの火炎攻撃をまともに受けて脱落。
これは俺にも痛みがまともに返って来た。ううっ、痛いって。
やっぱりドラゴンの攻撃は舐められない、近距離の一撃なんか食らえば死ぬほどキツイ。
前回のドラゴンは頭を吹き飛ばしたので、角や牙、眼球に脳みそが取れなかったと残念がられたので、今回は綺麗な死体で確保してみます。
筆頭魔法師の天海さんに喜んでもらえるかな。
俺としては、非常に痛かったけれど我慢の子。
天海さんはわからないけれど、前田利家様には大いに喜んで頂けました。
「あのままではどれほどの損害が出たことか。やはり魔物の森は恐るべし。
出雲殿には家臣一同大いに助けられた。このご恩は前田家末代まで忘れない。
出雲殿にはいつか必ずこのご恩をお返ししよう」
なんと利家様からは腰に差していた刀を頂いてしまいました。
備前兼光、俺になど勿体ないくらい本物の名刀です。
これは神社の宝物庫で保管するようなお宝ですね。
信玄公といい、前田公といい。
今回も大変に凄いご縁でした。
本当に。
気になってしまったのが、ドラゴンは全部俺に持って行けと前田様は仰る。
でもなあ、前田勢って大損害を出している訳でして。
獲物が無いと今回の戦は大損です。
そのために皆さんに分け前が渡るように調整している面もあったのに。
どうしたものかと謙信公にご相談。
「こうした場合って、俺が全部持って行って本当にいいのでしょうか、凄い刀までもらってしまって・・・・」
「戦働きは、所詮そうしたもんだ」と、笑われたものの。
そこは大人物である謙信公です。
本多様と話合って頂いて、損害の穴埋めを兼ねてドラゴンの売却代金3割相当を前田家の戦功として認めてもらうよう、陛下には報告をしてくれる事になりました。
ドラゴン退治は出雲と前田家の共同作業という建前にしてしまう訳です。
戦場での侍大将である本多様には、そうした認定をする権限があると。
「お主はまだまだ若く未熟だ。悩み事なら大人を頼れ。それもワシらの仕事だ」
ああ、お二人ともかっこいいなあ。
俺もこんな大人になりたいかも。
結局、50日間かけてワイバーン101体、ティラノ92体、大鰐22体、トリケラ178体を中心にその他沢山の収穫を得て、王都に凱旋しました。
論功行賞では出雲と前田がドラゴン退治で戦功大とされ。
他の皆さんも、それぞれ大物をバランスよく配分されていますのでホクホク顔。
ドラゴン以外の素材は王家出入り商人たちが入札して引き取って行きます。
その売却代金は武将達の戦費であり、儲けでもある。
ドラゴンに関してだけは一度王家に献上という形になります。
魔法の媒体として使える部位については王宮魔法師の手元に、武器や防具の素材になる部位は騎士団にまわされる。
肉などは王家の消費分を除いて、出入り商人が引き取ります。
で、ドラゴン全体の買取額に相当する金額を俺と前田家に分配して下賜されると。
今回のドラゴンは前回よりも遥かに小型だけれど、外傷は全くなしで綺麗に仕留めてあるので素材面では貴重なものが沢山入手できたとか。
天海さん、ホクホクです。
「伝説の素材が手に入った!」研究職の魔法師さん達は大興奮だそうです。
上位ドラゴンの脳や眼球なんて、間違いなく伝説級の素材だそうです。
しかも、無傷。
ひょっとして、禁断の不老薬ができるのかも・・・と怪しい話まで。
ドラゴンの評価額は120億となって、俺に80億で、前田家に40億という分配になりました。金銭感覚がバカになって行く・・・。
利家様からは、あらためて感謝されました。
戦功大で名誉を授かって、しかも、この金額でなら損害もカバー。
「儲け過ぎだろう前田」と、謙信公は笑っていました。
謙信公はトリケラをガツンと持って行って懐はホクホク。
本多様からは、お主のお蔭で大助かりしたと感謝されました。
武断派連中は皆で潤って満足。
そして、アノ森から脅威が無くなったから、移民で人を入れて、開墾して田畑を作って、町を起こす。それで文官派連中の利権が出来てくる。
王家としては家臣連中が潤って、町が出来て民も潤う。しかも、ドラゴン素材でこれから面白いモノまで出来てくる。
たったの50日でみんな大儲け。
結局の所、誰も不満ナシと良いことずくめだと。
こうした全体の調整が普段は重臣の悩みどころになるそうです。
なんだかんだと50日も男だけの世界で野営して、毎日ひたすら塩味の強い肉ばっかり食っていて。
ああ、愛しい十六夜の顔を見たくで仕方なかったです。
もうね、5日目には禁断症状。
逢いたくて、逢いたくて。
十六夜から貰ったお守り眺めて毎日泣いていました。
でも、毎日森の中でひたすら獣を殺して、血を見る暮らしです。
アッチにデカイのが出た、今度は向こうだと。
血走った目で、ゴツイおっちゃん達が殺気をまき散らすんですよ。
んで、夕方には三々五々集まって酒飲んで気勢を上げる。
もう、とにかく慣れないこと。
一人ぼっちでマイペースに狩りをしていたハンター時代が妙に懐かしい。
大軍団の集団戦というのは良い経験なのか、それとも俺はやっぱり軍人向きじゃないなと確認する時間だったのか。
軍務が終わってくれて大金稼いで、愛しい妻の元に帰った時には心底泣けました。
十六夜ってこんなに細かったんだっけと、久々に抱きしめた彼女に驚いて。
「おかえりなさい、ご無事でなによりです・・・」と言ってくれた彼女に、何とも言えない万感の思いみたいな奴がこみ上げてきて。
玄関先で彼女を抱きしめて暫く泣いてました。
今回は彼女の方が俺の事を心配して、積極的に俺の面倒をアレコレ焼いてくれようとしてくれました。
何をするにも十六夜が傍にいてくれる暮らし。
やっぱりこれが一番ですよ、ホント。
翌日には、お出掛けして服とかアクセサリーやら一杯買って回って。
おいしいご飯を食べて、スイーツも食べて。
路上の大道芸を冷やかしたりして。
でも、怖いから劇場へは行きませんでしたよ、ドラゴン退治の物語が上演されていましたけれど、ちょっと精神的に耐えられそうにないです。小心者ですいません。
何というか、日常生活が戻った感じです。
考えてみると、彼女とゆっくりと遊んだことなんて余りなかった。
血生臭い危機一髪の印象ばかり。
良くないなあ、こういうのは。
愛しい嫁さんと、幸福を味わう暮らし。
幸せだけの記憶しかないような生活。
そんなのに憧れていたのになあ。
ヨシ、これからはそういう暮らしを目指すんだ。
・・・なんで、この国の人間は俺たちに冷たいのだろうか?
家に帰ったら、学校に入学しろと通知が来てました。
手続きは終えているから、明日から学校に顔出せと。
散々従軍させて、コキ使っておいて休みは一日かよ。
おい、責任者は誰だ!文句言ってやる。
でも、本多様だったりするんだろうな、文句言えないじゃんか。
・・・怖すぎるおっちゃん。
不満タラタラ、やる気ゼロながら案内を読んでみると。
王国学校としては、10歳くらいからの入学を想定しているけれど結構自由らしい。
基礎課程でまず2年間。
読み書きと計算、道徳。
続いて中間課程を2年。
これは武術初歩と魔法初歩、そして法律・規則といった課程。
応用課程を2年間。
武官系か文官系の選択があって。
武官系の場合は、武術/魔法の応用編。
文官系の場合は、刑法、経済商法、国際法といった専門分野。
女性の場合に限っては、料理、裁縫、音曲、詩歌文学、華道、貴族作法といった女性専科の選択もあり。貴族女性の花嫁コースみたいなものらしい。
高級官僚を目指すなら卒業後は武官の場合は軍学校、文官の場合は法科学校か経済商科学校に進むらしい。
魔法師の場合は、魔法高等学校というのがある。
俺の場合は一応ハンター教室を出ているので、応用課程の武官コースからの編入という指定になっている。
モンスター・ハンターの場合は、依頼書を読んで内容を理解して、カネの計算をちゃんと出来て、最低限の法律を守れという教育をされる。まあ、基礎課程と中間課程の促成栽培みたいなことだったんだろう。
十六夜は女性専科の指定だ。良い処のお嬢様だから今更学校なんかいらないのだけれど、俺といる時間を増やすためだけです。お腹が大きくなったら辞めりゃいい。
何故かお約束のごとく、早朝にお迎えがやって来て連行されました。
今度は予告付な分マシでしたけれど。
学校自体は結構豪華な造りで、建築物も校庭の造作も予算たっぷり使ったみたい。
本来なら厳しい入学試験がある。けれど、貴族の場合は縁故で通ってしまうのが普通だとか。
俺達みたいな強制入学は稀だろうキット。
武官コースで1学年300人。文官コースでは100人。
まあ、武官は潰れやすいということでしょう。消耗品扱いなんだろうなあ。
女性専科は1学年40人という狭き門になる。
お嬢様にはステイタスになるみたいだ。
実際に行ってみると俺の場合は50人クラス単位で動く。
武官コースといっても女性が1/3くらい。
騎士の家の女性だとやっぱり騎士になることも多いのと、魔法師も混在しているからということみたい。
俺のクラスの場合は武術と魔法の両方ともやるクラスという扱いだとか。
他には武芸専門とか魔法専門のクラスもあるそうだ。
結構、両方使えるこのクラスってレベル高いのかな。
このクラスだと年齢層としては15歳から上。武芸と魔法両方使う奴の教育は時間がかかるらしい。
最年少は、12歳という俺でした。イジメですか、宰相閣下。
クラスに行って自己紹介させられたら、野郎どもからは劇見たぞーっと騒がれた。
竜殺し!チッコイ!チョイ!とか、そんなキーワードなんて忘れなさい。
どんな劇になってんのよ、一体さ。
あ、でも聞きたくないかも。絶対に見ないぞ。
女生徒の中には劇場でスポットライトを浴びているお二人を見ました♡と騒ぐ奴もいるじゃないの。
えーい、忘れてしまえ。
是非、忘れてください。
貴族の当主本人というのは、クラスには俺だけでした。
学校全体でも俺入れて3人らしい。幼くて家督を継いでいるのは要するに親が早死にしたんでしょうね。
十六夜は40人で1クラス。
末の王女様が上の学年にいる。やっぱりハイソなクラスなのね。
他にも高級貴族子女が大勢。出雲の娘というのは高級ブランドですよ。
彼女も自己紹介して、出雲貴志の妻と名乗ったらキャーッと騒がれたそうだ。
完全に悲劇のヒロイン。
間違いなく、その通りなんだけれどね。最初の劇は結構よくできてたし。
体の調子に関しては、皆さんから心配いただいたようです。
竜殺しの英雄の妻というよりも、やっぱり女性には悲劇のヒロインなんだろうか。
前田家の縁者という娘さんがいて、親戚一同助けてもらって感謝していますと挨拶されたとか。貴族子女のコースだと、そういう人もいるだろうね。
巫女である十六夜は、音曲、詩歌文学、華道、作法などは厳しく躾けられていて、早々に一目置かれているようだ。
高級貴族の子女だと料理なんてやったことが無いという子が多くて驚いたそうだ。
これが騎士爵位の娘だと結構達者らしい。
クラス統括の教官に言わせると、十六夜はすごく優等生になるようだ。
何故入学したの?学ぶ物などもう無いでしょうに、と教官に改めて聞かれたとか。
問題なのは俺と彼女が一緒に授業を受けるという局面が皆無であること。
通学とお昼位しか一緒に居られない。
昼に関しては周りからワラワラご一緒したいと寄ってきてしまうから、サッパリ落着けないし。
飯くらいゆっくり食べたいのになあ。
二人でゆったりとした時間を過ごしたいという希望なんて、全然かなえられない。
結構、ストレスかも。
一番のストレスは例の王女様が、お昼をご一緒しませんかとお付を通じて申し入れてきた時かもしれない。
儀礼上は断れないけれど、気持ちの良いものではない。
多分、あちらさん俺の正妻狙いなんだろう。
経済力に竜殺しの武威。
そりゃ側室腹で自前の権力など皆無で政略結婚の駒でしかない王女としては、俺の嫁の座は魅力だろうけど、俺には王女を娶るメリットが無い。
これ以上、俺にカネが増えても意味は無い。むしろ、王女だと散財するだけだろうか。
名誉と言われても、これ以上騒がれて珍獣扱いはもう嫌というのが実感。
ご当人、見た目は大変に美人でグラマー。
十六夜が可憐という形容詞なのに対して、王女はゴージャスという典型。
ついでに、性格も王女様。まあ、末っ子だし甘え放題だったんでしょう。
「十六夜とノンビリ暮らすのが俺の夢」という、いつもの口癖がつい口をついたら理解不能という感じで王女様に一笑に付されました。
多分、俺には向かない女性なんだろう。価値観がまったく噛み合わない。
あの劇を見ていても、それが通じてくれない。
命がけで守りたいものってあるでしょうに。
どっかのガキが持って行ってくれないかな、この王女様。
公爵や侯爵の子弟位いくらでもいるだろうに。
ああ、余計なストレスの元だ。