4.竜殺し
軍務卿閣下は拝殿にいた義兄を捕まえて、あの魔石をどうやって揃えたのか聞き出したらしい。
噂の出雲子爵が自ら狩った獲物からの収穫品である旨を申告した義兄。
「怖いよ。いきなり胸倉掴まれて、ギロッと睨まれたらチビるかと思ったぞ・・・」
そんなおっかない相手に俺の名前を出さないで頂きたいのですけれどね、恨むぞ。
別宮の敷地内に住んでいる俺の所に、前触れもなく露骨に殺しのプロですというオーラ全開の筋肉質のごっついオヤジがやって来た。
拝殿にいた神主は腰を抜かして動けなくなったから、勝手に乗り込んできたと言い放つ脅威の存在。
「王国軍筆頭、本多忠勝である。出雲貴志とは貴様であるか?」
「はい、出雲貴志です。お目にかかれて光栄です閣下。」
ひえ~、睨まないでくださいよ。
神龍並みの恐怖を感じさせる人間なんて反則でしょう。
ひどいぞ、子供を虐待するのは反対です。
・・・口には出せませんけどね。
絶対に宰相閣下よりも格上だよ、この御方は。
おかしいぞ、宰相閣下の懐刀じゃないのか。
多分、クソ義兄はチビッタに違いない。
俺なんか神龍に睨まれてもチビらなかったもんね。ビビッて身動きできませんでしたけれど。
「うむ、噂は聞き及んでおる。先の決闘は大儀であった。
ちと、尋ねるが拝殿の魔石は貴様が狩り獲ったと聞く。あのサイズを揃えるには如何にしたのであろうか?」
「森の深い場所で、大型の個体が集まっている群れを探して、大きい順に仕留めました」
「ふむ、それには何人必要であった?」
「人間は自分だけです。召喚獣の埴輪を15体ほど使いました」
「埴輪とやらを見せて貰えぬか?」
「それでは、急々如律令」
15m級5体と3m級10体を召喚しました。
しっかし、このオジサンとの会話は息が詰まるわ。
ホント呼吸できない感じがする。
「・・・成程。これほどのものであるか。貴様、明後日は1日都合つかぬか?」
「どういったご用件でしょうか。妻の具合が悪いので、出来るだけ傍にいてやりたいのですが」
「おお、そういえば奥方には不運であったな。見舞い申し上げる。
用件とは、あの埴輪が実際に狩りをやるところが見たいのである。1日狩りに付き合ってはくれぬか」
「閣下のご用命なら喜んで参上いたします」
「そうか、では明後日の早朝に騎馬にて迎えに来る故に支度を」
「畏まりました」
「楽しみにしておるぞ」
「ハッ、ありがとうございます」
俺、絶対軍隊無理だわ。
もう、無理、無理。
今度、宰相閣下に合ったら進路希望は宮廷魔法師で申告しよう。
まともには魔法使えないけどね。召喚術専門ですので。
俺には強面だったのに、十六夜にはちゃんと優しい顔して声をかけて労って帰っていった閣下であります。
敬礼、ビシッとね。
さてと、騎馬で狩りに行くのか。
装備どうしようかな?
貴族になったといっても、フルプレートアーマーなんて付けたこと無いし。
あんなのは子供には重すぎて使えないよねえ。
防具は毎度のハンター仕様の革甲冑の軽い奴にしておこう。
弓と馬上槍と剣は、愛用の手に馴染んでいる奴。
馬だけは王都にある別宮のご神馬をお借りしてしまいましょう。
いやね、実に凄い馬がいるんですよ。
白馬で毛並最高、筋肉の付き方なんかもいくら走っても疲れないような感じで。
流鏑馬の稽古で少し走らせたら性格も良かったし。
偉い方だとお伴を沢山連れてくるのかなと思いきや、6人だけでおいでになりました。
但し、濃い。
本多忠勝様に嫡男の本多忠政様。
井伊直政様に嫡男の井伊直孝様。噂の赤揃を見てしまいました、カッコいい。
そしてビックリの上杉謙信様と重臣筆頭格の斎藤朝信様
正直、逃げ出したくなりました。
もう、何にも言えません。
何で俺みたいなガキと、こんなビッグネームの皆さんが狩りに行くのよ。
王家筆頭の侍大将の本多様。
赤揃で有名な徳川四天王のお一人である井伊様。
そして英雄、上杉様。
何の嫌がらせ!!!
「よう、坊主。子爵は目出度いことであったな。
我が領地でハンターをやらせたい所であったが、陛下に持って行かれたのは残念じゃ。
今日は本多めが、お主の戦闘を見たいと抜かす故に付き合うことにした。
まあ、気楽にいつも通りにやれ。
時にその馬は、ワシが奉納した神馬ではないかの?」
「はい、別宮一番の駿馬をお借りいたしました。
本日は皆様のお邪魔にならぬよう頑張りますので宜しくお願い致します」
「うん、そう畏まることはない。戦士は戦場で働けるかどうか、それだけが重要故。
礼儀だの面倒なものなどは文官に任せておけばよい。今日は大いに楽しもうぞ」
赤揃の井伊様は、生き方もカッコいいのかもしれません。
王都から馬で3時間くらい行った場所には、魔物の住んでいる森があるんですね。
こんなに近い場所に危ないエリアがあってもいいのかな。
なんでも50m級の上位ドラゴンが昔からいる森で、討伐隊では歯が立たないまま今に至っているそうです。
このドラゴンは翼があり普通に飛ぶ。そして必殺ドラゴンブレスです。
地上を軍勢が移動する限りは、相性最悪なんですって。
空を飛べる魔法師でも、パワー的に対抗するのが困難だそうで。
触らぬ神に祟りなしとばかりに放置状態だそうです。
まあ、今日の所はこの森にいるワイバーンやティラノを少し狩って見せればいいらしい。
いきなり本物のドラゴンと戦えということではないと、上杉様が仰る訳です。
少し気が楽になりましたね。
ワイバーンやティラノをお土産代わりに皆さんにお持ち帰り頂きましょう。
そうしましょう。
それではサクサクと行きましょうか。
急々如律令!
ひとまず、3m級埴輪14体を参加各位の護衛に各2体お付けして。
次いで3m級埴輪30体を扇状に等間隔で飛ばして偵察。
本命として15m級1体に3m級10体で1個部隊を編成。
それを今回のパーティ一行の進行方向の左右と前後に4部隊を配置。
さて、何が出てきますかね。
まず、サッと見つかったのが森の3km奥でティラノの巣。これは10体程度の群れのようです。
そこから左奥にもう3km行くとワイバーンの営巣地。ここには30体位います。
その間には熊や狼の魔物が結構濃いです。ワラワラといる。
埴輪は言葉を話せません。
けれど、文字は書ける。
地面に簡単な地図と目標を書き込んでくれます。
「ふむ、これ相手では千の軍勢が必要なのではないか?」
本多様ってば、この位の相手なら今の手勢で十分ですって。
「まず、ティラノの巣ですけれど。
埴輪の一部隊を迂回させて巣の向こう側に展開させましょう。
その間に左右と前方の部隊で鶴翼の陣を展開します。
最後は迂回させた部隊に、こちら側までティラノ押し出させます。
ティラノ10体なら、埴輪40体で楽勝です」
「ふむ、面白い。それでは上杉殿には正面。
井伊殿は右手、某は左手に回ろう。
貴様は、迂回組を指揮せよ」
「心得た」
「うむ」
「畏まりました、埴輪同士では念話をしているので展開準備を終えたら埴輪経由でお知らせします」
「便利なものだのう」
「まことに」
「面白うなって来たわ」
15分程で布陣完了です。
お三方に合図を送って、イザ突撃です。
後方からの突撃の際にまず3体葬って、逃走したのが8体。
総勢11体だったようです。
正面に向かって、そこで撃破された敵が3体。
敵さんは左に4体に、右に1体と別れて逃亡です。
この程度に分かれてくれると、それぞれの分担は楽でいいです。
狩猟終了まで15分くらいでしょうか。
「右手勢はあっけなかったな」
「正面は中々に迫力があったぞ、ワシは矢を当ててやったわい」
「某は槍をつけてやりましたわ。楽しめもうした」
井伊様は少しご機嫌斜めですか。
では次に行きましょう、ワイバーンですね。
移動中はこのままの埴輪軍で移動して、現地付近で150体まで増強しましょう。
途中にいた熊さんや狼さん達は、武将方の皆さんが楽しそうに寄ってたかってなぶり殺して。俺の出番ナシ。
ワイバーンの巣が近くなった所で、こちらは増勢しておきます。四方と上方の5部隊に分割します。空に逃げられるのは面倒ですから。
今度も楽しく狩りを堪能しました、ワイバーンは都合33体。
ティラノ11体とワイバーン33体って、十分にお金持ちになれましたね。
7人では割り切れない、微妙な数ですけれど。
お土産が不均等になってしまう。
皆さん怖そう、どうしよう。
そんなクダラナイ事で悩んでいたら、罰が当たりました。
滅多に人の来ないような場所で散々大騒ぎしたものだから、一体なにかな?と大ボス様が様子を見に来てしまいました。
へえ~、これが噂の上級ドラゴンですか。
小さい!
絶対に小さい!
出雲にいた神龍なんて、圧倒的にデカかった。
この上位ドラゴンはチッコイ。
嘘でしょ。
怖くないじゃん。
「チッコイんですけれど。
あれが本当に上位ドラゴン?
嘘でしょ?
あんなの全然怖くないでしょうに、出雲の神龍なんて雲を突くような大物ですよ。
アッチのは怖くて近寄れないようなモンでした。
でも、このチッコイ奴は怖くもなんともない」
「・・・・・」
あれ、俺何かいけないこと言っちゃたかな。
本多様ってば、目を見開いて俺を見て固まっちゃた。
上杉様ってば、そんなに哀れな子供を見るような目で俺を見ないで下さいよ、恥ずかしいじゃないですか。
井伊様はドラゴン眺めて難しい顔してるし。
「アレくらいなら、チョイで殺せますけど」
「・・・・・」
「いいですかね?」
「・・・・・」
「あの?構いませんよね」
「・・・・・」
「皆さんに良いお土産が出来るし」
「・・・・・」
「急々如律令!我が全ての僕ども疾く来たれ。かの空飛ぶトカゲに電撃を食らわせよ」
本多様から怒られる前に、さっさと勝負を付けちゃいましょう。
そうしましょう。
俺にはトカゲよりも、本多様の方が怖いぞ。
2千体の埴輪軍団による電撃の一斉射撃。
トカゲの頭を一点に狙わせています。
初弾命中。
見事に頭が吹き飛びました。
頭が無くなって、トカゲさんが地上に落下してくる。
ドッカーンというのが本当に合っているような結構な勢いの衝撃です。
武将の皆様は乗っている馬を押さえて暴れさせません。
やっぱりすごい人達なんでしょう。
この位なら腰なんて抜かさない。剛毅な方々です。
「やりおったか!」
上杉様ってば、リセットが早いです。
落下地点の土埃の向こう側を見通そうとしています。
面倒なので埴輪軍に風魔法で埃を飛ばして貰いました。
地上に転がっているのは、頭を失って首から血を流しているドラゴン。
手足も落下の衝撃で妙な向きになってますし。
羽も折れてます。
間違いなく死んでいるでしょう。
「うん、天晴じゃ。坊主でかしたぞ」
「いやはや、お見事でござる出雲殿」
「これほどの光景を目にすることになるとは。
上位ドラゴンが一撃で斃れるとは、全く見事にござった。
これは陛下に良い土産が出来たものよ。
出雲殿よ、今日から竜殺しの出雲であるな」
ああ、本多様って実は饒舌なのかな。
上杉様や井伊様が引き攣った笑顔なのに、本多様はどこか壊れたような笑い方してる。
俺にはドラゴンよりも本多様の方が怖いって。
この場で斎藤様が王宮まで一足早く伝令に走る。
残った我々は、ドラゴンを回収してから王宮へ。
ドラゴンの胸を開いてみたら、直径2.5mの巨大魔石がありました。
これだけ巨大だと値段が付けられないかもしれないそうです。
これは王家に献上して、後日相応のご褒美を受けることになるらしい。
お三方の共通したご意見ですので、そうした方向で纏まるのでしょう。
何しろ重臣方です。
魔石の使い途に関しては、宮廷魔法師たちが協議することになりそうです。
このサイズだとどんな魔法でも使い放題の魔力源になるのでアイデアが尽きないだろうと。
その足で謁見です。
ドラゴンとワイバーン、ティラノもまとめて献上です。
褒美に関しては、追って沙汰するということに。
本日はこれで終了かと思いきや、武闘系の家柄の方が続々と登城してきて。
そのまま一気に王城でどんちゃん騒ぎになっていきました。
さっすが筋肉集団です。
ワイバーンとティラノの焼き肉をつまみに、ドンドンと酒が消えていきます。
俺はガキですから酒は遠慮しましたよ。だって全然、飲めないし。
酔っ払い集団となったら、お三方が交互にドラゴン退治の話を繰り返します。
どうやら「チッコイ、アレはチッコイ!」というのが、妙な流行語になってしまった様子です。
本多様が酔っぱらった勢いで、俺のモノマネを始めたんですけれどね。
俺が上位ドラゴンを指さしてチッコイとバカにしたのが、本多様にはツボだった模様。
井伊様がそれを囃し立てるんだものなあ。
お二人は妙に息が合った掛け合いをする。
後は「あんなのはチョイです!」というのも、皆さんのお気に入りになった様子でして。
「こんな酒杯ごときはチョイだ!」
「おおよ、チョイだーっ」
あちらこちらで乾杯の代わりになってます。
上杉家ではこれを恒例にするぞって、上杉様ってお酒好きなんだから!
直江様までノリノリじゃないですか・・・。
ああ、明日の瓦版が怖いかも。
また、演劇にされちゃうのかなあ・・・。
王都近郊に住まう上位ドラゴン相手に、「チッコイ、あんなのチョイだ!」って舞台でやるんだろうか?
俺、これから自重しようっと。
いつの間にか十六夜が着飾った姿で会場に来ていました。
武家の皆さんには例の決闘騒ぎのヒロインとして認識されているみたいで、知らない方はいませんでした。
「おお、これは可憐な奥方だ」
「うんうん、良い奥方じゃないか大切にしてやれよ」
なんだ皆、良い人達じゃんか。
「おお、劇場でスポットライト浴びておったな。仲が良くて良い事じゃ」
ありゃ、見られていたのね・・・忘れてください。
お願いしますから。
大騒ぎの夜も更けて散会。
その晩から子作りを再開しました。
だって、怖いおっさん連中に取り囲まれてしまう俺なんかと一緒で幸せか?と嫁に聞いてみたら。
「ご無理なさらなでくださいね。
私、貴志さまがいない世で生きていけません。
十六夜はあなたの為に生きる女です。あなたが黄泉路を辿るなら十六夜も後を追います」
そりゃ可愛いです。もう、堪りません。
また、頑張って赤ちゃん作ろうと言い出すと、
「・・・貴志さまにお情けを頂戴するのはとても幸せな時間です」
うん、俺もそれはとっても幸せな時間だ。
でもなあ。
そうした二人きりの幸せな時間って続いてくれないんだよなあ・・・。
記録によれば上位ドラゴンを討ち取った、完全に殺せたという意味では120年ぶりということだそうで。
討伐隊が上位ドラゴンを追い払ったというレベルなら過去数年間でも何度もある、けれど完全に仕留めたとなると快挙となってしまうそうです。
王城からの噂はすぐに広がったみたい。
そりゃ証言しているのが超VIPクラスの武将様です。
まず、間違いない。
それも本多様証言による“チッコイ!”と“チョイだ!”というキーワード付きで。
翌日から別宮が大変なことになってしまって、パニック一歩手前です。
出雲家から上杉家に泣きついて急遽警備兵をお借りして、なんとか収拾つけようかと。
それに引っ切り無しにアポなしで次から次に来客が来ること来ること。
昨晩一緒に騒いだような武闘派オッチャン連中ではなくて、何故か初対面の文官貴族の皆さんが俺の顔を見たがってくる。
俺が何故だろうと疲れた顔をしていると嫁さん曰く、
「貴志さまは褒賞で出世するのは間違いありません、それに元から出雲家と縁をつなげたいという貴族方は多いのです」と説明してくれる。
王祖である天日帝がこの地に降臨した時には既に、この国は開国主の命様が平定して治めていた。
そして、天日帝が開国主の元を訪れて国譲りをされる。
天日帝は開国主に感謝して巨大な屋敷を提供した。
それが後の開国主神社になる。
出雲家は神話の時代からそのお社を守る家柄。
要するに出雲家というのは王家からするとご先祖の恩人という扱いになっていて、公的な行事では公爵家と同様に処遇される。
王家の縁者扱いな訳だ。
ただし、出雲本家は王朝に対しては何らの影響力を持てないように、公式には貴族ではなくあくまで神官という扱いになっていて公式に俗世間的な権力はない。
分家扱いで俺が子爵なのは、妙に武力があるから扱いに困ってという王家の本音らしい。
現代の王家の家臣団では、出雲家程の古い家柄は存在しない。
貴族というと血筋で勝負なのだけれど、出雲に匹敵する古い血筋は王家のみとなる。
出雲家というのは貴族社会において、非常に高級ブランドにあたる。
貴族家にとって、出雲家と縁を結ぶのは非常に望ましいことになる。
馬場が出雲の娘に拘ったのは、要するにそうしたブランドが欲しかったらしい。
相当に貢いで、何年もかかってようやくと婚約に持って行ったみたい。
その癖に婚約解消はやけにあっさりしていた。それが爺ちゃんには気に入らなかったんだとか。
同じように、出雲の分家とはいっても俺と縁を結びたいという貴族は多いことになるようなのだ。
武門の家の皆様はそれで昨晩一斉に集まって来たわけだ。
本多様、井伊様、上杉様というVIPな皆さんのお声がかりで、顔合わせという面もあったらしい。
上杉様の配慮で急遽十六夜が登場したことで、演劇でも有名なアノ夫婦だと認識されてくれたから、武門の皆さんは気を使って無理に俺に側室を送り込もうとは画策しなかった。
分家とはいえ俺に娘を側室として送り込んで子供でも作らせたら、貴族社会的には大成功ということみたいだ。
それで今日になって文官派の貴族の皆さんがドンドン来ている訳だ。
揃って「ウチの娘は、それは美しくて・・・」「我が妹は・・」とか言い出す訳だな。
恋愛成就の神様でもある神社だから、子女の良縁を願って来たのかと勘違いしていたけれど、要するに俺に側室はどうかと言っていたのか。
出雲のブランドが欲しいのなら、正妻は十六夜である必要がある。
俺が出雲に婿入りしているのだから、正妻は十六夜で揺るがない。
でも、竜殺しとなると出雲家云々抜きにしても、武功だけで十分有力な貴族として扱われる。
下手したら正妻として王女降嫁ということすらあり得るし、有力公爵家あたりの姫という線もあり得るらしい。
我が嫁さんが昨晩から俺にぴったり引っ付いて離れないのは、そうした不安があるらしい。
王家だと側室に産ませた末娘の王女が15歳。
そして、皇太子の正妃と側室にそれぞれ9歳と10歳のお姫さまがいて、婚約しておいて数年後に結婚ということは十分あり得るみたい。
公爵家にも15歳くらいのお姫様はいるそうだ。
こうしたお姫様たちは、そもそも政略結婚の道具でしかない。
かくして、我が嫁さんは不安で仕方ないらしい。
うん、俺たち夫婦はそんなの無視して二人で仲良く赤ちゃん作ろうね。
俺は十六夜と一緒にいるのが幸せ。
他の面倒なことなんか、どうでもいいや。
側室?
そんなモンいらん。
いや本当だって、十六夜は可憐で、優しい。
触れれば壊れそうに華奢、でも、柔らかで温かい、いい匂いで、気持ちがいい。
うん、俺は大好きなんだって。