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34.公爵領騒乱Ⅱ

 ご愛読ありがとうございます。

 やっと、公爵城に入場した一行、そこに残されていた兵士達に忠誠を誓わせる算段をするお話です。

 強力な魔法師が天変地異を引き起こす。

 アノ彼女が女神扱いされてしまう展開です。


 公爵城を占拠していた4人組の伯母と叔父達に異変が伝えられたのは翌日の昼過ぎのことだった。

 武将達が訓練に来ないので、様子を見に行った者が屋敷の全滅を発見したのである。


 本来なら兵を指揮する立場にある者達である彼らが、一晩のうちに壊滅してしまう。

 この衝撃は戦慣れしていなかった者には恐怖心を、戦慣れしている者には後悔と警戒心を呼び起こした。


 同じ晩に3人の主要な軍指揮官が家族と家臣丸ごと自宅で無残に殺される。

 犯人の正体とその意図など明確である。


 “自分達に逆らうのならどうなるのか、それを教えてやろう。”というリューシャ側の恫喝意外の何物でもない。

 伯母や叔父達はそう受け止めた。


 戦慣れしていない伯母スキュラと夫のオケアヌス、そして叔父のパーシーは心が折れてしまった。

 自分達の身を守らせる為に雇っておいた者があっさりと自宅で殺されるのだ。もう、自分達の身を守ることなど出来ないではないか!


 スキュラとオケアヌスは、オケアヌスの実家への逃避を図って、公都からの脱失を企てた。

 そして、パーシーは逃げ場所などないから自邸に引き籠った。


 唯一、叔父アイエだけは依然として抵抗する意思を維持している。




 スキュラ夫婦は慌てて、すぐに集められるだけの財産をかき集めた。そして、招集できるだけの兵を集めて逃亡に移った。集まった兵士は80人程であったが。


 80人しか集まらなかったのは、本来兵の取りまとめをやる武将が先に殺されていたからだ。兵士達とて武将が殺された理由くらいは理解できる。このまま伯母や叔父に従っていても先は無いとなれば、兵士とて人の子であるから真っ先に逃げ出そうというものだ。


 さて、スキュラ夫妻は南からリューシャ軍が来ると判断していたから、北門から逃げ出して北上して公爵領から逃げる算段だった。


 彼らが公都の北門から出て小一時間後のことである。


 ちょっとした林を抜けて開けた場所に出た所で、公爵家の家紋入りの兵士たちが20人ほどで関所を作り検問をしていたのである。

 スキュラはいつもの調子で“公爵様の伯母に向かって失礼です。すぐに通しなさい!”と検問の兵に当たり散らした。


「スキュラ殿に相違ございませんか?」


 真新しい公爵家の家門入り騎士装備を付けている隊長らしい男が確認しに近づいて行く。


「新入りなのね。私の顔を知らないなんて!無礼もたいがいになさい。すぐに通しなさいな」


 イライラして激怒する鬼婆のごとき中年女。


「イルマータ公爵様より、御身の捕縛命令が出されております。大人しくお縄に」


「なんですって!何をふざけたことを」


「ええいっ、そこの兵どもよっく聴けい。

 我こそはご公儀お目付け役、柳生但馬の守が三男柳生宗冬である。

 此度はリューシャ・イルマータ公爵様の命を受け、公爵領のゴミ掃除に参上仕った。

 我と一戦交える気概のある者は、疾く前に出よ。

 我が柳生新陰流の奥義とっくと見せてやろう!」


 気合満点の名乗りを受けて、警護についていた80人のスキュラ兵は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまう。

 スキュラ夫妻の馬車の御者でさえ、大慌てで走り出して行く。

 北方領とはいえ柳生の名を知らぬものなどいないのである。烏合の衆に過ぎないかき集めの兵には、王家指南役の倅相手に喧嘩を売る度胸のあるものなどいなかった。


 結局、その場に取り残されたのはスキュラとオケアヌス、そして娘のキルケだけだった。

 宗冬は、この夫婦なら真っ先に逃げ出すと予想して、門弟を連れて先回りして待ち伏せしていたのである。



 さて、自宅に引き籠った叔父のパーシーである。

 彼もわが身可愛さに兵を集めようとしたのだが、進捗は冴えず集められたのは20人にも満たない数だった。


 そこに突然500人程の兵が取り囲んだ。

 リューシャが途中で集めた志願者達を先行して街に入らせていたのである。

 武器類は商人達に商品を装わせて運ばせて、兵士たちは旅人を装わせて少人数で移動させたのである。

 そして、彼らの指揮は暫定的に柳生十兵衛が取っていた。十兵衛が自らこの役目を買って出たのである。


「我は公儀お目付け役柳生但馬の守が嫡男十兵衛である。お役目によりパーシー・イルマータには出頭いだたく。疾くと出でませい!」


 パーシー家の警護についていた兵士たちは、すぐに投降してきた。

 予想外の大軍に突然包囲されてはどうにもならぬ。

 完全に奇襲成功であった。


 肝心のパーシーはというと、すっかり怯えきって錯乱状態に陥っていた。

 青い顔をして、ひたすら震えて奇声を上げて椅子にしがみ付くのみであった・・・。



 これで残る敵は叔父アイエだけ。

 彼は公都内部に既に500人程の部隊が侵入していうという報を受けると、すぐに撤退に動いた。

 リューシャの父が公爵領を継いだ際に、弟のアイエは重臣として扱われて5万石の知行を受けている。世間の尺度で考えると彼も立派な領主なのである。

 1万石の大名などいくらでもいる時代である。陪臣家といえ5万石というのは立派なものなのである。

 リューシャは王家の血筋だから20万石を受けて、地元の土豪である叔父が5万石という訳だ。

 絶対的にはアイエの所領は決して小さくはない。リューシャの所領が大きいだけだ。それでもアイエにとっては不満ではある。リューシャさえいなければと思う理由にはなるだろう。



 今は時期が悪い。アイエは我慢して自分の所領目指して脱出していったのである。

 公爵城に入れていた3千人の兵士の内1千はアイエが自分の領地から連れて来た者達だ。

 だからアイエが領地に戻ると言えば、彼に従って領地へと戻った。


 粛々と軍勢を移動させる1千のアイエに対して、流石に少数の柳生部隊は黙って見ているしかなかった。



 リューシャが公都に足を踏み入れたのは、その3日後のことだった。


 豪華な甲冑に身を包んだ王国軍を先頭に、王都で集めた兵、そして元リューシャの側近部隊の合計6千を連れての堂々たる凱旋である。


 彼女は凱旋に先立って、叔父達が勝手に増税していた部分を減税して父の代の状態に戻す事。騎士団の定員を正常に戻して治安を安定させること。

 そして、不正奴隷商の取り締まりを宣言していた。


 だから、彼女の凱旋は公都住民には大いに歓迎されている。

 住民達にとっては父の領主でも、娘の領主でも税が安くて治安が安定することが良い領主である。


 それに堂々とオープントップの馬車に乗って凱旋パレードをするリューシャ。そして同乗している側室達は美しかった。

 豪華な衣装を身に纏い、宝石や金銀を贅沢につかった装身具。


 特にかつてリューシャの母親の髪を飾った豪華なティアラ。

 ティアラにもデザインの規定があって王族だけが許される種類のものがある。リューシャの頭上を飾っているのはかつて王女だった母の形見。王族の印であるものだ。


 騎士身分の者や豪商達なら、それを見ればひと目でわかるというものである。

 王国軍を先頭にして、王女の印たる冠を頂く姫君が公爵として凱旋する。

 その夫はこの土地とは全く縁もゆかりもない。

 しかるに、このイルマータ領は実質的な代官領になるという意味であると。


 お役に就いていない武士の身分を持つ騎士達。

 増税続きで、商売あがったりだった商人達。

 彼らはやっと出番が来るかと手ぐすねを引き。


 いつ攫われて奴隷に売られるか不安で仕方なかった庶民達は、どうやらこれからこの土地は住みやすくなりそうだと安堵しつつ。


 公都住民は、美しい姫当主をうっとりと見とれながら凱旋を歓迎していた。



 さて、美しい姫を演じるのは簡単だが、公爵の役を果たすのは簡単なことではない。

 マズイことに夫は政治家としては全く役には立たぬ。

 だから、旗振りそのものをリューシャが自分でやらざるを得ない。


 まずは、公都城にいた兵士達2千を武装解除させて。

 次に、城に務めていた者を全員解雇して。そうした連中と王都から連れて来た者と父母の側近だった者に入れ替えて。

 こうした際に少々荒事が生じても、極めて適正の高い夫ではあるのが多少の救いではある。



 やがて、新たな文官連中はそもそもこの城にまともな帳簿が無い!と大騒動が始まっていた。

 何しろ金庫や宝物庫の中がスッカラカンなのである。

 復活させた父の代の財務担当役人などは、金庫を見て卒倒してしまった。

 本来なら数十兆単位のカネがあった筈なのである。


 金庫がスッカラカン状態なのと同様に食糧倉庫もスッカラカンであった。

 本来なら備蓄用の食糧が入っている筈なのだが、それが全くない。



 そうした城内に端を発した問題と同時並行して5千の側近部隊で、公都領内に残存している1万7千の武装解除を進めさせなければならなかった。


 一回は投降させておいて、やる気と能力のある者は再登用せねばならない。

 犯罪組織とグルになって奴隷商とひと商売やっていたような者を選別するのは、途轍もない作業である。

 兵士同士の密告をやらせて、怪しい人物を尋問して、犯罪組織を割り出してその連中を始末して。

 北方柳生を持ち出して柳生家の支援を受けておいたのが大正解で、柳生十兵衛は犯罪組織の撲滅に走り回る羽目になっていく。


 入城して早々の問題はこんな所だった。



 しかし、組織運用に必要な人・物・カネ。


 幸いに最低限の幹部候補は元側近グループと王都からの仕官者で賄える。

 末端の人材に関しては、幹部候補にゆだねるしかなかった。


 なにしろ逃亡したアイエの追討部隊を編制しなければならない。余計な時間を掛けると混乱が長引くだけだ。

 それに、早い時期に代官を総入れ替えしないといけない。地方で踏ん張るかもしれない代官を首にするための兵力も必要なのだ。


 正規軍として、キチンとした組織体制を作って部隊編成して訓練をして。

 気が逸るものの、まともな部隊を編制できないのでは話にはならない。


 アイエの5万石程度の所領だと、地元であっても動員できる兵力は2千5百~3千人程度になる筈。

 この時点でリューシャが率いているのは6千5百人。


 ここで公都に残留していた1万7千人を無事に配下に組み込んでしまえるのなら、安心して訓練が行き届いている6千5百人を追討に回せることができる。

 しかし、公都にいるのは叔父や叔母の集めたどうにも信頼ならない軍勢である。

 信頼できる基軸部隊を遠征させて、信頼できない兵士が反乱でもしでかしたら目が当てられない。

 現状では公都に残留している部隊はかえって足手まといになっている。



 かくして柳生宗冬に命じられた大仕事は1万7千人の烏合の衆を、立派な軍勢に仕込むこと。それも大至急で!ということになった。


 晴れて陪臣とは言え1万石の大身に抜擢された柳生宗冬は張り切っていた。


 彼の公都軍再編方法は単純明快だった。公都城外の原野に兵士を連れ出して告げたのである。


「12人かがりで俺に一太刀でもつけられた奴がいたなら、そいつは幹部に取り立ててやる!」


 12人というのは騎士団一個分隊の編成だ。彼の父である柳生但馬はかつて乱戦の折に、本陣までなだれ込んだ一団を単独で討ち取って、見事主君である徳川宰相を守ったという。


 実際、こうした乱取りは柳生家の十八番である。


 腕に自信がある兵士達は、この話に乗った。


 早速、名乗りを上げて来る数百人の兵士達。


 宗冬は、まずは12人組を作らせた。


 そして一組毎に相手をした。


 最初の一組目。


 先頭切って巨体を誇る男が突っ込んできたが宗冬はサラリと面を撃ち、後方で待ち構えていた奴の小手を叩いて剣を叩き落す。

 これで動揺した残りのメンバーは慌てるばかりで、為すすべなく敗退していった。


 次の集団は、もう少し頭を使って来た。

 全員で宗冬を囲んで一斉にかかったのである。

 そんな事は御見通しとばかりに宗冬はさらりと、速足で包囲を脱出する。与楽の瞬間移動とまでは行かないにしても、ほんの一息の間にサッと移動してのけるのである。

 柳生の男たるもの忍術くらいは普通にこなすのである。

 包囲を脱すると近くにいた者を倒して、包囲網に穴を開ける。そして左右の奴を蹴散らして、敵を強引に一列に並ばせてしまう。

 その後は1人づつ簡単に始末してのける。


 その次のメンバーは3人を前列に並べて囮にして、囮の背後から宗冬を奇襲しようとした。宗冬は奇襲を予想して敵との距離を取るべく背後に大きくジャンプした。

 奇襲しようとして飛び出した敵は目標を失って、虚しく飛び出しただけに終わる。

 飛び出したところを逆に宗冬に討たれてしまう。


 10組、120人が虚しく敗れた所で今度は与楽が出番を買って出た。


 新しい公爵の夫とはいかなる人物なのか?

 兵士達は興味津々だったが、与楽は簡単に言い放つ。


「120人一組で掛って来て良いよ!」


 馬鹿にされていると感じた兵士達が怒り狂って、突撃して行く。


 しかし、突然と与楽の姿が消える。


 突進した兵士が戸惑う中、兵士達の背後に10人の与楽の分身が現れる。


 その1人1人の与楽が背後から兵士達を襲った。


 奇襲を受けて半数の兵士が倒される。

 ようやくと兵士達が体制を立て直しつつあると、今度はまた背後に回って奇襲をかける。

 結局、混乱するばかりの兵士達は全員倒されて行った。


 兵士達は気が付いて来た。

 どうも、この連中はおかしいと。


 ダメ押しするかのように、美しく着飾ったシードが登場して来た。まだ、あどけない少女の登場に戸惑う兵士。

 可愛らしい少女が頑張ってお洒落してドレスを着たという風情なのだ。おおよそ戦陣らしさが無いのである。


 そうした空気を無視して少女は詠唱を始める。


 “ペルセウス、父なるゼウスの雷を運べ!大地のガイアよ、この地の民に神威を示せ!”


 一転俄かに掻き曇り、天空には雷が轟き渡る。

 鉄を帯びている兵士達は恐怖に怯えて悲鳴を上げて逃げ惑う。雷が金属に落ちて来るというのは、この時代でも知られている恐怖である。


 だが、兵士達の恐怖は終わらない。


 原野が大きく裂けていくのである。

 大地が震えて、ゴオオッという大轟音と共に深く広くどこまでも裂け目が拡大していく。


 空は太陽の光が閉ざされて、雷が飛び交う。

 大地は轟音と共に裂けて行く。


 まるでこの世の終わりといった光景であった。


 悲鳴を上げて逃げ惑っていた兵士達は、最後には土下座して天に祈り出した。


「おお、神よ。我らをお許しください!」


 天変地異は10分程だったのだろうか。


 やがて、空は晴れ渡り、大地の亀裂は消えて行った。


 日の光を浴びピンク色の長い髪を風になびかせて、少女が宙に浮いている。


 それは人智を超えた存在であるかのように兵士達には見受けられた。


 そうなのだ、新しい公爵の連れて来たのは女神に違いない。聞けばリューシャ姫はアテナ神殿の巫女を務めていたというではないか。きっと姫は女神に愛されて、女神がご来臨されたに相違あるまい。


 人間の及ばない超常の権能を我々に見せつけ、神を信心せよと仰せなのに違いない!


 兵士達は平伏して、ただひたすらに忠誠を誓うのであった。


 宗冬は正直ここまで凄い事になるとは想像していなかった。


 彼は簡単に鼻っ柱の強い連中を叩き潰していうこと聞かせようという程度の事を考えていたのだ。

 クルーガが天変地異に近いことをやる事、シオーヌがレキュアやシェイラ並の実力者だというのは彼も理解していた。

 しかし、どう見ても子供のシードまでも天変地異を引き起こすとは考えていなかった。

 彼女達が強力な魔法師であると知らなかったら、宗冬すらも女神か天女だと思い込んでしまったかもしれない。


 何はともあれ、これでこの兵士達は絶対に新公爵様に歯向かうことはないだろう。些か予想外ではあるし、劇薬が効きすぎという感もあるが、一応目的は完了したと思っていい。

 彼は、そう主君に報告することにした。



 シードの魔法の師匠はクルーガである。

 シードに魔法の素養があると聞いた与楽の師匠の口利きで、神殿にいたクルーガはシードに引き合わされた。


 そして、シードの家庭の事情を知ったクルーガは同情して面倒を見るようになった。

 天真爛漫で可愛らしい子供だったから、ついクルーガとしても妹分のような気がして可愛がっていたのだ。


 シードが母親に捨てられて、同時期に師匠に死に別れた与楽と旅をするようになると、与楽が何をしでかすかクルーガは心配でならなかった。

 年中、魔物や妖怪と命のやりとりをしているような荒くれ者の少年にシードを任せたくなかったのだが、とにかくシードは与楽に懐いてしまっている。幼いながらも恋心を抱いているようにも見える。


 仕方がないからシードが身を守れるように、クルーガは少々危険な魔法をも彼女に教えていたのである。

 今ではクルーガに出来る術なら大抵のことはシードにもできる。

 彼女は可愛らしいだけのマスコットなどではないのだ。


 ただし、散々女神のようだと言われて来たクルーガも、巫女を務めていた頃でさえ本気で土下座されて拝まれた経験などはない。

 1万7千人もの兵士達から女神と伏し拝まれたシードの方が、姉貴分よりも余程の大物なのかもしれぬ。


 かくして、ヒト・モノ・カネの内で、公都にいた兵士の忠誠心だけは絶大なものとなった。


 物に関しては、穀物関連は公都内では無理な増税で割高になっているものの、量そのものは不足しているということもない。住民達が食うに困るということもなさそうだ。

 但し、有事に際しての備蓄という面ではゼロに近い。


 これは為政者としては大問題ではある。

 減税して物資の割高感を解消すると同時に備蓄食料を買い集める必要がある。

 これは元側近グループの中から父の代から財務関係を取り仕切っていた男に任せることにした。


 カネに関しては夫が稼いだ物と伯母と叔父の屋敷から没収したもので、当面の組織運用な何とかなりそう。

 もっとも、本来の公爵家の財産としては著しく酷い状態に陥っているのだが。

 なにしろ桁が二つほど足りない・・・・。

 アイエが持ち逃げした資金を早く回収したい所ではある。


 増税をせずに手元の資金を増やしたい。

 普通に考えると未開地の開拓や、田畑の収量増大を目指すというあたり。

 公爵領は未だに手つかずの原野は多い方だ。この方面では魔女軍団で何とかなるのかもしれない。

 王都で編成した文官グループには事前に未開地の情報を与えておいたので、荒いながらも開拓計画らしいものが存在している。

 後は現地を視察させて、細かい計画に落とさせるしかない。

 この方面ではじっくりと腰を落ち着けて構えることにした。



 リューシャの示した優先順位として


 まず公都内の軍備再編成。

 そして軍が整ったらアイエの討伐。

 その次は代官の総入れ替え。

 そうしておいて、公爵領軍の全体の再編。

 最後に開拓で財産増加を図る。


 “侯爵領の再建には5年くらいは必要になるのかしら?”彼女は憂鬱になってしまう。

 本来なら1万石あたり250~300人程度の兵士を徴用するのがこの時代の標準だ。

 公爵領320万石だから8~10万人規模の軍団が編成出来る筈なのである。

 これが1万7千人くらいでオタオタしているようでは先に進めない。

 将来は夫に10万人の軍勢を率いる大将軍に成長して貰わないといけない。それが出来そうな人物であることに、彼女は救いを感じている。

 副将格に宗冬クラスの人物をもう数人欲しいところではあるのだけれど。




 さて、時計の針をリューシャが入城した時に戻そう。

 公爵城には依然として2千程の兵が残っていたし、役に立ちそうにない官吏や侍従などが残っていた。


 兵士連中は全く抵抗する気もないままに、素直に武装解除に応じた。

 役立たずの官吏や侍従は、全員首を言い渡たされても大人しく従った。


 そして、城にはもう1人重要人物が残っていたのである。

 リューシャの弟マークである。


 10才の子供で傀儡に使われていただけの存在。

 アイエが彼を人質に連れ出さなかったのには理由があった。もし、マークが死んだらどうなるか?


 リューシャがそのまま公爵を務めて、彼女が生んだ子供がその地位を継いでいくことになるだろう。リューシャにとっては、その方が都合良いくらいの話である。

 アイエに殺されたとなれば世間への言い訳も十分に立つ。アイエを悪者にして、それを討ち果たしたとなれば、それは立派な敵討ちだ。

 リューシャの株が上がるだけで、アイエにとっていいことなど一つも無いのである。


 だから、アイエはマークを公爵城に置き去りにしたのである。

 彼の耳元で囁きながら。


「どうせリューシャが権力を手にしたら、貴様など出番はあるまいよ。あの女狐めは王宮を篭絡して自分に権力を集中させよったのだからな。

 貴様などその内に邪魔者にされて病気とでも称して殺されるだけであろうよ。

 それともワシの部下のように暗殺でもされるかのう?

 まあ、真っ先に貴様のお気に入りのキルケを取り上げて、殺すのであろうよ。

 お前の血筋など残す筈もないからな。お前には子供など作らせずに女狐の生んだ子を公爵にした方が奴には都合が良かろうよな。

 はっ、ワシが貴様を殺す必要もないわ。

 貴様を殺したり、人質にでもしたらアノ女狐は喜んでワシを悪者にして、自分の株をあげることだろうからな。

 ワシは精々貴様が女狐めに殺されるのを眺めておりゃいいわい」

次回は追討軍を出して逃げたアイエを掃討するお話です。

お楽しみに。


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