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33.公爵領騒乱Ⅰ

 ご愛読ありがとうございます。

 いよいよ公爵領入りした一行。

 邪魔者など消してしまえと、柳生一族の大陰謀炸裂!

 公儀隠密の暗殺術が展開される、ちょっと怖いお話です。

 お楽しみ下さい。





 さて、イルマータ領の状況を少々。


 リューシャの死んだ父には姉がいて、弟が2人いた。彼女の伯母と叔父になる。

 父の死後、大人の叔父が家督を継がずに幼い嫡男が継いだのは、リューシャと幼い嫡男の母親が王家の血筋だったからだ。

 イルマータ家に王家の血筋が入る事が重要なのであったから、直系の幼い嫡男が後継者になった。

 普通の大名家であればこうした場合は間違いなく叔父が家督を奪ったであろう。


 しかし、家督相続は王家の承認が必要だ。そもそも、大名は王家が指名するものだし、王家の血筋を無視することなど出来ない話だった。


 かくして挫折を味わった叔父達と、幼い弟を守ろうとしたリューシャの戦いは始まっていたのだ。


 リューシャには何と言っても血筋があった。

 そして本人には類まれな美貌と明晰な頭脳。そして少々の魔法の素養。

 加えて父が残した家臣の一団。彼らの中には母が王宮から連れて来た者達もいたから、リューシャは幼い頃から公爵家というよりも王家の姫として恥ずかしくない教育が施されていたのだ。


 もっとも、挫折を味わった伯母や叔父達は大人しく臣従するつもりなど無かった。

 幼い子供達なら騙して言う事を聞かせてしまえばよい話。後は、こちらで好き勝手をしていればいい。そう考えていたのだ。


 だから、イルマータ家は父母の元側近集団と、伯母・叔父連合軍に分かれての権力争いの場となっていった。


 先手は伯母が取った、幼い弟マークに伯母の娘キルケを近づけて篭絡。

 徐々に両親の元側近たちを遠ざけるように仕向けたのである。


 これに対抗したリューシャは父から生前に分与されていた領地に元側近たちを囲い込んだ。後日、弟の嫁を王家の血筋から貰ってしまえば、伯母の娘など蹴散らせる。

 その為には王宮との密接なルートを確保しておく必要がある。それには母の元側近たちの存在が不可欠だ。

 どうせ伯母や叔父達はデタラメを始めるだろうが、最後にモノを言うのは王家の血筋。

 この点に賭けるなら自分と弟が大人になるまでは辛抱せざるを得ないだろう。


 かくして、リューシャは王都へ留学して行った。

 自分自身を磨いて、公爵家の代理を務められるだけの見識を身に付けなければならない。

 それに後ろ盾になってくれるような夫を探さなければ。


 見識を身に付ける方は問題なかったけれど、夫となると簡単には見つけられなかった。

 良家のボンボンはボンクラか、優男で腕っぷしが駄目か。

 概ねどちらかだった。


 そこに現れたのが竜殺しの少年だった。

 決して良家の生まれではないけれど、腕っぷしは最高。性格も悪くない。政治には無関心だったからリューシャにとってはかえって好都合なくらいだ。


 もっとも、この男は自分の妻に熱中していて、他の女に目が向いていない。

 貴族社会であれば、彼の立場なら良家の子女を迎えるべき局面だのに。

 王女か、公爵令嬢の自分を妻に迎えるべき局面だろうが、そこに気が付いていない・・・。

 その幼さを指摘する家臣などいないらしい。そこがネックなのかもしれないが。


 そうこうしているうちに近隣の侯爵が妻を亡くして後妻を探しているという話が流れて来た。そこにリューシャを送り込めと伯母・叔父連合がねじ込んでいて、マークを圧迫しているらしい。マークは既にキルケに骨抜きにされているらしくまともに反対すらしない。


 その侯爵はもう60過ぎの年寄りだというのに!


 王都にいたリューシャは祖母に当たる皇太后に泣きついて馬鹿な縁談話を却下してくれるように根回しして、当人は出家と称してアテナ神殿に隠れた。


 皇太后から手紙を貰う羽目になった当の侯爵は、すっかり縮み上がって釈明と大量の貢ぎ物を王室にさす出す羽目になったけれど。


 王都での出会いは不発に終わったけれど、神殿では良縁に恵まれた。

 無双の武と男気に優れる夫と出会い。そして心底から信頼できる側室達とも出会えた。

 リューシャにとって、対等の立場で腹蔵なく話せる同い年のクルーガという存在を得たことは大いに助かっている。

 美貌でも、武勇でも、夫への愛情でも、リューシャにとってクルーガは良いライバルであり、よき相談相手だった。


 今や王家の後ろ盾を得て、自らが公爵家当主となって堂々の凱旋をするリューシャ。

 既に伯母や叔父など物の数ではない。

 邪魔をするなら容赦なく粛清あるのみだ。





 実際の所、リューシャが王都に出て来た頃から公儀隠密はイルマータ領での不正を調査していた。

 不正の証拠なら既に掴んでいたのである。


 問題は公爵領をどうするのか。そこが問題であった。

 王家からすれば北方の雄を実質的に乗っ取る算段をしたかったのである。北方の土着系豪族の末裔など徹底的に排除してしまって、王家の血筋で固めておきたい。それが王家としての願いである。

 王家の血筋で固めるということはリューシャかマークを当主にしておいて、側近連中を粛正して重臣を王宮の言う事を聞く連中にしておけばいい。


 対して、土着の豪族代表となると伯母スキュラと夫のオケアヌス、そして叔父のアイエとパーシーということになる。

 だから、公儀隠密はこの3家の不正を徹底的に探した。


 不正を暴くのは簡単だった。

 むしろ、全く隠す意志など無いかの如くの放蕩三昧だったのだから。


 イルマータ領320万石からリューシャ本人には20万石が父の存命中から与えられていた。彼女は排斥された側近連中をそこに集めて保護すると同時に、領地の運営を任せていた。逆に言うと、残りの300万石の所領は無茶苦茶な状態だった。


 金山と銀山は王家直轄領にする規制なのだが、無届で新規鉱山を開発して着服。これなど本来一発で改易になるものだ。


 リューシャの父親が指名していた代官達を追い出して、叔父達の息がかかった者に入れ替えておいて増税。この代官達がまたやりたい放題で、住民達から吸い上げ放題。


 それでいて公儀の定める騎士団の定員から勝手に削減してしまって、浮いた人件費を懐に入れている。

 当然、騎士団が減ったことで、治安は悪化してしまっている。

 増税と治安の悪化というのは、裏表の関係で食えなくなった者が浮浪者となって犯罪の温床となってしまう。


 また、奴隷制度も厳密な届け出制度の元に正規の奴隷商が行うことが許されているのだが、公儀に無届けで息のかかった商人達にモグリで奴隷商をやらせている。

 これなどは旧体制派で伯母や叔父に逆らう者を奴隷落ちさせてしまっていることと関係している。騎士団にイエスマンだけ残すことで、逆らう者を武力弾圧できているのだ。


 まだあって、俗に貴族らしい服装という物がある。

 これは厳密にはドレスコードが決まっていて、貴族当主と妻、直系の子供だけが許される物と家臣が着ていい物がしっかりと規定されている。

 伯母や叔父とその家族は家臣家であるから、貴族当主の物を着用することは許されない。

 このドレスコードを完全に無視している。

 一見どうでもいいような規定だが、公式の場所で貴族とそれ以外を分けておくというのは貴族社会では重要なことで、貴族を詐称することは重罪で死罪である。


 どう逆立ちしても、現状のイルマータ領は改易モノの状態なのである。

 鉱山や騎士団、ドレスコードなどは完全にアウトである。


 王家としては、リューシャが無双の男と武芸大会で姿を現せてくれたことは幸いだった。

 幼い子供である弟にはとても公爵領を任せられない。それに土着系の伯母スキュラと夫のオケアヌス、そして叔父のアイエとパーシーという連中は粛清せねばならない。

 もし、リューシャが行方不明となれば公爵領をどうするのかという大問題が生じていたのだ。


 再登場したリューシャは魔法師として極め付きに優秀。そして相変わらず聡明だった。

 頼りになりそうな夫。残念ながら家柄は不明だったけれど、良寛や旅の行者に育てられたから物事に対する考え方は仏教観に基づいておりまともだった。特にカネに対して汚いところが無いのが安心できる。

 彼に付き従う側室達も強力な魔法師であったのも良い。リューシャとも良い関係を築いていて、彼女を助けてくれる有力な相棒になってくれることだろう。


 かくしてリューシャの希望と王家の希望は見事に一致した。

 公爵領はリューシャに任せておこうと。





 リューシャ一行の旅は、忠治の大捕り物以降は大騒ぎすることもなく、旅は順調に進んで行った。


 多少思惑が狂ったと言えば、鬼退治に忠治捕縛、ついでに河童退治という武勇伝が広がったお蔭で、沿道の領主や名主たちから引っ切り無しに貢ぎ物が届くようになったこと。

 それに仕官希望者が殺到するようになって来た。


 王都で募集した際にも相当に仕官しそびれた者がいたのだが、道中の武勇伝で勇名を馳せたことで改めて我も我もと仕官希望者が殺到することになっている。


 陛下の姪で公爵家当主となればそれだけでも、カネと権力に溢れている訳で仕官先としては垂涎の的。

 しかも、極め付きの美少女で強力な魔法も使える当主である。


 そして、今回は千人の軍団を率いての武勇まで示して、指揮官としての有能さをも天下に名を轟かせてしまっている。


 若者もベテランも、自らの武に自信のある者がドンドンやって来てしまっているのである。


 一行の旅はなんだかんだでトラブルに巻き込まれたから、足止めされていた時間もそれなりに長い。


 鬼退治の話が王都に広がってから王都を飛び出してきた者でも、忠治の捕り物に手間を掛けていた間にリューシャ一行に追いつけてしまえていたのだ。


 地元の北方領に入ってしまうなら少々軍勢が増えて行っても構わない、沿道の大名達は身内同様なのだから軍勢を引き連れていても文句は言われない。


 むしろ、身内同様だから附近の大名の縁者を少々採用しておかなければならない面もある。かくして、数日おきに仕官希望者の腕試しをしながらの旅となっていた。


 リューシャとしては、こうした仕官希望者とは別に、柳生宗矩を口説いている。

 彼女は使える人物を欲しがったのだ。


 柳生十兵衛が嫡男として柳生一万石を継ぐとして、それでは次男の友矩か三男の宗冬をイルマータ家に仕官させて北方柳生家を設立してはどうかと打診していた。

 陪臣になってしまうが、それでも一万石を出して構わないと。


 柳生宗矩としては歓迎していた。十兵衛に一万石を継がせると、他の子供に与える領地がない。かといって一万石の大名からの転落は避けたい。


 分家を作って次男か三男が独立してくれるなら願っても無い話だ。しかも、公爵家から一万石を受けるとなれば、運次第で王家から独立が許されれば分家も大名に列せられるかもしれない。これは絶好のチャンスだ。


 次男の友矩は王太子に気に入られているから王都から放せないとして、三男の宗冬に分家を立てさせることにでもしたい。

 幸い宗冬は割と温厚実直な性格で武芸に限らず文芸にも通じている、根がお嬢様育ちの少女公爵当主とも上手くやれそうな男だった。腕の立つ門弟達をつけてやれば、立派に北方柳生は成立するだろう。


 この話は北方の安定につながると宰相からも歓迎されて、無事に陛下からも裁可を得て。

 公爵家に王宮の意向を重視する重臣をいれておきたいのだから大歓迎の話だった。


 かくして、柳生宗冬はリューシャ一行に追いついて来ている。柳生の高弟20人程を引き連れてだ。


 この仕官話に一番喜んだのは十兵衛だった。恐らく次男友矩は王太子から所領を貰うだろうから心配はいらない。

 三男が一気に一万石の大身となるなら柳生の嫡男としても大歓迎だ。元々は文芸に傾倒して武芸の修行に身が入らない弟だったが、ある日突然と目覚めて剣の修行に邁進し始めて今なら立派に一人前になった弟だ。長兄としても自慢の弟であった。


 かくして王宮の意向を受けて、柳生一族が陰謀を巡らせる。


 王宮の意向とは、


・当主リューシャへ円滑に権力を移行させる。


・邪魔になる伯母、叔父の一族は完全に粛清する。


・リューシャ統治下の公爵領には王宮の意向を尊重する家臣団を編成する。


→この点に関してはリューシャ領に匿われた側近団と王都で新たに編成した文官グループで統治を行うことで進める。


・幼いマークは王都に連れて行って、王宮の都合のいい領主として教育を施す。


→マークに対して王女玉姫を降嫁させて、王都に留学させることで合意済み。


・マークが十分に領主の任に堪えると思われる状態になれば、リューシャから権力を移行させる。


→おそらくは15年後くらいの話になる。


・領主引退後のリューシャには夫共々魔法師として王家に仕えさせる。この場合、リューシャ領20万石は王家から安堵して、独立した大名家としてリューシャと与楽の子に継承させることを認める。


→これも15年後の話になる。


 といった青写真である。これに関してはリューシャも了承済みだ。


 結局の所、リューシャと柳生で陰謀を巡らせるべきは、如何に短期間のうちに邪魔な親戚筋を排除するのかということになる。



 リューシャ側戦力

・リューシャ自身と夫、側室3名。

・王都から連れて来た兵1千人。

・途中で士官を認めた追加兵5百人。-この中には武芸大会で知り合った比較的強力な魔法師も含まれる。

・柳生勢21人。

・リューシャを迎えに出ている元側近グループの兵5千人。



 伯母/叔父側戦力

・公都内に約2万人の兵。

・2万人の内で公爵城内には3千人程が駐留。

・地方からも総動員すれば十万単位での動員も可能だが、今回は動員されていない。

・既に王都から伯母と叔父に対して財産目録の作成と提出を公爵当主として命じていたのだが、返答が来ていない。リューシャを公爵当主として認めないという方針を彼らは打ち出している。マーク本人は以前正式に公爵に任じられていることを楯にしている。



 リューシャ/柳生の大方針。

・公都内を焼打ちするようなことは避ける。

・出来る限り奇襲を以て、伯母夫妻と叔父2名を確保する。

・確保した後に鉱山の不正、横領、貴族を詐称した罪状で領民の前で公開処刑すること。



 公爵領に入ってすぐの所には公爵領南方の守備に当たる朱雀城がある。

 ここの城主は伯母方の縁者だったが、城外からリューシャ兵1千5百人が迫るのを見て退去している。

 彼らとしてはリューシャ兵の中に王国軍の旗があるのを見て諦めた。公爵内での私闘として処理されるのであれば問題ないと考えていたのだが、実際には王国軍と戦闘になるのは大問題だと判断せざるを得なかった。

 王国軍に弓を引くのなら完全に謀反人である。それでは兵士達がついてはこない。

 守備兵5千を擁する拠点ではあるのだが、王国軍に弓引く度胸のある者はここにはいなかったのである。


 退去したのは城主と側近の20名程。

 残る5千人は大人しくリューシャに恭順を示している。下士官などでは公式に公爵となったリューシャへの忠誠の方が強い傾向にあるようだ。そうしないと俸禄がもらえないのだから当然だ。王国軍に護衛されたリューシャ姫こそが正統な公爵家だと、誰が見てもはっきりしている。


 ここで柳生からリューシャへ提案がなされた。

 宗冬だけではなく、十兵衛が助っ人50人を引き連れて合流してきたというのである。

 そして柳生一党で先行して公都に入って、反乱部隊の指揮官連中を闇討ちしてしまいたいというものだった。

 叔父達が軍勢を率いるといっても、率先して陣頭指揮を執るとは限らない。あくまでも武将をカネで雇って実際の現場の指揮を執らせるのである。

 そうした現場の高級指揮官連中を闇討ちなり、寝込みを襲うなりして殺してしまえば、軍隊としての機能はガタ落ちになる。

 相手が少数になるタイミングを狙って、暗殺を仕掛けるというのは現在の柳生としては得意分野の一つであった。

 伯母夫妻と叔父2名の側近で侍大将をやるクラスの人間は限られている。そして幸いにもこうした家には本物の強者などは仕官しない。


 リューシャは朱雀城の取りまとめに苦労しているという風聞を流しておいて、油断させておいて一気に邪魔者を始末してしまいたいということだった。


 宗冬に手柄を立てさせておきたいという柳生家の本音もあるのだが、リューシャにとって悪いことでもない。

 提案は実行されることになった。


 当面の狙いは伯母の夫オケアヌス、叔父アイエとパーシーの家臣となる。

 それぞれにフォボス、ダイモス、アロダイという武将が仕えていることは調べがついている。過去の戦歴からして、王都に出れば3流程度と思われる。


 注意すべきはアイエという人物はリューシャの父親の予備扱いの次男であり、長じては重臣になるように育てられており、武芸の腕もそれなりのものであることが分かっている。

 3男だったパーシーという人物は文官派であり武芸の方はサッパリらしい。

 そして、オケアヌスは嫁の実家に寄生しないといけない程度にはダメ男らしい。


 かくしてフォボスには十兵衛、ダイモスには宗冬、アロダイには柳生の高弟である木村友重が当たる。それぞれにバックアップとして数名が支援に回る。

 相手の動向については事前に現地の手引き要員に忍びの者を手配してあり、逐次分かるようになっている。


 朱雀城に出入りする商人達からリューシャが兵の取りまとめに苦労していて、公都入りが遅れそうだという噂が流されて行く。


 公爵城では今後の対応を巡って一族の中でも揉めている。


 王国軍が出て来ているから、下手をすると周辺の大名連中が王国軍に助太刀して一斉に自分達に掛ってくることになるかもしれない。

 しかし、このままでは金山の不正が発覚して処分されるのは間違いない。

 リューシャに頭を下げて助命を嘆願するか。

 ひと財産持って隣国のオロシアか貢鮮にでも逐電するか。

 結論が出ないままに不毛な時間が過ぎて行く。


 親分連中がこうしている間には、武将は精々兵士達の状況を確認して練度でも上げる位しかない。

 武将連中は主とは別行動することが多い状況になった。


 兵の訓練といっても雨が降るようだと中止になる。無理して風邪でも流行らせては話にならない。彼らも大人しく自分の屋敷で過ごすしかないことになる。


 かくして雨の夜。

 惨劇の一晩は始まった。


 雨の夜にまで夜更かしするような人間などこの時代には多くは無い。

 アロダイ屋敷の住人達もそれは同じことだった。

 ここ暫く平和な治世であったから武将といっても、すっかり弛んでいる者は弛んでいる。

 特に戦働きをせずとも身分不相応なカネを得るようになった武将ならなおさらである。

 元々は一介の分家の家臣である。それも余り期待されていなかった3男坊が主ともなれば待遇など知れたものだった。

 公爵家当主が幼い少年になって、彼はカネ回りが良くなり大きな屋敷に引越したものだが、雇人はさして増やさなかった。

 だから、広い屋敷であっても人間は少なかった。

 アロダイ家族5人と使用人5人だけ。これでは、警戒は十分とは言い難い物だった。


 雨をついて、忍びが闇の中で勝手口の扉をこじ開ける。

 扉が開けられるとすぐさま3人程が、中へと静かに駆け込んでいく。


 真っ直ぐに2階の奥の方にある豪華な一室へと進んで行く。

 そして、そこの扉を開ける。


 ベッドの脇にあるサイドテーブルにはワイングラスが放置されている。寝酒でもやっていたのだろう。

 お蔭でぐっすりと快眠できているようだった。


 そこに静かに進んで行く3人組。

 1人が口を押え、もう1人が喉元を突き刺す!

 刺された男は一瞬ビクリと体をはねさせたが、すぐにぐったりとしてしまった。


 そして隣の部屋に押し入る。

 殺気に気が付いたのか、中年女は寝返りをうつ。

 しかし、次の瞬間には口を押さえられて喉元を刺されて大人しくなっていた。


 同じことが隣合わせの部屋で3回程繰り返されると、男達は1階のフロアに移動した。


 小部屋に男3人が寝ている。

 今度は3人同時に襲い掛かって一気に喉を刺す。


 廊下の反対側の小部屋では、老女と少女が寝ていた。

 彼女達も容赦なく始末されていった。


 結局、彼らが屋敷にいたのは1時間もなかった。



 引き続いてはダイモス邸。

 彼の主であるアイエはカネ回りがよくなって、ダイモスにもその恩恵が来ている。

 大きな邸宅を手に入れて、4人の妻妾を抱え込んでいる。

 また主が武芸好きな面もあって、内弟子を10人程抱えている。

 他に個人的な兵士として20人。

 そうした大勢の人間を世話する為の雇人も10名ほど。


 こうなると闇夜に紛れて忍び込んで殺すというのも簡単ではない。

 だから選ばれたのは毒である。

 料理人とメイド2人を別々の伝手で脅かして、フグ毒や毒草を別々に仕込ませたのである。

 料理人はメイドがそんな事をしているとは知らない。

 メイドも料理人がそんな事をしているとは知らない。

 メイド同士もお互いにそんな事をしているとは知らない。

 だれかが失敗しても大丈夫なように、3つの方法で事を構えたのである。

 スープと肉の煮込み料理、お茶それぞれに仕込まれた毒。

 料理人は自分で毒を仕込んだ料理は食べない。メイドも自分が毒を仕込んだ料理を食べない。でも、それぞれお互いに相手方が毒を仕込んだとは知らない。

 だから、結局は3人とも毒を盛られてしまうのである。

 犯人ごと殺してしまえば口封じも必要ないから好都合である。


 それでも生き残りがいると困るから、夜間には一応忍び込んでいる。

 殆どの者は血反吐を吐いてこと切れていた。

 だが、若者が3人程虫の息で生き残っていた。彼らには侵入者たちが改めて即効性の毒を飲ませて止めを刺している。



 最後にはフォボス邸。

 彼の主夫妻は武芸には全く素養の欠片も無いような存在であった。だからこそフォボス程度の存在でも武将として採用されているという始末だった。

 武芸に興味がない主ともなれば、武将の扱いもぞんざいなものであった。

 彼については余りカネ回りがパッとしないままであった。

 だから、彼の邸宅は小さかったし、雇人も少ない。

 家族と雇人で7人程という住人だった。


 夜陰に紛れて侵入した賊は5人。

 彼らは入口付近の部屋から片っ端から寝ている人間の喉を刺して行った。

 最後になったのがフォボス本人だったが、彼は寝ているまま起きることも無く命を落として行った。

 異様に手際が良い侵入者であったし、全く油断しきっている住人達であった。


 次回は、豪快に魔法をぶっ放すお話になります。

 彼女が兵士達から女神扱いされてしまうという展開です。本日中になんとか投稿する予定です。

 乞う、ご期待。


 それはさておいて。

 本日の皆様のアクセスを見ていると、PCやスマホではなく携帯からのアクセスが圧倒的に多くなりました。正月三ヶ日はPCからのアクセスが9割ほど。

 本日は携帯からのアクセスが8割程になっています。1/6の18:00時点で。

 私の文章はダラダラと書いているので、携帯だと読み難いかなと不安なのですけれど大丈夫でしょうか?


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