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3.決闘

 当主春信が沈黙せざるを得なかったとしても、春長までは黙っていられなかったみたい。

 何といっても十六夜姫は美しかったし、優しい娘です。

 簡単には忘れられなかったのでしょう。


 既に他人の子を孕んでいる娘を嫡男の正妻に据える訳にはいかない。

 マズイことに春長は冷たい男という評価になっていて、別の見合い話が成立しない。

 家臣の家からでも嫁を貰うくらいしかない事態らしい。


 それでも、それを黙って受け入れれば良かった筈なのです。

 当人と家臣はそれで幸せになれた筈。


 しかし、馬場氏と同格の与力衆の子供達が春長を追い詰める。

 武田軍団の主導権争いでもあるのでしょうけれど、山県や内藤といった騎馬軍団を構成する有力な家の子弟達が事あるごとに春長の足を引っ張る訳です。


 そして、馬場春長は出雲貴志宛てに決闘状を送り付けてくる事態です。

 ご丁寧に馬場春長はハンター・ギルドに登録して、ハンターとしての立場からの同格の決闘を申し入れてきたのです。


 ハンター・ギルド本部としては、すぐさま春長のハンターとしての登録を抹消。

 ギルドメンバーとしての決闘拒否を馬場氏に通達。

 やるのなら武門らしく騎士として戦えと、ご丁寧に申し添えて。

 そして、武田家に対しても武門としては外れた行為ではないかと警告。


 武田家としては馬場家の問題であって、武田家としては関知しないと回答。

 寄り親である武田家から見捨てられたと知った馬場春長は、王室に対して決闘の許可を申し出る。


 王室側では一笑に付したかったところが、実は過去50年間で似たような事件が3回ほどあって、それは決闘で決着をつけたと王都の瓦版で報道される。


 王室からは神社本庁を通して、馬場側からは決闘で勝ったら十六夜を引き渡せと要求されているけれど、出雲側では勝った場合にはどうしたいのかと照会してきた。


 どうやら決闘をしないとダメらしい。


 宮司爺さんと相談して、いっそ馬場氏の子爵位を返上させて俺を子爵にでもしてもらおうかと冗談を言っていたら、折衝に来ていたお役人さん曰く。


「その選択肢は認められます。

 今回の騒動で負けたら馬場家は家禄返上です。

 神社の家に決闘を申し込む武家なんて馬鹿でしょう。そんな家なんてあり得ませんよ。

 王都の瓦版が余計なことをしなければ王家としては決闘なんて認めていません。

 本件は王家としてもお怒りです。

 この件が終われば武田家の家禄は、監督不行き届きで30万石召し上げが決まっています。信玄公が陛下にお詫びして、減封を申し出ています」


「あ、あの俺が勝つことが前提になっていますか?

 それに凄い大事になっているような気がしますけれど・・・」


「ワイバーンの群生地に突っ込んで行くようなハンターが負けるとは誰も考えていません。

 馬場家の嫡男といっても、何の功績もない只の子供に過ぎません。

 そんなものに振り回されて皆が迷惑しているのです。

 信玄公の管理が甘いのです。

 事後の処理をどうするのか、何がベストなのかを閣僚は考えています」


「俺は十六夜とノンビリ暮らしたいだけなのに・・・」


「それでは子爵位と俸給ですね。もっともワイバーンをいくらでも狩り獲れる人間には、子爵位の禄などは微々たるものでしょうけれど」


「・・・はい、お願いします・・・」


 はぁ、なんかやる前から負けたような気分です。

 因みに領地を持たない子爵の場合は、年収5千万環だそうです。

 ワイバーン半分の値段ですか。


「ルールですけれど、基本的には何でもありです。

 槍でも刀でも、弓矢でも魔法でも何でも結構です。

 介添人が5名まで認められますが、決闘する当人が死亡した場合はその場で決闘終了になります。

 介添人同士が最後に残って決闘を続けることはありません」


「ちなみに、介添人というのは召喚獣でも構わないのでしょうか?」


「魔法を使うのは自由です。介添人として数に入るのは人間だけです。召喚魔法でならどれだけの数を召喚しても自由になります。」


「それは助かります。それで、いつどこでやるのでしょうか?」


「1ヶ月後に王都の闘技場になりますので、遅れませんように」


 予定された事柄を着々と進めるだけという佇まいのお役人さんって偉いと思います。


「宿泊は神社本庁の指定宿舎を用意しておきます」


「はい、宜しくお願いします」


 もう、何というか。

 自分の身の上の変化について行けません。

 何が起こっているの一体・・・。


 お役人氏が帰って行った後。

 すっかり疲れた俺は、十六夜に膝枕をしてもらいながら思う訳です。


「ねえ、十六夜。俺はただお前とノンビリ暮らしたいだけなんだよなあ」


「はい、アナタ。わたしは貴志さんにどこまでもついて行きますよ」


 俺の頭をナデナデしてくれる十六夜。良い娘だなと心底思います。


 あっという間に日々は過ぎて行きまして。

 問題の決闘当日です。

 宿舎に馬車のお迎えが来て、そのまま闘技場まで連行されました。

 介添人は使いません。


 神社には護衛のための武力集団が実際にはある。

 氏子の中には貴族の武家の人間もいる、

 氏子の男衆はそうした人間に稽古をつけてもらって、ちょっとした武力集団になっているのが現実です。

 総兵力だと700人位の槍部隊と100人位の弓部隊を編制できる程度には、“軍隊”を持っているのです。


 でも、埴輪軍団の周りに人がいると巻き込まれて怪我をするかもしれませんので、今回は遠慮させてもらいました。

 むしろ、警備が必要なのは十六夜の身柄です。


 何か仕掛けてくるとしたら十六夜に対してだろうと、俺は思っているのです。

 だって、武田家から見捨てられた馬場氏では正面から俺に対抗できないでしょうからね。


 かくして10人ほどの出雲兵が十六夜の警護についています。


「さっさと姫の身柄を寄越せ!」


 ガラの悪い馬場兵が何か叫んでいますが無視です、無視。


 闘技場に入場すると相手側は馬場春長本人と、介添人として何とビックリの馬場春信当主。

 そして従士長と精鋭3名という構成です。


 負けたら子爵位返上ということで、当主本人の登場となったらしいですね。

 こんな所で意地を張るなら、別の所で頑張っていい嫁さんでもバカ息子にあてがってやればいいのに。


 そこに王家騎士団長だという見事な甲冑を身に付けた人物が登場。

 双方の家に対して、決闘後の遺恨返しはご法度であり無視したら一族皆殺しを覚悟せよ。

 事後の敵討ちは一切無用。殺し合いはこの決闘の場に限るのだと言明していく。


 まあ、際限なくリターンマッチさせられたら困るよね。

 それに所構わす血を流されても治安が維持できないし。


 団長殿が下がると、太鼓がドーンと叩かれた。

 始め!と、どこからか号令がかかる。


 それでは始めますかね。


「急々如律令。我が僕よ、疾く来たれ」


 最初から容赦なし。

 15m級埴輪6体、3m級埴輪15体を召喚。

 3m級3体を俺の護衛に残して、残りは一気に敵を叩き潰せ!と命令を念じる。

声にする必要はなくて、念じるだけです。


 仕合時間としては1分くらいなものでしょうか。

 本当にあっという間でした。

 埴輪軍が矛で敵勢をブンという音と共に叩き潰して終了という感じです。

 全く反撃の余地なし。


 闘技場には死体が6体。


 一応、開きっぱなしの死人の目を閉ざして行きます。

 そこまで!の声がかかったのは全部の目を閉ざした後ですね。

 号令遅くないか?

 どうでもいいけれど。


「勝者、出雲」


 という声が上がると、闘技場に集まっていた観衆がドッと歓声を上げる。

 終わってから気が付いたけれど、凄い人数がいたんだね。

 すっかり緊張していたらしいや。

 満員になると5万人位入るとお役人さんが説明していたっけか。

 これだけの人数に気が付いていないって、俺もどうしたものかと思う。


 何はともあれ、これで安心だ。

 はて、十六夜はどこにいるのだろうか。


 観客席をキョロキョロ見回すと、いましたスタンドの真ん中あたりの貴賓席らしい個室めいた場所があって、そこに家族と座っています。

 十六夜と妹ちゃんが並んでいると華やかでいいですなあ。


 手を振ってみると、ニッコリと笑ってくれます。

 ウンウン、これで幸せになれるだろう。

 妙に安心です。



 でも、それが甘かったです。

 貴賓席の真下に黒ずくめのローブ姿の輩が3人。

 突然現れて、何か煙のようなものをまき散らしやがった。


 何してやがる!

 帰還させていなかった埴輪軍をすぐさま飛ばす。

 ローブ姿の乱入者達は、埴輪軍と警備兵にすぐさま取り押さえられる。


 煙は警備兵が風魔法で上空に飛ばして、貴賓席には治癒魔法師が駆けつける。

 一体何が起きた。

 貴賓席にいた家族達は盛んに咳をしている。

 毒薬か。

 俺の背中に嫌な汗が流れる。


 警備兵がとらえた賊に何を使ったのか訊問している。

 治癒魔法師は周囲の気体を袋に集めている。


 どうやら致死性の毒ではないらしく、家族達は冷静に立ち直って行く。


 警備兵に取り押さえられている賊がようやく口を開く。


「けっ、ざまあミロ。ありゃ堕胎魔法だ。テメーのガキなんぞ産ませて堪るかよ!」


「このゲス野郎、恥を知れ!」


 王宮警備隊員が激怒して賊をぶん殴る。


 観客席の観衆は騒然として来た。


 貴賓席にいた十六夜だけは立ち上がらない。


 妹でさえ、既に立ち上がっているのに。


 十六夜だけはお腹を押さえて苦しがっている。

 ああ、下腹部から出血まで始まってしまった・・・。


「ねえ、十六夜しっかりしてよ・・・」


 立ち尽くすしかない俺。

 決闘に派遣されていた王宮治療魔法師が必死の形相で、十六夜のお腹の上に手をかざして光を当てる。

 光はお腹全体を包み込んでいく。

 けれど、始まった出血は収まらない。

 十六夜の下腹部から両足にかけて血に染まって行く。


「御免なさい、赤ちゃんは諦めて頂戴。

 母体だけは何が何でも守りきるわ。王宮魔法師の誇りにかけて約束するから」


 気が付けば治療魔法師が5人ほどに増えていた。

 急を聞きつけて王宮から瞬間移動して来たのだろう。

 初めて見るような水色の髪や本当に燃えるような真っ赤な髪の魔法師がいるのが目に付く。

 その目立つ二人が主導して、全員で同じ詠唱を初めて、大きな魔法陣が形作られていく。


 やがて水色の光球が現れると、十六夜のお腹の中に入って行く。


 光が十六夜に同化していくのを、ただじっと見ていた。


 十六夜は苦しそうだった。


 ああ、なんで十六夜がこんな目に遭わなきゃいけない。

 誰だ、こんなバカなことを考えた奴は・・・。


 十六夜の荒かった呼吸がだんだん穏やかになっていく。

 お腹の光が弱くなって、やがて消える。

 顔色が少しだけ赤味を帯びてきて、目を開けられるようになってきた。


「貴志さん、ごめんなさい。

 私、貴志さんの赤ちゃんを産むって約束していたのに・・・」


 涙を零して、俺に詫びる十六夜。


「いいんだよ、十六夜さえいてくれれば俺はそれでいいんだよ」


 二人で抱き合ってワンワン泣いた。

 ひたすら泣いた。


 騒然としていた闘技場はいつの間にか静寂になって、少なからぬ嗚咽に包まれていった。



 それからの3日間。

 宿舎の部屋で、ずっと十六夜に寄り添っていた。

 起きている時間は腰を抱いてずっと横にいるか、座ってお嬢様ダッコの状態で抱えているか。

 さすがに子作りをしなかったけれど、夜は彼女を俺の胸に抱きしめて眠った。

 兎に角、離したくなかった。ひたすら傍に置いておきたかった。

 彼女の体温や匂いが無くなることが怖かった。


 十六夜も何かを怖がるように、ひたすら俺に甘えて引っ付いていたがっていた。

 彼女は腹にいた我が子を喪失してしまったという、虚無感のようなものがあるらしい事を言っている。


 子を失って、俺に嫌われるのではないか。

 俺の子を二度と孕めないのではないか。

 そんな不安があるらしい。


 俺にとって十六夜こそが生きる希望。

 十六夜にとって俺の寵愛を受けることだけが人生だと思っている。

 お互いにお互いの温もりだけが救いであるような気がしていた。


 たまに出雲の親達が様子を伺いに来たけれど、それでも二人きりにしておく時間をとってくれていたらしい。


 4日目に王宮から呼び出しがあった。


 決闘を許可しておいて奇襲を許したのは手落ちであったと宰相自らの謝罪を受ける。


 また、馬場一族はことごとく処刑となったそうだ。

 これは男に限らず、女子供まで含めて徹底的に処断されたらしい。

 出家していたような遠縁の者でさえ、還俗させられて処刑されたそうだ。

 本来、決闘というのは武家の名誉をかけるもの。

 それを場外で女子供に奇襲をかける。ましてや妊婦を的にかけるなど武家としては言語道断である。馬場一族の存在は許すまじ、という国王陛下のご判断だったそうだ。


 俺に対しては、予定通り子爵に取り立てられる。


 出雲家に対しては、神社の家柄を決闘に引き込んだ詫びという面もあって、神領として2万石の加増となる。出雲家としてはこれで10万石の領地を持つ大身の家ということになる。


 そして宰相が厳しい顔で俺に言った。


「お主の力は強力に過ぎる。

 ハンター・ギルド所属の一介のハンター扱いをしておくには、危険だと判断せざるを得ない。

 よって、王都に滞在して王宮魔法師となるか、近衛騎士団に所属することとする。

 どちらに所属させるべきか、今後適正を見て判断を下すことになろう。

 所詮は未だに12歳に過ぎない。

 これより王都の学園に入学して、大人になるまで勉強せよ。

 勿論、可愛い嫁と一緒でよい。

 此度の子供は残念であったが、治療魔法師どもは十六夜殿なら普通に子供が出来ると太鼓判を押しておる故に安心せよ。

 それでは明日には陛下から爵位が下されることになる故に、準備しておくように」


 うん、まあいいオジサンなんだろうね。

 宰相閣下ってば。


 徳川さんって、オジサン。

 ニコニコしている時には優しそうなオジサン。

 けど、怒りを見せた瞬間はとっても怖い感じ。



 俺も十六夜も王都暮らしなんて初めてになる。

 何が起きることやら、ノンビリ暮らしたいのだけれどね。



 領地を持たないながらも子爵家の当主になってしまった俺です。

 この国では貴族になる者は必ず領地持ちです。

 貴族というのは1万石以上の土地を王家から拝領している大名を差しています。1万石未満の身代の者は貴族ではありません。

 王家から拝領しているというのがポイントで、大名家の家臣になって1万石以上貰っていても貴族ではないという扱いになります。

 いわゆる陪臣になって5万石貰っている者よりも、1万石の大名は貴族で身分は上になるという仕組みです。



 さて、世間的に子爵家ともなれば、それらしい家臣がいないといけないらしい。


 そういえば、一応貧乏騎士爵家の実家にも執事らしき存在くらいはいましたっけね。

 そうした家臣団の編成に関しては、出雲の家で全部整えてくれました。


 神社の氏子衆の中から、出雲と親しい上杉家の親戚筋にあたる執事を採用。

 神仏の保護者を自任する上杉家は、大旦那スポンサーとしてアレコレと面倒見てくれているそうです。それを武田家がやっかんでいたというのもあるらしいけど。

 同様に氏子衆から従士隊とメイド隊を編成。

 執事と従士2名、メイド3名からの6名だけの家臣団の出来上がりです。


 実際の所は王都にも神社の別宮があって、その運営のお手伝いも兼ねる要員でもあったりする。俺の住居としても別宮の敷地内の出雲別宅に住むことになってる。


 俺の多額の寄進に、ご神領の加増と来ているから、出雲家としては順調なんでしょ。

 別宮では改修工事が進行中です。


 そして、王都では十六夜をメイン・ヒロインに据えた演劇が絶賛上演されている。


 ある日突然にワイバーンに攫われる悲劇の巫女。

 そこに颯爽と登場する若きハンター。

 群れなすワイバーンをバッタバッタとなぎ倒す。


 しかし、救出直前に逃走するワイバーン。

 逃してなるかと必死の追跡をする若きハンター。


 苦労の末にワイバーンをひっ捕らえて巫女を救助するも、神龍に襲われ危機一髪。

 ひとます洞窟に逃れる二人には、そこで愛が芽生える。


 結ばれた二人は、若きハンターの超絶魔法によって危機を脱して帰還する。


 若きハンターは前代未聞の40体を超えるワイバーンを神社に寄進。

 巫女を救出されたこともあって、若きハンターは婿として迎えられる。


 二人は束の間幸せに過ごすも、欲深い元婚約者が横やりを入れてくる。


 神社の富を横取りせんと目論んで、6対1の決闘を仕掛ける。

 若きハンターは一瞬で6人を打倒して巫女を守る。


 しかし、決闘の裏側では負けた場合に、巫女のお腹の赤子を殺せという陰謀まで用意されていた。


 そして、陰謀にかかりお腹の子は虚しく・・・。

 しかし、若い二人は挫けずに愛を育み幸せになろうと誓い合う。


 それを祝福した王様は、若者を貴族に取り立てたのでした。


 メデタシ、メデタシ。





 劇場は年齢問わず女性層に大絶賛だそうです。

 それに、若い男にも相当の人気らしい。


 あと、爺ちゃんが5回も見に行った。



 自分の出来事なんですけれど、なんというか。とってもドラマチックだなーと思いますです。

 ハンターの大活劇あり、ロマンスあり、決闘あり、陰謀あり、最後は立身出世。

 俺の人生って結構大変じゃない?


 おかしいなあ。


 俺は綺麗なお嫁さんとノンビリ暮らすのが夢だったんだけれどなあ。

 どこで間違えた??


 因みにこの劇。


 俺と十六夜は、一回しか見てません。


 だって、終盤になって隣で見ていた彼女が思い出してしまって泣き出して。

 幕が閉じて客席が明るくなった時には、涙する彼女を抱きしめる俺。


 そこに劇場の奴が照明落として、俺たちにスポットライト当てやがった。

 ご丁寧に、本日はご当人のお二人が来場されておられますとアナウンスしやがって。

 周りにいた女性客の皆さん釣られて涙、涙、涙。


 それがまた余計な評判を呼んで、この劇は大ヒット一直線。

 恥ずかしくて2度と行けるかい!




 そして、劇場だけが人で溢れかえるということではなくて、神社の方も結構大変なことになっている。


 縁結びの神様ということでもあって、決闘騒ぎ以降は参拝客が一気に増加。

 王都の別宮は完全にデート・スポットと化していて、お賽銭が従来の10倍だとか。


 また、恋愛成就の特別祈祷というのが大繁盛で、王都にいる義兄が大忙し。


「“あの噂の巫女”は、自分の妹なんですよ!」


 若い娘を持つ貴族や商売繁盛している商家からは、引っ切り無しに依頼が飛び込んでいるらしいけれど、これを言うだけで通常のご祈祷料に加えて余計に多額のお布施を包んでくるケースが多発しているそうな。


「全然休めなくなったけど、気合充実だぜ。おい、義弟よ。妹を任せたぜ!ヨロシク」

 

 うん、兄貴よ。アンタは間違いなく爺ちゃんの孫だな。


 んで、その爺ちゃん。

 ワイバーンって手持ちを全部売っちまったかと俺に聞いてきた。

 ワイバーンは全部売ったけれど、ティラノを8頭分売らずに手元に置いてあると教えたら・・・。


「ヨッシャ、それだ!

 剥製にして本宮と別宮にそれぞれ置いて展示するぞ。

 魔石も展示用にしちまおう。肉は串焼きにでもして祭りの時に売ればよかろう。

 “出雲子爵が倒したティラノ”-うん、いいじゃないか!

 しかし、8頭は多いな、よく獲れるもんだ。今更の事だが」


 かくして、別宮の拝殿で拝む位置に立つと、実測で直径35~38cmの魔石が8個ほど目に付くように配置されてます。


 一番大きい奴を7千万で売ってくれと言い出した商人がいたそうだが、爺ちゃん断ったらしい。

 別宮で参拝すると5.6億のお宝に向かって拝む形になる訳で、そう考えるとなんかご利益があるような気分になってくるかもしれないかな。


 この魔石に吸い寄せられてくるのはなにも商人だけではなかった。

 軍人さんも寄って来た・・・。


 本来は末娘の良縁祈願の為に参拝して来たらしいのだが、拝殿の魔石を見て驚いたらしい。

 並みのティラノだと30cm未満の魔石の場合が多い。

 それを超えるようだと、相当な大物だということになる。

 それを見事に8個揃えるというのは中々の手腕という評価になるみたい。


 そう評価したのは軍務卿を務める本多忠勝様。

 泣く子も黙る王家の武の象徴。



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