29.決着は決闘で
ご愛読ありがとうございます。
魔女達の怒りの大魔法炸裂!女を泣かせたアホ貴族を成敗するお話。
この物語の女は強い。
男は良い所をあっさりと女達に持って行かれている気がする・・・。
「ごめんなさい、あなた。
勝手に騒いで、結局あなたまで巻き込んでしまって」
豊かな胸の谷間に顔を埋めリラックスしている夫に対して、彼女は申し訳なさそうに告げる。
クルーガは王宮で与えられている部屋のベッドで、夫と睦みあっている。
正妻も側室も区別なく、彼女達は日替わりで夫の当番を務めている。
当番に当たる者が、夫の傍に一日中侍るということに女同士で決めているのだ。
16才のクルーガやリューシャと11才のシードも、夫の傍にいる時間は平等だ。
夫より年下のシオーヌやシードは当然、夫に甘えたがる。夫は甘えられることは嬉しそうだが、それでも年中そればかりだと疲れてしまうだろう。
せめて自分だけは姉的な位置で、年下の夫を甘やかせてあげたい。クルーガはこの数年そうした来た。
出会ってから半年くらいのリューシャだと、どうしても夫との距離を確認しているような所があるとクルーガは感じている。
柔らかで温かい感触に包まれて、少しウツラウツラしていた与楽はどうしたの?と顔を上げて妻の顔を見る。
「私が暴走しなければ、あなたを決闘になど巻き込むこともなかったのに」
「まあ、ああしなければ収まらない状況だったのも確かだろうしね。
宰相なんて面倒事が片付いて喜んでいたし。連中の所領を取り上げておいて、陛下の次男と3男の王子に将来分家として与える領地にしようだってさ。
今回は皆揃って巻き込まれただけだしね。僕に出来る事なら少しくらい手伝うよ。
正直、キミを戦わせるのは気が進まないけどね。
美しい妻を傷つけるようなのは嫌だもの。僕がまとめて全部始末しても構わないんだよ?」
「でも、自分で言いだした事ですから・・・」
「ねえ、クルーガ。孤児で育った僕には家族なんてなかった。
物心ついたら師匠の後ろについて山に籠って、毎日血塗れで魔物や妖怪と戦っていた。
僕は結局戦うことしかできない。
僕が初めて知った人間の温もりなんてシードだったくらいさ。師匠と死に別れた、あの頃の事はキミだって知っているだろう?
今の僕はキミ達に囲まれていてとても幸せなんだよね。世の中に戦い以外の物があるってキミ達がいなければ僕は知らなかった筈だもの。
絶対に失いたくない。勿論、傷つくのも御免だよ?」
「あなた、私はあなたと一緒にいたいのです。何をするのでも一緒がいい。
あなたが傷つくのなら私も一緒に、それはダメですか?」
「絶対にダメ。嫌だ。
僕を傷つけられる奴なんていやしない。僕は誰にも傷つけられない。
でも、キミはそうじゃない。
僕の術はキミだって知っている筈じゃないか。
僕はキミを丈夫な籠に入れて大事に取っておきたいくらい。
強力な魔法師じゃなくて構わない。戦わなくてもいい。
どうか美しい妻としてずっと僕の傍にいて欲しい。
多分、キミに何かあったら、僕の魂は壊れてしまうだろう・・・クルーガのいない世界なんて許さない。それなら世の中全部壊れてしまえばいい。そう思う。
僕の胸の一番奥底にキミは居る。そこは誰にも代われない。それを忘れないで」
「あなた・・・」
言うだけ言って、与楽は妻を求めた。キミは僕の宝物なのだと言いたげに、彼女を優しく、優しく。
甘い悲鳴をあげながら、彼女の意識はやがて真っ白になって行った。
「本当に愛されているのね、貴女は」
翌日、クルーガがリューシャに昨晩の夫との話をすると、溜め息混じりにリューシャはそう言った。
「ねえ、クルーガ。強くなる、強くあるということと、実際に戦闘をやって無双することとは違うわ。
私達が修行や稽古をして強くなるのは、夫は嫌がらないと思うの。
でも、共に戦って一緒に傷つくというのは、余りお勧めできないわね。
武芸大会に私達も出ると言った時に、あの人は物凄く反対したでしょ?順調に勝ち進んでいる時も、優勝した時も全然嬉しそうじゃなかったし。本質的に私達が戦うことを嫌がるのね。
実際に戦闘をやれば怪我をするし、痛い思いもする。それは誰よりもあの人は知っている。それで、あの術を身に付けたのでしょうしね。
あの術がある限りあの人には誰も傷つけられないわ。ドラゴンでさえね。
あの人は自分を誰も傷つける事ができないのなら1人で戦う、あの人は1人でも軍隊並の分身があるのだし。
愛しい妻には無理に戦闘なんてさせる必要はない。きっと、そう思っているのよ。
あの人は無駄な殺生はしない人だけれど、イザとなると躊躇なんてしない人でもあるわ。
いずれ私達が強い魔法師であることが必要になる局面は出て来る筈よ。
まず、自分自身を守る為に、そして夫が戦えない局面で私達が夫の代わりに戦う為に」
「今回がそうだと?」
「それは、どうかしら。
貴女が決闘を言い出さなかったら、こっそりと犯人達を始末して回ったのかもしれないわね、あの人は。
誰にも気取られずに、犯人がいつの間にか死んでいくということ位やりそうだわ。
シオーヌが本気で怒ったのをあの人は見た、だから放っては置かなかったでしょうし」
「何故、私を頼っては下さらないのだろう・・・」
「籠に入れておきたいくらい貴女を大事にしているからよ!
まったく、あの人は私にはそんな事なんて言わないのに。なんで貴女には・・・。
今度、問い詰めてみようかしら?妻にしておいて、私のことは大事じゃないのって」
「私は与楽様と常に一緒にいたいのに、許されないのだろうか?」
「貴女は欲張り過ぎるのよ、そこまで愛されていてまだ求めるなんて贅沢にも程があるわね。
この国の女で皇太后様、皇后様、王女様に次ぐ地位にある私よ?
その私を差し置いて、貴女は夫に愛されている。貴女はどこの王様なのよ、まったくもう」
どうやら本気でリューシャが嫉妬したらしいと後悔しだしたクルーガは、それ以上は口を開かなかった。
どうやら自分にはわからない夫の心情をリューシャは理解しているらしい。むしろ、その部分にクルーガは嫉妬するのだが。
さて、決闘当日の控室。
まずは、伯爵家相手に与楽とリューシャが戦う順番になっている。
「ねえ、あなた。1人でさっさっと終わらせようと考えているのでしょう?
でも、今回はダメよ。きっちりと女魔法師の手で不逞の輩を退治しないと。
そうしないとこの国では、この先に魔法師を志す女性が出て来なくなるわ。
王都に修行に出たら男の慰み者になると知って、志願する女などいる筈がないのよ。
不逞の輩を女魔法師が倒す。それを世間に見せないと、この国が先々弱くなってしまうわ。
だから、今日だけは主役を譲って頂戴。あなたの武で全部殺してしまうのはダメよ」
「ええっと、そうなの?」
「そうなのよ。介添人を全部持って行ってもいいけれど、相手の当主や嫡男は私が倒さないと」
「まあ、大した相手じゃないみたいだから問題ないだろうけれど」
「あら、心配してくださるの?」
「そりゃそうだろう?大事な嫁さんを妙な連中には関わらせたくないさ」
「あら、クルーガには籠に入れて大事にしたいと言っても、私にはそんなこと言わない癖に」
「ああ、聞いたのか。・・・なんて言うのかな。
3人は籠に入れた鶯みたいに大事にして愛でていたいと思うのさ。間違いなく、彼女達に何かあったら僕の心は壊れると思う。
けれどさ、リューシャって普通の籠なんかに収まらない感じ。
公爵家を飛び出して神殿に出家して、挙句に住民を救いにワイバーンに喧嘩売りに行った女だろう?普通の籠になんて収まる訳がないよね。
王宮に当たり前に馴染んでいるキミを見てようやく分かったけれどさ。僕の知らなかった王宮くらいじゃないとキミは収まらないらしいとね。
精々、鵜飼いみたいなものでさ。キミには自由に振舞っておいてもらって、僕は手綱をしっかり持っているくらいで丁度いいのかなって」
「まあ、私をどれだけ暴れ馬だとお考えなのかしら、この夫は!」
「暴れ馬なんて思っていないさ、ベッドの上では僕の為すがままの可愛い子猫だしね」
「も、もう。ズルい方ですわ。とにかく、私の事も大事にしてくださいませね」
「うん、何なら今ここでどれだけキミを愛しているか、教えてあげようか?キミの事を見ているだけで僕はいつでも欲しくて堪らなくなるけれどさ」
「もう決闘の時刻ですわ。流石にこれからは・・・。それにここでは・・・」
「ねえ、リューシャ。キミを初めて見た瞬間に僕は一目惚れした。
それは今でも何も変わらないよ。いや、むしろ今の方がキミの事を魅力的だと思えている。やはり高貴な姫はしかるべき場所にいる方が魅力を放つよね。
僕はこれからもキミを離さない、絶対にね」
「あなた・・・どうしてもというのならここでも・・・」
この時、ガチャガチャと金属の擦れる音を響かせながら、部屋に近寄る気配を感じて2人は少し離れた。
やがて、ノックする音。
「公爵様、お時間です」
騎士団の者が呼び出しに来たのだった。
魔法学校の醜聞は、王都中にあっという間に広がっている。
教授連中が大量に処分されていることも、貴族連中が処分されていないことも。
貴族達の処分は結局貴族同士の決闘で、という流れは王都の庶民に反発と歓迎半々という評価だ。
貴族だと好きなだけ女を手籠めにしても許されるということへの反発。
しかし女性貴族サイドから、そうした事に反発があって決闘騒ぎになっていることへの好感。なにより反発しているのが女性貴族達だということが女性層の支持を集めている。
公爵家の若き美貌の女性当主が自ら不逞の輩の退治を買って出た。王都の庶民としては格好の見世物となっている今回の決闘である。
もっとも、貴族社会においては貴族の権利を制限されかねない事態は歓迎されていない。
男尊女卑の典型的社会において、女公爵や女男爵がデカイ顔でシャシャリ出て来るのも気に食わない。
だが、陛下の姪にして公爵家当主がデカイ顔して当たり前、この序列を無視するのならそもそも貴族社会が成立しない。
それに貴族社会の実質である武力の面においても、最強と目された竜殺しを簡単に倒した男が夫として女貴族共の後ろ盾になっている。
自分達の主張したい貴族の権威というのが女公爵の前には通用しない。そして、武力の面でも、どうにも底が知れない連中である。
だから、不本意ながら多くの貴族はこの決闘騒ぎを見守るしかなかった。
初戦は阿呆伯爵家。
既に廃嫡となった元嫡男は去勢されて鉱山送りにされている。こき使われてボロぞうきんのようになって、そう遠くないうちに過労で死んでいくのだろう。
もっとも実家の当主と郎党の5人はこの場で処刑されるのも同様だ。苦しまないでいいだけ、この場にいた方がマシだったのかもしれない。
伯爵家だから一応はお抱え魔法師を雇っていた。しかし、今回の決闘騒ぎを聞いてサッサと禄を返上して去っている。対戦相手の武芸大会の荒業を聞いて、ノコノコと出て来る方がおかしいのだ。
だから、登場してきたのは伯爵本人と古くからの家臣の一団だ。代々の家臣と言えば聞こえは良いが、要するに家柄だけで家臣を続けているだけのこと。武勇には多くを期待するのは最初から間違いというものだ。
もし、救いがあるとしたら相手は、まだ子供の夫婦2人だけということ。
その淡い期待は開始の直後に簡単に崩れ落ちた。
開始と同時に、一瞬姿を消したように見えた与楽。
姿を現した時には家臣団の頭上にいたのである。
それも家臣団の数5人に合わせて、5人の与楽が!
忍術による分身などではない、これぞ神通力の一つである神足通だ。
容赦なく振り下ろされる錫杖。
あっという間に兜ごと5人の頭蓋が砕かれた。
やがて、5人の与楽は集まって1人になって行く。
闘技場が凍り付いた・・・。
勿論、阿呆伯爵本人も何が起きているのか理解できずに呆然としている。
そこにゆっくりと歩みを進めるリューシャ。
阿呆伯爵がリューシャは目の前にいると気が付いた瞬間に、刃の抜き払われる光が走った。
宙を飛ぶ阿呆伯爵の首。
静まり返る闘技場。なにか厳かな宗教儀式でもやっているかのようだ。
引き続き第2戦。
グレイ伯爵と嫡男。
そして、4億程の大金を積んで急遽集めたという自称腕自慢の浪人衆。一応、島原で戦功を上げたという浪人達である。
島原では序盤を除くと征伐軍に戦死者が少なかったので各大名家でそれ程には家臣に空席も増えず、結果的に新規に召し抱えられる浪人は多くなかったのである。
相当にヤバイ勝負と知っても、それでも彼らは自力でのし上がる為に人生の大勝負に出たのだ。
如何にも高価そうな甲冑の一式を供与されて、彼ら4人は今日のこの勝負に人生の全てをかけている。
対して公爵夫妻は返り血を浴びて、その姿は妖鬼じみた物になっている。
5人分の脳漿と血を浴びた与楽などは、凄絶な怖さを感じさせている。
吹き飛んだ首筋からしたたかに返り血を浴びたリューシャも、相当に酷い状態になっている。特に上半身にタップリと浴びたから美しい顔や髪にまで赤い色に染まっている。
それでも2人はその血を拭うことすらしない。
立ち合い人の柳生但馬が、“血を拭う時間を取るか?”と尋ねた時に、リューシャは決然としてただ一言だけ言い放ったのである。
「戦陣にて候」
16才の小娘に寝言を言うな!と言われた但馬は次の勝負を開始させた。
開始早々、やはり浪人衆の頭上に跳んだ4人の与楽。
3人は一撃で討たれるが、1人だけは見事に与楽の一撃を受け止めた。自慢するだけの武芸の持ち主だったのだ。
もっとも、次の一撃で彼も斃れたけれど。
残るグレイ伯爵と嫡男。早々に助っ人を討たれて既に戦意喪失している。
嫡男などは失禁して足元に水溜りを作っている始末だ。
ゆっくりした優雅な歩みで近付いていくリューシャを、彼らはただ呆然と眺めているだけだった。
彼女は一切の魔法を使うことも無く無言で刃を振るう。
そのまま首を刎ねられるに任せていった伯爵親子であった。
この2戦を見届けて軍務卿は陛下に何事か奏上。
陛下はただ頷くのみ。
傍に控えていた宰相が立ち上がり、観衆の前に進み出て告げる。
「決闘に臨んで相手に一太刀も付けられぬとは武門の恥ここに極まる。
かような家に所領など預けてはおれぬ。
よって、両家は所領没収といたし、お家断絶とする」
会場にざわめきが広がる。特に貴族席では動揺が激しかった。
決闘に臨んで、何も手出しできずただ立ち尽くすのみ。
これでは余りにも無様だった。何十万石もの所領を預かる大名家としては不甲斐ない。
一朝一夕事あれば馳せ参じるというのが、貴族である大名家の責務なのである。
そして、戦働きをするから故に男性優位の社会。
それなのに、まだ16才の小娘に伯爵家当主が何も抵抗せずに討たれる。
こんな無様では領民が一揆でも起こしかねない、誰だって役立たずの殿様になど税を払いたくもないだろう。
もし、あの場所に自分がいたならどうなってしまうのか?貴族席で見ていた当主たちは考える。
自らの武を以て小娘如きは討ち果たしてくれると考える剛の者。
我が家なら富士の演習場で鍛えられた精鋭がいる、連中を連れて行くなら相応の戦ができるだろうと思う者。
カネをケチらずに武勇を誇る者を雇い入れないと駄目だなと反省する者。
自らには武勇はない、しかし、家には剛の者を雇い入れるカネなど無いと悲嘆する者。
中には討たれた伯爵2人が特別ダメなので、自分ならどうとでもやれると勘違いするバカ殿もいるのだが。
もし、そうした家にちゃんとした家臣がいないのなら、柳生にとっては絶好の御手柄の機会になるのだろう。役に立たない大名家など、王宮には無用なのだ。
引き続き第3戦。
決闘の当事者としてはクルーガ女男爵。
介添人として彼女と同じ夫に仕える盟友シオーヌとシード。
そして、約束通りに貴志の了承を得たシェイラとレキュアが介添えとして参陣してきた。
本来なら介添人の枠は5人だから、もう1人入れる。
しかし、彼女達は与楽やリューシャの参戦を拒否。戦力としては既に十分だと。
3戦目からは変則的な決闘となる。
子爵家4家、男爵家4家、騎士爵家10家となると、それぞれ個別にやるのは面倒だ。
家格単位でまとめて勝負をしてやろう。
そう劣勢の筈の女性軍団から提案がなされたのである。
子爵家の当主に問題を起こした子弟。そして、介添人各4人となる。
4家から各6人だから、都合24人。
それを女5人だけで戦おうというのである。それも11才と14才の子供までいるという布陣である。
そして、子爵家の中には貴志の富士演習に要員を派遣していた家も含まれていた。24人中3人は結構な手練れということになる。
この3人はシェイラとレキュアの事を知っている。元々彼女達にしごかれていた訳でもある。
しかし、これも戦場の習いとして戦いに従軍している。
彼女達には何も恨みがあるではなし。主の馬鹿な倅の不祥事の尻ぬぐいに死んでいくのも癪だが、これも家臣の務めとして従容として臨んでいる。勿論、この3人は勝ち目などないことを百も承知している。
だから、シェイラとレキュアは自分達の手で教え子を葬る事を手向けとして望んだ。
勝負は一方的な物であった。
クルーガとシードが防熱用の強固な防護壁を展開する中、シェイラが爆炎を呼び出し、レキュアが瀑布のごとき大水を呼ぶ。そこで発生した爆発的な水蒸気をシオーヌが巨大な竜巻として形成して行く。
詠唱一つないままに3人で息を合わせた狂気じみた余りにも凶暴な魔法。
闘技場を凄まじい熱気と暴風の渦に巻き込んで、戦女神達に敵対する者達は容赦なく焼かれて、切り刻まれて行く。
魔法が収まった後には、熱に晒されて血すら固まってしまって、切り刻まれた肉片からは血飛沫が上がることもない。
無残な肉片だけが戦場には残されていた。
3人の手練れは咄嗟に主君へ防護壁を展開させたものの、その強度は余りにも凶悪な魔法には対抗できず。
結局、主君と共に散って行った。
王宮の人間にとっては、シェイラとレキュアの魔法が図抜けていることを知り抜いている。
しかし、最近王宮に宿泊している銀髪の少女が彼女達と対等に組んで戦いに臨める程の強力な魔法師であるとは思っていなかった。確かに、武芸大会の奮戦があったけれど、まさか青と赤の魔女達に匹敵するとは考えていなかった。まだ、14才の細身の儚げな少女なのである。
興奮さめやらぬ闘技場では遺体の回収を終えて、ただちに次の決闘に移った。
男爵家が4家という相手になる。
先程と同様に男24人対女5人と言う構図だが、既にそれが女側に不利だとは誰も思わない。むしろ、女魔法師が強すぎると観衆たちは思っているくらいだ。
先程フォワードを務めた3人が、今度は後方支援で防護壁展開要員という布陣になった。
代わりに11才のピンクの魔法少女と女神めいた少女がフォワードを務める。
防壁が展開される最中に、敵上空に巨大な光の塊が形成されていく。
やがて、その塊が無数に分裂して地上に降り注ぐ。
打ちあげ花火が上がったかのような光景だったが、降り注いでいるのは人間など簡単に打ちぬいてしまうような光弾だった。
悲鳴を上げながら、体中を穴だらけにしつつも何とか逃げようとして。
やがて、為す術なく血飛沫をあげて絶命していく24人。
蒸し焼きにされつつ切り刻まれるのと、逃げる場所を与えられずに一方的に体中を穴だらけにされて殺されるのと。
いずれにせよ、そんな目には逢いたくないものだと誰もが思う。
そして、最後は騎士爵家10家。
もはや60人掛りでも、どうにもならないだろうとは会場の誰もが予想できてしまう。
それだけ女魔法師達は強力に過ぎた。
最後の戦いはクルーガが単独でフォワードをやる陣構えだった。
開始の合図と共に女魔法師達は宙に飛ぶ。
彼女達は防壁を展開していない。
「大地のガイアよ、乙女達の涙の意味を知れ。その報いを不浄の者に与えよ!
不浄なる者ども、お前達に浄土などありはしない。地の底深く、永遠の呪いを受けるがいい」
詠唱というよりも呪詛と言うべき言霊がクルーガから紡がれると大地は裂けた。
巨大な裂け目は兵士達を飲み込む。
底は深く、どれほどの深さに彼らが沈んだのかわからない。
しかし、甲冑を付けて高い場所から落ちた彼らの運命は決まっている。
次回はリューシャ一行が北方の領地へ旅立つお話です。
旅の道中の大冒険というのもお約束でしょう。鬼退治に、盗賊退治にと騎士団率いて大騒ぎです!
乞う、ご期待です。