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25.武芸大会Ⅰ

 ご愛読ありがとうございます。

 実質的に第2部の始まりです。お約束の武芸大会。

 伏線を張っていた彼女の再登場と、もう1人の主役の初登場です。

 貴志と彼が最前線で侵攻軍と戦うというのが、この小説の本筋になります。



 全国から我こそはと名乗りをあげて来た腕自慢達。

 最終的な本戦は王都の闘技場で行われる。

 ナニブン、殺さない限りなんでもありというルールだけに魔法師ばかりである。もっとも、1人だけ自分は魔法が使えないと公言している選手がいる。

 しかし、この選手の言う事を本気にしている者は観客にも、対戦選手にもいない。むしろ、魔法師殺しの専門家という印象を与えるような少年であった。

 その戦いが地味ながらも圧倒的であった。


 この試合に勝てばベスト16進出という一戦。

 対戦は問題の山伏姿の15才の少年“与楽”と、ハーフプレートに魔石付きの槍と魔石付きの楯、いかにも魔法騎士と言いたげな20才過ぎの青年レックス。


 体格では圧倒的にレックス。ここまで勝ち抜いてきた中で見せた技は風魔法に火炎魔法。それに槍を組み合わせての武技を見せつけている。

 対して、与楽の見せている技は短距離瞬間移動系の技だけである。そして、彼の手にしている得物は山伏らしく錫杖。見た目の地味さ加減といい、使っている技の地味さといい全く派手さがない。

 それでいて試合が始まると、ほとんど短時間で勝負を決めてしまう。魔法師に詠唱する時間を与えないというのが基本戦術らしいのだ。


 もっとも、派手な魔法が当たれば一発だろう。与楽は魔法による防御障壁をはれないのだ。

 だから、勝ち抜いているのに賭けの面ではこの試合でもレックスの勝ちに賭ける者が多い。どうにも分かり難い与楽の強さなのである。観客からの期待度は低くなってしまう。


 審判が緊張した声で“始めっ”と叫ぶ。対戦者は20mの距離を置いている。

 この距離だと問答無用で突っ込んで来る相手には、魔法師が詠唱をする時間はない。

 だからレックスは詠唱らしい詠唱の必要ないファイアーボールでまず牽制しつつ、距離と取ろうとした。

 逆に与楽は火球をギリギリ交わしながら、距離を詰めようとする。ここで、レックスは筋力強化系の技で人間離れした機動力を発揮する。

 それでもレックスが全力で距離を置こうとしても、与楽は何となく残像らしいものをユラユラと残しつつ距離を詰めていく。走るというよりもピョンピョンと飛び跳ねるような感じである。追いかけっこになるかと思われた時には、レックスの槍の間合いに与楽はスッと入っている。


 間合いに入られると反射的に得意の風を纏わせる槍の刺突を繰り出そうとするレックス。しかし、これが悪手になった。彼は一瞬“魔力のタメ”をしてしまったが故に動きが止まった。その瞬間を逃さずに錫杖の一撃がレックスの頭頂部を襲った。

 ゴキンッと鈍い音を立てて、レックスは白目を剥いてダウンした。

 兜を装着しているレックスの頭頂部をぶっ叩いても、これで死ぬことは無いだろうという攻撃である。確かに死なない程度ではあるが、まともに意識を保てない攻撃ではあった。

 強い事は強そうだ。けれども、派手さが無い。これが与楽の試合である。



 逆に派手なこと、この上ないという対戦も存在している。


 例えば11才の少女シード選手。

 まだ、あどけなさを残しつつもキツソウな性格を感じさせる眼差し。そして派手なピンクのロングヘアーをツインテールにして。

 体つきは、これからの成長に期待というあたりか・・・。

 衣装は、最近流行しつつある“魔女っ子モード”と言われるもので、フリフリ衣装にミニスカート、スパッツを着けて。さらに長い手袋にロングブーツ。そこにマントを着けて、手には杖という装いである。彼女は防具らしい防具を一切身に着けていない。機動力と攻撃力重視ということだ。


 対戦相手はダークカラーのローブを被って、手には杖といういかにも魔法師らしい伝統的な出で立ち。自称25才?の女魔法師エリー。

 髪や顔付きはローブに包まれているので詳細不明としても、胸のサイズだけなら圧勝ということは間違いないようだ。


 審判が嬉しそうな顔で“始めっ”と叫ぶ


 次の瞬間には両者ともに飛行魔法を発動して宙に舞う。-少女はヒラヒラとミニスカートを風になびかせつつだ。


 “The person that I call for death.Give me power Athena!”


 “A spirit of the wind, come quick!”


 怪しげな詠唱を両者が唱える。


 直後に魔女っ子の杖から10数発の光弾が撃ち出される。

 対して、ローブ魔女は風魔法を放とうとして、しかし、すぐ諦めて透明のガラスのような防御壁を構築する。


 たちまちに防御壁に光弾が着弾する。


「キャッ!」と、意外に可愛らしい悲鳴を上げる25才エリー。既に、防壁にはヒビが入っている。


「テイッ」と、こちらは見た目通りの可愛げな掛け声と共に、再度多数の光弾が放たれて防壁を直撃。


 “パリン”という音と共に、防壁が破られる。


「ダメッ待って、負け!」


「そこまで、勝者シード!」満足したかのような嬉しそうな審判。

 スカートを押さえもしないでシードが地上に降りて来る・・・。


 “やっぱり、こうじゃないとな”

 “そうそう、こうじゃないと”

 無責任な観客達の満足度は高いようだった。



 また、こんな試合も観客のウケは良い筈だ。


 方や14才という少女シオーヌ。

 彼女は美しく光り輝く銀髪をポニーテールにまとめ、育ちのいい騎士の娘らしいキリリと引き締めた表情でも、どこか生来の優しさが伺える印象がある。

 青い装束の上から、白銀のハーフプレート。全体に細い身体付ながら、胸のプレートの盛り上がりだけはしっかりと存在感を感じさせている。

 手にする武装は両手剣。腰には予備の脇差も。

 全体に端正な佇まいからは妖精めいた可憐さを感じさせてくれる。


 対戦相手は身の丈2mを超える大男。フル・プレートにバトルアックス。問答無用の暴力的な気配を濃厚に漂わせている。武芸大会なのだから、こうした選手が当たり前ではあるのだ。今年28才のジャック・ブロデイ、オーガ相手にタイマン張って無敗だと言う剛の者だ。


 可憐な少女騎士とごつい魔獣のごとき男の対決。観客はこうした対決を望んでいるのである。可憐な少女が闘牛士のごとく巨獣をいなして、最後には華麗にフィニッシュという脚本を誰もが期待したいのである。


 審判がワクワク顔で“始めっ”と叫ぶ


 “来い、風のシルフィー!”

 銀の妖精騎士が叫び剣を一閃すると、たちまち横方向に-ジャックに向かって―竜巻が生じて伸びて行く。


 哀れジャックは5mほどの高さに巻き上げられては地上に落とされ、また巻き上げられては叩きつけられて。


 ドーン、ガツン、ドーン、ガツン、ドーン、ガツン、ドーン・・・グシャッ。


 最後は闘技場の壁にめり込む様にして、ジャックの巨体は動きを止めた。


「あ、あーっ。そこまで勝者シオーヌ」


 竜巻に巻き込まれながら薄れゆく意識の中で、“誰が妖精だ、暴風女め!”と恨み言をいっていた。


 観客が望む脚本では無かったとは言え、可憐な娘の外見に反して戦いは豪快そのものであった。



 観客が望む魔法らしい魔法の対戦と見目麗しい乙女。

 次の試合もその最たるものだ。


 金属光沢の見事な茶色く長い髪にウエーブをかけて。

 その容貌はまさに神殿の女神と言うべき端正に整って。

 そのプロポーションは人類の理想を体現しているかのごとく。

 白装束に金の縁取りをつけた白銀のハーフプレート。

 右手には槍、左手には円形の楯。

 頭上には鳥の翼をモチーフにした髪飾り。


 現世に顕現した女神と言われても、誰もが信じてしまうような美の持ち主。

 16才の余りにも美しい少女クルーガ。


 対戦相手は竜殺しの英雄が直接指導しているという、王都で噂の魔法学校実戦講座の受講生である。

 自身満々のこの男子学生。ローブに杖、そして腰には剣をも帯びている。

 目指すはエリート街道まっしぐら、自身満々の学生である。

 既に単独でワイバーン3匹くらい引き受けても大丈夫な程度には強い。


 審判がうっとりとした顔で女神を見つつ“始めっ”と叫ぶ


 そして、麗しの女神は学生に試練を課す。


 左手に抱く楯を敵に突き出し、唇から漏れる言霊は「ゴーゴン・ヘッド!」

 そして、学生の時間は止まる。

 石になったかのように彼の動きが止まった。


 次に女神は右手の槍を天に向け「ペルセウス、父なるゼウスの雷を運べ!」とお命じになった。

 天より雷降りて、その敵は意識を手放した。


 そして、審判は女神に勝利を捧げる。

「勝者クルーガ」


 魔法学校関係者は騒然である。まさか、あれだけの扱きに日々耐えている生徒が何も為す術もなく一方的に敗退するなど!

 しかも、相手の魔法攻撃で身動き取れずに、良い所なく完敗であった。


 元老と校長は深刻な顔で協議して始めている。どうも対魔物戦闘に特化し過ぎて、対魔法師戦闘が不十分なのではないか?何とかしないとこれはマズイかもしれぬと。

 衝撃的な試合であったが、流石はスレッカラシの老人達は転んでもただでは起きないらしい。


 講師の追討軍幹部もあ然としている。

 断じてあの生徒は木偶の坊などではない。上位入賞間違いなし、あわよくば優勝もという狙いの元に送り出している生徒である。

 簡単に撃破されてよい生徒などではないのだ。

 一体、何故こうした結果になった?小隊長達の眉間の皺は深かった。


 そして貴志は仏頂面である、不機嫌を隠せない。ここまであっさりと負けるとは、完全に予想外である。あと数カ月もすれば富士に送り込んで仕上げをやるレベルの生徒なのだ。

 そもそも貴志の戦術は大火力主義である。敵より優位な火力で一気に制圧することを信条にしている彼にとって、こちらの攻撃ができないままに敗北というのは納得できない。

 戦闘経験の浅い貴志には細かい駆け引きや、戦略的判断などはそもそも知識がないのだ。

 基本的に経験不足の子供でありながら強力な召喚術による火力で、短期間の内に竜殺しの武功でのし上がっているだけに真っ向勝負が出来ない局面に対応できる柔軟性は持っていない。そうした柔軟な対応が必要な場合は児雷也がなんとかしてしまっているという面もある。


 観衆は美しい女神の勝利に沸いているが、魔法学校関係者は極めて深刻な表情である。



 しかし、魔法学校関係者以上に深刻な表情をしている客席の一角があった。

 他ならぬ王家の貴賓席である。


 何故ならば次の試合に登場してくる女性は断じて、ここにいていい存在では無いからだ。

 彼女の名はリューシャ・イルマータ。


 紛れもない陛下の姪。


 元公爵家令嬢にしてアテナ神殿の巫女に出家した後に行方知れずになった女性。


 先程の女性が女神だとしたなら、彼女は正真正銘、国の象徴たるべき存在の一人なのだ。

 金髪碧眼にして、その容姿に魅かれぬ者無しとも言われていた至高の女性の一人である。

 本来、王国の女性の順位では7番目にいるべき高貴な女性なのである。


 その至高の存在たるべき女性が、武芸大会に出場している。

 それも快進撃で勝ち残っている。無骨な男性騎士や魔法師達を歯牙にもかけずに斃している。

 確かに学生時代から彼女には魔法の才能があった。しかし、ここまで強力な術者などでは無かった筈である。


 闘技場に降り立った彼女は優雅にして華麗。

 この国の女性は彼女を理想とすべしと布告されても誰も文句を言わないだろう。


 その存在感。

 その美貌。

 戦いに及んで怯むこと無き勇気。

 誰にも及ばない魔法の秘奥。

 刀槍を持っても無双の武技。


 誰でもが願うような理想の人間。理想の姿がここには存在している。


 実際、対戦相手は戦う以前に彼女の持つ神聖さとも取れる、犯し難いその佇まいによって威圧され身動きままならぬうちに敗北している面もある。

 その存在自体に抗うことが出来ないのである。正に王に対する忠実なる臣下のごとく。


 太陽を浴びて煌めくプラチナブロンドの長い髪。

 見る者全ての目を釘付けにしてしまう美貌は彼女の自信と誇りを強く感じさせ、彼女の口から紡がれる言葉には誰もが従いたくなるだろう。

 その体付きは世の男性を虜にして離さない。世の騎士は彼女の為なら喜んで自らの命を差し出すだろう。

 金糸の刺繍に飾られた白装束の上に、白銀の縁取りをつけた黄金のハーフプレート。

 右手には魔石をちりばめた魔杖、左手には魔石と黄金で装飾された楕円形の楯。

 頭上には金剛石と青紅の宝石をちりばめた黄金のティアラ。


 彼女こそが、この国の象徴であると全身から漂うオーラが訴えているかの如く。




 彼女の対戦相手は魔法学校代表生の1人、太助だった。

 今は未だ正規の軍人ではなく実戦講座の優等生の学生であり、現役のAランク・ハンターでもある。武芸大会に参加する資格として問題ないから、当たり前のように参加している。


 いや、校長が当たり前のようにエントリー手続きをしていた。

 彼は今回の参加者のレベルを測る為に送り込まれた試験要員でもある。

 Aランク・ハンターになる為にはギルドが定めた、一定水準の魔物を一定数殺すという基準を満たしている。全国どこのギルド支部でも共通の基準なので、強さの面では極端な当たり外れは生じない。

 さらに学校で理不尽な強化講座を受講している。

 在野に埋もれている才能を発掘しようとするなら、丁度いい試験官になるだろうと思われたのである。

 順調に優勝するならそれもヨシ。太助を倒すような人材がいるならもっとヨシという訳だ。勿論、元老と校長の差し金である。


 太助の装備は追討軍式に兜にハーフプレート。メインウエポンに槍、サブウエポンには剣を帯びている。

 追討軍は実戦では魔法の杖は使わない、魔力は魔石から補充する。

 10m以下の魔物相手なら槍を多用することから、メインは槍になってくる。


 審判はかしこまった表情で、リューシャに向かって“始めっ”と叫ぶ


 太助は最近の訓練結果である、無詠唱からの強烈な電撃を叩き込む。相手が高貴な女性だろうと、田舎育ちの彼にはピンと来ていないのは幸いだった。

 毎日、いじめに近い特訓のお蔭でワイバーン位の魔物なら一撃で屠るような威力の攻撃魔法でさえ、無詠唱で放つようになっている。それも条件反射に近い速度で。


 開始の合図と共に抜き打ちのように放たれた太助の攻撃。

 日常の訓練通りの文句のない一撃である。


 しかし、それをリューシャは無造作に受け止めた。

 楯で受けるのではなく、杖をヒョイと突き出すようにして攻撃魔法を吸収してしまう。


 吸収した攻撃を、今度は杖を振りかざして相手に返す。

 それも2発にして。お返しは2倍よ?とでも言うかのように。


 攻撃が無効化されたと、理解できた瞬間に太助は大きく後方に飛んだ。追討軍名物の派手な魔法弾攻撃に備えて距離を取りたかったのである。


 リューシャからお返しの2連発は太助が直前までいた場所の地面を大きく抉る。

 咄嗟に大きく飛んでいたのが幸いして、彼にはダメージはない。


 しかし、リューシャの攻撃はお礼だけではなかった。


 “ノウマク サンマンダ バザラダン カン”

 “オン アフル アフル サラサラ ソワカ”


 2種類の詠唱をするや否や、右手の槍からは爆炎が迸り、左手の楯からは強烈な水柱が飛び出してくる。

 そして、太助の前方で両者が激突!


 強烈な爆発を引き起こし、膨大な水蒸気が辺りを蒸し上げる。

 かつてレキュアとシェイラがやった魔法の縮小版である。


 城門の上で魔物が蒸し焼きにされるのを、呆然と眺めていた太助であったが自分で浴びるのは堪ったものでは無かった。

 体全部が耐え切れない程に熱い。

 なによりも、咄嗟に目をつぶったものの、鼻や口から入り込んだ蒸気は鼻腔や口腔の粘膜、気管支を焼いてしまった。

 これでは、まともに呼吸ができない。

 哀れ太助は地面をのたうちまわる羽目に陥っている。


 審判は慌てて「そこまで!勝者リューシャ」と宣言した。


 ・・・そこに、レキュアが慌てて治療術の為にすっ飛んで来た。




 そして、ベスト8戦。


 やはり地味な山伏姿の与楽。

 彼の対戦相手は伯爵家の嫡男であった。元々、冷却系魔法では有名な術者が排出されている家系で、彼の母親は有名な魔法師だ。彼女はかつて王宮魔法師であったが、伯爵に見初められて結婚。以降は領地で暮らしている。その嫡男がいよいよ満を持して世間に登場して来た。

 この武芸大会を制して英雄は竜殺しだけではないと天下に示す意気での参加だ。


 しかしながら、試合は相変わらず与楽ペースで盛り上がりも何もなく一方的に終わってしまう。

 試合開始と共に錫杖の間合いまで入り込んでしまって、相手の攻撃をさせずに仕留める。

 嫡男も飛行術で与楽との距離を取ろうとはしたのだが・・・。


 会場の観客には大いに不満な試合運びである。

 柳生親子は途中から注目して、大きな評価を与えている試合ではあるのだが。



 やがて大波乱が発生した。この試合に勝った方がベスト4進出という一戦。


 その対戦カードは女神クルーガvs公女リューシャだった。


 その存在感において、この国でも彼女達に対抗出来る者は多くない。

 一体、この戦いはどうなってしまうのか?

 観客は見たいような、見たくないような。

 賭けでは女神と公女の勝敗は拮抗している。


 そして、意外な結末を迎える。


「同じ夫を持つ妻同士が、何故戦うことなどできましょうか。

 わたくし達はただ夫の為にある者。

 お互いに傷つけ合うことなど、夫が喜ぶ訳もありません。

 わたくしは、この試合をクルーガに譲ります」


 この言葉は闘技場をパニックに追い込んだ。

 公女が嫁に行っている事。

 公女が女神のごとき側室に勝利を譲った事。

 一体、何が起きたのか?


 王宮では半年前に神殿がワイバーンに襲撃されて、この時にピンチに陥った公女が旅の男に救われて一緒に旅に出たという報告は神官から受けていた。

 しかし、その足取りは明確には掴めていなかった。どうにも普通の移動の仕方をしていないらしいのだ。追跡しようにも後手後手に回っていた。

 正体不明の男であり、リューシャも行方不明だったのである。


 突然姿を見せたリューシャは強力な魔法師になり。

 そして、異常な美しさと強さをもつ女神のごとき少女と共にいたらしい。

 勝利を譲っても構わないという程に、互いを尊重しているのだ。





 かくしてベスト4に進出してきたのは、与楽、クルーガ、シオーヌ、シードといったメンバーになった。


 そして、またこの時点で爆弾が炸裂した。


 準決勝の対戦カードは、

 与楽vsクルーガ、

 シオーヌvsシード、

 この勝者同士で決勝という運びである。


 与楽vsクルーガの試合。


 ここでクルーガは宣言した。

「自分の夫と戦う妻などいる筈が無い。わたしは夫に愛情の全てを捧げる、魔法など当てることなど出来る筈が無い。勝利は我が夫の元に」


 満員の観衆の面前で夫に抱き付き、口づけを交わし・・・。

 そのまま夫の腕の中に抱かれる女神。

 うっとりとした表情で頬をすり寄せ甘えた仕草。

 夫は嬉しそうな顔で妻の髪を優しくなでる。


 再び会場はパニックである。


 観衆は大騒ぎである、公女と女神を女房にしているのは山伏のガキだと!


 追討軍も予想外に驚いている。ウチの秘蔵っ子を瞬殺した少女を従えているのは、まともな魔法など使わないようなガキだと!


 貴志も、あれで勝ち続けるのはどうなのかと不満が溜っている。しかも、リューシャが貴族相手ではなく山伏の嫁になっているという現実にも戸惑っている。



 そして、騒ぎは終わらない。


 準決勝のもう一つの試合。


 登場してきた両選手とも武装していない。


 ピンクのツインテールは、フリフリ衣装は従来通りだが杖を持ってきていない。

 銀の妖精騎士に至っては、ハーフプレートすら着けず武器もなし。髪も纏めることなく長い銀髪を風に任せている。いかにも良い所のお嬢様風の装いである。


 そして、ピンクのツインテールが言ってのけたのである。


「私達も与楽様の妻だもん、シオねえとは戦えないモン」


 そして銀の妖精も応じた。


「そうだ。リューシャ殿、クルーガ殿が棄権したというのに、私達が互いに剣など向けられる筈もないではないか」


 会場は、あ然呆然・・・。


 リューシャ、クルーガ、シオーヌ、シード。

 こうした女性の全てが山伏の妻!

 性質の悪い冗談ではないか。


 優勝者は15才の山伏。

 準決勝棄権という扱いで同率2位は16才のクルーガ、14才のシオーヌと11才のシードいう少女達と相成った。


 何とも消化不良の感が無きにしも非ず。


 次回は貴志が与楽に瞬殺されるお話。

 ちなみに、与楽は与楽抜苦という仏教用語から取っています。

 再登場のリューシャですが、彼女は政治に深く関与して行きます。公爵家の当主という立場の彼女はそれをやらないといけないのです。この先、要所要所で彼女の決断が国を大きく動かすことになっていく。だから、彼女はこの物語のメインヒロインでもあります。

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