2.結婚
さて、どうやって生還したのか。
単純に地下道を掘りました。
埴輪軍団に加えてツルハシやシャベルも召喚して使わせました。
召喚術って便利なんです。
どれくらい便利かと言うと。
俺本人は何もしなくても、軍団がセッセと穴掘りしてくれる。
で、術式を使いっぱなしにしていたら、使える軍団の数が増えて行った。
最初は200体ちょいしか召喚できなかったけれど、最終的には2千を超える数の使役が出来るようになったみたい。
それに、水、米、味噌、塩、青菜、芋、ワイバーンの肉なんかも召喚してしまえた。
洞窟の一角に竈をこさえて、薪と鍋釜も召喚すれば食生活は万全。
小豆と砂糖も召喚してみたら、十六夜さんの目がキラキラしてました。
洞窟で味わうお汁粉は美味でした。
そうそう、ついでに洞窟内に温泉も召喚できてしまいました。
ますます快適洞窟ライフ。
衣類や布団なんかも問題なく召喚できて。
もう、このまま外に出なくても十分じゃないの?
なんとも快適新婚生活じゃないですかね。
肝心なお嫁さん。
一斉に穴掘りを始める埴輪軍団を見たら、鳩が豆鉄砲食らった様な顔していました。
そして、快適生活環境を整えたら俺を見る目が尊敬の眼差しに変わって。
初日のうちには、結構打ち解けてくれました。
2日目には「アナタ」と親しみを込めた呼び方で、笑顔になってくれまして、“十六夜さん”ではなくて“十六夜”と呼び捨てにして欲しいだって・・・。
料理上手で、洗濯なんかも器用にこなして。
家事の手が空くと十六夜は俺の傍に来て、肩に寄りかかって甘える仕草。
くーっ、なんて可愛い俺の嫁さん。
思わず長い髪をナデナデしても、笑顔を見せてくれます。
ついつい見とれた勢いで、唇を重ねて。
お互いの呼吸と鼓動を確認して、温もりを感じて。
ああ、幸せだなと思う。
「わたし、あなたの赤ちゃんを産みますね・・・」
「うん、いい子が授かるといいね」
ああ、もう何も言うことは無いじゃないですか。
これが神龍の足の下じゃなければ、本当に文句なし。
そんな40日と少々の新婚生活でした。
地下道の方は順調に作業が進んで、地上にワイバーンの群生地らしい気配を感じたら、それを通り越して。
十分な距離を取ったら、地上に向けた穴を掘って。
これで何とか森の浅い領域まで脱出できました。
メデタシ、メデタシ。
十分な活躍をしてくれた埴輪軍団には感謝しつつ帰還させて。
十六夜さんの腰に手を回して、明らかに俺のモンだぞと言いたげな態度で、神社まで帰ってきました。
神社の宮司が十六夜さんの祖父で、父親も神職だそうだ。
兄が二人いて、やはり修行中。
他に姉は既に嫁いでいて、妹も一人いるということらしい。
正門から二人で境内に入った時の装束は、俺はハンターらしく革の防具と剣に弓矢。
十六夜さんは町娘風で巫女服ではない。
最初から既に純潔の巫女ではないぞと主張しておきたかったんだな。
今更、巫女として返せと言われても困る。
そうかといって、別に俺は地位やカネがあるでもないのが少々ネック。
いっそ、子供が生まれるまで十六夜と隠れ住んでいようかとも思ったけれど、嫁さん曰くワイバーン1体と酒10樽もあれば通常の巫女の嫁入り用の支度金としては十分すぎるレベルらしい。
もっとも、十六夜の場合は少々特殊な巫女らしい。
それでも俺が埴輪軍団を50体も引き連れてワイバンーンの死体5体分も差し出せば、―その武威ある者に―自分の嫁入りに反対する祖父や父ではないだろうという助言をくれる。
なんていい嫁でしょうかね。
んで、実際にそうしてみました。
参道から埴輪軍団を引き連れて、嫁の腰を抱きしめつつ堂々の凱旋風の帰還を装ってみます。
当然、大騒動だろうと思っていたけれど、予想とは少々違う騒動に。
拝殿の前まで進んで、宮司である祖父を呼ぶように伝える十六夜。
まず、両親がすっ飛んできて、兄妹もやって来て。
「生きていたのね・・・」
「お前の葬儀をやってしまったんだが・・・」
おい、祖母と兄貴。
なんて事を言ってんのよ。
生きてるって、ちゃんと生きてるよ、オイ。
カッコつけてワイバーンを差し出して俺が十六夜を嫁にしたと見栄を張ろうとしたら、先制攻撃を受けてしまいました。
お互いに愕然。
父親がひとまず奥に入れと、居住エリアまで案内してくれる。
用心に埴輪軍団は境内で出したままにしておく。
父親の話によると。
十六夜が攫われた直後にハンター・ギルドに捜索依頼と出すと共に、氏子の男衆を動員して探索部隊を編制しようとしたそうだ。
俺がいたのはワイバーンの群生地で、森の相当奥の方だった。
ハンターでも、余り足を踏み入れないエリアになる。
それでも周辺にいたハンターの中には、モンスター同士の闘争らしい気配を感じて様子を見に行ったツワモノもいたらしい。
そうしたハンターが見たものは、壮絶な闘争の跡。
ワイバーンが何十体と死体になって転がっている光景だった。
ワイバーンの死体を回収しようにも、まだまだ沢山の生きているワイバーンが興奮状態なので傍には近寄れなかったらしい。
それでも、その場には人間らしい死体は無いように見えたそうだ。
他には遠視の魔法が使えるハンターが、巫女装束を着た髪の長い娘がワイバーンの足に捕まえられて神龍の領域方向に飛んで行くのを見ていた。
ワイバーンを追って人型のゴーレムらしいものが飛び去るのも。
ワイバーンの群生地まで踏み入ることができるハンターはA級の極一部の腕利きに限られる。
更に、神龍の領域となると完全に宮廷魔導士と騎士軍団を動員しないと無理になる。
群生地まで踏み込んだツワモノ・ハンターと遠視を使ったハンターの証言を受けて、ハンター・ギルドでは捜索を断念。
巫女一人の為に腕利きハンターを壊滅させることはできないと判断した。
神社側でも、神龍の領域となると諦めざるを得なかったそうだ。
一月程待ってみて、結局もう諦めるしかないだろうと判断して、せめて葬儀でもしてやろうかということになったらしい。
しかし、運よく居合わせたハンター(俺の事ね)に巫女は救助されていましたと。
嬉しいやら、気まずいやら。
まあ、お婆ちゃんやお母さんは十六夜を抱きしめて、涙流して喜んでましたけれどね。
逆に一体どうやって神龍のエリアから帰還できたのか、聞かれました。
召喚術で軍団を使役して地下を掘り進んで、魔獣の森を避けたというのは前代未聞の事らしい。
まあ、普通のハンターならやらないよね。
でも、実際に埴輪軍団の一部を目の当たりにしている訳だし、十六夜を連れ帰っているということはワイバーンの群生地で戦闘をやったのは俺以外にはありえない。
神社としては非常に強力なハンターが身内にいることは悪いこともでもない。
十六夜がそのうちにお腹が大きくなるはずだと断言したこともあって、婿入りするかという話になりかかった時に祖父が言い出す。
でも、許嫁の問題があるだろうと。
相手も葬儀には顔を出していて、公式に婚約解消したことにはしてあるそうだ。
そりゃ、相手は死んでいると思えば別の相手を探さないといけない訳だろう。
正式に婚約破棄とお互いに賠償を求めないという約定を交わしているらしい。
相手側は捜索隊を出すこともなく、あっさりと婚約破棄を申し出たそうだ。
所が、その十六夜が実は生きていたとなるとどうなるか?
相手側が諦めてくれていればいいけれど、未練があると面倒なことになるかもしれない。
十六夜はやはりその美貌から人気があったそうで、嫁に欲しいという話はよく来ていたらしい。
もっとも、現実的に40日以上も毎日子作りしていたとなると、赤子が生まれてもおかしくない。
面倒にならないうちに身内でさっさと神前式を挙げてしまえと相成りました。
氏子衆の主だった世話役を招いて、身内だけの簡素な祝いの席を設けて。
5人の子供の下から2番目の娘だから、そんなに大来な騒ぎにする必要もないそうです。
俺の実家にしても、実際には手切れ金もらって家を出ている身の上ということで後日文面にて報告ということでお茶を濁す。
かくして、2日後には早々に挙式を決行。
斉木貴志から出雲貴志になりました。
出雲家は貴族ではないものの格式が高い神社の宮司家なので、王国からは公爵家に準じた扱いの家柄だそうです。ちょっとした大名なみのご神領をいただいているそうです。
既成事実を作って置いてから、各方面には十六夜が無事帰還と婚姻の報告。
まず反応したのはハンター・ギルド。
ワイバーンを大量に売り払ったことで、群生地で本当に戦闘になっていたことが証明された。
結局、俺が売り払ったワイバーンは以前から狩り獲っていた分の22体。
売価は24億環になりました。・・・むふふっと。
他にも嫁さんの支度金代わりに神社へ20体ほどのワイバーンを進呈してます。
この売却代金が21億環。義理の親兄弟はホクホク顔です。
実際に群生地での遭遇戦闘で回収できたのは、この20体だけでした。
十六夜の命の代金としては、こんなものかな?
ギルドでは現金の一括支払いは無理で、半年間の分割払いということに。
ポッと出の新人ハンターがいきなりの大金星ということで、新人のFランクから一気にBランクにアップ。
神社のお付ガードマン兼務のハンターという扱いなので、一応ギルドも気を使ったみたい。
ま、神龍の領域に関してアレコレとギルド支部長と副部長がしつこく聞いてきたけれど、山影からチョロリと覗いただけの一点張りにしておいた。
ただ、地下トンネルが山腹の洞窟まで届いているので、そのままギルド幹部を連れて行った。
洞窟まではサッと行けたけれど、洞窟の入り口付近で既にズドーンという例の足音が聞こえてきたので、俺は逃げるぞと宣言したら幹部の皆さん蒼い顔して一緒に逃げてきました。
ええ、新しい情報なんてとても無理です。
アレはどうにもなりません。
そうした報告書がギルド支部から本部に出されると、今度はギルド本部の幹部だという偉そうな奴がやって来て、今度は自分を案内しろと言い出した。
強制命令で拒否は許さんと言うので、そんなことならギルドを脱会してハンターを廃業する。神社でお御籤売りでもやって、嫁とノンビリと暮らすと言ってやった。
そうしたら支部長と副部長がそれだけは勘弁してくれ、有望株の新人、それも神龍の領域から生還した60年ぶりの生き証人を廃業させたら責任を問われてしまうと泣きが入る。
トンネルはそのまま放置してあるからギルド幹部だけで行けばと冷たくあしらうと、本部の偉そうな奴が憎まれ口を叩いて出て行った。
その後、支部長と副支部長が幹部を洞窟まで連れて行った。
暫くして、戻って来たのは2人だけ。
無謀にも幹部が洞窟から飛び出したそうだ。
飛び出した瞬間に巨大な爪が降って来て、幹部は瞬殺。
おお、神龍の戦闘を目撃した貴重な証言者になった支部長と副支部長ではないですか。
憎まれ口を叩いたら、思いっきり二人に睨まれました。
もっとも、二人とも真っ青になって半べそでしたけれどね。
そりゃ怖いですよ、あんなのには関わるのが間違いです。
こんなことが続くのは願い下げなので、神社から神社を統括する神社本庁経由で王国府にクレーム報告をしてもらった。
神龍の領域を刺激して、神龍が森の外にでも出てきたらどうしてくれるのかと。
王国府でも事態を重視して、ギルド総本部長を直々に呼び出して厳重注意になったそうだ。
総本部長と副長は残り任期でもある3年間の減報処分。
無謀な幹部の所属していた部署は閉鎖となったそうだ。
それをワザワザ自ら詫びに神社まで訪問してきた総本部長本人から聞きました。
総本部長は頭の天辺は剥げてツルツルだけれど、頭の横面は髪が残っていて、しかも髭を伸ばしていて顔の下半分は白髪の毛玉みたい。
身長2mを超える大男の67歳という、筋肉質で強烈な爺さんでした。
「おい、小僧。
お前さんは千余の召喚獣を従えるそうじゃないか。
俺にも見せてみろ。」
詫びに来たという割には偉そうなジジイだけれど、本当に偉い役職のジジイには間違いない。
鞄持ちで同行していた支部長と副支部長。特に副支部長が拝むようにしてきたので、仕方ないから御披露目をすることにした。
もっとも、神社の敷地で本気で召喚しても全部なんて居場所がないので、百体だけ埴輪軍団を召喚してあげる。
参道に登場した百体の埴輪軍団。
何を思ったか、突然ジジイが埴輪に斬りかかる。
ジジイは両手剣遣いらしく、強烈な斬撃だった。
でも、埴輪軍は小さい奴でも3mクラス。
2mチョイのジジイでも小さく見える。
斬りかかられた埴輪は矛で斬撃を受け止めると、お返しに強烈な突きを繰り出した。
ジジイが突きを躱すと、その刹那に埴輪の雷撃がジジイを襲う。
ギャッと声を上げて倒れるジジイ。
取りあえず何も考えないで飛びかかるというのはギルド本部の流儀なんだろうかと、副支部長に話かける俺。
はあ、と溜め息をついて俯いてしまう副支部長さん。
支部長は総本部長に治療魔法を掛けている。
暫くして意識を取り戻す総本部長。
「ご神域で乱闘騒ぎとは一体何事ですか!
無礼にもほどがある。
ギルドは神社を何と心得ているのか。
アンタは詫びをしにきたのではないのか。
話にならん、言語道断だ」
そりゃ宮司爺さんカンカンになって怒るわな。
総本部長と支部長、副支部長の3人で土下座する羽目になっても、宮司様の怒りは収まりませんでした・・・。
そして参道でそれを目撃した参拝客の目撃証言が、尾ひれを付けて王都に伝わったらしいのですよ。
曰く、ギルド総本部長が突然宮司に斬りかかったという話にすり替わって。
総本部長はこれで再度王宮に呼ばれて厳重注意。
弁解に努めて宮司に暴力は振るっていないとは弁解できても、参道で騒ぎを起こしたことは認めざる得なくなって、追加の減報で給料は元の金額の3割まで落ち込んだとか。
7割の減報というのは一見哀れだけれど、ギルドとしては丁度いい経費削減だったのかもしれない。
ギルド幹部の給料は結局ハンターの稼ぎの一部を上納金として吸い上げている訳ですからね。
24億環の売却額とは言っても、2割の4.8億環をギルドは売却手数料として持っていきます。
俺のような有望株に逃げられたら困るというのは、ギルド支部としては手数料を稼げなくなるのは困るという意味なんです。
そりゃ4.8億もポンと上納してくるような奴を、支部としては手放せないでしょう。
神社には流石にそれをせずに21億環を支払いましたけれどね。
もっとも、神社は神社本庁に上納金を毎年出しています。
そして、神社本庁は王国府に上納金を差し出す。
世の中、持ちつ持たれつ。
で、そんな構図の中でギルドが神社で騒動を起こす。
王国府としても問題視せざるを得ないという構図です。
なんか面倒な世の中。
俺はこの先、綺麗なお嫁さんと楽しく暮らせれば十分だと思う。
そんな事を宮司の爺さんに話したら、「孫の婿殿は欲が無いな。もっとも、いきなりあれだけ稼げばもう十分ではあるか。まあ、好きにしなさい。人間果てしない欲に駆られて失敗する奴などいくらでもいる。もう十分だと思うのなら、それも良いだろう」だってさ。
うん、のんびりが良いよねえ。
と思っていたら、次のトラブルがやって来ました。
婚約を解消した元の婚約者です。
元婚約者というのは武田氏の与力をしている馬場子爵家の嫡男だという。
ここで言う与力とは、あくまで国王陛下の家臣として給料を貰っているけれど、実際には現地において武田氏の命令系統に属しているという意味。
武田氏の家臣ではなく、あくまで馬場家と武田家は国王の家臣として同格。
だけれど軍事組織上は武田家の指揮する方面軍の軍団に属する武将という扱いで、戦場では王家から直接の指示がない限りは武田家の指揮官に従うことになる。
現当主である馬場春信は武田軍団において有力な騎馬軍団を指揮する立場にある武将。
で、その嫡男である馬場春長というのが、元の婚約者になる。
既に婚約は解消しており、それに関しては上杉家にも武田家にも報告されている。
相手は子爵家の嫡男でも、神社の格式からすると別におかしくないらしい。
むしろ、古い神社故に格式としては子爵家クラスでは格下に嫁を出す構図になる模様。
彼らは相当な貢物を差し出して来て、十六夜を嫁に欲しいと言って来たそうだ。
公爵家相当として公式行事では扱われる家柄の神社の娘を嫁に貰うというのは、相当に名誉ある事柄になるらしい。武田家も相当に資金援助した筈だと爺さんは言っていた。
それも婚約破棄で結局は全部返したそうだけれど。
所が突然現れた謎のハンターが数百を超えるワイバーンの群れを蹴散らして、神龍の領域から巫女を救い出して嫁にした。
これは王都でも大きな話題として盛り上がっているらしいのです。
なんとなく上っ面だけ聞くと、カッコいい英雄譚です。
ワイバーンの群生地に突撃かますようなハンターなど滅多にいません。
ましてや神龍の領域からの帰還者などは歴史上に記録されます。
今回はハンター・ギルド本部の幹部が無謀な死に方をしているお蔭で、生還者という面は余計に引き立ってしまいますしね。
それに対して武田家の家臣は自分の婚約者が危機に陥っても助けもしない。
葬式に出て、婚約解消して逃げただけという陰口を叩かれる訳です。
無名なのに優秀なハンターがいる。それに対して、武田の武将は卑怯にも逃げるだけ。
王都でそう噂される。
武田家には馬場氏以外にも有力な家臣団や与力衆がいる。
そうした連中は皆さん馬場氏に八つ当たりすることになるのです。
王都で武田家が侮辱されるのは、馬場家が許嫁を救出しなかったからだ。
無名の12歳の子供ができるようなことを、馬場はしなかった。
武家としては如何にも面目が立たないではないかと。
しかも、無名の子供は普通のハンターが一生かかっても達成できないような大戦果を惜しげもなく神社に進呈。
巫女姫を助けられて多額の寄進まで受けて、神社では前途有望な無名の子供を気に入って巫女の婿養子にした。
馬場春長としては、これでは家を継げない。
家臣がついて行かないし、武田軍団でも相手にされない。
要するに無名のガキよりも、馬場の嫡男が優秀だと証明しないといけない羽目になっているのですね。
無名の俺は武力で敵を蹴散らして巫女を守って嫁にした。馬場家は武田家からの資金援助で巫女を嫁にしようとした。
これでは武田騎馬軍団の名が泣こうというものです。
十六夜の生還後に手紙を出して生還を喜んだ元婚約者の春長氏。
だが、十六夜から返信はなく当主である祖父の宮司から馬場家当主である春信あてに、既に十六夜は婚姻を結んで妊娠している旨の返信を受ける。
そして、婚約解消の約定を結んだ以上は既に春長は他人であって、出雲家の娘である十六夜には関与するなという念押しまで。
武門の家と神官の家の間で結んだ約定を守れないようなら、それこそ武門の恥だろうとも。
その手紙を出す前に爺さんは俺にも手紙を見せてくれましたから、間違いありません。
爺さんは、馬場に喧嘩売っていますね。
慌ててやってしまった葬儀の時に何かあったんでしょうか。
貢物を全部叩き返したから、もう義理など無いと怒ってましたけどね。
馬場春信としては、黙るしかない。
十六夜は死んだものだと思い込んでいたのが失敗だったんです。
せめて馬場家単独で捜索隊でも出して、ワイバーンを少しでも狩っておけば武門の面目でも果たせたのに。完全に読み違えたのです。