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1.誓約

 俺は斉木貴志。現在12歳のモンスター・ハンター。

 でも、世間じゃただの駆け出し扱いで、大物なんて倒せっこないだろうとバカにされている。実際に狩りあげた大物を未だ売っていないし。


 騎士の家に生まれてみたものの、腕の方は同年代でなら上等な部類だけれど、騎士団の中に入ってしまえば並以下といった感じだ。


 生まれついた家と言えば、一応は武士の端くれだけれど最底辺の騎士爵の家柄。

 平民からは騎士爵は貴族として扱われるけれど、貴族の間では男爵より上だけが貴族として扱われる。ウチの場合は武士だけれど、厳密には貴族ではないという訳だ。


 実家はたいした役職を王様から貰えることもなく、辺境の地で辺境伯の与力として細々と暮らすのみ。

 戦争なんてもう15年間以上やっていないから、騎士なんてほとんど飾りみたいなもんだ。それに4男だから、最初から家督相続なんて関係ないときている。


 どうせ家でグズグズしていても仕方なし。


 かといって、必死に頑張って剣の修行をしてみても王国騎士団は基本的に家柄で幹部が決まっているから出世なんてあり得ない。


 仕方がないから、モンスター・ハンターにでもなって腕を活かしてカネを稼ぐかといった所だ。


 早々に騎士団で頑張る道は諦め10歳からハンター教室に通って、12歳になった今年から家を出てモンスター・ハンターとして一攫千金を狙っていた。


 僅かばかりの支度金という名目の手切れ金を渡されて、後は勝手にやれという素っ気ない態度で実家から追い出されて、このまま15歳になれば成人を迎えて武士の身分からも外されるという身の上だ。


 この世界は俺みたいなハグレ者でも、モンスター狩りさえできれば何とか食える。

 魔力を持った凶悪な兎、狼、猪、鹿、熊。

 あるいは10mを超える大型の爬虫類型モンスター。

 猿に近い種族らしいけれど、人間とはちょっと異なるゴブリン、オーク、オーガといった邪鬼。

 普通のモンスター・ハンターはこうした獲物を退治して、それなりに稼ぐことが出来る。


 モンスターの上位には、人間の言葉を理解して魔法まで使う鬼や天狗といった妖魔。

 そうしてモンスターの頂点に君臨するのは神龍を代表とするドラゴン達。

 こうした上級の相手は、宮廷のお抱え魔法使いと騎士団で大掛かりな討伐をかけても、返り討ちというケースも多い。


 一応、飛龍とも呼ばれる翼長15mを超えることもあるワイバーンや全長20mクラスの暴君竜と呼ばれるティラノなどは、巨体であっても知能は高くないのと魔法を使わないのでドラゴンあるいは龍とは別扱いで下級竜とかドラゴンもどきと呼ばれる。

 それでも、こうした連中からは直径20~30cmくらいの魔石が取れるので、標準的な成体を一匹捕えると1億環程には売れる。


 農民や職人たちなら、生涯かかっても1億環なんて夢のまた夢。

 下級貴族で王国からの役職の無い無役の下級騎士爵なら年収3百万環くらいといった所だ。30年頑張って9千万環・・・。


 要するにモンスター・ハンターを名乗って本当にワイバーンを狩り獲れるならば、人生的には大成功ということなんだな。


 でも、そう簡単に翼長15mの空を飛べる巨大生物を狩れる訳もなく、普通の奴なら返り討ちになるのがオチだ。簡単には狩れないから高いカネで取引されるのだから。


 ワイバーンやティラノを簡単に屠れるなら、それこそ騎士団の幹部や宮廷魔法使いになれるだろう。


 では、なんで俺が12歳でモンスター・ハンターなんて名乗っているのか?

 実は運が良かったのよ、俺は!


 どうやら剣を以て騎士団で出世できるような才能は無さそうだと、周囲の大人から見放されたのが7~8歳頃のことだ。

 騎士としては、悪くはないけれど平凡だと見極められたんだな。

 なにせ魔法の才能に至っては皆無だったし。

 どうも、将来そこらのうだつの上がらない騎士になるのが関の山と思われていたみたいだ。


 でも、弓や槍なんかは一応稽古していたから、小さい頃から森に入って兎や狐なんかの狩りはやっていた。

 騎士の家だから馬の稽古という名目も立ったし、肉や毛皮といった実益もあるからそれ自体はむしろ積極的にやれと言われていた。


 で、ある日のことだ。

 上手い事やって白い狐の魔物が獲れたんだ。

 そして解体したら不思議な魔石が出てきたんだな。


 最初は白いただの狐だと思っていたんだけれど、当たった筈の矢を片っ端から弾く。

 槍で突いても、穂先が毛皮を貫けない。

 しかも、途中から宙を飛び始めやがったんだな。

 そこでようやくと普通の狐じゃなくて、コイツはモンスターだったんだと気が付いた。

 気付くのが遅すぎるだろう、俺のバカ!

 で、朝一番から戦闘になって、日の沈むころになってやっと仕留められた。


 解体して魔石を取り出したら、これが摩訶不思議だった。

 手に持った瞬間に魔石が淡く光り出して、“あれ、俺は召喚魔法を使えるようになった”と直感できたんだ。


 あの瞬間は感動的だった。

 頭の中に何をどうすれば何を呼び出せるのかが、光る玉からスッと流れ込んだ気がしたんだ。


 実際に「急々如律令。我が僕よ、疾く来たれ・・・」と叫んでみたら。


 ビックリ仰天でした。


 地面に魔法陣みたいのが浮き出て、そこから埴輪みたいなのがゾロゾロと出てくる、出てくる。

 200人までで止まれと念じたら、本当に止まった。


 その埴輪達。

 デカイので15mくらい。

 小さいのでも3mくらいありそう。

 手には矛か弓、腰には剣を帯びている。


 15mくらいの奴ならワイバーンやティラノと正面切ってぶん殴り合いが出来る筈だ。

 3mくらいの連中でも、数で押していけるなら十分行けそうだ。

 なにしろ、この連中は宙を飛べる。

 挙句に、火炎や雷撃、竜巻を使う。


 いやはや無双の軍団の出来上がりじゃないですかね。


 これが10歳の時のことです。

 そりゃ嬉しかったですよ。


 両親や兄弟には内緒にしておいて、知らん顔してサッサとハンター教室に通い始めて。

 そして、12歳になって早々に家を出た。


 だって、うだつの上がらない貧乏騎士爵の家の4男坊が、いきなり軍勢を使役する術者ですよ。


 いやー、さっさとハンターギルドに登録して、喜んで狩りをやりましたよ。

 最初の1日でワイバーン3頭にティラノ2頭を仕留めました。

 つい、図に乗ってしまって、3日間でワイバーン12頭にティラノ8頭も狩り取れました。


 はい、12歳にして20億環相当の獲物でした。

 もっとも、流石に12歳のガキがいきなり大金を掴んだと思われると同業者や実家が五月蠅そうだから、召喚術で獲物はまだ隠してありますけどね。


 精々、1年で1~2頭くらいしか売り払えません、色々と周囲が五月蠅そうですから。

 ぽっと出の新人なら、苦戦していると勘違いしておいてもらった方が良さそうです。


 成人の15歳になったら遠慮なく、やればいいと思っていましたけれどね。

 ハンター教室に通っていた頃に周りにいたような連中は、15~20歳くらいが主体だった。連中と来たら狩りに出ても、狼や猪を相手に苦戦してしまう。

 弓矢を上手く使って普通の獣を獲るのにも苦労するのが、まあ訓練していない庶民出身者の現実みたいだ。


 俺みたいなオマケみたいな身の上の連中は、流石に普通の獣相手の狩りには慣れているみたいだ。けれど、貴族の家柄のオマケというのは絶対数からすれば、そんなに多い訳でもない。


 食いはぐれたような腕っぷしだけが頼りの連中が多いというのが、ハンター業界の現実らしい。

 日銭稼ぎが精一杯。本当の大物を狙えるのはごく一部の上級者だけ。

 中々に厳しい現実みたい。


 そんな業界にあって、いきなり大金を掴んだら?

 そりゃガラの悪い周囲から狙われて大変なことになりそう。

 新人さんは、コツコツと小さい事からやって行かないとダメみたいです。


 もっとも、いきなりドラゴンもどきを狩れたのは、いい経験になった。

 だって、いきなりドラゴンもどきを召喚できるようになりましたから。

 埴輪軍団だけではなくて、暴竜軍団です。

 ワイバーン軍団です。

 これはもう、ワクワクが止まりません。


 15歳くらいから換金して、20歳前には大金持ちになって、豪邸買って、綺麗なお嫁さんを貰って。後は遊びほうければいいじゃないか!


 12歳っていっても、そりゃ綺麗なお姉さんは好きですよ。

 最近は、子種が出るようになりましたしね。


 ・・・まだ、子作りの経験はありませんけど。

 けど、貴族の子女なんてのは12歳くらいでも嫁に行く。

 俺だって、綺麗なお嫁さんが欲しい年頃です。


 ああ、いっそ獲物を現金にしてカネにあかして綺麗な子を、とも思う揺れる年頃でもあるのです。

 この世界には奴隷なんてもの存在していて、たまに家が傾いた貴族の娘も奴隷になるらしい。俺は奴隷商の店の中なんて、見たことないけれど。


 聞いた話だと、2千万環も出せば綺麗な商家の娘くらい買えてしまうらしい。

 もっとも庶民なら2千万環も払おうとすれば、20年くらいの分割払いが必要になる。

 側室目的の綺麗な奴隷というのは、中々にハードルは高いものみたい。

 貴族の綺麗な娘の奴隷となると1億くらいは必要になるらしい。

 けれど、今の俺ならそれくらいのカネは大丈夫。これじゃ心も揺らぐよね。


 正直な所、今までなんて綺麗なんだろうって思う良い家柄の娘さんは沢山見ました。

 でも、俺には家柄的には全然無理なんですよねえ。

 遠い世界なの。


 そんな諦め気分で、たまに見かける綺麗な娘さんの一人に、神殿の巫女さんがいました。

 巫女さんといっても10人位いるのだけれど。


 十六夜という名前だそうですけれど、正直憧れの巫女さん。

 うん、多分これが片思いの初恋というやつだと思う。

 濃い目の茶色い長い髪。

 優しそうな眼差し。

 上品なうりざね顔。

 狩りの成功祈願をお願いして一度だけ近くに寄ったことがあるけれど、とてもいい匂いでした。

 もっとも、それ以外は遠くから眺めるだけだけれど。


 もう、遠くから見るだけで俺の胸は・・・。

 ずっと見ていたいけれど、俺なんかが相手にされるでもなく神官に追い払われるのがオチです。

 ああ、人生はツライ。


 そんな事を考えてながらも今日も狩りに出ました。

 神社の奥に森があって、森の手前はまだ普通の獣の領域。

 奥に行くにしたがって凶暴なモンスターになって行きます、この森では。


 森の奥にはどうやら本物の神龍クラスもいるらしい。

 神龍を実際に見て、そして生きて帰って来られたのは60年前の話らしいですけれど。


 上級ハンター20人で森の奥に入って、生還できたのは2人だけ。

 先代の筆頭宮廷魔導士と凄腕ハンターというのが伝説級の話になっています。


 要するに神社はそうした魔物の結界代わりということらしい。

 で、ドラゴンもどきを狩ろうとするなら、しっかりと奥に行かないとダメ。

 まあ、俺の術を他人に見られたくないから、奥の方でコッソリというのは悪くない。


 ただし、如何にも怪しい場所で人間一人に他は埴輪軍団で待ち伏せというのは、精神的にはキツイのです。

 狩りのお伴が出来るような奴隷の娘でも買おうかな・・・。


 なんて考えていたらギャーギャーと騒ぎ声がして来る。

 どうやら餌を獲りに行っていたワイバーンが巣に戻って来たらしい。


 でも、その餌が大問題。

 ワイバーンが捕まえてきた餌は巫女さん。

 その巫女さんの衣装を着ているのは、間違いなく十六夜さん。

 散々遠くから見ていたんだから間違える訳がない。


 こりゃ大変だ!

 しかし、マズイ。

 問題の巣がワイバーンの群生地のど真ん中。

 概ね100頭近いワイバーンが群れている、そのど真ん中。


 チンタラしていたら十六夜さんが危ない。

 けれど、200体位の埴輪軍だと、余程上手くやらないと十六夜さんがワイバーンに食われてしまいかねない。


 ワイバーンの足に抱えられていた十六夜さんは叫んでいたけれど、巣に落とされて気を失ったみたいで静かになって、動かない。


 ええい、こうなりゃヤケクソだ。

 行っちまえ!


 まず、ワイバーン軍団とティラノ軍団を召喚。

 ワイバーンの群生地の右側から召喚獣を突撃させる。


 ワイバーンが突撃に気を取られたら、その隙に埴輪軍団の突撃だ。

 俺自身は大型埴輪の頭にしがみ付いて、一緒に突撃を敢行する。


 十六夜さんのいる巣までは、俺の突撃に気づいた30頭近い敵方のワイバーン軍。

 こちらは200体の埴輪軍団。


 でも、強力な火炎とか雷撃は、十六夜さんに怪我をさせるかもしれないから使えない。

 ちょっと困るハンディキャップ・マッチだ。


 右手で魔物同士が壮絶な噛み合い。ちょっと数的には押され気味か。

 実は俺の召喚術には弱点がある。

 埴輪がダメージを受けると、その都度俺も痛みを感じる。

 埴輪が殺されても、別に俺が死ぬことは無いのだけれど、壮絶に痛い事は痛い。


 頭をガブリと丸かじりされるようなダメージを受けたら、これはもうシャレにならないほどにキツイ。

 ああ、もう痛いったら!


 でも、埴輪軍団は頑張ってくれています。

 もうすぐに十六夜さんに届きそうです。

 起きてくれないかな、十六夜さんってば。


 3mクラスの埴輪軍は奮闘してくれて、3体一組になってワイバーンを駆逐して行く。

 それ、あと4体のワイバーンを仕留めれば十六夜さんまで手が届きそう。


 奮戦。

 奮戦。


 埴輪軍団の奮闘著しい。

 それでも埴輪軍も一割くらいは消滅している。

 ああ、心臓が痛い。

 ううっ、頭がガンガンする。

 ダメージは俺にまともに蓄積している。


 あとチョットという所でワイバーンが十六夜さんを抱えて、さらに森の奥の方へ飛んで行ってしまう。


 くそっ、ここで逃げられて堪るものか。

 こちらも埴輪にしがみ付いて、飛翔して追いかける。


 幸いにして、群生地のワイバーン集団は俺が巣から離れると追いかけては来ないらしい。

 これはラッキーだった。


 延々と追いかけること1昼夜・・・。

 眠い、疲れた、腹減った。


 相当な速度で奥の方に進行した気がする。

 森というよりも山脈の奥に入った様子。

 正直、こんな奥まで来たことがない。


 幸い目標のワイバーンは疲れたのか地上に降り十六夜さんを離して、ヨタヨタと木の陰に隠れて行く。


 やれやれ、ようやく十六夜さんを奪回できた。

 気を失っているけれど、大きな外傷はないようだ。

 可哀そうにお漏らししちゃっている。

 そりゃ、怖いよな。

 あんなワイバーンの群生地に投げ出されたんだもの。


 さて、帰ろうかと思ったら・・・。



 ヤバイ。



 “もどき”じゃない奴がいる。


 デカイ。

 壮絶にデカイ。

 山影から顔が少し見えただけ。

 でも、デカイ。

 伝説扱いの本物の神龍だ・・・。

 絶対に勝てるような相手じゃない。

 でも、迂闊に空を飛んで逃げたら一撃で終わるだろう。


 頭がパニック状態になって、何も考えられない・・・。

 ううっ、やっと十六夜さんを助けたのに。


 そこを救ってくれたのは15m級大型埴輪でした。

 いきなり3m位にまで小さくなって、俺と十六夜さんを抱えて山腹の洞窟へ飛び込んだ。


 外側ではドーン、ドーンという重量級の足音が響く。

 少し遅ければ、ペチャンコだっただろう。


 洞窟の中は広かった。

 入口は高さ5m位のものだけれど、中に入ると凄く広い。

 そして深い。


 埴輪は二人を抱えたまま30分くらい飛んでいたのではないだろうか。

 パニックで感覚は飛んでしまっているけれど。


 ドーン、ドーンという音が遠くなった所で二人を降ろして、消えていく埴輪。

 ふー、やれやれ。

 何とか生き延びることができました。


 ひとまず飲み水を召喚して、一息入れる。

 ついでに、手ぬぐいを出して十六夜さんをぬぐってあげよう。


 十六夜さんの顔を、濡らした手ぬぐいで拭いてあげても意識は戻らない。

 近くで見る十六夜さんの顔は、それは綺麗だった。


 ついでに、汚れてしまっている身体も綺麗にしておこう。

 ・・・ぶっちゃけ、大小お漏らしして臭っているし。


 そう思って、全身を拭ってあげる。

 腕を拭い、わきの下を拭い、

 柔らかくて暖かい塊を拭い、

 脇腹や背中を拭い、

 そして、臭ってしまった部分も拭って、


 あれ、俺って同じ年代の女の子をこんなに間近に見たのは初めてだ。


 何か俺の体の芯が熱くなってしまう。


 気が付いたら頭が真っ白になっていた。


 疲れ果てるまで、ひたすら十六夜さんの温もりを求めて・・・。

 幸せでした。


 翌朝。


 空腹で目が覚めたら、隣に十六夜さんがまだ寝ている。

 巫女服は畳んで横に置いてある。

 俺が畳んだのだっけ。


 俺がボーとしていると、十六夜さんも目覚めたようだ。


 目覚めた十六夜さんは、自分に何が起きたのか、一瞬わからなかったようだ。

 やがて、両腕を胸の前で組んで、泣き出した。


 「私、許嫁がいるのです。

 親同士が決めた人。


 もう、私はお嫁さんになれない。

 もう、清らかな巫女ですらない。


 私は穢されてしまった・・・」

 さめざめと大粒の涙を流す十六夜さん。


「俺は斉木貴志。騎士爵家の4男で今はモンスター・ハンター。

 狩りの成功祈願で一度だけお話したことがありました。そらからは、ずっと十六夜さんの事を遠くから見つめるだけでした。でも、こうして十六夜さんに思いのたけを全部ぶつけられて嬉しいと思う。


 俺は十六夜さんの事を好きでした、お嫁さんにしたいとずっと願っていました。

 こうして十六夜さんを手に入れることが出来て俺は嬉しい。この先、誰にも渡さない。婚約者なんて知らない。どうでもいい。俺の願いは十六夜さんと一緒に暮らす事だけです。


 十六夜さんが嫌だと言っても、どこにも逃がしません。

 俺の軍勢が逃がさない。

 この先、誰が邪魔しようと打ち払うだけ。

 俺は十六夜を離さない。諦めて俺の妻になってください」


 洞窟内には神龍を警戒して埴輪軍団を控えさせています。

 俺が話しながら視線を連中に向けたことで、ようやく十六夜さんは気が付いたみたい。

 十六夜さんの顔色は一気に蒼くなってしまった。


「そうですか・・・。

 もう、帰っても私は駄目。

 もう、元には戻れない。

 なら、苦しまずに」


「ええっと、十六夜さん。

 苦しまずに死のうというのなら、貴女を俺に下さい。

 おカネには不自由させません。地位や名誉はないけれど、悪いようにはしません」


「私を穢しておいて、まだ求めるのですか。

 何故私なのですか、おなごなど他にもいるでしょう?」


「好きになったのだから仕方ないじゃないですか!

 他の女ならワイバーンに攫われて群生地に連れてかれても放っておきます。

 十六夜さんだから、俺は無理を承知で無数のワイバーンに突っ込んで貴女を助けた。

 俺には貴女しか見えない。他の女なんでどうだっていい」


「私、ワイバーンに攫われて・・・。目の前に巣には無数のワイバーンの群れがいて。

 そのまま食われてしまうと思って・・・。あなたが救ってくださったのですか」


「惚れた俺の負けですから。十六夜さんが、どうしてもお嫁さんに欲しいから」


「私はあの場所で死んでいたはず。それをあなたが救い出した。

 あの場所で戦える者などいる筈がありません。しかし、あなたは私を助け出した。

 何故、あなたは戦えるのです、そんな異形の力を何故持っているのですか?」


「気が付いたら召喚術が使えるようになっていたんです。

 総勢200程の召喚獣を使役できます。ワイバーンごときなど敵ではありません。

 もっとも、洞窟の外にいる神龍には絶対に歯が立ちませんけれど」


「神龍がいるのですか?ここは神龍の森ですか!」


「ええ、貴女を攫ったワイバーンは、神龍の領域まで逃げてきました。

 正直、この洞窟に逃げ込めたのは運がいい。

 出口には神龍がいる、アレには絶対に勝てない」


「やはり助からないのですね。なら、苦しまずに」


「それはもういいです、戦って勝てないけれど逃げる事ならできる筈。

 ここで神龍に殺されるか、それとも俺の嫁として生き残ることを選ぶか。


 俺には地位や名誉は無い。けれども、ハンターとしていくらでも稼げます。

 カネの苦労はさせません。

 それに十六夜さんの事は一生大事にします。

 俺の初恋の人に妻になって欲しい。お願いです」



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