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第7話「八百屋とアルバイト」

子供が親からお小遣いを貰う。普通の家ならばよくある話である。栞の家でもお小遣い制が導入されていた。

始めにお小遣いが導入されたのは10歳の頃だったか。1月1万円だった。


ただ、お小遣いはお小遣いでも普通のとは違う。そこから食費や光熱費。その他諸々を出しての金額である。その歳になる頃には家事も普通にこなせていたので問題なかった。



中学に入って。お小遣いが1ヶ月5千円に減らされた。それでもなんとかなったのは、姉から食料調達の方法を色々と習っていたからだろう。



更に高校生になって。栞のお小遣いはナシになった。つまり、全くの0円で生活しなくてはいけなくなっていた。



無論。栞は今現在も生きているので、1年間はバイトを繋いでなんとか生活出来ていた。この歳で生きるために働くことを覚え、金を使わないで極力生活できる方法を学んだ彼は、誰よりも……





「おはようございます」

「おはよう。朝食出来てるわよ」

「あざーす!!」



卓に並んでいる朝食を一瞥して、栞はいつも通り2階の駄目子の部屋に上がっていく。



「駄目子。起きろ朝だよ!!」

「うぅー」

「俺はもう下行くから」



1週間もやれば大体、コツは掴める。振り返るとまだ駄目子は布団を被っているが、今はとりあえずこれでいい。



「ひーちゃんは起きた?」

「無理です。起きないです」

「よねー」



母親が率先して諦めていた。まあ栞もしばらく一緒に行動を共にしていたが、駄目子は確かに駄目子だ。まずやる気がない。しかも、そこに1本の固い芯が通っているので、自分の生き方を変えようとしない。

学校にすらたまにしか行かないとお母さんがぼやいていたので、相当だろう。ただ……



「おぉぁああああああああああ」

「あら、今日も起きてくるなんて珍しいわね」

「うめき声あげてるけどね」



口の端から涎を垂らして、腕を前に突き出しながらゾンビが迫ってきていた。栞も最近気付いたのだが、どうやら駄目子は面倒なことはとことん、やりたがらないらしい。



学校へ行く・行かない。という2択を突きつけられたら絶対に後者を取る絶対に。ただ、それで留年でもしたら更に面倒なことになるのがわかっているので、出席日数ギリギリぐらいには学校に行っている。恐らくこんなところだろうと。そこから色々と観察して。こういう2択を突きつける。



半分寝ながら栞の背中に乗って学校に行く・行かない。駄目子には寝ている状態でもある程度は動ける謎の特技があるので、こういう選択肢を作った。一見して見れば上の2択とそんなに変わりないが、楽に学校に行けるのならばそれでいいらしい。現に最近はこうして起きてるわけだし。



「はい、これ今日のお弁当ね」

「わーい! 楽しみだなー」

「そうやって喜んでくれると、お母さんも作り甲斐があるわ。なんせウチの娘たちなんてみんな……」

「お母さん……」



ヨヨヨと。明らかに泣いたフリであろうが、普段の駄目子を見れば食事の感想なんてあってないものだろう。今だって椅子の上で寝てるし、そもそも朝食すら用意されてないんだし。



「ねえ。あなたさえ良かったらウチの子に……」

「へへっ、そう言ってもらえてうれし――ちがーーーーーーーーーう!!」



なにが違うのか。机をバンバン叩きながら立ち上がっていた。その姿にお母さんは顔をしかめる。



「どうしたのそんなに怒って、生理?」

「違うよ!! っていうか凄いぶっこんできたな反応に困るよ!!」



これが双子とか同い年ぐらいなら笑い話で済むのだが、同級生の母親となるとツッコミに困る。うん、話が脱線しかけたがそういうことではないのだ。



「もうこんなイカレた連中とは付き合わないって決めたのにどうして……」

「でもここ1週間、毎日来てたでしょ」

「貧乏が悪いんや」



ほとんど栞も無意識の内に来ていたのでなんともいいようがない。それもこれも全て貧乏が悪い……いや、貯金は一応ある。今はまだバイトも見つかっていないので無収入だが、取り合えず食費に困らない分はあるのだが。



(貯金を切り崩すっていうのがあまり好きじゃないんだよな)



これから自動車免許を取ったり、その他にも入用になることを考えると、金は幾らあっても足りない気がする。それ以上にこの街の制度も悪い。



「この街って紙幣がないんだよね」

「あぁ。ここに来た人は慣れないって言うわ」



そう。この街には紙幣が存在しない。すべて静脈認証システムにより、お金の支払いが行われる。手の甲をかざすだけで支払いが出来るシステムは、顧客回転率を見れば店にとってこれ以上ない利点だろう。

だがやっているのはカード支払いなどと変わらない。街から支給されるスマホで履歴や口座残高が確認出来るといっても、つい最近まで紙幣を使っていた身としては、”使いすぎ”てしまわないか気が気でない。


だからか、栞はこの街に来てあまり積極的に買い物をしていない。それに元来のケチ臭いしみったれた性格が重なって、今まで無意識下でお世話になっていたのだ。昼の弁当も出るし。



「とにかく! お世話になるのは今日で終わりにしようかと思います」

「そうなの。でも、お弁当は作っちゃったんだから食べてお弁当箱を返しには着てくれるんでしょう?」

「……まあそうですね」

「そのついでに夕飯を食べていったりもするんでしょう?」

「それはしません」



真顔で答えていた。この一週間、駄目子や王様を見てきたが2人とも結構頑固なところがある。自分の芯を持っていて、それが中々ブレない。

そしてその母であるお母さんは、もっとヤバイ。なんせ自分をこの家族に取り込むためなら手段を選んでいない口がある。



「俺はもう絶対に流されないからね」

「残念ね。今日は鍋なのに……」

「はわっ!?」

「今日は鍋なのに……」



今決心したばかりなのに、既に栞の心は揺れ動いていた。なんて……



(なんてえげつない所を突くんだ、このババア2号)



鍋は嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入る。しかし、1人でご飯を食べる栞にとって鍋や焼肉などは敷居が高い。1人でも出来ないことはないが、1人だと後処理の段階で空しくなるので、友人を呼んだ時ぐらいしか出来ない料理だった。



「うちの鍋。うどんも入れるわよ」

「本日もお邪魔させていただきます」



これからもずるずると関係が続いていくであろうことが決まった瞬間だった。






学校にて。休み時間に栞は自分の席でスマホを弄っていた。普段は双子と話していることが多いので、こういった姿は珍しい。



「おいおい、そんな一心不乱になってなんのエロサイトを覗いてるんだよ」



弟が栞の肩を抱きながらスマホを覗き込んでいた。確かに栞にとってスマホとは”そういった”ものであるが、どうやら今日は違うらしい。



「アルバイトを探してるんだよ。高校生でも出来て長期続けられそうなところ」

「うん。それでエロ画像はどこだ?」

「そういうのじゃないって言ってるだろ」

「おいおい。エロ画像って聞こえてきたぞ。あたしも混ぜろよ」

「ゴキブリみたいに寄ってくるな」



少なくとも今は2人に構っている暇はない。まあ基本的に色々なバイトを経験しているので、大抵はこなせるだろうけど。



「これ見ろよ! このOLの女。尻がよくないか」

「これは駄目だね。スカートが長すぎる。OLっていうのはもっとミニであるべきなんだよ」

「流石、AV先生。目の付け所が違うな」

「褒めても何も出ないぞ」

「早速、話が脱線してるじゃねーっすか」



駄目子が冷静にツッコミを入れている通り、完全に話が明後日の方向に向かっていた。今はスマホのアルバイト募集ページに写っている写真から、エロい女の子を探す作業をしている。



「栞さあ。レジ作業とか出来るの?」

「出来るよ。っていうか、この街ってその辺り殆どセルフだよね」

「だったらウチで働くか?」





東地区。デパートや飲食店に良く分からないものを売っている店から遊園地のような施設まで。この地区にはそういった施設が揃っていた。買い物や遊ぶならば、大抵はここに来れば事足りる。そこの一角、商店街にある八百屋の前に栞は立っていた。



「八百屋か……」

「地味な店だろ。鞄は奥に置いときゃいいから。これエプロン。じゃあ後は頼んだ」

「えっ!? これだけ?」

「エプロンしてりゃ問題ないだろ。後は呼び込みでもやってればいいから」

「あたしらは仕分けしてっから。なんかあったら呼べよ」



言うだけ言って。2人は奥に引っ込んでしまう。確かに時代をなにか間違っているんじゃないかっていうぐらい、古臭い店ではある。それに呼び込みっていったって、八百屋のバイトなんてやったことないんだが。



「まあとりあえずやってみるか。いらっしゃい!! 新鮮な野菜が揃ってるよ!!」





……1時間後。



「どういうことだよ!! っていうか、なんでお前らテレビ見てるの!?」

「いいだろ、あたしたちの家なんだし」

「うっせえ!! さっきから必死に呼び込みしてるんだけど、客が1人も来ないよ!! それになんか通りすがる人たち、敵意がある目で見てこない!?」



そりゃ最初は気のせいだと思った。客が来ないのだってそういう日だってあるだろうと。ただ、こっちを見る度に舌打ちをされたり痰を吐いたりする人が、1人や2人どころではなくいればどう考えてもそういう思考にいたる。

それを聞いた2人はなんともいえないような、気まずそうな顔になる。



「そりゃあ店長のせいだ。お前はこの街に店を出店する条件とかって知ってるか?」

「知らないよ。ここ来たばっかりだし」

「この街の幹部。あたしらだって顔も見たことない連中の気まぐれらしいぜ。面白そうなプレゼンやったりとかさ」



選定基準が本当にそうかはともかく、街の外にも帝都の息がかかった人間がいる。そういったスカウト専門の人間が、この街に入るに相応しい人間を選んで面接して。そういった工程を経て、この街へやってくる。



「この街が出来た頃って、店はここらの商店街しかなかったんだよ」

「実際にそれで回ってたんだけどよ、あっちにデパートがあるだろ。あそこが店出すっていいだしてさ」

「よくある話だね」



今ではこんな商店街なんて殆ど見ないが、栞が生まれる前にはこういった場所も多かったらしい。ただ、デパートやスーパーなどの多目的店が増えるにつれて、商店街などは段々寂れて消えてしまったとも。



「この街って入ったら最後、外に出るのって相当困難だろ。再就職ったって、ここの商店街のジジババを使う仕事なんて限られてるしな。反対運動までしようってなったんだけど」

「うちの店長が真っ先に裏切って、店長はデパートやスーパーにノウハウを教えて、他の連中は冷や飯こいてるんだ。後はわかるだろ」

「あぁ……」



そりゃこの商店街の人たちの敵意の目の正体がわかった気がした。経営者としては正しい選択なんだろうけど、人としてはどうなのかと。



「この店だってあたしらの小遣い稼ぎ程度に開いてるんだから。別に頑張る必要はねーよ。どうせ客なんて来ないんだし」



双子は最初から諦めムードだったらしい。客が来ないのは事実だろうし、栞だって近場のスーパーを利用している手前、偉そうなことは言えない。ただそこまで言われて、栞から出てきたのは……



「くっくっくっく。面白くなってきたぜ」

「面白く……? お前の頭がか?」

「早く救急車を呼んだ方がいいな」

「そういうのじゃないよ! まあ聞けよ兄弟」



栞が2人の肩を抱いていた。なんかドヤ顔をしている栞に不快感を露にするが、流石の2人も口には出さない。



「よくある話だけどさ。客が来ない店をさ、俺が建て直したりしたらさね。モテると思わない?」

「やっぱり頭おかしいわ」

「保健所の番号って何番だった?」

「へへっ。秘策もあるからさ、ちょっと待っててよ!!」



自信満々に栞は奥へと引っ込んでしまった。そりゃあ双子だって客が増えれば自分たちの小遣いにもなるので、増えてくれるに越したことはないが。それ以上に商店街の連中の妨害などが酷いのもわかっている。ちょっとなにかをしたからといってどうにかなるとも思えないのだが。





「出来たよーキャピキャピ☆」

「「…………」」



想像以上にヤバかった。確かにインパクトという一点においてはこれ以上ない姿だと思うのだが。



「あのさ。そのメイド服どうしたんだよ」

「いや、こんなこともあろうかと鞄の中に入れておいたんだよ。前戯あれば憂いなしって言うしね!!」



お嬢様似の女優が出ているAVといい、一体なにを想定しているのだろうか。これをもって学校に通っているという時点でぶっちぎりの危険人物なんだが。

それになにがヤバイって、栞本人はこの状況に満足しているという点だろう。これがウケ狙いなら笑って済ませられるのだが、この男の顔にはそんな気など一切ない。



「ちょっと露出が高いのに挑戦してみたんだけど……どうかな?」

「すげえおぞましい生物だと思う。これならゾンビに店番任せた方が100倍マシだな」

「そんなに褒めたってパンチラぐらいしか出せないぜ」

「話聞けよ」

「もうこいつは駄目だ。諦めよう」



なに言っても駄目っぽかった。もう双子には意気揚々と店に出て行く栞を見送ることしか出来ない。





また1時間後。栞は頭を抱えて座り込んでいた。



「おかしい。どうして客が1人も来ないんだ。方向性は間違っていないはずなのに」

「間違ってるのは人間性だろ」

「むしろ公衆の面前で、1時間もその面晒して平気だった方が凄いだろ」



2人とも栞を見て呆れていた。まさかマジでやるとは思っていなかったわけだし。ただ、栞がメイド服で突っ立っていたことに全く意味がなかったわけではない。

少なくとも商店街の人たちからの目が、敵意から侮蔑や嫌悪に変わったのは確かなわけだし。



「もう!! そんなこと言うならお前らが着ればいいだろ!! 丁度、2着あるんだし!!」




「メイド服って始めて着たんだけど悪くないな」



姉貴がメイド服を着ながらピラピラとレースを弄っていた。先ほどの惨劇はともかく、こうやって女性が着るのが本来の用途である。



「でもこれって高かったんだろ。見たところ、そこらで売ってるコスプレ安物じゃないしな」

「あぁ。これ俺が作ったやつだから」

「そっかー」



今日だけで自分の親友の闇を見すぎたためか。流石にこれ以上は突っ込む気がないのか、姉貴は今の発言を軽くスルーした。栞がメイド服について熱く語り出そうとしていると、もう1人の主役が出てくる。



「なあ。これなんかおかしくないか?」



弟がメイド服を着て2人の前に姿を現した。誰かさんと違って女装に慣れていないのか、短いスカートを抑えて顔を赤らめている。確かに双子なので服装まで揃えたら姉貴と全く同じ姿になるのだが。



「なあ弟。姉貴と性別交換しようぜ」

「どういう意味だよ!?」

「俺さ。近視相姦も悪くないって思ってるんだぜ」

「普通にキモイよ!! 姉貴もなにか言ってよ!!」



完全に身の危険を感じていた。目の前の生物は親友ではあるが、それ以上に危ない変態である。目が冗談を言っている感じではないし。だからこそ、姉貴に助けを求めたわけだが。



「へへっ。あたしの魅力がようやくわかったみたいだな」

「触れるな死ね。じゃあ俺は客引きに行って来るね!!」



肩に乗せられた手を振り払って。栞は外へ出て行ってしまった。それを見た姉貴は照れくさそうにフフフと笑う。



「あたしが好きなら好きって言えばいいのによ」

「むっちゃ死ねって言ってなかった?」



言っていたと思うが、どうやら姉貴はそこだけ意図的に聞こえないフリをしているらしい。まあそれはいいとして。



「姉貴はどう思う? 客なんて来ると思うか?」

「無理だろうな。あたしたちだって散々あの手この手でやったんだから」



そりゃ2人だって最初から諦めていたわけではない。ビラを作ったり客引きをしたり。それなりに努力はしてきたつもりなのだが。それ以上に商店街連中の嫌がらせが凄まじかった。

ネガティブな噂を流されるのは日常茶飯事で。店長の意向で野菜を仕入れているのは、帝都内でもこの店の系列ぐらいなのだが、その為にこの商店街のジジイどもは野菜を一切拒否しているレベルだ。

ハッキリ言って異常なレベルである。



「まあ戦争を体験してきた世代だからな」

「野菜の代わりに雑草食ってるんだろ。んな連中に勝てるかよ」



周りドン引きレベルの敵愾心に2人は心身ともに疲れきっていた。別にここを繁盛させたりする必要はないわけなので、適当にやっていればいいのだが。



「お客さん連れてきたよー」

「あぁ、おつか……うぇええええええええ!?」



栞の後ろには規則正しく列を成す男共がいた。見ただけでも50人以上はいるであろうその様は正に圧倒である。ただ、客層が明らかに”そっち”系なのはどうかと思うが。メイドで釣ったのであれば、それも仕方ないのか。



「すげえじゃんお前。どうやってこんな人数連れてきたんだよ」



幾ら客引きをやったとはいえ、栞が出て行ってから1時間と経っていない。普通に考えてそんな時間でこんな人数を集めるのは、不可能としか思えないのだが。



「先生!! 整列完了しました!!」

「うん、ご苦労」

「なんだ。お前の信者どもか」



栞が自分を慕う者たちを集めて謎のグループを作っていることは双子も知っていた。それに関わる気は毛頭ない。というよりも、既に勢力的に大きいものになっていて、学園内でも風紀委員に目をつけられている。

ちなみに彼らのことを”シオリ”と呼んで蔑んでいる事も知っている。



「こ、これとこれをくださいブヒッ!」

「あぁはい。しめて980円ね」



幾ら客層が色物だったとしても客には変わりないので接客をする。普通に視姦されるぐらいで売り上げが上がるのなら安いものだ。



「……なあ。次が詰まってるんだけど」

「じゅじゅじゅ……」

「じぇじぇじぇ?」

「呪文をお願いするブー」



この豚なにいってるんだよと栞に助けを求める視線を送るが、栞は弟の肩をそっと叩く。



「メイドなんだから美味しくなる呪文ぐらいかけてやれよ」

「……いいけどさ。おいしくなぁ~~~れおいしくなぁ~~~れ。萌え萌えキュン!!」

「「うおぉおおおおおおおおおおおおお!!」」



商店街の一部店舗が異常なまでに盛り上がっていた。それをやった当の本人は、女装して謎の呪文まで呟いて軽く死にたくなっていた。



「次は自分がお願いするんだな」

「えっと。しめて2000円ピッタリで」

「じゃあ僕にはパンツをお願いするんだな」

「……は?」



パンツとはどういう意味なのだろうかと普段は全く使っていない頭をフル回転させて考える。いや、全くわからないのだが。



「弟。パンツ見せてやれってことだよ」

「嫌だよ!! どうして僕がパンツ見せなきゃいけないの!? しかも男だし!!」

「だったら尚更いいだろ。なにを恥ずかしがってるんだよ」

「そんなに脱ぎたきゃお前が脱げば……わかったから脱ぐなよ!!」



躊躇いもなく脱ぎ出す栞を止める弟。こいつは馬鹿だから平気でこういうこともするのを忘れていた。これが駄目なら他で諦めさせるしかないが。



「商店がこういう商売やったらマズイだろ!!」

「大丈夫。既に金は握らせてあるから。世の中金だよ金」



AVといい、こいつのたまに垣間見せる謎の執念は一体なんなのか。弟は少し困ったような顔をしながらも、男同士ならまあ問題ないだろうという結論に至った。パンツ見せるっていったって、少したくし上げればいいわけだし。



「お、男の娘なんだな。先生、写真の方は……」

「それは別料金で頼むよ」

「わかってるんだな」



袖に金を通している。つーかこの時点で八百屋関係ナシにヤバイ商売だった。ただ、弟も色々と吹っ切れたのか今では従順に指令をこなしていく。それを端で見ていた姉貴が、栞に声をかける。



「なあ。レジは2つあるのにあたしの方には誰も並んでないんだけど」

「気のせいでしょ」

「……しゃあねえな。そこのデブチン。こっちが空いてるからあたしんとこ来いよ」

「触れるなクソビッチ」



べちゃりと。姉貴の顔に唾が吐きかけられていた。そんなことをされても姉貴は店員として客を扱わなくてはいけない。笑顔を絶やさず、代わりにその太ましい首を掴む。



「あたしの顔に唾吐きかけたんだからてめえの体臭みてえな臭いがするドリアン買えよ。なんで果物が八百屋にあるのか謎だけどよぉ」

「先生!! 先生助けて!!」

「なにやってるんだよ!!」



首を掴んでいる姉貴を必死に離れさせる。



「なにがあったんだよ」

「こいつがあたしに唾を吐きかけた上にクソビッチとか言いやがったんだよ」

「そんな……クソビッチは事実だろ」

「ちげーよ!!」

「なにが違うんでござるか?」

「全く持ってイミフ」



周りが口々に今の言葉に疑問を呈していく。まあ雰囲気ビッチっぽいといわれればそうかもしれないが。



「そもそも。あたしはまだ処女なんだからビッチじゃねーっての」

「はわっ!?」

「先生!? 大丈夫ですか!!」



栞がいきなり膝から崩れ落ちていた。しかも目からは留め止めなく涙が溢れている。



「普通、女子高生が処女って嬉しい要素しかないはずなのに……なんにも心が動かないんだ。人は大人につれて感情を大きく出す術を失うことがあるって聞いたことがあるけど。俺にはもうそういう純粋な心はないのかもしれない」

「俺たちも同じっす!!」

「あんな見た目完全クソビッチが処女だったとしても感動とかしないでござるよ!!」

「殺すぞクソ共」



八百屋の前で殴り合いの喧嘩が始まる。殴り合いと言うか、一方的に栞が殴られているだけだが。まさに狂戦士といった感じで弟にすら手の着けられなくなっている姉貴だったが、意外なところから援護がくる。



「なにやってるの、あなたたち」

「て、店長!!」

「おはざーす!!」

「久しぶりに様子を見に来て見たら随分と面白いことになってるわねぇ」



店長を見た途端、双子が礼儀正しく頭を下げていた。栞も2人と会ってまだ1週間ほどだが、この2人がここまで恭しくするなんてタダごとではない。少なくとも教師にすら敬意を払わない連中だし。

興味を持って栞が2人の影から店長の姿を覗いてみる。



「ババア!! ババアじゃないか!!」

「ババアは止めなさいよぉ」



そこにいたのは姉ちゃんの姉妹であり、胡散臭さ抜群のババアだった。当の本人は呆れたような顔で口を開く。



「こっちは副業とはいえ。もう少し品のある売り方をしなさいよ。それと友達はもっと選びなさぁい」

「うっす店長」

「ぷふっ!あはははははははははっ!!」

「どうしたんだよ栞。頭でもおかしくなったか?」

「だって売れ残りが八百屋の店長って。縁起が悪いにも程があるよ。そう思わない!?」

「なあそれぐらいに……」



明らかに地雷を思い切り踏み抜いていた。確かに出会った時からババアには酷いことを言っていたが。当のババアはニコニコと笑っている。周りから見れば子供の戯言なんて軽く流している大人の女性に見えるだろうが。

双子は知っている。あの笑顔はこれから行う行為を心底楽しみにしているからこその笑顔だと。



「えーい!!」



片手で店頭にあったカボチャを掴んだババアは、それを栞の頭にぶち込む。ぶち込むと言うかぶち殺していた。



「先生!!」

「ジャック・オー・ランタンになっているでござる!?」

「店長、これはあんまりにも……」

「自業自得よ。でもまあ、そうね」



ババアがじーっと双子を見つめている。2人はなにか失言したかと顔を見合わせるが、どうやらそうではないらしい。



「あなたたちがここまで頑張っているんだもの。私も少し手を貸してあげようかしらぁ」



奥に引っ込んでいくババアを見送りながら、ここにいる面子は全員冷や汗をかいていた。



「そんなことが起こりえるのか?」

「ありえねーだろ。店長だっていい歳なんだし」

「そんな事態になったら周囲10kmは人が住めない土地になると予想される」

「我らのようにパッケージ詐欺に慣れていない人間では1秒とて耐えられんぞ」



仰々しいことを言ってはいるが、ようはババアがメイド姿に変身するか否かだった。



「おい栞! 起きろ!!」

「姉貴。そいつはもう……」

「お腹が空いてなかったら即死だった」

「そういう問題じゃなくね」



普通に起き上がってきた。なんで生きているのかはさておき、栞には聞いておかなくてはいけないことがあった。下手をしたらここにいる全員の命が儚くも散るかもしれないのだし。



「お前が持ってるメイド服って2着だけだよな」

「当たり前でしょ。3着も持ってるわけないじゃん」

「「…………」」



2着も持ち歩いている時点でドン引きなのだが。だがこれで自分たちの安全は保障された。恐らくババアは奥に忘れ物でも取りにいったのだ。






「きゃぴぴ~ん☆ メイドさんだよ~~~」



予想の遥か斜め上をぶっ飛んでいったババアの行動に双子は身体を震わせていた。決して可愛いから震えていたとかそういうのじゃない。ババアの着ているメイド服はピンクを基調に作られていて、極普通のメイド服に比べてフリルやリボンが着いた可愛い系の服だ。

ここから導かれるのは……



「店長。それってまさか店長の……」

「えぇ。結構前に買ったんだけど、こうして着てみるとまだいけるわね」



既に逝きそうですとは言えなかった。まさかまさかの自前のメイド服が出てくるとは。しかも、改造型。そりゃ可愛い系の子が着ればそれなりに映えるのだろうが、ババアが着ても放送事故と言うか。邪神像と言われても信じてしまいそうな。



「姉貴。僕はもう駄目かもしれない……」

「吐くな。吐いたら殺されるぞ」



嗚咽を必死に堪えている弟の背中を撫でる。



「うわぁああああああああああ!?」

「逃げろ!! 死にたいのか!!」

「俺生まれ変わったらパッケージを見ずにAVを買うんだ」



栞に連れて来られた歴戦の猛者共は我先にと逃げていた。幾らなんでもあれの直視には耐えられなかったらしい。彼らだけではない。なにを感じたのか、商店街のほぼすべての店がババアメイドの登場と共にシャッターを閉めて、息を潜めていた。残っているのはここの八百屋だけだ。



「さぁて。今日限りでこの商店街も見納めね」

「落ち着いて店長!!」

「私は落ち着いてるわよぉ」

「それならその手に持ってる釘バット下ろせよ!!」



2人は知っている。ババアを離せば容赦なく商店街の人間を皆殺しにするであろうことを。しかし、2人掛りでもババアを押さえつけるのは難しかった。口に出しては言わないが、まるでゴリラでも抑えているかのような。



「ババア笑ってよ!!」



栞がカメラを構えてババアを写していた。それを見た双子は頭をやっちまったのかと悟るが。ババアは照れながら口を開く。



「私みたいなおばさん撮っても楽しくないじゃない」

「そんなことないよ!! 確かにババアはババアだけど、被写体としては魅力的ななにかだし!!」

「そ、そうかしらぁ?」



照れている姿も完全に気持ちの悪いなにかだった。ただ、悪い気はしないらしく10分ほど写真を撮られて上機嫌に去っていった。



「おいどうするんだよそんなもん撮って」

「御祓いにだって金はかかるんだぞ」



失礼なことを言っていた。まあ言いたいことはわからないでもないのだが。ババアでしかもメイド服装備の痛々しい写真などを集めて一体どうするつもりなのか。2人にはさっぱりわからなかった。



「明日になればわかるよ」



人差し指を唇に当ててウインクをする動作に、言い知れぬキモさを感じる。そしてその言葉は宣言どおりに直ぐわかった。





この帝都学園では学生が飲食や物品の販売をすることを特に禁じてはいない。申請すれば空き教室を使って店を開くことも出来るし、食堂も”購買部”が仕切って外部から料理人を雇って営業している。

流石に違法薬物や学生に相応しくないものの販売は禁止されているが、それ以外なら大抵の申請は通ってしまう。



「……なにしてんの?」

「見ればわかるでしょ」



校門前で、栞が露店を開いていた。露店といっても、祭りなどで見かける屋台などといった大層なものではなく、ダンボールで机などを作っている如何にも小学生レベルの店だった。

立地条件がいい場所に立てているかなのか、20人ほどの見物客が集まって栞の売り文句を聞いている。



「皆さんには家があります一緒に住む家族がいます。しかし、そんな人が帰る場所にも悪い物が入ってくるわけですベベベン!! そんな時に役立つのがこれ!!」

「「!?」」



双子が驚くのも無理はない。栞が天高く掲げたのは昨日あれだけ必死に撮っていたババアの酷く痛々しい写真なのだから。



「この写真を軒先に掲げておけばあら不思議!! 悪い物は一切近づけません。そこのお客さん、良く見てください。なにか波動のようなものを感じませんか?」

「た、確かに……!! このピンク色を基調とした服がなんともいえない」



むしろ良いものも裸足で逃げ出しそうなものなのだが。ただ、様々な国籍の人間が集まったこの学園の生徒の特色か。客の空気は栞に好意的なものになっていた。



「私の隣にいる彼女も、この写真を胸に抱いていることによって熟睡しています!!」

「うぅ……ババアが……」

「むしろ悪夢に襲われてね?」



駄目子が栞の隣で悪夢に魘されていた。



「おい!! お前ら本当にこんな胡散臭いもんを信じるのかよ!!」

「こんなのはただのクソババアを写した写真だろ」



彼らの言い分は尤もであるが。当然、店をやるということはこういった妨害のような真似も出てくる。もしかしたら栞の店を陥れる他の店の仕業かもしれない。真偽は定かではないが、こういった妨害行為は学生である分、普通の飲食店などよりも性質が悪い。

一度入れば抜けられない学校である上に、下手な噂が広がると在学中はずっとそういった目で見られかねない。



(やっぱこういうことになるんだよ。ここは引いたほうがいいよ)

(店のブッチギリなヤバさとは別に、こういうことになったら終わりだろ)



双子は実体験から知っている。これ以上頑張っても無駄であると。頑張って絶対に報われるとは限らない。壁にぶつかってもがいたところで、どうにもならないことの方が圧倒的に多いのだ。

きっと栞もそう思っているだろうと思っていた。そもそも仲良くなったのだって、自分たちと同じ匂いを感じたからだし。



「HEY!! ブラザー俺はわかってるんだぜぇ」

「なんだお前は!!」



栞は不適に笑いながらケチをつけてきた男たちの肩を抱いていた。



「君たちが感じている不安。俺は良く分かる、うん。エロ本が道端に落ちていたら拾っちまうかどうか悩むぐらいにはよくわかる」

「わからねーよ! なんだお前は!!」

「物は試しにさ、このポスターを見てくれよ」

「これは!?」



それはババアの写真が印刷された巨大ポスターだった。ただ恐ろしいのはそれだけじゃない。



「日々不安を感じる時にこのポスターを見ていると……自分はまだ大丈夫だって思えるんだ。それに浮かび上がって見えてこないか?」

「う……うぁ……」



痛々しいババアが大きくなっただけでも驚異的なのに、その写真はずらして見るとまるでババアが3Dで浮かび上がっているように見える仕掛けまで施されていた。

それを見た男たちが一歩二歩と後ずさる。栞はその姿を見て、なおも男たちに近づいていきポスターに触れさせる。



「触れたな……」

「ひっ!?」

「呪われるぞ。この邪神様の姿を見ろ。見ろって言ってるんだぜ」

「ひぃいいいいいいいい!? 逃げろ!!」



男たちはババアを恐れて逃げていってしまった。いや違う。確かにババアの破壊力は凄まじいものだったが、それ以上に栞が諦めなかったからこその勝利だ。

それを見た双子はなんともいえない顔をしていた。手段はどうあれ、栞は自分たちに出来ないことをやってのけた。そんな奴の傍にいていいのかと。



「なにやってるんだよ。今から忙しくなる……さながらババアパーティが始まる。お前たちも手伝えよ」

「……へへっ。人が必死に悩んでるのによ。全くお気楽な奴だぜ」

「俺たちは……高いぜ」

「ウチは歩合制だからね。給料が欲しければ働くのだ!!」



「これをくれ!!」

「俺が先だよ!!」

「私は5つ買うわ!!」

「押さないでくれ。幾らでもあるから大丈夫!!」



今のやり取りを見て生徒たちが店に群がってくる。それを捌いていく3人と駄目子。その顔は忙しさとは裏腹に、実に爽やかな笑顔を浮かべていた。

双子は感じているのだろう。栞と友達になってよかったと。いくじがない自分たちを認めてくれた栞に対する感謝の気持ちを。



「本当にこんなもので悪い物なんて祓えるのかしらぁ」

「「!?」」

「ねえ?」



振り返らなくても双子にはその間延びしたようなのんびりした声だけでその主がわかっていた。恐らくは息を吐く音でさえ、その恐ろしい声の持ち主を2人は間違えるはずがない。



「店長。ど、どうしてここに……」

「ほら。私ってこの街であなたたちの保護者的な立場じゃない。だから少し学校を見に来てみたんだけど。予想以上だったわぁ」



命乞いとかそんなことを考える前に双子は諦めてしまった。最悪、栞にすべてを押し付けて逃げる手もないことはないが、そもそもそんな手が通じる相手ではないことは自分たちが一番良くわかっている。

しかし、そんな恐ろしい者の前に立ち塞がるものがいた。



「ババア。あんたに伝えたいことがあるんだ」

「なによ。命乞いなら聞かないわよぉ」



まさか、栞はこの絶体絶命の状況すらどうにか出来るのだろうか。いつもはアホやってる奴だが、今はその汚らしい背中がとても頼もしく見えた。



「人はなにか他人を幸せに出来る物を持って生まれてくると思うんだ。それがなにかはわからない。もしかしたら一生、それに気付かずに生を終えるかもしれない。ババア……ようやく人の役――ぐぺっ」



ただの馬鹿だった男がカエルが潰れた様な音を出して死んでいた。いや、冗談でもなんでもなくババアが放った手刀によって首が90°ぐらい曲がっていた。



「どうやら悪い物は祓えないみたいねぇ。だってこれを買った人間は今から、私の手で死んじゃうんだものぉ」

「に、逃げろぉ!! 店長は本気で全員ぶっ殺すつもりだぁ!!」

「きゃあああああああ!?」

「にげろぉおおおおお!!」



誰かの悲鳴を皮切りに集まっていた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていた。そりゃ目の前でガチの殺人事件が起こったのだから当然といえば当然だが。

なんせ双子が我先に逃げているのでその恐ろしさはしかるべしだろう。



その日。ババアを止めるのに多量の犠牲が支払われることとなった。なんせ止めに入った教師が説得を試みようにも本人が怒り狂って話にもならないのだから。結局、決め手になったのは……



「君さ。そんなことだから婚活も失敗するんだろう」

「うわぁああああああああああああ!?」



という妹のありがたい言葉でお開きとなった。






「痛いよぉ痛いよぉ」



夜。栞は布団に包まりながら泣いていた。ガチ泣きである。ただ、痛いのは身体的なものではない。へし折れていた首を治す為に、この街の謎医療技術を使ったことで、確かに今でも首が焼けるほど痛いのだが。

それではなく、ババアに売り上げをすべて持ち逃げされた件についてだ。お陰で今日は水とカボチャ(生)しか食べていない。



「おのれババア! 次に会った時は覚えておけよ」



自業自得な気がしないでもないが、布団の中で呪詛を吐く姿は少なくとも健全な高校生男子の姿ではなかった。



「……ん?」



いい加減に寝入ろうと布団に包まっていた栞が感じたのは風が吹いている音と、それによって身体が冷える感覚だった。いくら自分が金がないからといって、家が穴あきオンボロというわけではない。栞はゆっくりと布団を剥がしてみる。



「なんだここ……」



そこは栞がさっきまで眠っていた自分の部屋でもなければ、部屋と呼ぶのもおこがましい様な場所だった。既に何年も放置されているのか分からない、風化している部屋に栞は立っていた。



「まさか!?」



栞は勢い良く起き上がり、必死の形相で自分が寝ていたベッドの下を漁りだす。



「お、俺が集めていたAVがすべてなくなっている……まさかここは異世界的ななにかか!?」



どういう判断基準かわからないが。とりあえず栞の中ではここは普通ではないと結論付けたらしい。ならば、ここに留まっている理由もない。無造作に置き捨てられていた自分の鞄をひったくって、外へと出る。



「映画の中みたいだな……」



周りに見える家屋やビルなどはその殆どがなにかの災害にでもあったかのように崩れ落ちている。それを見た栞は、災害があった世界で1人だけ生き残った男の映画を思い出していた。



「夢って線もないだろうし……ん?」

「おや?」



丁度、曲がり角から顔を覗かせるものがあった。ただし、それは人ではない。



「なんだ。まだ生きていた人間がいたのか」



あれだ。公共権力のイメージキャラクターというかゆるキャラ。中々忘れられない憎らしい顔が特徴なそのキャラのことを栞も知っている。



「僕はポーピーくん。ここをパトロールしているんだけど、君もこんなところを歩いてたら危ないからね。気をつけた方がいいよ」

「うっす」



ブッチギリで怪しいのはあんたですとはいえなかった。なんか名前もパチモン臭いし。それは風貌だけでなく……



「助けてくれぇ」

「苦しいよぉ……」



その腕から伸びてる手錠に繋がれた人たちを見ても明らかだった。首に手錠をされて無理やり引きずられている人たちは、栞に助けを求めている。



「彼らは犯罪者だからね。捕まったって仕方ないんだよ。それよりもまさか君……犯罪者を助けたりしないよね?」

「まさか。俺は公共権力に逆らったりなんて不良さんはしないよ」

「だよね。君は”持ってない”みたいだから見逃してあげるよ」



栞は心の底から安堵していた。そりゃ栞だってなんとかしたいって気持ちがないわけでもない。ただ、あのどう見たって怪しいゆるキャラが本当に警察関係のなにかだって可能性だってある。そんなものに関わっていられない。

それにあいつの底知れぬなにかだって感じているわけだし。そうだ……





ポーピーくんがそれを避けられたのは、運が良かったとしかいいようがない。近づいてくる気配も殺気のようなものもなかった。なんとなく頭を下げただけに過ぎない。

その後頭部に蹴りが入れられた。身体をゆらしながらも、ポーピーくんは自分に蹴りを入れた人間を睨む。



「君は公共権力に逆らうつもりかい?」

「実は俺、人の姿を見るなり職質仕掛けてくる公共権力とは相性が悪くてね」




書こう書こうとやっていたら予想以上の長さに 前回の投稿日時? そんなのはしりま(ry

次回はもう少し早く出したいと思いますはい

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