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第2話「そらとときどきババア」


巨大空中都市 帝国領帝都。そもそもが空中に都市を作るという発想そのものが突拍子もなく、コスト面などからも効率が悪く思えた。

ただ、この国はそれらすべての条件を乗り越えた。総面積は首都東京と同じほど。すべてのインフラ・食料や水でさえも生産可能。

地球に人が住めない星になったとしても、依然空に君臨し続けるであろうと、専門家が言ってしまうほどの超未来都市。それが帝都である……



ここまでは栞もテレビなどの情報で知っていた。ただ、それ以上の情報は知らない。中に入った人間が誰一人として秘密を喋らない秘密厳守。

そして国家の最重要機密に関わっていることもあるのだが。



テレビでは偶に取り上げては実は人体実験をしているだとか、兵器製造をしているだとか色々言っているが。真相は入ったことがある人にしかわからない。

ネットなどを見ればもっと詳しいオカルトチックな情報が書かれていたのかもしれないが、今更後の祭りである。




「ここが空港だ」



既に半壊している車から出た栞は空港のような場所に立っていた。いや、C5が空港だと言っているので空港なのだろうが。



「誰もいないね」

「入国するのは年に1回だからな。それだけ見てもこんな時期に人を入れるのは異例中の異例だ」

「へえ」



もうここに来て栞は抵抗もしなくなっていた。ここから逃げる算段も思いつかないし、逃げられたところでこの空中都市からどうやって抜け出せばいいのか。



「早く入れ」

「更衣室? えっ!? 空港の出口だよね」

「服を脱いで籠に入れとけ。全裸にならなきゃ入れないぞ」



抵抗なく全裸になっていくC5はともかくとして。



「そっちのおっぱいさんはどうしてここで!?」

「……おかしいか?」

「おかし……おかし食べたい!!」

「欲望に負けるなよ」



ここしか更衣室がないのだから男女共用なのかもしれないが。おっぱいさんが着替えるのを既に栞は受け入れていた。

彼らが誘拐犯だろうが関係ない。今から裸の付き合いをすればそれはもう友なのだから。



「全裸になったら早く行け」

「うぎゃ!!」



全裸のまま次の部屋に突っ込まれた。



「ら、乱暴極まるよもー。ここは……」



窓もなければ人がいる気配もない。ただ、どこか機械っぽい部屋で。



「熱い!? シャワー? えっ!? えっ!? なにこれなにこ――」








「大丈夫か?」



部屋から出て来たC5は床に突っ伏して死体みたいになっている生物に向かって話しかけていた。どう見ても大丈夫じゃない。



「怖かったとしかいいようがないよ。熱湯が出てきたと思ったら部屋が回りだして、冷たくなったりなにかをぶつけられたり」

「消毒室だからな。それとこれ服」

「わぷっ!?」



投げ捨てられた服は制服だった。ただ、栞が元々着ていたものではない。どこの学校の物かわからないが、全裸のままではいられないので、その制服を着込む。



「それで。俺の貴重品なんかはいつ返して――」

「出たぞ」

「……携帯を!! 早く携帯を寄越せ!!」



最後に出てきたC6は。生まれたままの姿で出てきていた。特に恥じらいもないのか、彼女は堂々としているが。それを見て直ぐにそれを写真に収めたいと思ったのは栞である。

しかし、携帯は帰ってこない。



「くそっ!! どうすりゃいいんだ!!」

「死ね。お前も服ぐらい着ろよ」

「あぁ」



栞に冷ややかな視線を送るC5。彼はC6が服を着たのを確認して、エレベーターのドアを開ける。



「こっちだ。早く乗れ」

「エレベーター? 出口ならこっちじゃ……」

「ここでいいんだよ」



外への扉ではなく箱の中を指差すC5。まだなにか空港にあるのかと栞も特に疑問なく箱の中に入るが。



『中央まで5分です。ドアの前から離れてください』



そんなアナウンスと共にドアが閉まって箱が動き出す。



「そういや、外にはまだこれってないんだろ」

「エレベーターじゃないんですか?」

「俺たちは”大箱”って呼んでるんだが。これは1つの移動装置だな。この箱が街の地下を走って目的地にまで連れて行ってくれる」



この箱は世界広しといえど、ここにしか実装されていない移動装置である。速度も普通の電車程度のスピードはあるし、使いたい時に直ぐに使えるという利点がある。

ただ……



「それなら車でいいんじゃ……」

「ここが一番安全なんだよ。上はなにかと危ないかもだしな」

「治安が悪かったりとか?」

「そういうんじゃないけどな。それよりも新聞でも読んで時間を潰してろよ」



そういって新聞の束を投げられる。パッと見た限り、『帝都新聞』などと書かれているので、ここでしか発行されていない新聞なんだろう。

中身を読んでみるも、外の新聞とそう変わりはない。それに、あっちで座っている2人はこれ以上質問に答える気はないらしい。



(機密とか。追っ手の関係とか。上の人間に聞いた方がいいのかな)



少なくともこれから連れていかれる場所に、こんな事件を起こした張本人がいるはずだろう。ならその本人に問いただした方がいい。





「着いたぞ」

「あぁ、はい」



最近は少なくなったが。今でも古い型のエレベーターに乗った時に感じる不快感もなく。むしろウトウトとしていた頭を起こして箱から降りる。

どうやらどこかの建物の中らしく、大人しく2人の後を着いて行く。



「入るぞ」

「どうぞ」



その部屋は降りた場所からそう遠くない場所にあった。部屋の前には『司令室』と書かれたプレートがある。軍の関係なのかはわからないが、なんかそれっぽい。



「話は聞いてるわ。まずはようこそ帝都へ」



どこかとなく高級そうな机に座っていたのは、どこか優しい雰囲気を醸し出す女性だった。司令などという物々しい肩書きを持つのだから、キツイ感じの人かと思ったがイメージが全く違う。

ニコニコと微笑みながら、いや室内なのになぜかマフラーをしているのでなんとなく雰囲気しかわからないが。ソファへと促す彼女に、栞の警戒感はどこか薄れてしまう。



「2人とも、外で待っててくれるかしら」

「へーい」



2人で話をしたいのか。ここまで連れ添ってくれた2人、特にC5はどこか不満そうな顔で部屋から出ていく。2人が出て行ったのを見て、女は栞の対面へ座る。



「色々と聞きたいことがあると思うけれど。まずは最初に言っておくことがあるわ」

「どうして姉ちゃんそっくりなのかってことでしょ」

「それは簡単よ。あなたのお姉さんと私は姉妹だもの」



警戒感が薄れたのはそれだ。自分にとって唯一の肉親である姉そっくりの女性。まあ姉自体、血が繋がっていないのだから、その姉に更に姉妹がいても不思議な話ではない。

ただ、自分はそんなこと知らされていなかったが。



「……でもよかった。姉ちゃんがいきなりババアになってたらどうしよ――ひぃっ!?」



耳をつんざくような音と衝撃に驚く栞。目の前の姉そっくりの女は先ほどから表情1つ崩していない。ただ、手に銃を持っていてそれがいきなり発砲された以外は。

それが本物かどうかなど確認しようがないし、改造エアガンの類だったとしても、そんなものはさしたる問題ではない。

背後で壁に銃弾がめり込んでる時点で、脅しとしては最上級のものだった。



「さぁ、話を続けましょうか」

「うっす」



銃を何事もなかったように机に置いて、である。



「正直な話ね。今回の一連の拉致騒動、私たちもいきなりのことで色々とわかってないの」

「……どういう意味です?」

「私も今朝電話をもらってね。あなたの姉から」

「あっ! もうわかりましたあきらめました」

「理解が早くて助かるわ」



栞の目は死んでいたが。自分の姉に振り回されるのは慣れている。あの人を表すのなら母のようであり、妹でもあり、祖母のような娘のような友達のような彼女のような姉である。

物心ついた頃から家にいないことの方が多いし、むしろいて欲しい時にいなくていて欲しくない時にいるような人。

自分の保護者ではあるのだが、年齢から姉と呼んでいるだけで、実際には自分との関係がかなり曖昧な人でもある。

そんな関係であるから、自分になぜ両親がいないのかも聞いたことがない。聞いても見ればわかるでしょとか返されるのがわかっていたし。



「今から写真を送る子、そっちで引き取って。手続きは全部やっておくから。そんな電話一本で切られて、私たちも直ぐにあなたを保護することにしたの」

「えっと、なんか申し訳ないです」

「まあ住居や住民票なんかの関連もすべてあの子が済ませてるから、私たちとしても楽っていえば楽なんだけど」

「話の流れからいって、俺今日からこの街に住めってことですか?」

「そういうことになるわね」



困ったことになった。こんなことになって困らない方がどうかしてる。自分にだってあちらでの生活があるのだから。姉の願いだといっても納得出来ないものはある。



「それと今からする話は話半分程度に聞いておいて欲しいんだけど」

「なんですか?」

「あなたの姉は……その……ねえ。姉妹の私から見てもぶっちぎりで人間関係壊滅的な人だから。会う人全員になにかしら恨みを買ってるのよ。だから、あなたの保護を優先したわけだしね」

「もしかして、黒服の人やトカゲの追っ手も?」

「あの子の不始末の可能性が高いわね。なんせあの子の情報1つとっても、国家の首相から全く名もないホームレスまで知っている人なら、のどから手が出るほど欲しがってるはずだもの」



どこか遠い雲を掴むような話でも。実際に姉ならそんなことになっててもなんら不思議でないのがなんとも恐ろしい。



「というわけで。あなたも追われる可能性が高いの。それにこの街は機密情報の塊だから、一度入国したら最低1年は出国出来ないから」

「例外とかは」

「ないわね。抵抗したら投獄も辞さないことになってるの。あなたには大変悪いけれど」



本当にババアの年齢より悪いじゃんかとは言えないが。少なくとも高校生にもなればある程度、自分の人生観というのが固まってくる。こういう時は大人しく言うことを聞いていればいいとか。

逆らって投獄というのも、この街の異常なまでの露出の少なさを考えれば有り得ないこともない。



「……機密の問題もあるから。外部へ連絡する手段。ここに来た際に持っていた携帯電話や制服なんかもこちらで預かることになるわ」

「それって友達なんかにも」

「連絡はとれないってことになってるんだけど。状況が状況だから、特例として手紙ぐらいなら許可するわ。この街の機密に触れそうなことは書かないって条件はつくけど」

「超Vip待遇感謝します」

「えぇ、それとこの書類にサインもお願い」



書類と言うにはあまりにも分厚い束だった。20枚ぐらいあるそれを確認せずにサイン欄に名前を書いていく。



「確認しなくていいの?」

「面倒なんで」

「そう……」



どちらにしろ拒否権がないのならとっとと書いてしまった方がいい。それにこうやって話を聞いていてわかったことがあるが。



(姉ちゃんに似てるけど。あっちの方がよっぽど恐ろしいや)



少なくとも自分の姉ならばこの段階で洗脳の1つはやっている。逃げたら爆発する爆弾とかそんな物騒な物でもない限り、なんとかなる自信はあった。

だからこそ、あえて書類は確認しなかったわけだし。



「住まいの方って」

「外の2人に案内させるわ。あなたの姉が用意した一軒家だけど、一人暮らしで大丈夫? なんなら私が……」

「罰ゲーム?」





「1人で大丈夫そうね」

「イエッサー!!」



既に死線の1つも潜り抜けたような兵士を思わせる顔つきになっていた。いや、マジで危なかったのだが。このババア頭おかしいとしか。



「最後に1つ、いいかしら?」

「なんです?」

「お姉さんから預かってるもの、なにかないかしら?」

「……ないですよ」

「そう。ならいいわよ」



失礼しますとドアを閉めて廊下に出たところで大きく息を吐いた。



「大丈夫か? 銃声が聞こえたが」

「聞こえてたなら助けてよ。マジ怖いあのババア」

「口より先に手が出る典型だからな。死にたくなかったらあのババアをババア扱いしないことだな」



最後の質問。完全に気が緩んだところを狙った質問。というよりも、一番聞きたかったのはそれだろうと。

それに明らかに縮尺がおかしいトカゲの話などは上手くはぐらかされた感じがある。聞いたら聞いたで面倒なことになりそうなのでこれでいいのだと納得はするが。



「お前の家の場所はわかってるから。行くぞ」

「うーっす」







栞が出て行ったのを確認して。司令は大きく息を吐く。その顔から既に笑顔は失われていた。そこに浮かんでいたのは呆れである。



「全く可愛くない子ね。あの子そっくり」



今回の話し合い。最初からこちらが下手に出て、引き出したい情報を取れれば結構と思っていたが。中々にどうして酷い殴り合いになった。



「私たちへの不信感を全く隠さないところとか。あの子が育てたんだからそれぐらいは覚悟してたけど」



最後の質問もそうだ。自分だって確たる自信があって聞いたわけではない。ただ、なにか面倒なものでも持ち込まれたら厄介だと思ったから聞いただけだが。

どこか含みがある言い方だったのは、預かったものがあるのだろう。恐らくあるのだろうが、それをこちらに見せる気はないと。


結果的にこちらが”多くもらう形になってしまった”



「まあいいわ。普通にここでの生活をしてくれるのであれば問題ないわけだし」



ただ、絶対に波乱が起こりそうなのが想像出来て。そんなことを考えている司令の顔は、どこか楽しそうに笑っていた。

昨日の時点で9割方出来ていた2話を早めに投稿できました


次回も早めに投下出来るようにしたいと思います

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