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第1話「はじまりおっぱい!!」

初めはそれがなんなのかわからなかった。あぁ、なんか生暖かいものが飛んできたなとか。そんなことを漠然と考えるしかなかった。



「●●●!!」



気付いたら声にならない声を叫んでいた。それは怒りから出た言葉なのか、悲しみから出た言葉なのかわからない。

事実を1つ言うならば、今、目の前で、友達の上半身と下半身が真っ二つにぶった切れていた。





……そこからほんの2ヶ月程前。正月休みも終わり、未だ肌寒い帝国首都、東京。平日の昼間だというのに、学生服を着た少年が通学路をトボトボと歩いていた。



「悪夢か……」



彼が現実逃避してしまうのも無理はない。本日付けで彼は自分が通っていた高校を退学になった。正式な辞令……とはいっても一方的な宣告で、眼前に出された退学届けだって彼は本物か偽者かの区別はつかない。

問題なのは、自分がどうしてこんなことになっているか全く心当たりがないことだった。

犯罪歴はなし。学校生活や成績だって自分より酷い者はもっといる。最近、そうなるようなイベントがあったかと問われれば、全く心当たりなどないと答えられる。



「そもそもがおかしいんだよなぁ」



突然、校内放送で校長室に呼び出されたかと思ったら全裸の校長がいた。冗談とかそっちのケがあるとか。それ以前に尻は死守したことは言うまでもないが。



『メシアのおぼしめしじゃああああああああああああ!?』



などと意味不明な言動をしながら、股間についているものをブラブラさせて、自分に退学届けを放り投げてきたのが自分の学校の校長だという事実にまだ実感が沸いていない。

目は死んでいたし、そのまま廊下に飛び出した校長は真っ先に屈強な先生方に取り押さえられたが。

既にその時点で大問題なので、彼の処分は後回しにされた。いや、どうも先生方の話では割とマジな書類らしいのだが。



「明日、取りあえず学校で沙汰がくだされるらしいけど」



そこは全く問題にしてなかった。どう考えたって校長の独断で出された書類であるのだから、撤回も容易であろう。明日の朝刊に載っていそうな事案でもあるし。

なにより、彼が心を痛めたのは60代男性の全裸という、全くもって嬉しくないものを見ることになってしまったからだろう。



「……誰だあれ?」



自分の家は学校から歩いて10分程の場所にある。小中高と割と近場にあるのでご近所さんの顔は大体知っている。

ただ、自分の家の前に立っている男は明らかに異様だった。



「なんだあのターミネーター」



身長2mにスキンヘッド。黒のツーピースをキッチリ着込んだ如何にもな大男。あんなのが近所にいたら即刻通報するか、名物にでもなっていそうだ。

しかも、雰囲気が明らかに堅気ではない。今すぐ懐から銃を取り出してもおかしくないなにかだ。


そいつは彼自身を見て、手元にあった写真のようなものと見比べて、ゆっくりと近づいてくる。

普段の彼ならば事情ぐらいは聞いただろうが。今日は朝からロクなことが起きていない。そして怪しい男の登場。逃げるには十分過ぎるほどの材料が揃っていた。



「待って。あんたなにも――」



なによりも逃げられる距離を保ちながら要件を聞こうとしたのだが。その言葉は最後まで続かなかった。というよりも目の前の光景が信じられなかった。

車道から外れた暴走車が男の真正面に突っ込んだら誰でも口が塞がらなくなる。



「は、はわわ……おじさん!!」



パッと見ただけだが。衝突した車の方は相当のスピードが出ていたし、普通にぶっ飛んだおじさんは地面に倒れてピクリとも動いていない。



「いやいや! 救急車を……」

「おいおい、車の前にいきなり飛び出すなってママに教わらなかったのか?」



車から尊大な態度をさせて出てきたのは軍服を着込んだ男だった。ぶっ飛んでいったターミネーター程ではないが、服の上からでもわかる筋肉質な肉体。そしてその顔からして外国の人らしい。

それ以上に気を惹くのは。



(なんで赤い軍服なの?)



彼も別に世界の軍服事情に詳しいわけではないが、でもあんな派手な物はアニメか漫画の中でしか見たことがなかった。赤いから3倍で動いたりするのだろうか?

その明らかに軍人と目があってしまった。色々な意味で先ほどのおじさんより危ない男である。



「えっと。これお前だな」

「……違います」



自分が写った写真だったが白を切ることにした。少なくとも彼は犯罪者に関わるなとママに教わった覚えはない。ママがいた記憶もないが。

しかし、男はうすら笑いを浮かべながら彼の首根っこを掴む。



「よっし!! 攫うか!!」

「やめてやめて!!」

「首折れるぞ」

「……」



黙るしかなかった。少なくとも、自分の自重を片腕で支えるようなゴリラの言葉が脅しでないことだけはわかっていた。

恐らく折ろうと思えばポキリと逝ってしまうだろう。そんな死に方は嫌だ。



「お一人様ご案内!!」

「うぎゃっ!?」



乱暴に後部座席へと投げ込まれる。中々、斬新な搭乗の仕方である。せめて、これが女の人にやられたのなら許せるが。



「いた……痛くない?」

「よし、出るぞ。大丈夫か?」

「おっぱいです!!」

「出るか」



なんかシュールな光景だった。ちなみに彼がおっぱい言ったのは後部座席にぶん投げられた際に、座っていた実り豊かな女の人の胸に飛び込めた喜びからだ。



「チラリチラリ」



女の人から離れた後も恥ずかしそうにチラチラと女の人の方を覗いていた。豊満な胸もそうだが、雪のように白い肌に銀髪とどこかエキゾチックな雰囲気を醸し出している女性が気になっていた。

たとえ、その手で弄っているのが銃だとしても。



「自己紹介がまだだったな。俺は帝都守護隊所属のC5だ。そっちの根暗銃オタクがC6」

「帝都守護隊?」

「それは今、どうでもいい。それよりもだ!!」

「前見て前!!」



急に運転席に座っていた男がこちらに身を乗り出してきた。今日はなぜか男に迫られてばかりの1日であることを考えると非常に頭が痛くなってくる



「今朝の5時頃。いきなり上司に起こされてこの写真と住所を渡され、攫ってきて頂戴。今すぐ……と、言われたんだが」

「は、はあ……?」

「なんだお前は。意味がわからん」

「俺だって意味がわからないですよ」



少なくともそんなデンジャラスな人生を送っていた覚えはないし、見ず知らずの人に誘拐をされるような覚えもない。

身代金目的なら、もっと乱暴な手段をとってもいいはずだろうし。隣の美人は銃を弄ってるが。



「とにかくだ。騒ぐな逃げようとするな。そいつの胸ぐらいなら揉んでいいから」

「マジですか!?」



凄い勢いで目が輝いていた。少なくとも今の状況がわかっている人間の目ではない。それを見たC5はそのまま放置の方向でいくことにした。



「えっと。おじさん」

「おじさんなんて呼ばれる歳じゃないんだが。なんだ?」

「さっき引いた人って……それよりも、後ろのおっぱいさんが揉ませてくれないんだけど」

「知ってる」



バックミラーで胸を揉もうとして、銃口を額に押し付けられていたのを確認したから。まさか、マジで触りにいくとは思っていなかったので驚きである。



「それとさっき引いた奴は生きてるぞ」

「えっ? でも動いてなかった……」

「生きてんだよ。本当に面倒なことに巻き込まれやがって」



ブツブツと言っている男にそれ以上は追求せずに。彼は外に目をやる。車はどうやら高速に入ったらしい。ただ……



「他に車が走ってない? 平日っていつもこんなです?」

「貸切だよ」

「……はい?」

「お前の送迎にわざわざ貸切にしたんだってよ。どういうVip待遇だよ」



なんの冗談かと思ったが、車一台も走っていないのは確かに異常だ。こういう偶然もないこともないかもしれないが、男が嘘をついているようには見えない。



「ところでお前。どこの移民だ? 帝国人じゃないんだろ」

「これでも立派な帝国人ですよ。勘違いされがちだけど」

「そうなのか?」

「栞って名前もあるし」

「いやすまん」



別に慣れっこだから。と言おうとして止めた。それは流石に嫌味がすぎる。確かに金髪自体は珍しいことではない。ここ50年程でこの国は大量の移民を受け入れ、国際色豊かになった。

顔は純帝国人なのに髪は金髪というのは珍しい。染めた方がトラブルなども避けられるのだろうが……



「後、1時間程か。音楽かけるけどリクエストはあるか?」

「マイナーな洋楽しかないだろうが」

「うっせー。洋楽好きかもしれないだろ」

「なんでもいいですよ」



次のSAまで残り5km。



(飛び降りたら痛いだろうな。降りたら死ぬ気でSAまで行って助けを求めると。人が多いところで無茶はしないでしょ)



初めから栞はここに居座る気などサラサラなかった。誘拐犯にしては緩すぎるのもあるし、色々と違和感もある。きっと、こうやって連れて行かれるのには世界を守るためだとか、そんな大層な理由でもあるのかもしれない。

ただ、それでも彼にしてみればそんな事態に巻き込まれるのは真っ平ごめんだった。それだけだ。






「突然なんだが。後ろの2人。高速道路の車両重量の制限って知ってるか?」

「20トンだ」

「C6。なんでお前そんなこと知ってるんだ? 普通に怖いんだが」

「教習所で習うだろ。それがどうした」

「あぁ。だったら後ろの馬鹿は違反者ってことだ!!」



ギュルルルルルルルル



なにを思ったのか。急にハンドルを切ったことによって、栞は再びC6の胸へとダイブしていた。それはそれで役得なのだが、一体なにが起こったのか。

後ろがどうとか言っていたので、胸から離れて後ろを覗いてみると。



「えっ!? なにあのトカゲ!?」



自分の目がおかしくなっていなかったら、明らかに縮尺を間違った巨大トカゲがこちらに向かって迫っていた。大型トラックぐらいのトカゲがいるなんて話は聞いたことがないし、明らかにこっちを狙っている。



「最近のCGはヤバイな」

「どう見ても本物なんですけど!?」

「我が国にはゴジラが高速を走っちゃいけないって法律はないんだぜ」

「常識的にありえないでしょ!!」



もう逃げ出すとかそんなことすら忘れていた。今止まりでもしたらあのトカゲに食べられそうだ。というよりも、明らかに友好的な雰囲気ではない。



「……あれ? あそこ」



よく見ると。トカゲの頭に誰かが乗っている。もう一度。目を凝らして見てみるが、気のせいだった……



ガシャン!!



金属がひしゃげる音と共に、なにかが車の屋根に飛び移っていた。屋根が一部足の形に凹んでいるし。車に乗り移るとか映画でしか見たことがないような技だ。



「妖怪、車の屋根てけてけの仕業だな」

「なに!? そのピンポイント妖怪!!」

「危ない」



おっぱいさん……栞は既に名前など頭から消えうせていたが。彼女に押されて車のドアに叩きつけられる。いきなり押されたことにお礼でも言おうと思ったら、今の今まで自分がいた場所の天井から槍が生えていた。



「妖怪はどうやら槍で攻撃してくるらしいな」

「物騒極まりないね!!」



実際、押されていなかったら今ので死んでいたのかと考えると笑えるような事態ではない。そこでおっぱいを見てしまった。銃を構えた彼女を。

空気をつんざく音と共に弾が1発、2発と発射されるが……天井を貫通した物はともかく、それ以外は跳弾して車内を駆け巡る。



「危ないわ!! 車内で使うなよ!! それに”奴には効かない”」

「だったらどうすればいい」



銃の音を聞きつけたのか。今度は彼女を狙って槍が何度も天井から生えてくるが。彼女は紙一重で器用にそれを避けていく。



「えっとつまり。上にいる妖怪? を放せばいいんですか?」

「それが出来れば苦労してねえよ」



実際、さきほどから車を揺らして落とそうとしているのだが。全く屋根にいる奴は落ちてくれない。速度を落としたりすると後ろのトカゲに食われるだろうし。



「よっと……うりゃああああああああ!!」



栞はシートに手を乗せて。腕の力で体を押し出し、足で車の天井をぶち破った。確かに最適解ではあるだろうが……



「お前! 今どうやって……」

「さっき車内で撃った銃弾のお陰で枠組みが凹んでたから」



そういうことを言っているのではない。今度はC5が動揺していた。彼は今回の誘拐にあたり、上からの命令であってその任務の詳細までは知らされていない。

どうしてこいつを誘拐しなくてはいけないのか。そりゃ高速まで貸しきっているのだから”なにかある”のは彼もわかっていた。



(今のもそうだ。こいつの言った通り、枠がひしゃげて外れ易くなっていたとしても、蹴破れるほどひしゃげてはいないだろ。それに……さっきから落ち着きすぎてる!!)



まるでこの状況が日常であるかのように。そこになにか違和感を感じていた。ただ、それを問い詰めるよりも今は逃げるのが先だ。



「糞! 電気自動車ってなんでこう遅いんだよ!!」

「追いつかれそうですけど」

「わかってるよ!!」



他の国は違うが、この帝国の車はすべて法定速度以上のスピードは出せないようになっている。高速ならばどんな車も100kmしか出ない。

事前に制御盤を弄っていれば話は別だったが、運転中にまさか弄るわけにもいかない。



「あぁ、嘘だろマジかよ」

「諦めないでよ!! 最後まで頑張って!!」



頭をハンドルにつけて既に諦めムードのC5に発破をかけるようにシートを殴る栞。



「落ち着け」

「落ち着いていられないおっぱいでしょ!!」

「…………」



セクハラ発言にC6は口を閉じた。もう喋るだけ無駄そうだったし。



「……なあC6。今日の巡航ルートにここは入ってなかったよな」

「そもそも、こんな低空を飛んでること事態、ありえないことだろ」

「なんのはな……うわっ!?」



一瞬、目の前に現れた”それ”を見て栞は後ろに謎のファンタジートカゲがいることも忘れた。



「C6!!」

「わかってる」



それから飛んできたワイヤーを車に固定している作業をボケッと眺めながらも。今の事態についていけていなかった。

校長が全裸になったとか、ターミネーターが引かれたとか。誘拐だとかトカゲとか。それらすべてが一変に吹っ飛んだ。



「遅れたようだが。ようこそ帝都へ」



それは空を飛んでいた。100年前は誰もが馬鹿にして実現が不可能だとされていたもの。海の中や海上に都市を作る構想はあっても、まさか空に都市を作る。そしてそれを実現させるなどとは誰も思っていなかった。





巨大空中都市 帝国領帝都が目の前に迫っていた。

注意 この作品にはゲシュタルト崩壊するほどAVという単語が出てきます


ここまで見てくださってありがとうございます 内容などは説明欄にある通りの 試験前夜の詰め込みのようななにかです

投稿間隔は1週間ぐらいを目処に考えていますが リアル次第ではもう少しかかるかもしれません こればっかりは申し訳ありません


なにか辛いことがあったときに この作品を見て元気になってくれたら作者冥利に尽きると思います

それでは次話もまたお願いします



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