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EPISODEーⅤ ~邪神降臨!その名はグランヴェルズ!・後編~


 Prologue


 胎動




 彼の居る場所は真っ暗だった。右を見ても、左を見ても在るのは闇、闇、闇。見えるモノは、何も無い。だが、気配だけは感じ取れた。自分以外の『神』たる存在の気配を。

 深闇(しんあん)の世界を揺蕩(たゆた)う彼以外の『神』は皆、苛立っていた。


―一体どうなっている! 貴様子飼いの神鎧獣ですら、ロキを倒せなかったでは無いかッ! どう言う事だ、トールッ!

 『神』の一柱がヒステリックにがなっている。徳の高い高位の神ではあるのだが、如何せん神経質なのがたまに傷だった。無視を決め込むつもりでいたがその方が後々面倒だと言う事に思い至り、やれやれと溜め息混じりに言った。


――んなこたぁ言われなくてもわかってらぁ。少しは落ち着けよ、折角の見目麗しゅうお姿が台無しだぜ? 光のバルドルさんよ。

――ぬ……ぐ……ッ!


 プライドを傷つけられた神が、形容しがたいくぐもった呻き声を漏らしていた。

己に課せられた使命に忠実でありあらゆる神から厚い信頼を寄せられるものの、誠実であるが故に他の神々から煙たがられているのも事実だった。

 次の瞬間、バルドルの怒声が聞こえた時には、彼――トールは意識を閉じたていた。この手の奴は無視するに限る。


――バルドル


 頂点に達し、沸点をとうに越えた怒りをぶちまけんとしたバルドルを止めたのは、艶かしい女の声。硬質な様に聞こえて、どこか状況を楽しんでいる響きを含んだソレを彼はどうにも好きになれなかった。だから、舌打ちしてそっぽを向いて声の主を見ない様にした。我ながら子供じみてはいるが、それしか思い付かなかったのだ。

 その事を承知しているらしいフレイヤが、よく飽きないわね、アンタも、と言ってきた。


――別に好きでやってるワケじゃねぇ。コイツが勝手に突っかかってきただけだ

――ッ!? 貴様ァッ!


 遂に爆発したバルドルが掴みかかってきた。全てに愛されるべき光の神らしくない愚行である。モヤシの癖にやってくれんじゃねぇか、と口の中で呟いたトールは己の内側で弾ける雷を活性化させた。

 その時だ。黒の世界が大きく揺らいだのは。


――止めんか! 馬鹿者共が!


 びりびり、と振動する空間。神同士の諍いすら止めるソレは、今まで事の流れを黙って見守っていた老神から発せられたモノだった。普段温厚な好好爺であるハズの彼から、その様な怒声が出るなど夢にも思っていなかったトールらは言い争いを止め、殺気を発している気配に揃って眼を向けた。


――今は言い争っておる場合では無かろう。奴らがロキの下に還ってきたのならば一刻も早く新たな策を講じねばならん


 老神――ミーミルが若き神達を見回しながら低く語った。ヴァルハラの神の中で、最も長く主神と共に在ったとされる彼の放つ神気はトール達を黙らせるには十分な位、圧倒的だった。


――バルドル、主神が未だ眠りから目覚めぬ今、主が我らを率いねばならんのだぞ

――はっ……!


 ミーミルの叱責を受けたバルドルが恭しく頭を下げた。生真面目な彼らしい仕草だが、トールにはそれが可笑しくてたまらなかった。良い気味だぜ……。


――トール、お主もじゃ。

――ッ!?

――不用意に奴を煽りおって……他の神々が集結するまでは内輪揉めなどやっている暇など無い事は主も解ってるハズじゃろうが。


 正論だった。言い返す言葉が思い付かなかったトールは、大気を伝う気配から顔を背けて小さく舌打ちした。当然、そんな事は百も承知している。しかし……


――それにフレイヤ。


 自分の名前が呼ばれると思ってなかった女神は、思わず肩をびくつかせた。一歩引いた立場をとっていたつもりの彼女は眼を見開き、冷水を頭から被った様な固い表情を浮かべた。


――面白がっている暇があるなら、さっさと『奴』を呼べ。そうすれば、戦力不足は一気に解消されるハズじゃろう?


 鋭さを孕んだ言葉が美の女神に突き刺さった。さすがのフレイヤもいつもの嘲りをしまい込み、無機質な声音で、わかりました、とだけ答えた。

 そのやり取りを横目で眺めていたトールは頭の片隅で、面倒だな……と呟いた。ミーミルの言っている『奴』とは、恐らくフレイヤの片割れであるあの神の事だろう。アイツが来るとなると急がねばなるまい。そう断じたトールは、瞑目して倒すべき敵の姿を幻視した。


 業々と燃え上がる炎の中、かつての同胞はらからの返り血を全身に浴びた黒き鋼鉄の巨人。


 禍々しいその威容は、心の奥底に沈殿している原初の恐怖を否応なく掻き立てる。だが、トールはそれすらも飲み込んでしまう様なある感情が、腹の底から沸き上がってくるのを知覚した。その正体を悟った彼の口の端が、歓喜の形に歪んだ。








 chapter-1


 ~女神の悪戯たわむれ~


 先の戦いの後、御子神 昴はすぐにシルメリアベース上層・士官室エリアの最奥部――司令執務室に通された。勿論、あの時出会った三人も一緒に。

「私は邪神ロキの第三子――冥神ヘル、と申します。

以後お見知りおきを」

 闇色髪の少女がふわりとした口調で己の事を語り、頭を下げる。手を身体の前に置いて、きっちり腰を四十五度に曲げるのも忘れない。最も理想的なお辞儀だ。だが、昴はそんな彼女にどこか違和感を感じていた。そう、何かこの世のものでない様な気配が……

「こちらが長兄のフェンリル――」

「よう!」

 少女の傍らに控えた蒼毛の狼が器用に右前肢を上げた。昴はもう慣れたが、同席していたガーディアンズ司令のマリア・シュタイナーと副司令の東雲しののめ 大和やまとは表情を強張らせていた。どうやら相当、驚いているらしい。

「そして、次兄のヨルムンガンドです」

「よろしくお願いします、皆さん」

 そして、少女を挟んだフェンリルの反対側に置かれた鳥籠の中で黒い蛇がぺこり、と鎌首を下げた。こちらもフェンリルの時と負けず劣らずの奇怪な光景だった。

 暫くの間、例の三兄弟を除く誰もが執務室に漂う奇妙な空気に顔を引き吊らせていた。

 永久に続くかと思われた重苦しい静寂。一番最初にそれを破ったのは、マリア司令だった。

「え、えっと……ヘルさん?」

「何でしょうか?」

「貴女方は自らの事を邪神ロキの子供と仰いましたが、それはどういう意味でしょうか?」

 それは、昴が一番知りたい事だった。何度問い詰めてもロキはその話題については、何故か口を開く事を渋っているのだ。

良いだろう。そっちがその気ならば、勝手に探ってやるさ。決意を固めた昴は、ヘルが語りだすのを待った。

 沢山の視線を一身に受けた闇色髪の少女は、一度視線だけで周囲を見渡した。滑らかに動く黒瞳に見つめられた時、一瞬抗い様の無い怖気おぞけが背筋を駆け抜けた。やはり彼女は何かがおかしい。

 昴が改めて警戒心を強めた時、少女の色の無い唇が極めて冷たい声を発した。

「もうご存知とは思いますが、邪神ロキを含めたヴァルハラの『神』達は、実体を持たぬアストラル生命体です。彼らは自分の意識の一部を切り取る事で新たな生命体を創る事が出来るのです」

「では貴女方は……」

「ええ。私達は、邪神ロキの一部から生まれた存在。一応、子供と自称しておりますが、人間の概念では分身と言った正しいのかもしれませんね」

 尤も、そんな事は些細な事ですが――そう言ってヘルはふわり、とした笑顔を浮かべた。やはり、それには血が通ってない様に思えた。

「……一つ、聞きたい」

 深みと張りを併せ持つバリトンが、ヘルに投げ掛けられた。振り向くと、東雲の屈強な体躯が一歩前に出ていた。

「貴様達は、今までどこに居た? ロキが『発掘』された北欧の遺跡には、貴様達を示す様な物は何も無かったハズだが?」

 東雲は、人に懐かぬ猛獣の眼差しをロキの子供達に向けた。どうやら、彼女らを信用していない様らしい。だが、無理も無い。昴だってロキという前例がなければ、彼女の話に疑念を持っただろう。

――……俺も、それが気になっていた。

 己の内側から歯切れの悪い声が響いた。

今まで、沈黙を保っていたロキが初めて口を開いたのだった。自分も気になっていた? 

彼の奇妙な言い回しに昴は、声無き疑問を投げ掛けた。

――……どう言う事?

――俺はかつての戦いで、奴らは全員死んだものと思っていた……

 死んだ? ロキの言葉が一瞬理解出来なかった。彼女達は確かに実体として此処に居る。それは幻影でも、ましてや幽霊でも無い。益々わからなくなり混乱し始めた昴に、答えを与えたのは他でもないヘルだった。

「それがそうでも無かったのですよ」

 いつの間にか、ヘルの視線が己に注がれている事に気付いた昴は、思わず身体をびくつかせた。こちらの思考が読まれている……?

「あの戦いの後、辛うじて生き残った私達は、どう言う訳か別々の場所で眠っていました」

「けど、ヴァルハラの馬鹿共が復活したのを知って居てもたってもいられなくなってなッ!」

「そんな訳で眠りから覚めた僕達は、日本へと向かい……後は皆さんの知る通り、でございます」

――そう、か……

 順々に語った三兄妹の話を聞いていた昴は、ロキが安堵の溜息を吐く気配を感じ取っていた。やはり、彼も彼女等の事を案じていたらしい。親心……とは違うのかもしれないが。

「取り敢えず事情は飲み込めました――それで貴女方はこれからどうするおつもりで?」

「そうですね……」

 マリアの問いを受け、思案するヘル。彼女等は、人間で言えば着のみ着のまま日本に来た様なモノだ。

とても何かアテがあるとは思えない。だが当の彼女に動じる様子は無かった。眼鏡のレンズの反射に遮られた瞳にどんな感情がたゆたっているのかは判別出来なかったが、緩やかな弓形を描いていた口許が、大きく吊り上がったのは見えた。

「折角ですので、久々の自由。たっぷりと楽しむ事にします」

 とても人外とは思えぬ無垢な笑顔を浮かべながら、ヘルはそう言った。

 その言葉の意味を昴が知るのは、翌日になってからだった。







 翌朝、登校中の昴の足取りは重く、零れる吐息は全て溜息と化している。原因はわかっている。だけど、それを許容したく無かった。

 そんなネガティブオーラを撒き散らしながらズルズルと歩くその薄気味の悪い姿は、道行く人々の眼を引いた。そして、半ば絶対不可侵領域と化していた彼の周囲に足を踏み込もうとする勇気ある者は居なかった。『彼ら』を除いて……。

「おうおう、どいつもコイツもしけた面してやがんな。ちょっくら叩き直してやろうか?」

 一人は無造作に散らした髪と、野生の獣じみた鋭い眼を隠す様に掛けられたサングラスが特徴的な二十代半ばの男性。派手な色合いのシャツを纏っているせいで、普通にしていても際立っている柄の悪さが増幅され、その様はまるでチンピラだ。

「またそんな事を……いい加減にしてください」

 もう一人はきっちりとした礼服を着込み、長く伸ばした髪を後ろで束ねた二十代位の執事然とした優男。

「フフ……」

 そして、最後の一人は黒髪の一見清楚な雰囲気の少女。ちなみに彼女が着用しているのは、天道院学園二年生女子の制服である。ただでさえ目立つ彼らを背にした昴は、自分がこの三人を引き連れている様に見えるんだろうか、と考えて嘆息した。

「あの……」

 顔を正面に向けたまま、昴は背後の三人に声をかけた。振り返らなかったのは、彼なりのささやかな抵抗だった。

「何か?」

「何だ?」

「何でしょうか?」

 三人が揃って答えた。それぞれの語尾は、彼らの性格を端的に表していた。昴は振り返り、先程よりも幾分か強い調子で言った。

「どうして僕について来るの? それに、何で天道院の制服を着てるんだよ」

「何で、って……私も今日から学校へ通うのですから、制服を着ていなければおかしいでしょう?」

「…………」

 しれっ、とトンでもない事を口走った少女――ヘルの顔を、昴はまじまじと見つめた。今何て言った? 今日から学校へ通う? 無理だ、そんな事出来る訳が……

 そこまで考えた彼の視界の端に、『あるモノ』が映り込んだ。ヘルの後ろに居るヨルムンガンドが、懐から一枚の紙を取り出していたのだ。眼前に突き出されたソレに書かれていた文章を読んで昴は、今度こそ卒倒しそうになった。

「転入……届……」

 紙面に一番大きく印刷されている文字を読んだ昴は、震える唇でソレを音声に変えた。一体、どうやって用意したんだろうか? ふと、そんな事を考えた昴だったが、深く考えれば考える程恐ろしくなった。眼前の三兄弟――特に末妹――は何をしでかすか解ったモンじゃない。

「これで私も女子高生、ですね」

 ふわり、と笑うヘル。上っ面だけ見れば、とても可憐な笑顔だった。事実、回りに居た男子生徒達のざわめく気配が辺りに満ちていた。

「ちなみに私は国語教師。フェンリルは体育教師です」

 付け加える様に言ったヨルムンガンドが、同意を求める様にフェンリルの方へと頭を巡らせた。どう見てもチンピラにしか見えない長兄は、不機嫌そうに顔を背けた。

――……諦めろ、昴。今のコイツらに何を言っても無駄だ。

 内なる声に諭され、昴は渋々ながらも状況を受け入れる事にした。ただ、その声が若干焦燥している様に聞こえたが、気のせいだと思いたい。

「お~~い!」

 遠くから聞き覚えのある声がしたのは、その時だった。振り返ると、親友二人――凉城 朱梨と猪狩 真吾がこちらへと駆け寄ってくる姿が見えた。この時の昴には、なんとなく彼らの姿が輝いている様に思えた。

「朱梨! 真吾!」

「おはよ、昴! ……って、あれ?」

 持ち前の元気と良く通る声で朝から全力運転の朱梨だったが、昴と共に居る者達に気付いて首を傾げた。彼女の隣に居た真吾も、眼を細めて訝しげな表情を浮かべていた。

「昴、その人達、誰?」

「え!? あ、えっと……」

 しまった。どう誤魔化すか全く考えてなかった。朱梨に問われ、どう返答すべき解らなくなった昴を救ったのは、他でも無いヘルだった。一歩前に出た彼女は、朱梨の顔をじっ、と見つめた。

「初めまして。私、ここに居る昴さんの従姉妹で、御子神 詠美ヨミと申します。どうぞお見知りおきを」

 そう言ってヘル――ヨミは、深々と頭を下げた。その非の打ち所の無い仕草を目の当たりにした朱梨は、「あ、こちらこそ……」と僅かに背筋を伸ばしながら礼を返した。真面目な彼女らしい反応だ。ちなみに、隣に居る真吾は整った形の顎に手を添えつつ、ヨミの全身を――極めて真剣な眼差しで――なめ回す様に眺めていた。まぁ、これも彼らしいと言えば彼らしい。

「……しっかし知らなかったぜ、まさか昴にこんな可愛い従姉妹が居たなんてなぁ」

「可愛いだなんて……そんな……」

 いつもの事とは言え、朝っぱらから歯の浮く様な台詞を恥ずかしげも言ってのける親友にも呆れたが、ヨミのあからさまに嘘臭い反応には絶句するしか無かった。よくもまぁ、そんなコロコロと表情を変えられるモノだ。

「ところで、そちらの二人は……?」

 ヨミの背後に控えていた二人へと視線を滑らせた朱梨が、遠慮がちに声を潜めながら尋ねた。フェンリルが睨んだからだ。

「あぁ、僕は飛鳥 龍哉と申します。こちらの大神 洸我と共に今日から天道院学園で教鞭を執らせていただく事になりました」

 ヨルムンガンド――飛鳥 タツヤは朱梨達に恭しく礼をした。こちらは他意の有無を疑わなくて済む分、安心して見ていられた。だが、フェンリル――大神 コウガのツンツン頭を掴んで強引に頭を下げさせている所を見ると、やっぱり兄妹なんだなぁ、と思わないでも無かった。

「そうなんですか……あれ? でも、そんな話聞いた事無いなぁ」

「えッ!?」

 訝怪そうな表情を浮かべた朱梨が、軽く首を傾げた。彼女と同じ様に眉を潜めた真吾は腕を組み、片眼を閉じて思案していた。

「そういや、そうだよな。時期的にも変だし……なんか裏があるんじゃねぇのか?」

 普段はおちゃらけてる癖にこういう時に限って変に勘が良い親友を、昴は一瞬怨みそうになった。が、確かに十二月に入り始めたこの時期に転入生、そして新任の教師が揃って赴任してくるなど普通に考えればあり得ない事だ。

 焦った昴は、ヨミに救いを求めた。

当の本人は仕方無い、とでも言いたげに一瞬眼を細めたが、すぐに表情を切り替えると悲しげな口調で語りだした。

「先日の怪獣騒ぎで、昴君のお父様とお姉様が行方不明になられたと聞き、彼一人では大変だろうと思い北欧から帰って来ました……」

「ほ、北欧から……!? 昴の為に……」

 朱梨が素っ頓狂な声を上げた。ただ、最後の方は徐々にすぼんでしまって良く聞き取る事が出来なかった。

彼女の反応も至極当然だった。昴だって驚いているのだ。色々な意味で。直後、幼馴染みの少女が項垂れたのを見た昴は心配になり、慌てて顔を覗き込もうとしたのだが、真吾に肩を掴まれて止められた。どういう事なのだろうか? と考えている内に、事態次の段階に進んでいた。

「あの……凉城さん?」

「うぇッ!? ……ななな、何でしょうか」

 茫然自失の状態から現実に引き戻された朱梨の舌は、慌てて動かしたのが祟り、酷く縺れていた。そのせいで、まともな音を発する事が出来ていなかった。

 そんな彼女を労る様に、ヨミは『慈愛に溢れた』微笑を浮かべた。

「昴の事を聞いて、慌てて此方へ来たものの、生憎日本には知り合いが居なくて……

もし良ければ、お友達になってくれませんか?」

「あ……こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」

 最後まで丁寧なヨミに吊られた朱梨が、ぺこり、と頭を下げる。取り敢えず、丸く収まった事に安堵した昴は、ほっ、と息を吐いた。

 始業五分前の予鈴が鳴り響いたのは、その直後だった。



「御子神 ヨミと申します。どうぞよろしくお願いします」

 昴は絶望した。

 よりにもよって、ヨミは昴と同じクラスに編入してきたのだ。彼女の纏う雰囲気がそうさせているのか、足を踏み入れた瞬間、教室内の空気が変わった。何も知らない者には、少し冷えた位にしか感じられないだろうが、昴にはわかる。気温だけではない。重さ、硬さ、ねばつき……全てがあの人外の少女ヘルによって変えられたのだ。

 一見、おしとやかそうに見えても、やはり彼女は恐ろしい。背中に冷たいモノが走るのを感じながら、昴はヘルの自己紹介を聞いた。

 その時、微笑を湛えたヨミが自分の顔を覗き込んでいる事に、昴は気づけなかった。




 朝礼が終了して五分くらい経った頃、未だざわめきが漂う教室に一人の男が現れた。

 全身黒いスーツに身を包んだ黒髪丸眼鏡の男。飛鳥 タツヤことヨルムンガンドだ。彼は一段高い教壇に登り、静かになった教室を見回すと、独特の物腰柔らかな口調で語り出した。

「えー、皆さん初めまして。私は、今日から貴方達に現代文及び古文を教える事になりました飛鳥 龍哉でございます。至らぬところもあるでしょうが、以後お見知りおきを」

 丁寧な仕草を交えた彼らしい挨拶だった。一瞬安心しかけた昴だったが、あの男もまた魔獣である事を思い出して軽く頭を振った。何があるか解らないのだ。油断は出来ない。

 しかし、そんな彼の心配をよそに、授業は滞りなく進んでいった。いつしか昴の心の底に沈んでいた疑念は、霧散していった。





「と言う訳で、今日から体育は俺が教える事になった! 覚悟しとけよ、テメェら!」

 校庭中に響く大声で、大神ことフェンリルは教え子達を怒鳴り付けた。とても、教師のやる様な事では無い。今度はコイツか……思わず頭を抱えた昴。もっと上手くやれないのか、と思ったが、あの男にそれを求めるのは無理な話かもしれない。

 既に顔を知っている慎吾と朱梨はともかく、他のクラスメイト達は大神の風貌に驚いている様だった。逆立った髪とサングラス、そして今にも飛び出しそうな狼の刺繍が入った真紅のジャージ。ドコをどう見ても一昔前のチンピラだ。とてもじゃないが、人にモノを教える格好では無い。

「……聞こえてんのか、アァッ!?」

 ここまで来たら、もはや恫喝だ。クラスメイト達が怯えているのが良くわかる。このままではマズイと判断した昴は、意を決して止めようとした。その時、後方から飛んできた何かが、彼の頬を掠めていった。気付いた時には、ソレは大神の顔に喰らいついている。

 饒舌になっていた彼には、不意討ちだっただろう。脳震盪を起こして仰向けに倒れ込んだ韋丈夫の脇には、バスケットボールが転がっていた。恐る恐るこうべを巡らせた昴は後ろの方で、ヨミが満面の笑みで屍と化した兄を見下ろしている見つけた。

「……申し訳ありません。手が滑ってしまいました」

 顔も笑っているし、声音も極めて穏やかだ。しかし、彼女の纏う黒々とした雰囲気が、恐怖を否応無く煽り立てていた。

 この時、昴は悟った。彼女だけは、絶対に怒らせてはならない、と。




 放課後を迎えた頃には、昴は完全に燃え尽きていた。机に突っ伏して真っ白になっている彼の姿は周囲の視線を集めると同時に、あまりの気味の悪さに人々を遠ざけていた。

「お~い、昴~……駄目だな、コリャ」

 変わり果てた親友を案じた真吾が声を掛けてみたものの、結局は徒労に終わった。為す術無く溜息をついた彼は、近くにあった椅子にどさり、と座り込んだ。

「あら? どうしたんですの」

「あ、ヨミちゃん」

 接近してくる女性特有の気配を目敏く感じ取った慎吾は、瞬時に営業スマイルを作って振り返った。案の定、傍らに立っていたのは、浮世離れした黒髪の少女だ。

「真吾さん、昴さんは……」

 昴の成れの果てを見てヨミが小さく首を傾げた。どうやら、彼女も困惑している様だ。

 半ばヤケクソ気味に後頭部をガシガシ、と掻いた真吾は、投げ遣りな口調でヨミに説明した。

「俺にもわかんねぇんだよ。気がついたらこうなってたんだ」

「まぁ……そうなんですか?」

 両手で口元を覆ったヨミが、眼を僅かに見開いて驚いている。そんな彼女を見た慎吾の心の奥底に、ここまで気遣われている昴に対する嫉妬が芽生えていた。そういや、アイツの方が割と女受け良かったよなぁ……

 極めてどうでも良い事を、慎吾は真剣な表情で真剣に考え込む。そのせいで、ヨミが発した問いに応えるのが僅かに遅れた。

「――ところで、朱梨さんの姿が見えないのですが」

「あ、あぁ、部活だよ、ソフトボール部。……それにな、こういう時は居ても対して役に立たねぇんだよ、アイツ」

「何故なのですか?」

「ん~……アイツな、前にも似た様な事があったんだけど、そん時色々あってブチキレちまったんだよ」

「まぁ……」

 ヨミは若干驚いた様だったが、そもそも繊細な昴と短気な朱梨が今までつるんでこれた事自体がある意味奇跡なのだ。むしろ、あの二人の性格上顔を合わせる度に衝突していた方が健全かもしれない。

「……兎に角、このまま放置しておく訳にもいかないから、家に送ってやろうと思ったんだけどよ……よくよく考えたら、俺コイツの新しい家知らないんだよ」

 あの怪獣騒ぎで昴の家が全壊した事は知っていたものの、慎吾は彼があの後何処に住んでいるのかは知らなかった。と言うか、いくら聞いても教えてくれなかったのだ。

「そういう訳でしたら、昴さんが立ち直るまで私がついていて差し上げますわ」

 困り果てた慎吾に助け船を出したのは、黒髪の美少女だった。白い陶磁器の様なかんばせに刻まれた微笑はあまりに美しく、思わず引き込まれそうになる。

「い、いいのか?」

 腹の底に沸き上がった微かな劣情を引っ込めた慎吾は、困惑混じりの声を発した。

「はい。こう見えても昴さんの世話は私に一任されてますので。それに、少しお話もしたいですし……」

 笑いながらそう言った彼女は、真吾が今までに出会ったどの女性よりも美しい。それ故、日頃の癖で「……今度さ、二人でどっか遊びに行かねぇか?」などと口走ってしまった事を直ぐ様後悔した。こういう女性は、こんな軽い台詞で靡きやしないのだ。

「フフ、考えておきますわ」

「……そっか」

 ほぼ予想通りの答え。なのに、自分でも何の感慨も沸かない事に内心驚いた真吾は、それを隠す様に苦笑すると、静かに踵を返した。

「それじゃまた明日な」

「はい、お気をつけて」

 口元を笑みの形に歪めたまま、真吾は歩き出した。この時程、親友の事が羨ましいと思った事は無かった。




 誰も居なくなった放課後の教室でヘルが、机に突っ伏す少年の耳元に顔を近づけた。

「……やっと、お話が出来ますね。我がマイマスター

 この世のモノとはどこか違う囁き声を受け止めた少年は、叫びを上げるでも飛び起きるでも無く、むくり、と起き上がった。そして、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔を浮かべているヘルを睨み付けた。

「あら、気付いていたのですか?」

「……まぁね」

 昴は、ゆっくりと上体を起こしながら唸る様に言った。別に意識を失っていた訳ではない。ただ、身体を動かす気力が無かっただけだ。

 小さく溜息を吐いたヘルが、やれやれ、と言わんばかりに肩を竦めながら呟いた。

「意外にしたたかなんですね、今度のマスターは」

「……やめてくれないかな、その呼び方」

 自分でも驚く位の低い声で返した昴は、恨みがましく据わったまなこで首を傾げている白いかんばせを睨んだ。

「はて……では、どうお呼びすればよろしいのでしょうか?」

「さっきみたいに名前で呼んでよ。出来ない訳じゃないんでしょ」

「……貴方がそれで良いのなら、私達はそれに従うだけですわ」

 恭しく頭を下げたヘルだったが、昴にはそれが本心からの行動とはどうしても思えなかった。比較的直情型のフェンリルやヨルムンガンドと違って、彼女は上っ面の表情は一切信用出来ないのだ。女の怖さはある程度知っていたつもりだったが、目の前にいるこの女は桁違いだった。

「安心しました。正直、ヒステリーでも起こしてるんじゃないかと思って冷や冷やしました」

「そこはロキに鍛えられたからね。おかげで、ちょっとやそっとの事じゃ驚かなくなったよ」

 そう言って、昴は視線だけを滑らせてヘルの表情を伺った。白々しい微笑が張り付いていた彼女の白貌が、どこか嗜虐的な表情に変わる。その瞬間、背筋に冷たいモノが走るのを感じた。

「流石は、父様が直々にお選びになった御方と言うべきでしょうか」

――当然だ。俺の眼力を甘く見るな。

 昴の内側に潜むロキは、やたら尊大な口調でそう言った。もし彼が現世に居たのならば、盛大に胸を張っていただろう。

「フフフ……そうですね、あのシギョンも父様が――」

――ヘルッ!

 ロキの発した怒鳴り声は、普段の彼からは想像出来ない位の殺気が籠っていた。何が彼をそうさせる? ヘルは、確か『シギョン』と言っていたが……

「……申し訳御座いません、父様」

 ロキ同様、今までの彼女とは全く違う反応を見せるヘル。

『シギョン』

 やはり、この言葉に何かしらの秘密があるのだろうか……?

 好奇心、もしくはそれ以上の感情に背中を押された彼は、二人を問い質したい衝動に駆られた。が、何やら尋常でない雰囲気故にそれを呑み込まざるを得なかった。


「――ウゥウウゥウウオオオオオッ!」


 彼方より響く奇怪な咆哮が、三人の耳梁を叩いたのはそんな時だ。ほぼ同時に振り返った昴とヨミ、そしてロキは襲来するであろう脅威を感じ取っていた。重くのしかかってくる圧倒的な神気。三人はその感覚を知っていた。そうだ。あれは――

「来ますわ……」

「うん、僕にもわかる」

――神鎧獣ッ!

 直後、世界に異物が混じり、大地が苦痛を上げて震え上がった。




 chapter-2


 ~再来、神鎧獣!~


 十二月十五日午後五時半。中苑市に出現した異形の巨人の出現を一番最初にキャッチしたのは、天空に座す神の砦だった。

 先刻まで冗談を交わし合い限られた休息を堪能していたオペレーター達は、今やプロフェッショナルとして己のすべき事に従事していた。

「これは……先日の?」

「神鎧獣、ですね」

 コマンダールーム正面のメインモニターに大写しにされた敵の尖兵の姿を瞳に焼き付けていたマリアは、そう忌々しげに唸った。

 その後、暴れ回る巨人――神鎧獣を眺めていた彼女はふとある事に気付き、眼前の下で組んだ掌の下でポツリと呟いた。

「妙、ですね……」

「ええ、確かに」傍らに立つ東雲がモニターを注視したまま言った。どうやら彼も気づいているらしい。

「仕留め損なったとは言え、昨日の今日です……何か、キナ臭いモノを感じます」

「罠と考えるべきでしょうね」

 東雲の言葉により、腹の底に溜まっていた不安が更に濃くなった事を自覚したマリアは、万全の対策を講じるべく思考の海に意識を没した。

「司令ッ!」

 横合いから緊迫した声が降りかかって来たのは、それから暫く経った頃だった。

「……何か?」

 思案を中断させられた事に若干の苛立ちを覚えつつも、マリアは自分を呼んだオペレーターの言葉に耳を傾けた。

 ブースから顔を出した隊員は、まだ幼さの残る新人だったが、その眼に一点の曇りも無かった。

「地上の御子神隊員からの報告! 『現在神鎧獣の出現ポイントに急行中、到着し次第戦闘態勢に入る』との事です」

「昴君が……?」

 呆然と呟いたマリアは、すぐに自分の短慮さを自嘲するかの様にくつくつ、と喉を鳴らした。そうだ。何を恐れる事がある。我らには心強い味方がいるではないか。彼ならば、どんなに絶望的な状況だろうと必ず打ち破ってくれるハズだ。

「……わかりました。ファクトリーエリアの左近水博士に繋いで下さい」

 オペレーターは了解の意を示すと、再び自分のブース内の閉じ籠り、内線通信を作動させた。

 デスクに備え付けられた通信機からノイズが流れ、回線を繋がるのを待つマリアに東雲が声をかけた。

「『アレ』を出すのですね?」

 重々しい口調の副司令の言葉に、マリアは無言で頷いて答えた。

 彼が人々を守るために戦うのならば、我らは全力でそれに答えねばならない!

「昴君、いえヴェルズ。待っていて下さい――貴方に新しい力を託します!」



 黄昏色に染まる市街地を破壊しながら雄然と闊歩する復讐の神鎧獣・デュラハンは、新たに取り付けられた禍々しき両の腕を振りかざしながら、天に向かって咆哮した。

 その光景は、遥か遠くの場所からでも確認する事が可能な程、荘厳かつ異質だった。

「ククク……良いぞデュラハン、もっと壊せ! もっと暴れろ!」

 神鎧獣が暴れ回る場所より少し離れたオフィス街。既に避難を終え、人気の無くなったその地には、異様な大気が充満している。俗世では決して存在しないハズの、極めて純粋な気――即ち『神気』。それは、あるビルの屋上から発生していた。

 その場所に居たのは、黒いフライトジャケットを纏った屈強な男。彼は地獄と化した大地と、逃げ惑う命が為す術無く潰されてゆくのを睥睨しながら、やがて現れるであろうかつての同胞に語りかけた。

「テメェに耐えられるか、ロキ? 大好きなニンゲン達が無様に死んでゆく様が!」

「……随分楽しそうね、雷神トール」

 背後に何者かの気配が『沸き上がった』事に気が付いた男――トールは、(こうべ)だけを巡らせた。

彼の視線の先に居たのは、一組の男女だった。一人は露出度の高い深紅のイブニングドレスを着た美しい女。もう一人は、神官の様なローブを身に纏った精悍な美貌の男だった。

「フレイヤ……それに、バルドルか」

 新たに現れた二人を交互に眺めたトールは、素っ気無い口調でそう言った。

 誰が見てもあからさまなその態度に、バルドルの眉が一瞬跳ね上がったが、彼がそれを反射的に吐き出す事は無かった。普段とは違う反応にトールは半ば感心に似た感情を覚えつつ、その裏にある焦燥をも敏感に感じ取っていた。

「……我らは貴様のサポートに回る」

 苦々しげな感情が、いくらか混じった口調でバルドルが語り出した。プライドの高い彼からすれば屈辱的なのだろうが、トールはむしろ見直していた。威張るだけの能無しかと思っていたが、芯の方は中々に太く出来ているではないか。

「そういう訳だから、アンタは神鎧獣を思い切り暴れさせなさい」

 今まで黙っていたフレイヤが、素っ気無く言った。そんな事は、言われなくてもわかっている。

 トールの昂りに呼応するかの様に、周囲に稲妻がはしる。それに合わせて彼の黒髪が逆立ち、天を睨んだ。その姿は、正に雷神の如し。

 雄々しき背中から放出される圧倒的な神気は、同じ一級神であるフレイヤとバルドルですらたじろぐ程だった。

「さぁ来いロキ! この前の……いや、かつての戦いの借りを今、返すぞ!」

 やがて来るであろう宿敵の姿を幻視した雷神は、歓喜に満ちた声で高らかに謳った。




「待ァちやがれえェェェッ!」

 この世の地獄と化した高層ビル街に、何者をも恐れぬ力強い叫びが谺する。神鎧獣は遥か彼方からやってくる気配を感じ取り、破壊の手を止めた。

 直後、異形の巨人だけしかいなかったハズの地獄に、もう一つの巨大な影が爆発じみた地響きを上げて降り立った。舞い上がる砂埃を割き、燃え上がる夕日を背にして立ち上がったのは、絵物語に登場する古の戦士に良く似た機械巨人。赤光を浴びた灰色の装甲は、鋼の肉体に満ちている闘志を表すかの如く熱く輝いている。

「……ッ!」

 獲物を捕捉した機械巨人は滑る様に跳躍し、鎧巨人の懐に飛び込んだ。そして、敵手が反応する前にもう一度跳び、膝蹴りを装甲に覆われた顔面に叩き付けた。

 地面に沈んだ神鎧獣を睨み付けた機械巨人は、酷く無感情な声音で語り出した。

「……随分ハデにやってくれたみてぇだな」

 周囲は地獄絵図の様相を呈している。多くの命が消えていった跡を目の当たりにした機械巨人は、腹の奥の熱が更に燃え上がるのを知覚した。

 漸く起き上がった神鎧獣の瞳は、憤怒と憎悪の紅色に染まりきっている。

「だがな……」それを見た機械巨人は、ヒトに酷似した鋼の(かんばせ)に不敵な笑みを刻んだ。「この俺――機甲神ヴェルズが来たからには、テメェの好きにはさせねぇッ!」

 威勢良く啖呵を切った巨人――ヴェルズは、右手に持った神剣ミストソードの切っ先を身構える敵手へと向けた。




 同時刻、シルメリアベース・ファクトリーエリア。

 壁面に備え付けられた小型モニターには、コマンダールームから送られてくる情報が逐一表示されている。

その中には、ヴェルズと再生神鎧獣の戦闘を映した映像も含まれていた。

 背後で作業をしているエンジニア達の怒号やらをBGMにそれを眺めていた左近水の表情は、どこか愉しげですらあった。

 両のかいなを強力な兵器に変えた鎧巨人の攻撃は、徐々にヴェルズを追い詰めていった。パワーアップ前の状態ですら、あと一歩と言うトコロまで行ったのだ。故に、今度こそ勝ち目は無いのは、自明の理だ。

 しかし、それでも左近水は笑っている。勿論、ヴェルズがやられているのが嬉しい訳では無い。どんなに倒されても決して折ぬ気高き魂。あの機械巨人にはそれが宿っているのだ。

「フフフ……やっぱり、僕の見込んだ通りだねぇ」

『――せ! 左近水博士ッ!』

 己の鑑賞眼に酔いしれていた左近水は、不意に意識の底にまで突き刺さった声に顔をしかめた。気怠げにモニター横のスピーカーに顔を向ける。

「……なんだい、問題でも起こったの?」

 顰めっ面はそのままに、努めて平坦な声で左近水は答えた。

『申し訳ありません、左近水博士。ですが…』

 スピーカーの向こう側に居る司令官がコッチの不機嫌ぶりに気付いていた事に何となく苦笑しつつ、おもむろに振り返った左近水は、工作機械に囲まれた鉄の塊を見つめた。ほぼ組上がっていたソレは、己が力を振るう時を待っているかの如く、漆黒の装甲に凶暴な輝きを孕んでいる。

「そうだね……そろそろ、コレの出番が来たみたいだね」

 そう呟いた刹那、左近水の顔が先程までの薄ら笑いを剥ぎ取った冷たく無機質なモノへと変わっていた。

「だけどね」と無表情のまま続けた左近水は、真剣な眼差しをスピーカー――その向こう側に居るマリアへと――向けた。「僕は自分の作ったモノで死人だけは出したく無いからね。

調整が終わるまでは彼に頑張ってもらうけど、良いよね?」

『……わかりました』

 その言葉を最後に、通信は終了した。回線が切れた後、直前の己が吐いた台詞を反芻して、やや自嘲気味に笑った。わかってはいるのだ。矛盾した事を言ってるのは。だが、それでも、もう二度と『あんな想い』を味わうのは御免だ。だから……

 振り返った左近水は、完成間近となった鋼鉄の塊――GEサポーターを再び注視した。

「昴君、もうちょっとの辛抱だよ……あと少しで君は『神』になるんだからね」





 神鎧獣とヴェルズが熾烈な戦いを繰り広げる中、大神 コウガことフェンリルは破壊されたオフィスビル街を駆け抜けた。遠くで展開されている巨人同士のぶつかり合いを横目で眺めていた魔狼の口の端がつり上がり、獰猛な笑みを野生的な(かんばせ)に刻み込んでいた。

「何だよ、もう始まってんじゃねぇかよ!」

――口より足を動かして下さい、兄様。

 すかさず入った妹からの突っ込みにより、折角の高揚を台無しにされたフェンリルは、渋々ながらも走る速度を上げた。現在、彼ら三兄弟は神鎧獣をこの地に足止めし、被害の拡大を防ぐべく奔走していた。再び現れた鎧の怪物の力は、前回のソレを大いに上回っている。正直、まともに勝負出来るかすら怪しいかもしれない。だが、それでも、これ以上の悲劇を起こしてはならないのだ。

 決意を新たに走るフェンリル。常人を遥かに超える獣の眼が、人影を捉えたのはそんな時だった。

「……ん?」

 半壊状態のビルの戸口付近、そこにやや大柄な影を見つけた彼は、足を止め探る眼差しを向けた。

 逃げ遅れた一般市民だろうか? 瞬時にそう断じたフェンリルは、逃げるように、と忠告しようとした時――


――大地に雷光が走った。


「……ッ!?」

 突如巻き起こった光と衝撃の奔流に、フェンリルはほぼ本能的に眼を庇う。唐突な事態の変化を呑み込みきれずにいたが、光の向こう側に人影を見た気がした。

 やがて光と衝撃が収まり、辺りがいつもの景色を取り戻していった。すると、フェンリルの目の前に、先程まで居なかったハズの人物が佇んでいた。

「ホォ……大した反応だな。流石は神喰らいの魔狼、ってえトコか」

 泰然と佇む大柄な体躯から、ドスの効いた声が発せられた。重く、そして良く通る声だった。黒色のフライトジャケットを纏った精悍なシルエットは、一見何処にでもいそうな印象を与えたが、引き締まった肉体から発する気が明らかにヒトのそれとは違う。

「神――雷神……ッ!」

 咄嗟に思い付いた名前を呟いたフェンリルは、唇を不敵な笑みの形に歪めたトールを凝視した。周囲を駆け巡る青白い稲妻。それは戦神でもある彼の闘志が、形となって顕れたモノの様にも思えた。

「俺の事を知っているのか? なら、話は早い……」

 言い終わらぬ内に、トールが右掌を前方に突き出す。直後、凝縮されたいかづちの塊がフェンリル目掛けて放たれた。ソレを知覚した頃には、既に鼻先にまで迫っていたが、殆ど無意識に身を反った事によって、事無きを得た。何とか体勢を立て直したフェンリルは、大気がイオン化する時に発生する独特の臭いを嗅ぎながら、眼前の韋丈夫を睨む。

「良い反応だ、中々やるじゃねえか」

「ハッ……こちとら生まれた時からケモノやってんだ。こんなモン、眼を瞑ったって避けられるぜ」

 挑発を投げつけ、相手の様子を伺っていたフェンリルは、雷神がソレに乗ってこないどころか、逆に余裕たっぷりな眼差しを向けてきた事に焦りを感じた。

 おいおい、話が違うじゃねぇか……

 彼の知るかつての雷神トールは、非常に短気で沸点が低く、少しの挑発でも激怒する様な男、のハズだった。

 微かな表情の変化から、フェンリルの意図を読み取ったトールが嘲る様な笑みを浮かべた。

「大方、俺を怒らせてその隙に逃げようとしたんだろうが……生憎だったな、コッチも昔のままじゃねぇんだよ」

 参ったな、とフェンリルは口の中で呟いた。無い頭で精一杯考えた策であったが、やはり駆け引きの様な絡め手は向いてはいないらしい。

「フッ……」

 だったら、それでも良い。所詮、俺にはコッチの方が性に合っているのだ。

「ソコを退いてくんねぇかな? 雷神さんよ。俺、行かなきゃなんねぇんだよ」

 フェンリルは乗り越えるべき敵手を睨み付けると、唇の下に隠れた牙を剥き出しにした。それを待っていた、と言わんばかりに、トールが雷の勢いを強める。

 両者共に戦闘態勢に移行した。そして――

「――ガアアアアアアッ!」

 先に仕掛けたのは、フェンリルだった。獲物目掛けて走る肉体から放出されるGEエナジーによって、己を戦う姿へと変えた鋼の魔狼は、必殺の一撃を浴びせんと超GE鋼の爪を振りかざした。

「ブゥレイクゥゥゥッ! クロォォォォッ!」

 GEトルーパー形態に変身したフェンリルの渾身の鉄爪が、蒼い残像を引き連れて雷神に殺到した。

 しかし、自らに迫る死の影を前にしても、彼は動じなかった。それどころか――

「ククク…………」


 笑っていた。


 死神の存在を感じ取った精神ココロが恐怖に押し潰されたか――否、奴はわかっているのだ。ソレが、己の魂を刈り取れないという事を。

 直撃を示す爆風が吹き荒れる中、フェンリルはただ一点、雷神が佇んでいた場所を注視した。予想が正しければ、恐らく……

「……中々、良い一撃じゃねえか」

 周辺に立ち込める白い闇の中で、黄金色の光点が二つ、煌、と輝いた。

「だがな」次いで、遥か天空から蒼色の稲妻が白い闇を切り裂いて大地に突き刺さる。そして、その裂け目からくろがねの鎧を身に纏ったモノが現れた。「その程度じゃ俺は膝を着かねぇよ」

 黒光りする重厚な鎧は、何者をも恐れぬ不退転の遺志の象徴。肩に担いだ雷のミョルニルは、共に戦場を駆け抜けた戦友。

 神話の時代、並ぶ者無きと謳われた無双の戦神として数多の神族に恐れられた『最強の雷神』トールが人類の天敵として悠久の時を越え、今再臨した!




「まさか、貴殿方がお出でになるとは……正直、意外でしたよ」

 眼鏡の位置を直しながら、飛鳥 タツヤは静かに語った。その声音は、普段の穏和な彼からは想像出来ないくらい重く、そして冷たかった。光を反射する眼鏡の間から覗く鋭い光を孕む瞳は、彼の本性であるヨルムンガンドのモノへと変化していた。

 現在、彼が居るのは、目的地から目と鼻の先にある小さな公園だった。あと一分程走れば済む距離である。事態は一刻を争う今、こんな所で立ち往生している暇など無いハズだった。しかし、彼は先に進めなかったのだ。何故なら、進路を塞ぐようにアイボリーのローブを纏った人影が佇んでいたからだ。目深に被ったフードの下にからは、整った形の顎と金色の髪の束が覗いている。あまりに浮世離れした美しさに、ヨルムンガンドは一目で人間ではないと直感した。

「フン……私ともあろう者が、こんな虫けらの相手をしなければならんとは、な」

 ローブの男が、心底厭そうな声音で言った。どこか落ち着きの無いその所作から、酷く神経質な性格だと言うのが伺い知れる。しかし、そんな事はヨルムンガンドにとっては、どうでも良かった。重要なのは、眼前の人物に道を譲る気があるかどうかだ。尤も、答えは解りきっているが。

「そこを退いて下さい――なんて、聞くわけないですよね?」

 それを聞いた男がくつくつ、と喉を鳴らした。露出した口許は、綺麗な弓形に歪んでいる。やがて、堰を切った様に哄笑すると、顔を覆っていたフードを外した。

「――このバルドルが、汚らわしい虫けらの言葉などを聞くと思ったか?」

 あらわになったバルドルのかんばせは、とてつもなく美しかった。芸術品じみた彫りの深い美貌と絹糸の様な白金色プラチナブロンドの髪は、全身から発せられる高圧的な神気も相まって、ある種の神々しさを孕んでいた。

 バルドルが発した言葉に、多少の引っ掛かりを覚えたヨルムンガンドだったが、相手にするだけ無駄と断じ、話を進めた。



 兄達が神々と対峙している頃、御子神 ヨミことヘルは無人の交差点の中央で両の眼を閉じて、精神を研ぎ澄ませていた。際限無く広がった感覚は避難区域のあらゆる場所に手を伸ばし、触れたモノの情報を残らずヘルの脳に送り込む。静止画の様なイメージで次々と表示されてゆく情報を精読していたヘルは、ふとある事に気付き、眉を顰めた。

――彼女が、居ない……?

 そう。雷神達と行動を共にしているとされるあの女神が、何処にも居ないのだ。復活して間もない今、あちら側の戦力は未だ充分ではないと踏み、彼女も前線に出てくると推測していたのが……

「見当違い? ……いいえ」

 そんなハズは無い、彼女は必ず居るハズだ。何せ、秘めたる残虐性は他の神々の比ではない。実際、かつての戦いではソレに幾度と無く苦しめられた。それを考えれば、何かえげつない事を企んでいるのは、まず間違いないだろう。

 問題は、その張本人が何処に潜んでいるかだ。方々に伸ばした感覚の精度を引き上げたものの、触れるのは無人のヴェルズや神鎧獣、兄達、そして対峙する神だけ。

 何故だ? 何故、見つからない。隅々まで探しても気配すら感じ取れず、ヘルの心に焦りが堆積し始めた。

 そんな時、背後に微かな気配を感じ取ったヘルは、思わず閉じていた瞼を開けて振り返った。

「ひッ……!」

 ひきつった声を上げたのは、白いワンピースを着た妙齢の女性だった。大分怯えている様だが、逃げ遅れた住人だろうか。取り敢えず不可視の触手を収め、女性の元に駆け寄ったヘルは、ゆっくりと語りかけた。

「大丈夫ですか!?」

 女性は、全身を震わせながらも何とか首を縦に振った。身体に異常は無い様だ。強いて言えば顔が少し青ざめている位だが、それは精神的な負担からだろう。

 女性の顔を覗き込んだヘルは僅かに息を呑んだ。彼女の顔立ちは、一般的な基準から言えば美人とされる造りだろう。だが、引っ掛かったのはそこでない。良く似ているのだ。御子神 昴と。現時点では中性的とも言える昴を女性として洗練させれば、恐らくはこんな風になるのだろうか。

 ヘルはそんな事を考えながら、女性の美しいかんばせをまじまじと見つめた。

そのせいで、気付くのが遅れた。女性の掌に光が収束している事に。

 慌てて身を引いた時にはもう遅かった。

腹に強い衝撃を感じた直後、視界が目まぐるしく反転した。

 背中から地面に落ちたショックで肺から押し出された酸素が、咳として赤みがかった唇から零れた。

酸欠気味でくらくらする頭をどうにかして起こしたヘルは、蹲っていた女性に異変が起こっているのを目の当たりにした。ゆっくりと立ち上がるのに合わせて、純白のワンピースが繊維レベルにまで分解されていった。一糸纏わぬ彼女の艶かしい肉体が露になったのも束の間、衛星の様に周回する繊維の束が全く別の衣服を再構成していった。

 そこに先程までの清純な印象は無く、代わりに噎せるほどの淫蕩な雰囲気が渦巻いていた。

「やはり、私の御相手は貴女、と言う訳ですか……」

 漸く起き上がったヘルは、ゆったりと佇む女性に声を掛けた。露出度の高い真紅のドレスを身に纏った女性はそれには答えず、ただ艶然とした笑みを湛え続けている。

 ……気に入りませんね。

 口の中で呟いたヘルは、眼鏡に覆われた眼をすっ、と細めた。

 なまじプライドが高いが故に、自分が陥れられる事が許せないのだ。報いは、必ず受けさせる。そう決意した冥女王の口の端が、禍々しくつり上がった。

「あら? 何か嬉しい事でもあったの」

「ええ……昔の心残りが漸く無くなると思うと、ね」

 くすくす、と笑う二人の女。その姿に別のモノがオーバーラップした。一方は、流線形の黒い装甲に身を包んだ鋼鉄の女戦士。もう一方は、古代の彫象めいた美貌の黒い翼持つ女神。激しい神気が渦を巻き、周囲に轟ッ、と吹き荒れる。やがて嵐が止み、辺りに平穏が帰ってきた頃には女達の姿は消えており、代わりに人ならざる者達が無人の交差点に佇んでいた。

「余計な時間を過ごしてしまいました……さっさと、ケリをつけさせてもらいますわ」

 装甲の女――GEトルーパー・ヘルは、己の進むべき道を塞ぐ存在に冷気を孕んだ眼差しを向けた。

 それを受け止める黒翼の女神は、無機質な顔に慈愛に満ちたアルカイック・スマイルを湛えていた。




 僅かに生じた一瞬の隙を突いて、ヴェルズは神鎧獣の左側面に廻し蹴りを放った。遠心力と体重を一気に乗せた一撃は、強固な巨人の体躯をほんの少しだけ揺らがせた。

「そぉらぁぁッ!」

 持ち直す暇など与えるものか。

 ヴェルズは蹴り抜く勢いを利用して、更に蹴撃を叩きつけた。続けざまに放たれる攻撃に、さしもの神鎧獣も堪らず怯んだかに見えた。だが――

「な……ッ!?」

 最後の一撃、と言わんばかりの渾身の蹴りが、外殻に覆われた腕に阻まれてしまったのだ。刹那、神鎧獣の眼が邪悪な笑みの形に歪むのが見えた。

「ガアアアアアッ!」

 雄叫びを上げた神鎧獣が、蹴りを防いだのとは反対の腕でヴェルズの脚を掴んだ。

 敵が次に起こす行動を予測したヴェルズは、必死に振りほどこうとしたが、圧倒的な力の前には焼け石に水でしか無い。力任せに激しく振り回された直後、妙な浮遊感と衝撃がヴェルズの鋼の身体を襲った。まだ無事だったビルに勢い良く激突したのだ。

「う、ぐう……ッ」

 ――大丈夫か、昴!

「ああ、なんとかな……」

 身体を覆う瓦礫を払い除けながら、ヴェルズは身体を起こした。苦痛に顔を歪ませてはいたが、内に秘めた闘志は未だ消えず、それどころか更に熱く燃え上がっている。

「……ところで、アイツらはどうしたんだよ。そろそろ時間だろ?」

 じわじわと近づいてくる神鎧獣を警戒しながら、ヴェルズがロキに訊ねた。あと少しでヘル達が敵を足止めする手筈になっているのだが、一向にその兆候が無いので不審に思って聞いてみたのだ。が、ロキの用意した答えは、彼の期待したモノではなかった。

「……アイツらはココには来ない。足止めを食らっている」

「足止めだぁ!?」

 ヴェルズは、思わず素っ頓狂な声を発した。あの三人の力は、前回の戦いでよく知っている。彼ら程度の実力ならば、下手な足止めなど大した事は無いハズだ。そうでないとするならば……

 ――奴らが――『神』が出てきた。

「マジかよ……」

 絞り出すかの様に唸ったヴェルズは、すぐ背後にビルがある事に気付いて舌打ちした。敵手は、そんな事など知ったことか、と言わんばかりに近づいてくる。

 ――近い内に、奴らが出てくるのは予想できたが……まさか、こんなにも早いとは……ッ!

 ロキが、珍しく焦りを見せている。それだけで、ヤバイ事態だと言うのは、容易に推測出来た。

 どうする? このままでは、また前回の二の舞だ。有無を言わさぬ圧迫感を伴って接近してくる鎧巨人を見据えながら、ヴェルズは思考をフル回転させて策を練った。

 敵は正面、周囲には高層ビル。絵に描いた様な袋小路、逃げ場は無い。

 その時、素早く視線を巡らせていたヴェルズはあるモノを見つけ、我知らず口許を歪めた。そして、タイミングを見計らって真横へと跳躍した。

 咄嗟に反応した神鎧獣だったが、直後に頭上に横切った影に気付いて、ヴェルズが跳んだ方とは反対の方に身体を向けた。

 眼前には、ヴェルズがガラス張りのビルを背に立っている。

 それを認めた神鎧獣は、両のかいなを正面に突き出した。すると、腕部を覆っていた外殻が展開し始めた。目まぐるしく入れ替わり、噛み合ってゆくパーツは、やがて一つの形として収束していった。


 大砲だ。


 マッシブな見た目に違わぬ、絶大な剛力をもたらす巨腕。

 それが一瞬の内に、二門の巨砲へと姿を変えた。勿論、ハッタリの類いでは無く、凶悪な猛獣の咆哮じみた轟音を上げながら、大質量の弾丸が吐き出された。巨大な鉛のあぎとが、呆然と立ち尽くしている神戦士を噛み砕いた。

 休む暇無く打ち出される砲弾は、背後のビルをも崩壊させた。泡沫の様な粉塵へと変えた。

 かつてビルだった瓦礫の山が動く気配は……無い。それを確認した神鎧獣は、僅かに露出した紅い眼を勝ち誇ったかの様な邪悪な笑みに変えた。だが――

「ウオオオオッ!」

 神鎧獣のほぼ直上から、熾烈な覇気を孕んだ咆哮が響き渡った。

 ヴェルズだ。

 神鎧獣の眼前に居たハズの神戦士が、遥か天空、黒みがかった黄昏の空を背にしていたのだ。

 彼はミストソードを両手で把持すると、それを眼下の大地に向けた。すると、鈍く輝く両刃剣の切っ先に闇よりも昏い輝きが灯った。

 ヴェルズは、我知らず笑っていた。奴と正面からぶつかれば、敗北するのは必至。だが、不意を突けさえすれば勝機はある。そう判断したヴェルズは、ガラス張りのビルを利用したトラップを思い付き、即座に実行に移したのだ。

 正直、自分に見せかける為に瓦礫を放り投げた時は内心ヒヤヒヤしたが、面白い位上手く行ってくれた。敵はビルに映った虚像に気を取られ、隙を見せた。

「終わりだッ!」

 猛々しく咆哮を上げたヴェルズは、ミストソードの切っ先を神鎧獣に向けた。一点に集めたGEエナジーに落下の勢いを上乗せした一撃ならば、GEメタル以上の硬度を誇る外殻さえも……

 そう確信した機械仕掛けの眼に、こちらに身体を向ける鎧巨人の姿が映る。

「遅ぇ――ッ!?」

 神鎧獣の一際厚い胸部装甲が、握り拳を開くかの様に展開した。そして、ぽっかりと空いた穴から黒光りする鉄の塊がせり出してきた。その正体が巨大な砲身だと気付いた時には、視界が朱く弾けていた。






 Chapter-3


 ~鋼の従者~



 一際大きな爆発に気付いたフェンリルは、思わずこうべを巡らせた。

ヴェルズと神鎧獣が戦っている場所から、大量の噴煙がもうもうと立ちこめていた。

「何だ……?」

 呆然と呟くフェンリル。刹那――――本能の領域に土足で踏み込まれた様な感覚を覚えて、ほぼ反射的に跳び退った。その直後、黄金色の雷が鼻先を掠めて地面に突き刺さった。

「……ッ!?」

「余所見をしている暇なんて無いぜ、神喰らい」

 不敵に言い放った鐵の雷神――――トールが前方に突き出した指先から、灼熱の電光がスパークしていた。それが先程の攻撃の正体だった。

 もしもアレが当たっていたら…………

 その瞬間を想像したフェンリルは、背中に冷たいモノが走るのを感じて、身体を震わせた。だが、いつまでも呆けている訳にはいかない。頭を切り替えて、走り出した彼はGEメタルの爪に精神を集中した。

「喰らいやがれ……ブレイクッ、クロオォォォッ!」

 限界まで研ぎ澄まされた神気の刃は、跳躍の勢いも相まって音速を越えたスピードで雷神に殺到した。

「…………」

 派手に粉塵を巻き上げながら、迫る蒼刃を見つめるトールは身体を大きく捻った。振りかぶった腕に金色の雷が宿り、雷神が咆哮した。

 降り下ろされるは、雷神の怒り。凄絶なる稲妻が、全てを焼き尽くすッ!

「サンダァァァァッ、ナッコォォォォッ!」

 真っ直ぐ突き出された拳から放出されたのは、金色の拳波。雷を撒き、瓦礫を食い散らかしながら驀進するソレは、大地を走る蒼刃と衝突した。

「ぐうぅぅぅぅッ!」

 吹き荒れる衝撃、その直後、ぶつかり合うエネルギーが盛大に弾けた。

 白煙が爆風に乗って流れてゆく中、フェンリルは敵手を求めて駆け出した。

視界が利かない今ならば! と、しかし、

「……何だと?」

 先程まで立っていたハズの場所に、雷神の姿は無かった。慌てて周囲を見回すフェンリル。その背後に、大柄な影が忍び寄った。

「――ッ!?」

 咄嗟に振り向いたフェンリルの瞳に、噴煙を裂いて現れた鐵の影が映った。それがトールだと、気付いた時には世界が回転した。

 何とか態勢を立て直し、宙に浮いていた身体を着地させたフェンリルだったが、一瞬後に込み上げてきた吐き気に抗うだけの力は無かった。吐瀉物の中には、幾つかの血の塊があり、それを見た彼は我知らず笑みを浮かべていた。そういえば、先程から腹の辺りがじわじわ、と熱を持って尾を引いている。

流石は、神と言ったところか。一撃の威力が洒落にならない。

「ハハッ……いい顔してんじゃねぇか」

 雷神が心底楽しそうにそう言った。右腕には、雷が激しくスパークしている。

「そうでなきゃ、楽しめないぜ!」

 拳を打ち鳴らすトール。刹那、膨大な量の電流が空を、大地を駆け巡る。

 荒ぶる神の姿を目の当たりにしたフェンリルは、恐怖や闘争心がない交ぜになった感情が身体の内側で燃えているのを知覚しながら、今戦っているであろう兄妹達に思念を送った。




 フェンリルの送った思念波は、弟のヨルムンガンドにも届いていた。しかし、それに答える余裕は、今の彼には無かったのだ。

 超スピードで空中を飛び回る彼に追従するかの様に、幾筋もの光が朱と黒の混じった宵の空を切り裂く。

「……チィッ!」

 振り切れない、と判断したヨルムンガンドは翼を大きくはためかせて急制動を掛けた。そして、そのまま地面に向かって急降下。光の筋もそれを追った。やがて地上三メートル程の位置まで来た時、一気に方向転換した。急な機動に追い付けなかった幾つかの光が、地面に激突して消滅した。しかし、依然多くの光が黒龍を追っている。

 ビルの隙間へと飛び込んだヨルムンガンド。いつしか袋小路へと入り込んでしまうが、それこそが彼の狙いだったのだ。旋回したヨルムンガンドは、追って来る光を見据えた。

 光の数は残り四、直径二メートル以内に密集――――それほど拡散はしていない。

「これなら……行けますッ!」

 叫んだヨルムンガンドは口を大きく開け、腹の奥に精神を集中させた。

渦巻くGEエナジーが、灼熱の塊となってゆく。内包するエネルギーが臨界に達した事を悟った黒龍は、猛々しい咆哮と共に紅蓮の火球を放った。

「フレイムブレスッ!」

 大気を喰らいながら突き進む暴食の焔は、光の束を呑み込んだ後、弾けて消滅した。それを確認したヨルムンガンドは、ほっ、と息を吐いた。本当ならば、ゆっくりしている暇は無いのだが、こうしていなければ、とてもじゃないがやってられない。

「神が出てくるなんて反則ですよ……」

 そんな感情は、愚痴となって表に出た。応える者など居ない儚き言霊は、夜の闇に霧散する……ハズだった。

「フッ、汚らわしいケダモノ相手に禁じ手などありはしない」

 頭上から降ってきた声には、あからさまな傲慢さを孕んでいた。いや、隠す気すら無いのか。

 天を仰いだ黒龍の瞳に、夜天を背負う金色の影が映った。神々しく輝く鎧と六枚の羽根、そして両手の長大な魔杖。神々の寵愛を受けし光の神――――バルドルが虚空に佇んでいた。

「……悪趣味ですね」

 挑発でも何でもない素朴な感想だった。全身金色。ヨルムンガンドからしてみれば、悪趣味以外の何者でも無い。本人の格やら、気質やらが釣り合っていれば話は別だが、眼前の神には……

「相変わらずみたいですね、貴方も」

 溜め息混じりに一言。それをどう受け取ったのかは知らないが、バルドルは心底愉しそうに笑っていた。少しだけ、腹が立った。

「神である我らは、不変の存在だ。卑しきヒトの側に居る貴様らと違って、な」

 変な頭痛がして、頭を抱えたくなった。皮肉もわからんのか、コイツは? よりによって、こんな面倒臭い奴の相手をしなければならないとは。

「恨みますよ…………兄さん、ヘル」

 今は別の場所で戦っているであろう兄妹達の姿を脳裏に浮かべながら、黒龍が呟いた。とても、戦いの最中に吐く様な台詞では無かった。が、それこそがヨルムンガンドのスタイルだった。

『どんな時でも自然体』

 彼は何時でも、そう心掛けて来たのだ。そして、これからも変わらない。

 静かに高度を上げたヨルムンガンドは、光輝く神戦士と対峙した。

 傲慢なる聖神と、穏やかなる魔龍。全く正反対の二者の間に冷たい風が吹いた。魂を凍らせる極寒の…………

 やがて、それが通りすぎた刹那、両者の姿が消失した。次の瞬間、鋼鉄同士が衝突する甲高い音が黄昏の空に響く。それも一回では無い。何回も、何回も、火花が虚空で弾けた。そして、一際大きな音がした時、組み合った二つの影が世界に再び顕れた。龍の爪と神の魔杖が交差している。

「ぐうぅぅぅぅ!」

「ぬうぅぅぅぅ!」

 互いの力は、拮抗している。両者一歩も引かぬ鍔迫り合いは、絵に描いた様な膠着状態に入った。押す事も、引く事も出来ず、ただ敵の眼をヨルムンガンドは睨んでいた。

 やがて、どちらからでも無く、ほぼ同時に離脱して再び消失した。否――――実際は、両者とも凄まじいスピードでぶつかり合っているのだ。

 人知を越えた存在同士のドッグファイトは、徐々に高度を上げ、終いには中苑市全体を見渡す場所に至った。

 音速の領域から、ヨルムンガンドは街を見下ろした。噴煙、雷、氷。各所で繰り広げられている戦闘の副産物は、彼の心に不安の種を植え付けるのに充分だった。特に、煙に覆われた広大なエリアは、確かヴェルズと神鎧獣が戦っていた場所だ。先程の轟音を聞いて、もしやと思ったのだが……




 焦燥と言う名の養分を吸って、どんどん大きくてゆく不安を知覚しながらも、ヨルムンガンドは目の前の敵と戦う事しか出来なかった。

 だが、心に落ちた黒い影は肉体にも影響を及ぼしていた。僅かに、動きが鈍っていたのだ。今までは、完全に回避出来ていた攻撃が徐々にだが避けきれなくなり、光線が身体を掠める度にヨルムンガンドは舌打ちをした。

 その異変を、バルドルが見逃す訳が無かった。

「破ぁッ!」

 輝く八枚の翼から、気合いと共に金色の光が放たれた。デタラメな軌道を描く八つの光。とても、今のヨルムンガンドが捌ける様な代物では無かった。

「くっ……ああッ!」

 背中に直撃を受けた黒龍は、バランスを崩してなす術も無く落下していった。激痛によって、混濁する意識の中でヨルムンガンドは、バルドルが両手に持った杖を一つに合わせているのを見た。

「しまっ……!」

 その正体に気付いたヨルムンガンド。しかし、今の彼にはどうすることも出来ず、此方に向けられた切っ先から無慈悲な光が放たれるのを黙って見ているしか出来なかった。




 いつの時代も、女の争いほど凄惨なモノは無いだろう。歴史上の有名な出来事の裏では、常に女の影があったとされている。勝てば天国、負ければ地獄。そんな理屈が支配する世界だった。

 そして今、この場所で繰り広げられているのも、粉う事無き女の戦いだった。

「あら? お兄様方が呼んでるみたいよ、答えなくても良いの?」

 黒い翼の女神が、何気無い口調で言った。あからさまな挑発だ。乗ってやる義理も無いが、無視するのも何だか癪に触ったので、込められるだけの悪意を込めて返してやった。

「私達兄妹は、言葉を交わさなくとも相手の事を理解できるのですよ。些細な事ですぐにいがみ合う貴女方と違って、ね」

「……可愛くないわね、相変わらず」

 吐き捨てる様に言ったその声には、特有の無機質さや傲慢さが滲み出ている――――人外にしか出せぬ声だ。神と名乗ろうが、所詮は怪異の塊。恐れこそすれ、敬う気などは更々無い。

 無言で右手を前方に翳したヘルは、極寒のGEエナジーを掌に収束させた。

彼女が得意とするのは、氷結系の能力である。相手を凍える結界に封じ込め、絶望を感じる間も無く粉砕する――――それが冥神ヘルの戦闘スタイルだ。例え、神であろうと氷獄からは逃げられはしない!

「ハッ!」

 気合いと共に放たれた絶対零度の波動は、黒翼の女神を氷のオブジェに変えんと滑る様に大気を裂いた。しかし、ソレは女神の鼻先で何かに阻まれたかの様に霧散、消滅した。

 何事か、と眼を見開いたヘルは、女神の冷たい(かんばせ)が微笑を浮かべているのに気付いた。

女神の歌(ミューズソング)……」

 やはり、そう来ましたか。続きの部分は、口の中で呟いていた。

 美神が囀ずる振動破砕の滅びの歌――――それが、ヘルの氷撃を相殺したフレイヤの力。

「怖がらなくても良いのよ、痛みと恐怖は一瞬だから」

 酷く艶かしく響き渡る女神の声にささくれ立つ神経を鎮めながら、ヘルは身構えた。状況は最悪、打開も困難、それでも…………やるしかない。




「そこは時間が無いからサッサとやっちゃって!」

 ボロボロの汚れた白衣を翻して、左近水が指示を飛ばしていた。ファクトリーエリアは、一層慌ただしさを増している。GEサポーターの最終調整に入っているのだ。

「何やってんの!? ソレ、後でって言わなかった!」

 それぞれの作業の進捗状況を細かく確認し、取り敢えず大丈夫だと断じた左近水は、壁に備え付けられたコンソールに歩み寄った。軽やかにキーを叩くと、傍にあった嵌め込み型のモニターにある人物の顔が映し出された。

「司令、下の状況はどう?」

『……あまり芳しくはありません』

 モニターの向こう側に居るマリアが、苦虫を噛み潰したかの様な表情を浮かべ、努めて事務的な口調で告げた。それが、その言葉が真実だと言う証明になった。

「そっか……」

 その時、左近水は酷く疲れ果てた顔をしていたが、幸いマリアには気付かれなかった様だ。

『それでGEサポーターの方は?』

 他人が聞けば、マリアの言葉は少々無神経に聞こえたのだろうが、それが彼女の仕事でもあると左近水にはわかっていた。

「あと二十分。それで全部完了する…………と言いたいけど」

「難しいですか?」

「正直、どうなるかだね。そもそもボクみたいな技術者が指揮を執ってる状況自体、異常だし」

 胎動する鉄の塊の鼓動を、左近水は背中で感じていた。今か、今かと己の出番を待っている。

「でも、やるからには最高の状態で仕上げて見せるヨ」

『わかりました。カタパルトを準備させておきます』

 それを最後に通信は終了し、左近水は三つの鋼の塊――――GEサポーターに向き直った。鐵の身体を持つ神の従者。彼らがこれから赴くのは、地獄の様な戦場。

「どうか『昴君』を守る力になってくれ」

 ささやかなる願いを込めた小さな呟き。それは、喧騒の中に紛れて――――消えた。




 全身が痛む。フレームが軋み、装甲が焼ける様に熱い。今は鋼で出来ている肉体が、生身と同じ様にジクジクと疼いていた。

「う…………」

 光を取り戻した機械の眼が最初に捉えた映像は、濃紫色の空だった。陽が落ち、星が瞬き始めている。夜が訪れたのだ。冬特有の硬い夜気を鋼鉄の肌で感じながら、ヴェルズは上体を起こした。

 電力が遮断され、光の衣装を奪われた街に着せられていたのは、燃え盛る炎だった。それをぼんやりと見つめていたヴェルズの記憶が、徐々に鮮明な形へと変わってゆく。

「そうだ……神鎧獣!」

 敵の存在を思い出したヴェルズは、急いでこうべを巡らせた。すると、背後で鎧の巨人が炎を背にして佇んでいるのが見えた。気を失っていた時間は長くはなかった。その隙に潰そうと思えば、簡単にできたハズだ。にもかかわらず、奴はそれを実行しなかったのだ。

 嘗められている――――ッ!

 そう直感したヴェルズがとった行動は、恐ろしく俊敏なモノだった。超鋼繊維の筋肉が生み出す爆発的な加速で神鎧獣へと駆け寄った機甲神は、そのまま跳躍すると、勢いのまま会心の拳を硬皮に包まれた顔面に叩き付けた。鋼同士がぶつかる甲高い音が、辺りに響き渡った。

 正面から叩き込まれた一撃は、神鎧獣の眉間を正確に打ち抜いていた。だが、それだけだった。鎧の巨人は微動だにしない。露出した口元から異形の咆哮を吐き出すと、ヴェルズを挟み込む様に両手を翻した。

「ヤベェ……ッ!」

 危険を察したヴェルズが、腕の力だけで後退した刹那、巨大な掌がさっきまで彼の居た空間を押し潰した。その時に生じた衝撃に揉まれつつも、何とか着地した。


 正直、為す術は無かった。ぶつけられる手は、全部ぶつけた。これで倒れないのなら、もうどうしようも無い。近付いてくる鎧の異形を憎々しげに睨みつけていたヴェルズの魂は、諦念に押し潰されかけていた。



 三つの流星が夜を切り裂いたのは、その時だった。



 最初に気付いたのは、神鎧獣だった。天を仰いだ敵に吊られて、ヴェルズも空を見上げた。

 星無き空を駆ける三つの輝きは、直下で繰り広げられる巨人達の戦に気付いたかの様に軌道を変え、急降下した。そして、傷付いた鋼の神を庇うように降り立つと、輝くその身を鐵へと変えた。一つは、大地を走破する突撃戦車。一つは、天を貫くステルス戦闘機。そして、最後の一つは、闇を象った万能要塞。ヴェルズを背にするそれらの姿は、主を守る騎士の如く。

「コイツらは…………」

 呆然と呟いたヴェルズの思考に、突如ノイズが混じったかと思うと、直ぐさま人の声となって鋼の頭蓋に反響した。それは、彼の良く知る声だった。

『GEサポーター――――貴方を守る力です!』

 美しき司令官マリアの発した言葉は、とても明瞭で力強い口調だった。




『俺を守る力……?』

 モニターの向こうで戸惑う巨人に、マリアは強い意思を孕んだ声で語りかけた。

「ええ、常に貴方と共にあり、貴方の剣となり盾にもなる鋼の従者達――――それがGEサポーター!」

『GEサポーター……コレが……』

 ヴェルズが呆けた様な表情で、己を守る鋼鉄の戦闘機械を眺めていた。そう言えば、彼は完成直前のGEサポーターを見たのだったか。そんな事を思い出していた美しき女傑は、再びヴェルズに向かって語りかけた。

「もう一刻の猶予も与えてはなりません! 一気に決着をッ!」

『……応ッ!』

 闘志に満ち溢れた答えが、スピーカーを通してコマンダールームに響き渡る。そして、鋼の従者を引き連れて突貫してゆくヴェルズの姿がモニターに映った直後、傍らに立っていた叢雲が耳元に顔を寄せた。

「良いのですか?」

他のブースと比べて指令ブースは高い場所にあるにも関わらず、叢雲は囁く様に訊ねた。そうまでしなくても良いのに、わざわざ行動に移す年上の副官の愚直さに苦笑しながら、マリアは耳を傾けた。

「ファイナルコードの存在を伝えなくても」

 彼らしい問いだった。マリアが意図的に全てを語らなかったのを承知の上で、叢雲は訊ねているのだ。多少融通が利かないものの、実直を絵に描いたような彼の立ち振舞いは何よりも信用に値した。

 だから彼女は答えた。嘘偽り無い真実を。

「アレは最後の手段です。我々の力が、あと一歩及ばなかった時こそ『あの力』を振るう時です。

それに…………」

 その刹那、マリアの声音に何かを願う様な響きが混じった。

「ヒトの手に余る力である以上、出来ることならば使う事が無ければ良いとも思っています」

 それは切なる願い、と言うよりも、人知を越えた存在に対する恐怖だった。




 鋼鉄の闖入者の登場は、雷神の神経を激しく刺激した。

 ヴェルズを守るように在る機械の守護者達の姿を目の当たりにしてから、深層意識の更に奥深く――――かつての記憶をかき乱されている様な気がしたのだ。

「クッ……何なんだ、コイツはッ!?」

 余りの不快感に、トールは思わずがなり声を上げた。その瞬間、彼は相対している敵の存在を失念してした。

「余所見してんじゃねぇッ!」

 超スピードで迫る蒼い影。それが放つ一撃に、雷神は反応する事が出来なかった。装甲ごと胸を切り裂かれたかと知覚すると、次は背後から背中をやられた。

「この……!」

「ウオオオオオオッ!」

 雄叫びを乗せた魔狼の爪撃が、トールの全身を切り刻んだ。強固な外皮のお陰でどうにか耐えしのぐ事が出来ていたが、このままでは押し切られる、と判断した彼は、別の場所で戦っているであろう同胞に思念を送った。

 ――――聞こえているか? フレイヤ、バルドル。

 それほど離れていないせいか、返事は直ぐに帰ってきた。二人とも、いささか不機嫌であったが、トールは構わずに続けた。

 ――――頃合いだ。そろそろ撤退する。

 淡々と告げたその一言に、バルドルが絶句する気配が容易に伝わった。

表情も大方想像出来る。美神の方は『…………そう』と彼の予想とは全く違う素っ気ない反応を示している。

 ――――ッ何故だ! あと少しで魔獣どもを仕留められるのだぞッ! それをみすみす…………

 ――――『仕掛け』さえ作動すれば、余計な手間を掛けずに済むだろうが。それとも、ココで奴等と運命を共にするか?

 ――――ぬぅ……ッ!

 悔しそうな唸り声を上げて、バルドルが黙った。決して口が達者な方では無いトールだったが、単純な奴を丸め込むくらいは出来る。後は――――

「フゥンッ!」

 烈帛の気合いと共に、トールは全身から雷を放出した。

大気を灼く衝撃は、蒼き魔狼を弾き飛ばした。

「残念だが、今日はここまでだ。後はアイツと遊んでな」

「ッ! 待てッ!」

 フェンリルが態勢を整えるよりも早く、トールは己の身体を雷に変えて、その場から離脱した。




「オオオオオオッ!」

 咆哮を上げて跳躍した機甲神は、手にしたミストソードを振りかぶった。大上段から降り下ろされた神剣の刃が、神鎧獣の肩口を打つ。

 たとえ斬れなくとも、怯ませる位ならッ!

 不退転の念そのものを込めた渾身の一撃は、確かに異形の巨人を後退させた。

が、やはり傷を付けるには至らない。

「だったら!」

 ヴェルズが跳び退ると、入れ替わる様に鋼鉄の守護者達が前進した。まず先陣を切ったのは、突撃戦車だ。縦横無尽に大地を駆け回り、敵を撹乱させた所で機体前部に集束させたGEエナジーの光槍を強固な異形の外皮に突き立てる。

 その姿は、獲物を狩る狼の如く。

 続いて、ステルス戦闘機が神鎧獣の頭上を占拠した。慌てて腕部の砲口を天に翳す敵を嘲笑う様に、急降下しつつ、機体上部のキャノン砲と翼部のミサイルコンテナのロックを解放。一斉に解き放たれた焔の牙は神鎧獣の身体を焼き尽くした。

 その威容は、全てを滅する龍の如く。

 最後に続いた高速要塞は、内蔵されたトライデントエンジンの一つ――――超電磁エンジンから生み出された高出力電磁波を残らず叩きつけ、神鎧獣の機械化された部位に干渉。強烈な電磁の嵐を一身に受けた異形の鎧巨人は、耳障りな軋みを上げながら、動きを止めた。

 その佇まいは、生命の行く末を決める冥王の如く。

 息つく暇すら無い連続攻撃だったにも関わらず、神鎧獣には大したダメージを与えられず、動きを封じるだけに終わった。だが、それで充分だった。

「ハアアアアアッ!」

 神鎧獣の背後で跳躍したヴェルズが、ミストソードを逆手に持った。

 前回の時は、魔獣達のアシストがあって、漸く神鎧獣を撃退出来た。しかし、今回はそれが望めない上に、確実に倒さなければならない。状況は最悪。しかし、機甲神の心に恐れは無かった。前回も、今回も彼は一人ではない。傍らには、共に戦う仲間が。そして、後ろには支えてくれる同志が居る。何を恐れる必要があると言うのだ。

 己が多くの人々に助けられている事を再確認したヴェルズは、刃を下に向けたミストソードにありったけの力を込めた。

「ミストソード・ブレェェェェェイクッ!」

 一度は返された必殺の一撃。だが……今度こそはッ!

 GEエナジーの輝きを帯びた神剣は、まるで流星。闇を滅する破邪の星だ。

「ウオオオオオオッ!」

 烈帛の気合いを乗せた刺突は、神鎧獣の外皮に守られていない部位――剥き出しの頚部を貫いた。根本まで突き刺さったミストソードの刃が、巨人の脊椎を完全粉砕した。

 致命傷を受けた神鎧獣は、一瞬、身体を痙攣させると壊れた人形の様にくずおれた。

「やった、か……?」

 地面に膝を付く神鎧獣を見て、ヴェルズが確かめる様な口調で呟いた。魂の奥底に潜むロキが、剣呑な気配を発している。

 そのまま、一分二分と時が流れた。そして、五分程過ぎた時、開きっ放しになっていた通信回線から息を呑む気配がした。歓喜の前兆だ、と気付いた瞬間、ロキの叫びがその予感を凍りつかせた。

「…………いや、まだだ!」

 慌てて、動かなくなったハズの巨人へと眼を向けたヴェルズは、理解し難いモノを目の当たりにした。

 機能停止状態の神鎧獣の亡骸が、赤く変色していったのだ。同時に熱も発している。

 反射的に剣を抜き、跳び退った刹那、亡骸が咆哮を上げて再び動き出した。そして、振り返った異形のまなこは、毛細血管が破裂したのか深い赤に染まっていた。




 神鎧獣の復活は、魔獣達をも驚愕させた。

 確実にトドメを刺したにも関わらず、更に強力になって甦った硬殻の巨人。一部始終を目の当たりにしていたヘルの脳裏に、ある可能性が浮上した。

「罠…………」

「何だって?」

 妹の微かな呟きを耳聡く聞き取ったのは、フェンリルだった。

 未だ何が起きているのか理解しきれていない兄など眼中に無いと言わんばかりに、ヘルは灼熱色に染まった神鎧獣を見つめ続けている。

「どうやら、始めからああするつもりだったみたいですね」

 不逞腐れる長兄にフォローに入れたのは、次兄のヨルムンガンドだ。フェンリルとヘルの仲介に入る事の多い彼は、それ故に頭の回転が早い。ヘルの次に事態を飲み込んでいたヨルムンガンドは、直ぐ様兄に対する説明役に徹したのだ。

「んだと、ふざけやがって!」

 漸く理解したフェンリルが、咆哮する神鎧獣を睨んで悪態を吐いた。

 その時、赤熱の神鎧獣が親とはぐれた子供の様に(こうべ)を巡らせている。

 何かを探しているのか?

 ヘルがそう推測した直後、巨人の動きが止まり、赤く染まった眼が見開かれた。つられる様に視線の先を追ったヘル。無機質な彼女の(かんばせ)から血の気が引いたのは、その直後だった。




「新エネルギー研究所?」

 オペレーターから入った報告を、そのまま口に出したマリアは、卓上の端末を手早く操作した。丁度彼女の眼前に出現したホロモニターには、激流と化した様々な情報がスクロールしている。とてもじゃないが、常人には全てを認識するなど不可能に近い。だが、マリア・シュタイナーはそれが出来る人間であった。

 端末を操作して情報を選り分け、今必要なモノを並べた女傑の瞳に映っていたのは、まだ新しい研究施設らしき写真と簡単な説明文。

 国立新エネルギー研究所。数年前に与党の政策の一環として建設された研究施設で、既存のエネルギーに代わる新たなエネルギーの研究が行われている。しかし、此処で扱われているのは、何も新エネルギーだけでは無い。

 現行のエネルギーの新たな可能性を探る名目で、石油や石炭を始めとした様々な天然資源が貯蔵されていた。灼熱色の神鎧獣はそれを見ているのだ。

 マリアの脳裏にある疑問が生じた。あらゆる法則から解き放たれたGEエナジーと、それを糧とする永久機関を持つ『彼ら』が今更別のエネルギーを欲しがるとは思えない。

「…………まさか」

 思考の海からある仮説を引っ張り揚げたマリアの顔は、酷く青ざめていた。今までに出揃った情報を頭の中で瞬時に整理すると、怒濤の如き勢いで手元のマイクに向けて叫んだ。

「解析班! 神鎧獣の状況は!?」

「神鎧獣体内の温度が急激に上昇! 中心部は…………一万度に達しています!」

 それを聞いたマリアは、我知らず剣呑な表情を浮かべた。やはり、奴等の狙いは…………

「神鎧獣、前進を始めました!」

 コマンダールームが騒然となった。巨大な矩形の向こうに居る神鎧獣は、灼熱を孕んだ肉体を引き摺る様にゆっくりと前進していた。

「進路はッ!?」

「り、臨海地区、新エネルギー研究所です!」

 我知らずマリアは歯噛みし、モニターを忌々しげに睨み付けた。状況は最悪の方へと転がっている。もしかしたら、機甲神とその守護者だけではどうにもならないのかもしれない。

 そうなれば、残された手は、一つしか無い――



 それは、ヒトの手にした最後にして禁断の力。



 それは、ヒトの摂理を越えた超常の力。



 それは、本来ヒトが手にしてはならないハズの、神の力。



 そして、その力を解放させる為の鍵となるのは――――女神の言霊。

「ファイナルコード、封印解放(アンシール)

 刹那、人のソレでは無くなった澄みきった声で、マリアは神の言葉を紡ぎ上げた。







 Chapter-4


 ~真なる邪神~



 今や暴れ狂う熱風と化した神鎧獣は、真っ直ぐ臨海地区を目指していた。焔の巨腕(かいな)を振るい、立ち塞がる障害物を片っ端から叩き壊している様は、正に地獄の悪鬼。

 しかし、その姿に恐れを抱く暇は無かった。

「コノ、止まりやがれッ!」

 巨人の進行方向に回り込んだヴェルズは、熱波を撒き散らす足下に向けてGEミサイルマイトを撃ち込んだ。これで止まれば良いとまでは思わなかったが、多少時間稼ぎが出来ただろうとは踏んでいた。だが、現実はそう甘くは無かった様だ。

 おぞましき咆哮が、噴煙を裂いた。

 赤く染まった外皮が白煙を纏っている。

「化け物がアッ!」

 半ばヤケクソ気味に吠えたヴェルズは、真正面から敵に組み付いた。当然、神鎧獣の体表は出鱈目じみた高温に達している。いくら超硬のGEメタルだとしても、タダでは済まない。案の定、突き進む熱風を押し留めようとして、身体を焼かれている。しかし、それでも神鎧獣は止まらない。進行速度を抑える事は出来たものの、進行そのものは続いている。

「止まれってんだよ、クソッタレッ!」

 叫ぶと同時に背面ブースターを最大噴射して、神鎧獣を押し返した。

 ――――もうよせ、昴! これじゃあ、お前の方が…………

「ウルセェッ! そんなこと事出来るかッ!」

 今の神鎧獣は、地上の太陽と呼んで差し支えの無いくらいの熱量を孕んでいる。そんなモノが、研究所の燃料タンクなんかに突っ込んだら――――中苑市は確実に消滅するだろう。

 その時、彼の頭に浮かんだのは、親友やクラスメートを始めとした中苑市で育ち生きてきた中で出会ってきた人々の顔。そんな人々を下らない理不尽を以て、全て吹き飛ばすなど…………絶対に許してなるものかッ!

 しかし、決意とは裏腹に事態は最悪のまま好転する気配が無い。既に八方塞がりな状況に、ヴェルズは無力な己を呪った。

 その時だった。遥か天空からの声が、再び脳裏に響き渡ったのは。

『昴くん! 聞こえますか、昴くん!』

「今度は何だッ!?」

 凛としたマリアの声も、今のヴェルズには雑音としか認識出来なかった。用が無いなら切るぞ、と言外に含んだがなり声を上げたが、若き女傑はそれを見事に受け流して続けた。

『先程計算した結果、神鎧獣はあと十分で研究所に到達します。その前に、神鎧獣を倒してください!』

 何を言っているんだ、この女は。出来るならば、最初からやっている。呆れ返ったヴェルズは、怒鳴り返してさっさと通信を切ろうとした。が、次の瞬間、彼女の言葉が雑音から福音へと変わった。

『その為の力を、貴方に託しますッ!』




「ここからは僕が説明するよ」

 工廠エリアに直接通信を繋げてもらった左近水は、神妙な面持ちと口調で戦場の機甲神に語りかけた。

「GEサポーターには、君の従者となってサポートを行う以外に、もう一つ役目があるんだ」

 左近水らしからぬ抑揚の無い口調はただ真剣と言うより、必死に言葉を選んでいる様だった。彼と言う男を知っている人物が見たら、大層驚くだろう。歩く慇懃無礼、笑う狂気。それこそが左近水 秀樹であるハズなのだ。

「それは古の邪神の再現――――要するに、君と合体して絶対たる存在へとなる事なんだ」

 酷く抑揚の無い声で、左近水が告げた。

 映像の向こうの機甲神が驚愕する気配が伝わってきた。

 予想通りの反応とは言え、こうまでストレートだと却って面白かったらしく、左近水は若干嬉しそうに無精髭だらけの頬を緩めた。だが、すぐに表情を戻して警告となる言葉を継いだ。

「だけど、コレは人にとっては過ぎた力。何が起きるかわからないけど…………それでも良いかい?」

『それしか、手は無ぇんだろ?』

 問うてくるヴェルズに、左近水は「ああ」としか言わなかった。その胸中を、悟られない様にする為に。




「……だとよ、どうするロキ?」

 左近水の説明を聞いていたヴェルズは、苦笑混じりに己の内側――――精神の深層に巣喰う相棒に問い掛けた。

 実の所、彼の腹はもう決まっていた。にも関わらず、問いを投げたのは、ただ単に信頼していたから。短い期間とは言え、共に戦った記憶は、両者の間に確かな絆を形成していた。だからこそ、互いに何を考えているかがわかっている――――つもりだった。

 ――――…………ダメだ。

 一瞬、ロキが何を言ったのかヴェルズにはわからなかった。同調してくれると思っていた相棒が告げたのは、明確な否定だった。

「何でだよッ!」

 ――――上手く行く保障が無い。失敗したらソコで終わりだ。

 至って冷静で、全く隙の無い正論。故に反論を封じられたヴェルズは、不満げに呻く事しか出来なかった。

 そんな彼に、ロキは畳み掛ける様に決定的な言葉を重ねた。

 ――――それにこれ以上は本当の意味で後戻り出来なくなるぞ

 その一言はどんな刃よりも鋭く、ヴェルズの魂の深奥に突き刺さった。確かに、今の状態は半分人間を辞めている様なモノだ。これ以上、力を求めたらどうなるかわかったものではない。

 ロキは言外に、今からでも遅くは無い。別の方法を考えろと言ってくれているのだ。

 だが、



「悪い、ロキ」



 ヴェルズは、御子神 昴は、人間で居る事を選ばなかった。

「誰かを守れる力が目の前にあるのなら、俺は迷わない。例え、それがヒトの手に余るモノでもな」

 ――――昴…………

 未だ煮え切らぬロキの声に、とうとうヴェルズは業を煮やした。いつまでウダウダしているつもりだ、コイツは。

「いい加減にしやがれ! もうこれしか方法が無ぇんだろ、だったら腹ァ括れッ!」

 ――――…………わかった

 ロキの声音に、幾分か不安げな響きが含まれていたが、ヴェルズがソレに気付く事は無かった。

「そうと決まれば……」

 やるべき事を見定めた機甲神は、口元に獰猛な笑みを浮かべると敵を抑えている両腕に精神を集中させた。

「GEィッ! ミサイルマイトォッ!」

 零距離で撃ち込まれた噴進爆弾は瞬時に爆炎へと変貌し、二体の巨人を包み込んだ。

 そこから最初に出てきたのは、ヴェルズだ。神鎧獣が怯んだ隙に抑えつけていた巨体を、勢いのまま持ち上げた。

「ダラァァァァッ!」

 様々な条件とヴェルズ自身の精神力が奇跡的な化学反応を起こした結果、数十万トンを誇る巨体が宙に浮いた。

 投げ飛ばされた神鎧獣は、瓦礫と噴煙を巻き上げながらビルの林の中へと沈んでいった。

「今だ、シルメリアベーーーースッ!」

 光明を見出した神の咆哮は、天を裂き、人の創りし絶対守護の砦へと向かっていった。




「GE―01から要請来ました!」

 水瀬 遥の報告を受けたマリアは、おもむろに立ち上がり、メインモニターに映し出された機械仕掛けの神の威容を見据えた。これから行う事は博打に等しい。それも、数多の命を賭け金とした馬鹿げたゲームだ。だが、これに勝たねば人類に未来は無い。ならば、乗ってやろうではないか!

「ファイナルコード、オーバーマキシマライズッ!」

 勝つのは…………我らだッ!




 シルメリアベースから送られてきた特殊プログラムコードを反芻したヴェルズは、高らかに吼えた。

「来いッ! GEサポーター!」

 戦場に響きわたった神の声は、鋼の従者達をあるべき姿へと変えるハズ――――だった。

「なッ!?」

 人々の期待を一身に受けた鋼鉄の戦機は、僅かに身体を震わせた後、沈黙した。




 コマンダールームに戦慄が走った。その次に訪れたのは、絶望だ。ようやく手にしたハズの希望が零れ落ちた際に生じた衝撃は、計り知れなかった。しかし、その場に居た人間に挫ける事は許されなかった。

 一足早く立ち直ったマリアは、未だ呆然としているオペレーター達に状況確認を求めた。そうして漸くコマンダールームに活気が戻り始めた頃、司令専用の端末から聞き覚えのある声が響いた。

『すまないね、司令』

「左近水博士?」

『ダメだったんだよ』

 左近水の放った一言は、断片的過ぎて理解できなかった。が、口調の真剣さから極めて重要な事だと言うのは、容易に推測出来た。

『ファイナルコードの要であるプログラム。アレは不完全なんだ』

「博士は完全な状態でなければ出さないと――――」

『どう構築してもあのプログラムは、完全にならないんだ。僕に出来たのは、限りなく完全に近づける事だけだった。だから…………彼らが必要になる日なんて、来なければ良いと思っていた』

 所詮、古の神を再現しようだなんて、愚かな人間の思い上がりだったのかもね。左近水が自嘲気味に零したその言葉に、言いようの無い怒りが潜んでいたのをマリアは見抜いていた。屈辱と不甲斐無さ。それはこの場に居る全ての人間が抱えているモノだと言うことを、彼女は知っていた。




 GEサポーターが役に立たないと悟ったロキは、すぐにヴェルズを叱咤して彼の意識を強引に引き戻した。

 ――――しっかりしろ、昴! 神鎧獣を止めるぞ!

「あ、あぁ」

 歯切れの悪い調子で答えたヴェルズは、従者達を一瞥した。あれだけ猛々しい活躍が嘘に思える今の有り様は、まるで鉄屑だ。

 GEサポーターに一瞬未練がましい眼差しを向けたヴェルズは、やがて振り切る様に眼を背けた。

 そして、神鎧獣が態勢を立て直すのを見るや、素早く引き抜いた神剣を片手に、野獣の如き俊敏さで飛びかかった。

 切り札が使えないんなら、それでも良い。

だったら、この身一つで最後まで戦うまでだ!

 だが、今度は神鎧獣も黙ってはいない。ヴェルズを最大の障害と判断し、アームキャノンを向けた。

 跳躍している今、それを避ける術は無く、ヴェルズは何も出来ないまま、放たれた砲火によって吹っ飛ばされた。

「ガ……アァ……」

 そのまま、ビルに叩きつけられたヴェルズはすぐに立ち上がろうとしたものの、蓄積したダメージは、既に限界値を越えていた。力無く倒れ込んだ機甲神は、どんどん遠ざかってゆく異形の巨人の背を見ている内に身体の奥底から言いようのない感情が溢れ出すのを知覚した。

「チックショォォォォォォッ!」

 そして、抑えきれなくなった感情は、慟哭となって燃ゆる闇夜に消える…………ハズだった。

「情けないですね、全く」

 溜め息混じりの声が、頭上から降ってきた。咄嗟に頭を上げたヴェルズには、その声の主が誰なのかわかっていた。絶望的な状況すらも鼻で笑う様な声音は、奴以外あり得なかった。

 焔渦巻く地表を見下ろす昏い空に、翼持つ影が舞っている。鳥にしては大きすぎるソレは、巨大な龍だ。

 夜空に溶けんばかりの黒と、鮮烈な赤をその身に刻んだ魔龍。その背に新たな影が二つ、佇んでいる。一つは狼、もう一つは女。

「お前達…………」

「自棄を起こすなんて、貴方らしくない。もうギブアップですか?」

 相変わらずの慇懃さで言ったのは、GEトルーパー・ヘルだ。フェンリルとヨルムンガンドが気まずそうな表情をしていたが、冥神の異名を持つ女は構わず続けた。

「曲がりなりにも、神の依代に選ばれたにも関わらず、こんな事くらいで諦めるなんて…………父様の人を見る目も、案外当てになりませんわね」

 ロキは黙っていた。代わりにヴェルズが言い返そうとしたが、彼女の言葉が正鵠を射ている事に気づいて何も言えなくなった。結局、力無くうなだれる事しか出来なかったヴェルズに、ヘルは一度深く息を吐いてから更に重ねた。

「かつて神々と戦った古の邪神は、己が身に魔獣を宿していました」

「――――ッ!?」

 ヘルの唇から零れた魔獣という単語に、ヴェルズが反応した。

 魔獣? まさか、それは…………

「個にして全、全にして個。それが邪神だ」

 フェンリルの発した一言一言が、ヴェルズの身体に染み渡る。

 そうか、お前達こそが…………

「だからこそ、絶対者足り得たのです」

 身体に似合わぬ、ヨルムンガンドの優しい声音が傷ついた肉体を包み込む。

 最後の――――鍵!

 再び顔を上げたヴェルズの瞳に、漆黒の光に包まれた魔獣達の姿が映った。

 こちらの視線に気付いたらしいヘルが、柔らかな微笑みを向けてきた。鋼鉄の無機質さを感じさせない程の穏やかで、蠱惑的な笑みを。

「もう、おわかりでしょう?」

 次の瞬間、光を纏っていた魔獣達の身体が、三つの光条となって夜天を切り裂いた。そして、眠りに就いていた鋼の従者達へと降り注いだ!



 地を駆ける狼が、雄々しく吼えた。



 空を支配する龍が、勢い良く飛翔した。



 闇を統べる女王が、優雅に舞い踊った。



 鋼の従者達――――GEサポーターが、今此処に復活した!

 再び戦える事を喜ぶかの様に、主の周りを飛び回る鋼鉄の戦機を瞥した後、新エネルギー研究所を目指す灼熱巨人を見据えた。

 ――――昴。

「ああッ!」

 牙を剥き、獰猛な笑みを浮かべたヴェルズは、ゆっくりと立ち上がった。

先程まで萎えかけていた魂に、焔が宿る。動かなかった身体が、動く。いや、それどころか、万全時以上の力が沸き上がってくる。

 皆が死力を尽くして作ってくれた、ほんの一瞬のチャンス。ここで決めなければ、合わせる顔が無い。

「行くぞォッ!」

 走り出した機甲神。その脳裏に、邪神ロキの記憶が流れ込む。

 それは、祝詞。遥かな太古の時代より眠る、鋼の戦神を呼び起こすための祈りの言の葉。



 ――――我、ルーンの力を以て更なる神の肉体を呼び覚ません


 ――――我、ニブルヘイムよりも深き冥府の底より這い出でし闇の鎧を身に纏わん


 ――――我、大いなる邪神となりて神聖なる悪意を滅し滅ぼさん!



「マァキシマァッ、ラァァァイズッ!」

 闇が膨れ上がり、全てを覆った。




 数多の神々の中で、邪神ロキだけが有する闇の障壁――――ダーク・フィールド。闇の障壁――――ゴッド・フィールドと似て非なる性質を有するソレは、あらゆる悪意を打ち消すが出来る。例え最高神であろうとも、それを破る事は困難であろう。

 闇を凝縮した無限空間の中でGEトルーパー、タンク、ジェット、フォートレスが旋回の軌道に乗って疾走している。その中央に佇む灰色の機甲神は、己の感覚が際限なく広がってゆくのを知覚した。どう動けば良いのかも、どう戦えば良いのかも、そして…………邪神になる意味も、今なら全てがわかる。

 最初に動いたのは、タンクと同化したフェンリルだった。ヴェルズの下方へと回り込むと、漆黒の機体を三つに分離させて腰と両脚にドッキング。続けて、ヘルの支配するフォートレスが五つのパーツとなって、変形したヴェルズの両腕と両肩、胴体に覆い被さる。そして、ヨルムンガンドの魂を宿したジェットがヴェルズの背中に重なる。最後に、鐵から削りだしたかの様な力強さを有した兜と一体になった瞬間、ヴェルズ――――昴の意識は、白の彼方へと弾き飛ばされた。

「…………ここは?」

 瞑想状態に入っていた意識が急速に覚醒してゆく中、昴は己が今いる場所が何処までも白い事に気が付いた。光が満ちている訳ではない。ただ白いのだ。空も、海も、大地も、そして大気すらも無い空間。

 自分が、何故こんな所に居るのか考えていた彼の眼前に、朧気な影が現れた。

それは徐々に形を得て、人の輪郭へと変わっていった。

 影は、女の姿をしていた。

 何処かの民族衣装の様な服装は、均整の取れた美しい肢体に神聖な雰囲気を付与していた。顔はハッキリと見えなかったが、何故か昴は彼女が笑っているのが理解出来た。

「君は――――」

 ――――お願い…………

 昴の脳裏に、聞いた事の無い声が響いた。儚げでありながら、どこか芯の強さを感じさせる声音だ。それが目の前の女性から発せられたのだと知った時には、すでに次の言葉が紡ぎ出されていた。

 ――――彼を、ロキを守ってあげて。

「待って、君は…………!」

 直後、白の世界が無に帰した。

 そして、本来の肉体を取り戻した鋼鉄巨神の眼に光が灯った。渦巻く闇を力任せに引き千切ると、雄々しく、高らかに、鐵の邪神が吼えた。

「機甲邪神ッ! グゥラン、ヴェルズッ!」




 歓喜一色。今のコマンダールームを一言で表すのなら、この言葉以外に無いだろう。

 圧倒的な絶望を、ひっくり返した雄々しき鐵の威容。メインモニターに映るその姿は本当に人々の希望なのか、それとも――――?

 他の隊員達同様に嬉々とした眼差しをモニターに向けていたマリアは、自分が頭の片隅でそんな事を考えているのに気付いた。己の冷めやすい頭に、ほとほと呆れて我知らず溜息を吐いた。

 そうして思考が冷えてくると、今度は一つおかしな事がある気が付く。こういう事に真っ先に反応しそうな左近水が、やけに大人しい。気になって卓上端末を操作して立体モニターを呼び出すと、白衣姿の男が肩を震わせていた。その様子は、まるで何かを押し殺している様だった。

「左近水博士?」

『ククク…………アッハッハッハッハッハッ!』

 堰を切った様に笑い出した左近水の姿に、マリアは思わず仰け反った。付き合いは長い方だと思っていたが、こんな彼を見るのは初めてだ。

「あ、あの……」

『ん、ああ、ゴメンゴメン。でも、わかったんだよ。GEサポーターに何が足りなかったのかが、さ』

 そう言った左近水は、眩しいくらいの獰猛さを孕んだ笑みを浮かべている。そういえば、心の底から楽しめる事を見つけた時、彼はこんな顔をするんだったか。

 そんな事を思い出して、マリアは苦笑した。

『ロキの子供達。彼らこそが最後のピースだったんだ。邪神とは全なるもの、だから』

 そこまで言って、左近水は一度、呼吸整えた。そして、オカルトは得意じゃないんだけどね、と前置きしてから続く言葉を吐いた。

『どうやら、僕等は神というものを自分達の常識だけで考えすぎていたらしいね』

 今まで憔悴しきっていた左近水の顔に、活力が戻り始めている。長い事悩まされていた疑問から、解放されたお陰なのだろう。

 マリアは「そうですか」とだけ答えた。門外漢が下手に口を挟まない方が良い、と断じたからだ。

 通信を切って、再びメインモニターへと視線を戻したマリアは、先程の左近水の言葉を反芻した。神とは全なるモノ、ならば憂う必要は無いではないか。

 決して一人ではない。私達だって居る。だから、全てを背負ってしまう必要も無いのだ。皆が分かち合い、そして支えて合って行けるのならば、彼は希望であり続けられるハズなのだ。

 組んだ掌の下で、マリアは左近水のソレと全く同じ表情――――獰猛な笑みを湛えた。

 目の前の威容に対する不安は、もうすっかり消えていた。




 立ち塞がる様に降り立った機械巨人の放つ気は、暴走状態にある神鎧獣を立ち止まらせた。

 鐵を纏い、圧倒的なまでに存在を主張する神気。

 己の理解を越える眼前の威容に、神鎧獣は恐怖した。何なんだ? 奴は。さっきまでの小兵とは、全く違う。アレでは、まるで…………

 鐵の巨神が動いた。焔が蔓延する大地をモノともせず、一歩一歩確実に、神鎧獣へ近付いていった。戦きながらも神鎧獣は、僅かに残された理性を総動員して迎撃態勢を取った。神々の使徒である自分が此処で破れる訳が無い。

そう言い聞かせて、両腕のアームキャノンを連射した。

 正面から受け止めた鐵の巨人の姿は、すぐ噴煙に塗れて見えなくなった。機甲神を退けた一撃を、ありったけ叩きつけてやったのだ。完全粉砕を確信した神鎧獣は、そのまま前進しようとした。

 だが…………

 巨神は、そこに居た。莫大な火力を一身に受けながらも、焔を背負う巨体は一ミリたりとも揺らがなかった。

 近づきすぎた、と悟った時には、もう遅かった。

 鐵の巨神が、大きく踏み込んだ刹那、大地が鳴動した。限界まで身を捩り、拳を振りかぶったその姿は遥か古代に作られた彫像めいた美しさを醸し出していた。

 我知らず見とれていた神鎧獣の鳩尾に、衝撃が走った。巨人の拳が、胴体が貫いたと理解できた時には、神鎧獣の魂は二度と戻れぬ深淵に堕ちていった。







「どぉういう事だァッ!」



 暗闇満ちし空間に、バルドルの悲鳴じみた叫びが響き渡った。フレイヤは呆れて溜息を吐き、ミーミルはやれやれと言わんばかりに肩を竦めていた。

「何故だ? 何故、奴は元の姿に戻れたんだ!?」

 それは、此処にいる誰もが抱えている疑問だった。力を失っていたハズのロキが、かつての姿を取り戻して神鎧獣を打ち破った。決してあり得ない、だがそれは実際に起こったのだ。

「どうやら、人間達を見くびりすぎていたのかもしれんのぉ……」

 豊かに蓄えた髭を撫でながら、ミーミルが呟いた。

 その言葉にバルドルが、真っ先に噛み付いた。

「何を仰るのですか、ミーミル老!? お気は確かですか?」

「…………ワシは正気じゃ」

 興奮するバルドルを、ミーミルは眼差しだけで黙らせた。流石は、主神の古き盟友の一人だと言う事か。どこか興味無さ気に彼らを見ていたトールは、ふとそんな事を考えていた。今は若い神達に前と譲っていると聞いたが、まだまだ力は衰えてはいない。いや、むしろ神としての齢を重ねた分、彼の風格はより研ぎ澄まされて深みを増している。戦神としての魂が雷神の本能を刺激し、引き締まった口元に不敵な笑みを刻んだ。

「思い出せ。かつての戦いの際、我々はたった一人の反逆者に苦しめられた挙げ句、長きに渡る封印によって異界の牢獄へと追いやられた」

 そこで一旦言葉を区切ったミーミルは、細めていた目を見開いた。刹那、莫大な神気が老神の身体から発せられ、空間全体が鳴動した。あまりにも圧倒的なミーミルの神気は、最高位の戦神でもあるトールすらも凍り付かせた。

「それは、奴――――ロキが人間を味方につけていたからだ」

「で、ですが!」

 本当だったら、黙って聞いている事しか出来なかった若き神達だったが、絞り出す様な調子でバルドルが反論の声を上げた。その光景に、トールだけでなくフレイヤですらも驚きの表情を浮かべた。

「人間など所詮、有象無象。我らを脅かすだけの力があるとは……」

「馬鹿者、それがあるから我らは負けたのだろうが」

「ぬぅ……」

 返す言葉を失ったバルドルがあっさりと引き下がった。情けない奴と思わないでもなかったが、考えてみればいつもこうだったのを思いだしたトールは、急激に彼らに対する興味を失った。

 人間がどんな力を持っていようと知ったこっちゃねぇ。俺はアイツを倒せればそれで良い

 そう。どんな時でも、雷神トールの為すべき事は変わらない。奴が本来の姿に戻ったのなら、それでも良い。それごと叩き潰せば良いだけだ。

「ロキ、貴様は俺が倒す。精々首を洗って待っていろ!」

 雷神トールの瞳の奥では激しい闘志が、稲妻の如く弾けている。だが、その更に奥でそれ以外の感情が煮えたぎっていた事は、誰も知らなかった。





 Epilogue


 ~覚悟~




 日付が変わる直前にもなると事後処理を担当していた部隊も撤収し、直前までの喧噪が嘘だと思えてしまう冷たい静寂が戦場に満ちた。電力供給が断たれ、街灯すら輝きを失った闇の中を照らしていたのは、満天の夜空を彩る星々の光だ。人工の光が決して持ち得ない柔らかさを孕んだ光は、鋼鉄のオブジェと化した黒き威容を優しく照らしていた。

 片膝を付いて身体を丸めている巨人の姿は、見ようによっては疲れ果てて眠っている様にも見える。たった一人、その場に残った昴は今や抜け殻と化した機械仕掛けの神像を見上げていた。

 ――――昴

「どうしたの? ロキ」

 ――――後悔、してないか?

 常に余裕を保っていたハズの声が、この時だけ微かに震えていた。そこで初めて昴は、ロキと言う存在が全能では無いと実感した。邪神なんて大層な名前で呼ばれていても、悩みもすれば恐れだってする。決して、魂に血が通っていない訳で無いのだ。

「うん。僕は大丈夫だよ」

 その言葉に、偽りは無い。大切なモノを守るために、力を手にした事を悔いてはいない。それよりも、何も出来ないでいる間に沢山のモノが失われるてゆくのが何よりも怖いのだ。そんな思いを味わわず、そして味わわせない為に戦う事を選んだのは間違いでは無いと今もと思っている。

 ――――グランヴェルズは、ヒトの理を越えた力だ。こうなってしまった以上、お前はもう後戻り出来なくなった。それでも…………

「しつこいよ、ロキ」

 やんわりと、それでいて有無を言わさぬ調子でロキを制止した昴は、再びグランヴェルズを見上げた。そうだ。後悔なんてしていない。だから、自分は今此処に居るのだ。

 ――――あと、すまなかったな。庇ってやれなくて。

「え、ああ…………」

 ロキが言わんとしている事は、すぐにわかった。ヘルの挑発に対して、反論しなかった時の事だ。

「良いよ、気にしないで。本気じゃなかったんでしょ? でなきゃ、協力なんてしてくれなかっただろうし」

 ――――そう言ってもらえると助かる。少々、誤解されやすい奴なんだ。

 暫くして、フェンリル達の声が聞こえてきた。

 ――――そろそろ、行くか

「うん」

 昴は、鋼の神像に背を向けて歩き出した。



 鐵の戦神よ。今は眠り、傷を癒すが良い。そして、再び立ち上がれ。破滅をもたらす者を打ち砕く為に。守るべきモノを守る為に!






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