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EPISODE-Ⅳ ~邪神降臨!その名はグランヴェルズ!・前編~

 Prologue



 シルメリアベース。

 日本列島の上空一万メートルの位置に鎮座する白亜の要塞島。対ヴァルハラ組織ガーディアンズの拠点であり、人類を神々から守る最後の砦でもある。その中層にあたる工廠ファクトリーエリアは、政府より特別に独自武装の所持を許可されたガーディアンズの装備品の製造、量産そしてメンテナンスを担当するセクションである。しかし、正式に活動を開始して間も無いガーディアンズに碌な装備など未だ無く、ただッ広いスペースの片隅に主無き灰色の巨人が佇んでいるだけだった。

 そんな場所に、御子神 昴は通されていた。

「……何ですか? コレ」

 眼下に広がる鋼鉄のハンガーで組み立てられている三つの黒鉄を見た昴は、首を軽く傾げた。クレーンで吊り下げられているソレは、昴が今まで見てきたどの機械とも異なる形をしている。そして、何よりも不可解なのがソレが『何なのか』が解らない事だ。

 大抵の機械は、例えソレが如何いう形をしていようとも、用途が解る様にはなっている筈である。ソレなのに、眼下に並んでいる機械達は何者なのかが解らない。どうにも据わりが悪い。

「GEサポーター。邪神の新たなる力です。」

 昴の隣に立つガーディアンズ最高司令官マリア・シュタイナーが、風貌に似合わぬ力強い調子で語った。蒼玉の瞳の奥に抑えきれぬ情動が蠢いている。

 日々多忙な筈なのに、こうやってわざわざ案内を買って出た理由が解った気がした。その証拠か、彼女の顔にどこか少女の印象を自慢げな笑みが浮かんでいる。

「GEサポーター――邪神の、力」

 再びGEトルーパーへと顔を向けた昴は、我知らず手摺りから身体を半身ほど出していた。昴の形の良い唇から零れた呟きには、何か魅了された者特有の震えが混じっている。

「いつ、完成するんですか?」

「それは──」

「あ~、今のままじゃあちっとばかしキビシいかなぁ」言い澱む司令の言葉を遮ったのは、声変わりが不完全に終わった様な甲高い声だった。「動力炉に問題があってね……今の状態じゃとてもじゃないけど実戦にゃ出せないんだ、コレが」

 振り返ると、ヨレヨレでシミだらけの白衣を纏ったいかにもマッドサイエンティストと言った風体の男性が口の端を吊り上げて笑っていた。ボサボサの黒髪と飾り気の無い銀縁眼鏡から覗く眼が、笑みの形に歪んでいる。

 怪しい。兎に角怪しい。街中で会ったら絶対に関わりたくない風体だった。

「左近水博士!」

「にゃははは、相ッ変わらずキレーだねぇ。マリアちゃん」

 そう言って、左近水 蔵人はマリアの臀部を軽く撫でた。あまりにも自然な流れすぎて、昴には一瞬何が起きたのかわからなかった。

「ひゃあッ!? な、何するんですかぁ!」

「にゃはッ! ナ~イスリアクション」

 真っ赤になって臀部を押さえるマリアの姿を、マッドサイエンティストは心底愉快そうに眺めていた。

「あ、あのぉ……」

 ずっと二人のやり取りを見ていた昴は、恐る恐るマッドサイエンティストの方に声をかけた。本来だったら、絶対に関わり合いになりたくない類だが、状況的にそうもいかない。

「ん? 君は……」

「博士。彼が御子神 昴君です」

「ほほぅ……彼が例の……」

 マリアの紹介を聞いたマッドサイエンティストは、興味深そうに昴の全身を舐め回す様に視線を巡らせた。粘り気のある眼差しは、正直気分の良いものでは無かったが、だからと云って昴に正面から突っぱねる様な真似は出来なかった。良くも悪くも御人好しなのだ。

 暫くして、昴が困惑した表情で自分を見つめている事に気がついたマッドサイエンティストは、漸く視線を外した。

「失礼。自己紹介がまだだったね。僕は左近水 蔵人。ガーディアンズの兵器開発部の主任をやってる。あ、そうそう。君のお父上とはちょっとした知り合いだったんだよ」

「え?」

 マッドサイエンティスト改め、左近水の口から父の事が出て来たのは、正直意外だった。高名な学者であった父・御子神 総一郎はその肩書きと人柄で色々な方面に知人が居た。ただ、その内の数人に昴も会った事があったが、少なくともこんなにもあからさまに怪しい人物は彼の記憶の中には居なかった筈だ。

「ま、その話は追々、ね。それよりもどうだい? 昴君。GEサポーター達は」

 昴の逡巡を目敏く感じ取った左近水は、さりげなく話題を別のモノに切り替えた。

「え? あ、どうと言われましても……」

 昴には答えようが無かった。何せGEサポーターなるものがどういう物か、彼にはまだわかっていなかったのだから。

「……それじゃあ、困るんだよなぁ」

 昴の答えに納得出来なかった左近水は、顔を顰めて、何日も風呂に入って無いであろうフケだらけの頭をガシガシと掻きむしった。飛び散るフケの大量さに、昴とマリアはほぼ無意識に後退った。不潔過ぎる。

「このGEサポーターはその名の通り、あらゆる面で邪神――つまり、君をサポートしてくれる言わば、『従者』なんだよ。だから、君は常にこの子達と繋がっててもらわないといけないんだよ。それにもしも、君の力が脅威に及ばなくなった時には──」

「す、昴君!」

 左近水の言葉を遮って、上擦った声がファクトリー内に響き渡った。思わず振り返った昴だったが、掴み掛からんばかりの勢いで迫るマリアに反応できなかった。

「――そ、そろそろ学校へ行く時間じゃないんですかッ!?」

 不自然に語尾の跳ね上がったマリアの言葉に昴は、ファクトリー内に備え付けられた壁掛け時計の方を見上げた。確かに彼女の言う通り、登校時間までもう余裕が無かった。

「あ……」

「さぁ早く! 遅刻はいけませんよ。さぁ! さぁ!! さぁ!!!」

「は、はい!」

 怒涛の剣幕でまくし立てるマリアの勢いに押された昴は、慌ててファクトリーから出ていった。

「……まぁだ彼に話してなかったのかい?」

 昴がいなくなった後、左近水はマリアに半眼の視線を投げつけた。

「今は話す時では無い、と思いましたので」

「時間の無駄だと思うけどねぇ……」

 ズレた眼鏡を直しながら、左近水は眼を細めた。

「……でも、マリアちゃんの気持ちもわからなかぁ無いヨ。この子達の齎す力を手にした瞬間、御子神君は本当の意味で神サマになっちゃうんだからねぇ」

 左近水は未だフレーム状態の機械仕掛けの神の下僕達を見下ろした。

 眼鏡のレンズの反射で、その瞳に何を宿らせていたのかは、誰も知る事は出来なかった。








 Chapter-1


 蠢く神



──二度に渡る地上侵攻作戦の失敗……一体、どう責任をとるおつもりなのかしら? バルドル


──ぬぅ……復活したロキの力がまさか、これ程とは……


──しっかりして欲しいわね。今はともかく、奴が完全に力を取り戻しでもしたら──


──そこまでじゃ。フレイヤ。


──ッ!? ミーミル老!?


──いつ、お帰りに?


──ついさっきじゃよ。『アレ』がやっと見つかったのでな。


──『アレ』……?


──すまんが詳しくは話せぬ。じゃが、それがあれば『神帝』の眠りを覚ます事が出来るハズじゃ。


──な、何とッ!


──い、一体どうすれば!?


──バカか? テメェら。ジジィは話せねぇって言ってたろうが。


──なッ!? 貴様はッ!


──貴方も目覚めていたのね……


──ンだよ、文句あンのか?


──そこまでじゃお前達。こやつは『アレ』を探す道すがら偶然見つけてな。奴らも一緒にいたんでそのまま連れて来たんじゃ。


──そうでございましたか……


──ところで、未だ地上侵攻とロキの抹殺は叶わぬ様じゃのう。バルドルや。


──……申し訳ごさいませぬ。ミーミル老。


──よいよい。こちらには切り札がある。それで挽回すれば文句は言わん。


──切り札……? まさかッ!?


──フフ……そのまさかじゃよ。


──ちょっと待て! 何勝手に話進めてんだ!


──おぉスマンスマン。主の事を忘れておったわ。


──……クソジジィ


――むぅ……クソは余計じゃ。クソは。――で、お主はどうしたいんじゃ?


――……別に。使いたきゃ勝手に使いな。


──ほっほっほ。物分かりが良くて助かるわい……雷神トール。






 神機獣の襲撃という最大級の不幸に見舞われ、一時休校となっていた天道院学園も事態が小康状態に入ったのを機に、授業を再開した。

 一応休み明けという事で、正門前では多くの生徒達がどこか気怠げな顔で歩いていた。が、文句は云っても身体は動く。哀しい学生の性である。

「ふぁ~ぁ……」

 昴もその例に漏れず、眠気混じりの大きな欠伸をしながら登校していた。久しぶりに袖を通したブレザーが少し重い。

──ほう……

 魂の内に潜む邪神ロキが感嘆を孕んだ声を上げたのは、そんな時だった。いささか間の抜けた調子だったので、昴は、彼にもこんな声が出せるのか、と感嘆した。

 些か、失礼だったろうか?

「どうしたの?」

──ん? ああ……ちょっと感傷に浸ってただけだ。俺が眠っている間に人の世も随分変わったなんだなってな。

「そうなんだ」

──ああ。前の時は学問なんてのは富裕層の子女がやる様なモノだったからな。それに──ん?

「ロキ?」

──……昴。学校と言うのは、ペットを持ち込んでも良いモノなのか?

「……へ?」

 怪訝そうに唸っていたロキが発した意味不明な疑問に、昴は間抜けな解答しか返せなかった。ちょっと感心したかと思えば……何を言い出すんだろうか、コイツは?

──いや、あの校門の前にいる奴もココの生徒じゃないかと思ったんだが――違うのか?

 昴は校門の方に視線を巡らせた。すると、正門の前で佇む黒髪の少女の姿が彼の瞳に映り込む。儚げで今にも消えてしまいそうな印象の割には、やけに周りから浮いている。

 原因は、多分少女の両手の先にあるモノだ。

 右手に蛇の入った籠。左手に大型犬よりも大きな犬──と言うより狼か──と繋がったリード。それらが、校門前を行き交う生徒達の流れ中でかなりの異彩を放っていた。

「僕も見た事ない……」

 一瞬、他の学年の生徒かと思ったが、よく見ると彼女の着ているのは制服では無くフリルの付いた白い上品なサマードレスだった。

 怪しい。どう見ても怪しい。一見すれば深窓の令嬢然としているが、何と言うか雰囲気と云うべきか。眼に見えない何かがそう云う品の有る印象を打ち消し、あまつさえ覆い隠してしまっている。

「あのぉ~」

「は、はい!?」

 思考の海に意識を沈めていた昴は、いつの間にか眼の前に来ていた少女に気がつかず、半ば不意打ち同然でかけられた声に妙に裏返った返事をしてしまった。

 昴が顔を上げるとあの黒髪の少女が自分を覗き込む様に見つめていた。

「……ッ!」

 昴は、思いッ切りたじろいだ。

 同年代の女性にここまで接近された事は無い――事は無いが、いずれの場合も異性と言う認識が無かった。その為、今、昴はこの半ば不意打ちみたいな状況をどうして良いのかわからなかった。

「……私の話、聞いていますでしょうか?」

「あ、はい!

聞いてます! ちゃんと聞いてますとも!」

「そうですか? でしたら……」

 次の瞬間、少女の紡いだ言葉に、今度こそ昴は思考停止に陥った。其れ程までに彼女の言の葉は思いもかけなかった。

「御子神さんのお宅は、どこにあるのでしょうか?」




 その後、昴は昼休みまで茫然自失、抜け殻状態だった。原因は勿論『あの少女』の事である。

 最初の襲撃の後、御子神邸の周辺一帯には、あまりの惨状故に立ち入り禁止となっている。かなりの物好きでない限り、近づく酔狂な人間はまず居ない。

 それに、彼の家はほぼ全壊状態。焼け残った物など、皆無に等しい。その様な場所に、一体何の用があると云うのだろうか?

「あの娘……一体誰なんだろう」

 憂いを孕んだ眼差しで窓の向こう側の景色を眺める少年の姿はかなり絵になる光景だった。ある者は頬を赤らめながら、遠くから彼を見守り、またある者は鼻血を盛大に吹き出しながら昏倒し、そしてまたある者は――

「どうした昴ゥ! 好きな女でも出来たかぁッ!?」

 ――無遠慮に、少年へとカラんでいた。

「なッ、何言ってんだよ真吾!」

「照れるな、照れるな。そうかぁ~お前にもやっと……」赤面しながら弁解する昴の話を、猪狩 真吾は全く聞かずに喋り続けた。「いやぁ~、俺は嬉しいぜ。お前は見てくれが良い割には、浮いた話が一切無かったからなぁ」

「顔は関係無いだろ! ってか、何でそんな話になってるんだよ?」

 自身の容姿に関する話が出て少し傷ついた昴だったが、すぐに持ち直して湧いた疑問を、無神経な親友にぶつけた。すると、彼は意外そうな表情を浮かべた。

「あれ? 違うのか? じゃあ、お前が正門のトコで女の子と会ってたってのは……」

「あ、それはホント」

「それじゃあ」

「でも、あれは道を聞かれただけだよ」

 それを聞いた真吾は顎部に手を当て暫く考え込んでいたが、やがて真面目な表情で言葉を紡いだ。

すこぶる嫌な予感がした。

「……けど、ホントなんだよな?」

「うん」

 珍しく真面目な顔の真吾に気圧された昴は、頭をコクコクと縦に振った。眼がやけにギラついていて、異様に怖い。こう云う時は、決まって碌な事にならない。

「そっか……じゃあ、これからだな!」

「へッ?」

 眼を丸くしている昴の首に腕を回した真吾は、諭す様な口調で言った。

「いいか昴。細かい事はな後からいくらでも変えられるんだ」

「いや、意味わかんないよ」

 無茶な理屈を並べる真吾に呆れた昴は、人生十六年の中でも、多分上から数えたら早い位の大きな溜息を吐いた。

 そのせいか、今まで何に頭を悩ませていたのかをすっかり忘れていたのだった。




 その頃、御子神邸跡地に三つの影が佇んでいる。確かに存在している様に見えて、不安定に揺らいでいる様にも見えるソレらは、朝方昴が目撃した少女達であった。

「ひゃあ~……随分派手にやったなぁ」

 眼前に広がる惨状に、『蒼い狼』が眼を丸くした。

「……確かに。何もここまでやる必要は無かったでしょうに。おかげで、ココからは何も見つかりません」

 まぁ、それが目的だったんでしょうね、と『黒蛇』もその光景を見て、苦々しく唸った。

「仕方ありませんよ」彼らの言葉を聞いていた闇色髪の少女は、無感情な調子で口を開いた。「奴らにとって一番の脅威なのは、邪神の完全覚醒。それを阻止する為に、少しでもその力に影響を受けているモノを根こそぎ排除しようと考えたのでしょう」

 そう言って少女は辺りを見廻した。彼女達が今いるのは、先日まで御子神 昴が住んでいた家、いや正確にはその跡地である。最初の神機獣襲来の直後、謎の爆発が起こり、この地に残っていた建物部分は原型を残さぬほどに、燃え散った。

 少女達は、それが邪神復活を恐れる者共の仕業だと踏んでいた。

「ですが、それも徒労だった様ですけどね」

 一人ごちた少女は、唇の両端を吊り上げて笑みを浮かべた。清楚な美少女然とした雰囲気はもはや消え失せ、後に残っていたのは無邪気に極めて近い邪悪さだった。

「……お前、今スッゴく悪い顔してるぞ」

 蒼狼が呆れた風に呟いた。確かに、今の少女は口許だけが笑っていて、眼が笑っていない、という歪つな表情をしている。それに対し、彼女はその表情のまま、蒼狼に言い返そうとした。

 その時だった。

「――!」

 三人、いや一人と二匹は神経がざらつく様な感覚を覚えたのは。

 右手を側頭部に添えた少女はあさっての方向に頭を巡らせた。

「これは……」

「神機獣? いえ……これは神鎧獣!?」

「って事は雷神も復活したって事かよ」

 少女に続いて蒼狼と黒蛇も同じ方向に頭を向けた。

 彼女達が眼には、空が何か不可視の淀みが異形の渦を巻いている様に見えていた。






 Chapter-3


 神の子供達



 あの後、どこかから噂を聞き付けたのか涼城 朱梨が凄い剣幕で詰め寄られた時は本当に大変だった。必死の説得により何とか納得してくれた様だったが、それ以来彼女は昴とまともに話そうとしなかった。ちなみにその時、宥めようとした真吾が一撃で沈められ、放課後まで保健室で死んだ祖父と会っていたトカいないトカ……

「はぁ……なんか疲れた」

 一人寂しく帰路についていた昴は今日一日を思い出して、残り少ない生気を吐き出すかの様に大きな溜息をついた。

 今朝の変な少女の事。癇癪を起こした朱梨の事。そして、ガーディアンズ隊員としてのこれからの事。

考えなければならない事は沢山ある。が、今はそれらを後回しにしてでも休みたかった昴は、歩を進める事だけに集中した。

 今の昴はシルメリアベースの居住エリアで生活をしている。そこまで行くには、天空の要塞と地上を繋ぐ重力トランスポーターを利用する他は無い。しかし、それには専用のパスコードキーが必要で、新入隊員である昴にはまだ支給されていない。従って、彼が重力トランスポーターを利用するには最低一人のガーディアンズ隊員の付き添いが必要だった。非常に面倒臭い話だが、仕方が無い。

 ちなみに、ベースから学校に行く途中までは教育係の隊員に送迎してもらっている。そして、それを担当する隊員とは……

「昴君!」

「遥さん」

 ガーディアンズ新人オペレーター・水瀬 遥だった。

 彼女はガーディアンズの捜査車両である黒いスポーツカーを並走させる様に昴いる歩道に近づけた。

「どうしたんですか? 合流地点はまだ先じゃあ……」

 何気ない口調で昴は問う。だが、それは遥の口から紡がれた悲壮で衝撃的な叫びに掻き消された。

「神機獣反応です!」

 大地を揺らす轟音が響き渡ったのは、その時だった。




 同じ頃、中苑市郊外で堅牢な鎧に身を包んだ巨人が街を蹂躙していた。

 巨人は目につく物を本能の赴くままに破壊してゆく。その腕で、脚で、肉体で。全身が武器そのものと云った風体の巨体が暴虐を乗せて暴れまわる。

「アレは神機獣……じゃない!?」

 現場に到着した昴達は、神機獣とは違う異形の巨人の出現に困惑した。全身を強固な外皮で包み込んだ意匠は、これまで出現した神機獣とは明らかに異なっている。

「そんな……ヴァルハラの戦力は神機獣だけじゃなかったの!?」

「クッ……遥さん。僕行きます」

「わかりました――サポートと避難誘導は任せて下さい!」

 頷いた昴はスポーツカーを降り、暴れ回る神機獣の下へと走った。

「行くよ!ロキ!」

──…………

「どうしたの?」

──……いや、何でも無い。行くぞ! 昴!

「うん! マテリアッ・アァップ!」

 黒い閃光に包まれ漆黒の鎧騎士へと姿を変えた昴──ヴェルズ・トルーパーは跳躍し、まだ無事な人家の屋根伝いに鎧巨人へと接近した。

「クソッ、好き勝手やりやがって……ん?」

 暴虐の限りを尽くす鎧巨人を忌々しげに睨みつけたヴェルズは、あるモノを見つけた。

「あれは……女?」

 鎧巨人の足元に、一人の少女が佇んでいる。無差別に破壊を行う巨人に対し、恐れを見せるどころか、逃げる様子すら無い。

 「チッ、興味本位にも程があるぞ……オイッ!」

 苛立ち気味のヴェルズは、少女に呼びかけた。すると、少女は振り返って彼の方を真っ直ぐに見つめ、そして――笑った。

「――ッ!?」少女のその行動に一瞬戸惑ったヴェルズだったが、気を持ち直して彼女の眼前に降り立った。「何やってんだ!? 死にてぇのか!?」

 掴みかからん勢いで怒鳴り付けるヴェルズに少女は再びにこりと笑いかけた。

「また……お会いしましたね」

「はぁ?」

 何言ってるんだ? コイツは。

 一瞬そう思ったヴェルズだったが、少女を良く見返して見ると、その姿に見覚えがあった。

 闇色の髪とこの時期にはおよそ似つかわしく無い白のサマードレス──

「お前は……!」

 そうだ。思い出した。

 今、眼前に居るのは、今朝会ったあの少女だった。その証拠に彼女の右手には、黒蛇の入れられた籠。

左手には蒼毛の犬に繋がれたリード。こんな娘が二人も居る筈が無い。しかし──

 だが、ちょっと待て。あの時に会ったのは……

 あの時、彼女と会ったのは、神騎士ヴェルズでは無く、人間・御子神 昴であった。見た目は勿論、口調も、性格も違う。到底、同一人物とは思えないほどに。それにも関わらず、彼女はまた会った、と言い切った。

「お前は一体――?」

「フフ……」

 その時、鎧の巨人が二人に気付き、強固な脚を大きく振り上げた。

「しまっ──」

 気付いた頃にはもう遅く、鎧巨人の脚は漆黒の神騎士と闇色髪の少女を纏めて無慈悲に踏み潰した……ハズだった。

「――?」

 手応えはあった。だが、何かがおかしい。

 違和感を感じた鎧巨人は足元を覗き込んだ。すると地面と足裏の間から、どこまでも暗く、どこまでも深く輝く黒い光が溢れているのが見えた。

「調子に――」

「ッ!?」

「――乗ってんじゃ、ねぇぇぇぇぞぉぉぉぉッ!!」

 世界を震わさんばかりの咆哮と凄まじき力が鎧巨人を押し返した!

 黒い光柱が天を衝き、その中で二つ紅い輝きが煌めいた。

「うぅおおおおお……」

 光柱を突き破る様に鋼鉄の腕が現れ、

「ハアッ!」

 裂帛の気合と共に、黒い光柱を引き裂いた!


 命溢れる世界を破壊せんと聖なる邪悪が蠢く時、全てを守る為に心清き邪神は降臨する。


「来やがれ! ヨロイ野郎ッ!」




 燃ゆる街に、鋼鉄が踊る――。

「そぉぉらぁぁッ!」

灰色の機械巨人──GEマシンノイドと化したヴェルズは跳躍し、鎧巨人目掛けて跳び蹴りを放つッ!

ようやく体勢を立て直した巨人は、正面からソレを顔面に喰らい、再び地に臥せた。

「見たか! この野郎ッ!」

──気をつけろ。奴にはこの程度の攻撃は通用しない!

「何ッ!?」

ロキの忠告通り、鎧巨人は何事も無かったかの様に立ち上がった。鎧の間から除く血走った瞳を憎悪で滾らせながら。




 破壊された街から逃げ延びた黒髪の少女達は、街全体を見渡せる高台の上で二体の巨人が繰り広げる戦いをじっと眺めていた。

「随分と手間取っている様ですね」

「トーゼンだ。相手は神鎧獣だ。力を取り戻しきれてない状態で勝てるかよ」

 少女の左手の鎖に繋がれた蒼い大型犬が、ガラの悪い口調でそう言った。

「それでも良く戦っている方ですよ。少々押され気味の様ですが」

 右手の籠の中の黒い大蛇は、大型犬とは対象的な穏やかで丁寧な口調で語る。

 両者とも素っ気無い口調だが、奥底に燃ゆるモノがたゆたっている。

「ってかよぉ、テメェがあんな回りくどい真似しねぇで普通に接触してればこんな事にはならなかったんじゃねえか? ヘル」

 大型犬は半眼の瞳で少女──ヘルを睨んだ。

 ヘルは涼しげな笑顔で二匹──否『二人の兄』に言った。

「今度の依代が私達のマスターたり得るか、それが知りたかっただけですわ」

「要するにまだ信用出来てねぇから試したってか? はッ! ご苦労なこって」

「悪い癖、ですね」

 兄達に揚げ足を取られてもヘルは全く動じず、変わらぬ涼しい顔で巨人達の戦いを見つめ続けていた。




 鎧巨人の堅牢な装甲を前に、さしものヴェルズも苦戦を強いられていた。

「GEミサイルマイトォ!」

 両腕のスリットから解放された四本の生体推進爆弾は全て鎧巨人に命中した。焔の華と黒煙のヴェールが鈍色の威容を包み込む。

「やったか!?」

──いや、まだだ!

 ロキの言う通り、焔と黒煙を裂いて現れた鎧巨人の装甲には掠り傷一つ付いてはいなかった。

「ッ! なんて野郎だッ!」

──やはり奴は……神鎧獣!

「神鎧獣ぅ!? 何だそりゃあ!?」

 ヴェルズが、神鎧獣の攻撃を受け流しながらロキに尋ねた。

──ヴァルハラが飼っている化け物兵隊の一種だ。奴等の強固な躯は少々厄介だ。

「チィ……神機獣だけじゃ無かったのか――よッ!」

 悪態を吐きながらも、ヴェルズは胴に蹴りを入れて神鎧獣を引き剥がした。

「行くぜ! ミストソォォォォドッ!」

 神剣・ミストソードを手にしたヴェルズは神鎧獣目掛けて突貫した。

 踏み込みは、ヴェルズの方が僅かに早い!

「ミストソード・スラァッシュ!」

 裂帛の気合と共に繰り出した必殺の斬撃。それは、神鎧獣の脳天に吸い込まれる様に振り下ろされた!


 一閃ッ!!


 金属同士がぶつかり合う甲高い耳障りな音が辺りに響き渡った。手応えは……

「なッ!?」

 ヴェルズは驚愕のあまり、絶句した。

 今まで数々の敵を屠ってきた必殺剣ミストソード・スラッシュ倒せぬ者など存在しないハズの一撃。それがたった今、いとも簡単に破られてしまった。

 闇の力を纏った神剣は神鎧獣の兜に受け止められていたのだ。

「ガアアアアッ!」

 必殺の一撃を耐えきった神鎧獣は血走った瞳に不敵な輝きを宿らせると、眼前の邪神を挟み込む様に凶悪なフォルムを持つ両の拳を殺到させた。

──闇の障壁ダーク・フィールド

 呆然としているヴェルズに代わり、ロキは邪神を包み込む様に闇色の障壁を展開させた。それのおかげで殺意を乗せた鋼鉄の拳が邪神を捉らえる事は無かった。

──しっかりしろ! 昴ッ!

「あ、ああ……ワリぃ。けど、助かったぜ」

 ロキの叱咤で平静さを取り戻したヴェルズは頭を振りながら後退した。

──万事休す、か……

 ロキは苦々しい調子で呟いた。

「……るせぇ。まだ負けてねぇよ」

 ヴェルズはそう反論したものの、そこにはいつもの勢いは感じられない。彼も気付いているのだ。現在の状況が、どれだけ絶望的なのかが。だが……それでも……

──だが、奴の装甲を破るのは、今の俺達では不可能だ。

「んなモン……やってみなきゃワカンねぇだろうがぁぁぁッ!!」

 咆哮を上げたヴェルズは、全体重を乗せた拳を神鎧獣のドテっ腹に叩き込んだ。

「ウゥオオオオッ!」

 連撃!

 連撃!!

 さらに連撃!!!

 熱き闘志を込めた鋼の拳はただ一点を──神鎧獣の鳩尾を打ち続けた。

「ガ、ガァァァ……」

「これで終わりだぁぁぁッ!」

 持てる全てを込めた最後の一撃が凄まじい勢いで突き刺さった。

 が、神鎧獣はそれでも倒れず、悠然と、ヴェルズを見下す様に佇んでいた。

「クッ……」

 これでも、駄目なのか?

 出せる手札カードを全て出し尽くした。ヴェルズはなす術も無く、ただ呻くしか無かった。

 そんな彼を嘲笑う様に、神鎧獣の口腔に破滅を帯びた白光が宿る。

「……ッ!」

 その輝きの正体を悟ったヴェルズは、これから味わうであろう苦痛に備えて、殆ど無意識に身体を強張らせた。


「……ったく、しょうがねぇなぁ。まったくよぉ!」


 遥か天空からそんな声が降ってきたのは、その時だった。

「ギッ!?」

 猛スピードで降下した何かが神鎧獣の眉間に激突した。

「な、何だぁ……?」

 一部始終を呆然と眺めていたヴェルズは、神鎧獣に激突した『それ』に目を向けた。

 それは狼だ。

 しかし、その狼の身体は蒼を基調とした──強いて言えば、GEトルーパーの鎧に似た鋼の装甲に包まれていた。

「随分苦戦してるみてぇだな。どうだ? 手ぇ貸してやろうか?」

 地上に降り立った鋼の狼は、ヴェルズに獰猛な笑みを向けた。

「お前は──」

──フェンリルか?

 ヴェルズの言葉を遮る様にロキが叫んだ。

 それを聞き取ったらしい鋼狼は、この場の雰囲気に似合わぬフランクな口調で返した。

「おう! 久しぶりだな親父ぃ!」

 突然現れた奇妙な闖入者に、半ば気圧されていたヴェルズだったが、ある事に気付いて、鋼狼──フェンリルに問い掛けた。

「おい。お前」

「ん?」

「どうしてロキの声が……」

「ったりめぇだろうが! 親の声が聞こえねぇなんて子供が何処にいるってんだよ! わかったか。ボウズ!?」

「なッ……」

 フェンリルの柄の悪い口調にヴェルズは絶句した。と言うかカチン、と来た。何故、いきなり現れた奴にここまで言われにゃならんのだ。

「誰がボウズだ!? 誰が!?  俺の名は御子神──じゃなかった、ヴェルズだ! 覚えとけこの馬鹿犬!」

 フェンリルに負けず劣らずの柄の悪い口調でヴェルズは言い返した。

 売り言葉に買い言葉。フェンリルも既に止まれなくなっていた。

「なぁにがヴェルズだ。

このカッコつけのクソボウズ! それに俺は犬じゃねぇ! アスガルド最強の魔狼フェンリル様だッ!」

「んぎぎぎぎぎ……」

「んぐぐぐぐぐ……」

 馬鹿二人の睨み合いにロキの苛立ちは臨界寸前に達していた。

──お前ら……

「いい加減にして下さい! 二人共!」

 窘めようとしたロキの声を遮って、遥か天空からの諌言が睨み合う二人に降り注いだ。

 怪訝に思ったヴェルズは空を仰いだ。すると彼の機械仕掛けの瞳に、雲一つ無い蒼穹を翔ける“何か”の影が映った。

「鳥──いや、龍?」

 それはフェンリルと同じ鋼の身体を有する白銀の巨龍だった。

──ヨルムンガンド!

「止めんなヨルムンガンド! 俺はこのクソボウズにきっちりヤキを……」

「兄様」

 どこか甘い響きを持つ声が、窘める様にフェンリルに投げつけられた。

龍の声では無い。

 その声を聞いたフェンリルの蒼い貌が、血の気が引いた様にさらに青くなった。

──ヘルか

「まだ居ンのかよ……」

 もう一人存在するという事実に、ヴェルズは呆れ、思わず頭を抱えた。さっきから状況に付いてゆくだけで精一杯だと言うのに、これ以上ややこしくなるのは勘弁して欲しかった。

 鋼の巨龍の背から顔を出したのは、ヴェルズのトルーパー形態に似た外観の黒いヒトだった。だが、男であるヴェルズと違い、それはほっそりとした女性的なシルエットだった。

「今はそれどころでは無いでしょう? もし続けたいなら私が相手になりますよ」

 黒い女の口調はどこまでも穏やかだったが、フェンリルの顔色はますます青くなっていた。

 ウゥゥウオオオオッ!

 大地を揺るがさんばかりの咆哮が轟いたのは、その時だった。

 その場にいた全員が振り向くと、そこには、鎧の隙間から覗く瞳に憤怒の光を宿した神鎧獣が佇んでいた。どうやら、無視された事が相当頭に来ていた様だ。

「ガァアアアアッ!」

 雄叫びと共に走り出した神鎧獣は、怒りを込めた拳をヴェルズとその足元のフェンリルに繰り出した。

 ヴェルズとフェンリルはそれぞれ別方向に散開して、間一髪でかわした。

「チイィ……うっとおしいんだよ!」

 瓦礫を蹴って反転したフェンリルは、赤く輝く爪と牙を駆使して神鎧獣に攻撃を仕掛けた。

 赤い閃光が、軌跡を描いた。

「そらそらそらそらぁぁぁッ!」

 驚異的なスピードで自分より遥かに巨大な神鎧獣を撹乱しつつ、フェンリルはある一点を攻め続けた。

「終いだぁ!」

 叫びと共に、フェンリルの爪が更に強く輝いた。

爆光の爪撃、その名は――!

「ブゥレイクゥゥゥクロオォォォォッ!」

 紅の滅殺爪が神鎧獣の胴体のど真ん中に炸裂! 

 その場所は、ヴェルズが叩き続けた場所でもあった。

 鋼狼の渾身の一撃を受けた神鎧獣は、今までのダメージも相まって、その鈍色の巨体を大きくのけ反らせた。

「ヨルムンガンドッ! ヘルッ!」

 フェンリルの天に向けた叫びに応え、鋼の黒龍が神鎧獣に目掛け、急降下した。

 龍の操る灼熱焔は、全てを焼き尽くす。

「フレイムブレス!」

 ヨルムンガンドが吐いた爆炎の吐息が神鎧獣の鳩尾──ヴェルズ達が攻撃した場所をピンポイントで灼いた。

「頼みましたよ……ヘル!」

 全てを託されたヘルはヨルムンガンドの背に立ち、頭上に掲げた両手の間に極低温の冷気を凝縮させた。

「凍結せよ……」

 絶対零度に達し、掌の中で暴れ狂う冷気を神鎧獣の赤熱する部位に向けた。

 神界の氷獄、生者に慈悲無し!

「ブリザードウェーーーーブッ!」

 解放され、荒れ狂う無慈悲なる冷気は赤熱する胴体ごと神鎧獣を包み込んだ。

「今です! トドメを!」

「お、おう!」

 ヘルに促されたヴェルズは再度、神鎧獣目掛けて突貫した。

「ハアアアアッ!」

「グオオオオッ!」

 力づくで冷気の呪縛から逃れた神鎧獣は、突っ込んでくるヴェルズに向けて、残された全ての力を込めた鋼鉄の拳撃を放った。

「甘いッ!」

 迫り来る死の鉄槌。それをヴェルズは身体を大きく沈める事でかいくぐる事に成功した。そして――

「これで……終わりだぁぁぁぁッ!」

 こちらも残されたモノ全てを込め、アッパーじみたボディブローを神鎧獣の堅牢な装甲に突き刺す。

 急激な温度変化によって劣化した装甲は嘘の様に脆くなり、ヴェルズの拳撃に耐える事が出来なくなっていた。

 筋肉組織を露出した無防備な胴体に加えられた強烈な一撃。しかし、それでも致命傷にはならず、鎧に包まれた両腕は敵手を求める様にぎこちなく虚空をさ迷った。

「くたばりやがれェッ! GEミサイルマイトォッ!」

 完全零距離で放射された生体推進爆弾が、巨人の剥きだしの胸部に炸裂した。

 火花と黒煙を曳きながら吹っ飛んだ神鎧獣は、周辺のビルを巻き込んだ末、大地に倒れ伏した。

「やった……か?」

 大きく肩を上下させながら、盛大に巻き上がった砂煙の向こうをヴェルズは睨みつけていた。

 今度は確実な手応えを感じていたのだが、それでも心の奥底に巣喰う不安を払拭しきれない。やがて、砂煙が晴れてゆき、視界が明瞭になってゆくにつれ、倒れ伏しているであろう神鎧獣の巨体の輪郭が見えてくる様になった。

「なッ!?」

 大気中を漂う黄土色のカーテンの隙間から異形の巨人の姿を捉らえたヴェルズは、驚愕に眼を瞠った。そして、彼の内に潜む存在も同様の反応を示した。

──神方陣ルーン・サークル……

 譫言の様に、ロキが今神鎧獣に起きている現象を表す単語をポツリ、と呟いた。

 倒れた神鎧獣の巨体の下の地面から、稲妻を帯びた巨大なサークルが浮かび上がっている。

「な、何なんだよコイツは……」

 呆然と呟くヴェルズをよそに、神方陣の稲妻は勢いを増していった。

──ッ!? マズイ!

 無数の稲妻に包まれたサークルは、やがて強烈な白光を放ち、世界のありとあらゆるモノを白く塗り変えた。




 Epilogue


 ~出会う者達~



 戦いが終わり、絶望が漂う街。傷ついた魂のたゆたう場所で、昴は彼らと出会った。

「カぁ~……っ。随分と派手にやらかしたなぁ」

「仕方ありませんよ。相手は神鎧獣。この程度で済んだだけマシな方ですよ」

「そういう私達もかなり暴れてしまいましたけどね」

 荒廃した街を眺めていた狼と蛇、そして少女は、目の前の惨状に対し、三者三様の――どこか他人事の様な――感想を漏らした。

「あ、あの……」

 少し離れた場所に居た昴は、そんな一人と二匹に恐る恐る声をかけてみた。一斉に振り返った六つの視線が戸惑う少年に向けられる。

「君達は一体……? それにあの姿は……」

 困惑を孕んだ昴の問いに、少女は穏やかな、それでいて冷たい口調で返した。

「……お父様にお聞きにならなかったのですか」

「え?」

 なおも困惑を深める昴の姿を見た少女は、眼を細めて探る様な視線を彼に向けた。

「聞こえているのでしょう。お父様」

──ッ!

 その時、昴は己の内にあるロキの意志ココロが硬直したのを感じた。彼にしては、珍しい反応だ。

「ロキ……?」

 呼んでみたが、応答は無い。

「何故──彼に何も話さなかったのですか? お父様」

「……ッ!」

 急激に辺りの気温が下がった。昴は哂う少女から、異様な程にデタラメな覇気──の様なモノをその身で感じていた。冷や汗や脂汗が全身から噴き出すのを止める事が出来ない。

「それくらいにしとけよ。ヘル」

 依然、ダークなオーラを放ち続ける少女に、狼がやれやれ、と言った風に宥めた。

「そうですよ。父上は多分僕たちが生きていた事を知らなかったんでしょう」

 狼に続き、大蛇も諭す様に少女に言った。

 二人の『兄』の言葉を受けた少女は、不承不承ながらもドス黒いオーラを内に収めた。

「……わかりました。兄様方がそう言うのなら……えっと、御子神さん、でしたね?」

 穏やかな表情に戻った少女は、昴の方に向き直った。

「父様が何もお話しになっていない様なので、私が御説明させていただきます。私達は、邪神ロキの精神の一部を切り取って作られた分身──まぁ、使い魔みたいなモノだと思って差し支えはありません」

「あ……」

 だからなのか。彼女達がロキの事を『父』と呼んでいたのは。

 ロキの一部から作られた彼女達が、創造主たるロキを“父”と呼ぶのは別におかしい事では無いだろう。

「長き眠りから目覚めた私達兄妹は、時を同じくして復活したヴァルハラの神々と戦う父と新たなる主人マスターである貴方の事を知り、この国に来たのです」

 昴は何故、と聞こうとしたが、それより早く少女は言葉を重ねた。

 その時、にこやかに笑う少女の横顔に紅い夕日が射し、美しい陰影を刻んだ。

「貴方と──共に戦う為に」





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