黒色の銃
「行くぜぇ!」
あっという間に間合いをつめた榎口先輩が斧を振り上げた。
「う……」
この距離じゃ弾は使えない。僕はグリップを両手で持った。
確かに実戦経験は無いけど、対接近戦はしている。
斧が振り下ろされる。横に避けて、切り上げるように銃を振った。
「おぉ!?」
榎口先輩は慌てながら銃を避けた。間合いを取り、
「な、なんだよ、実戦経験が無いにしてはやけに動けるじゃんか」
何やら呟いている。
「けど、だからってオレは負けねぇけどな! なんてってたってたの…」
「シャインレーザー!」
「ファイヤーボール!」
「うぉぉ!?」
左右から火球と光の光線が飛んできた。緋鳴と七功先輩の魔法だ。
「人が話してる時ぐらいはちょっと待ってくれていいだろ!」
榎口先輩は斧を縦に構え、
「アースピラー!」
唱えた。
すると、先輩の左右に地面から土の柱が立ち、火球と光線を受けた。
これが榎口先輩の魔法……土属性なのか。
「予想外にお前は強そうだだから……」
ガシン!
斧の先で地面をつく、
「え……!」
「きゃあ!」
緋鳴と七功先輩の周りに土の柱が複数本現れ、2人を囲ってしまった。
「緋鳴! 先輩!」
「よそ見してる場合か!」
榎口先輩が斧を振り上げていた。
「!?」
銃を両手で持って、前に置く。
「うっ……」
何とか防げたけど……明らかにあっちの方が力は上、加えて押される形になっている僕がいつまで持つか。
「どうした? もう終わりか?」
「くっ……」
「珀露!」
「ハクロウくん!」
このままではダメだ……力負けして、やられる。
おそらく、緋鳴と七功先輩だけでは勝てない。
いや、そこに僕程度がいたところで、何の戦力にもならない……
……くやしい
負けたくない
トクン
……え?
この感覚……まさか……
……いや、当たり前か
だって、七功先輩もそうだったんだから……
「……」
目に見えた景色は、榎口先輩と、押し付けられる斧、それを防ぐ、白黒の銃。……それが、色を変えていく様。
銃の白い部分が、黒に染まっていく。六角の面についた6つの銃口の内、白い面だった3つが黒に染まって、閉じられた。
白黒に彩られていた銃が、黒一色に、染まった。
「……」
そこから、僕が動き出した。
「お?」
斧に押されていた銃を、横に滑らせて外す。
「な!?」
斧は押されていた力と重力に従って、地面に刺さる。
それを横目に、僕が銃口を目の前にいる榎口先輩に向け。
引き金を引いた。
「っあ!」
至近距離からの弾丸を避けられる筈もなく、先輩は後ろへと後ずさった。
「……」
僕が足を動かし、緋鳴の所へ向かった。
「大丈夫か?」
「珀露……アンタまさか」
「……」
僕は、頷いた。
七功先輩は、七つの人格がある多重人格者。
それを聞いた僕は、特に驚くことはなかった。
何故なら、僕もそうなのだから。
僕の場合も、何を引き金に変わるかは分からないけど、人格は普段の僕を含めて、3つ。どちらも普段の僕から予想も出来ない行動をする人格達だ。
それと、先輩は変わっている間の記憶は無いそうだが、僕はある。まるで他人を同じ目線で見ているような感覚になり、行った行動まで分かる。
後、ほんの少しだけなら体の自由を取り戻して動くことも出来る。と言っても、滅多なことをしない限りは動かさないけど。
「待ってろ、すぐに終わらせる」
この僕の特徴は、仲間思い他人の為、自分を犠牲にして動くタイプだ。
えっと……銃が黒いから、黒珀露と呼ぼう。
「ちょっと珀露! アンタ珀露に無茶させるんじゃないわよ!」
言葉はおかしいけど、そういうことだ。
「俺の体だ、俺の自由にして何が悪い」
仲間思いなのはいいけど、もう少し周りに気を配ってほしいな……自分の犠牲を省みないから、黒珀露から戻ると結構な確率で怪我している。まぁ、この空間なら大丈夫だと思うけど。
「だからって……あ、待ちなさ…!」
言葉を聞ききらずに、黒珀露は走った。狙いは前にいる榎口先輩だ。
「急な事で驚いたが、その程度じゃ負けねぇぞ!」
すでに体制を立て直した先輩は斧を横に振るう。
「……変わった道具だな。まぁあの剣よりは使いやすい」
黒珀露は振るわれる斧に銃口を向けて引き金を引いた。
そ、そのトリガーは……
斧に触れた瞬間、爆発が起こった。
「おぉ!?」
「くっ……」
爆風に飛ばされる先輩と、黒珀露の僕。
僕の拳銃には、六つの銃口と六種類の銃弾を射ち分ける能力がある。今のはその内の一つで、着爆弾。その名の通り触れると爆発する物だ。
そんな物をあの距離で……いくら防ぐ為だからって無茶苦茶だ。結果的に防げたけど。
「おいおい! いきなりどうしたんだよ稲影! さっきと打って変わって戦闘的じゃねぇか!?」
先輩も疑問を浮かべているでも、あまり他人に言うことじゃないよな……
「戦いなんだから当たり前だ」
僕は黙っていることにした。今のは黒珀露の言葉だ。
「行くぞ」
黒珀露が銃口を向けて引き金を引く。計三発、通常弾が飛ばした。
「アースピラー!」
着爆弾を警戒したんだろう榎口先輩は土の柱を出した。柱に通常弾が当たり、同時に柱により先輩の視界から外れた黒珀露は前に走り、新たな銃弾を放った。
土の柱に斜めに射ち込んだ銃弾は柱に当たると、跳弾して先輩の方向へと飛んだ。
「うぉ!?」
柱の向こうで先輩の驚く声が聞こえた。構わず黒珀露は今の銃弾……物体に当たると跳弾する、反射弾を射ち続ける。
「な、に、こ、の、お!?」
あぁ、すみません先輩……
「おりゃあ!」
榎口先輩は斧を振り、跳弾の原因となる自らが呼び出した土の柱を切る。そうして先輩の姿が見えると、黒珀露は先輩へと銃口を向けた。
「お、ヤベぇ!」
先輩は斧を前に構えて盾にするが、
「甘いな」
黒珀露は、銃口を下げて前に飛び、斧に蹴りを放った。
「おぉ!?」
予想外の力に押されて先輩が尻餅をつく。
「俺の勝ちだ」
その倒れている先輩に銃口を向けて、黒珀露は勝利宣言をした。
「うへぇ〜、予想以上に強いなお前、何か口調とかも変わってるし……これで良いか? 二人とも」
え? 二人とも?
あぁ、もう十分だ
空から声が聞こえた。これは、空間の外からの声だ。
もう戻っていいぞ
「へいへい」
すると、榎口先輩の姿が消えた。空間から出たんだろう。
あれ? そういえばこの声。
稲影、2人を連れてきて来れ
「? おい珀露、この声はなんだ?」
黒珀露が僕に訪ねた。これで分かるように、僕達は会話が出来る。
『学校の先輩だよ、七功先輩と緋鳴を助けてくれないかな?』
「分かった」
すると黒珀露は、2人の方に銃口を向け……え?
タン タン
さらっと撃った……しかもアレは……
瞬間、柱に当たった着爆弾が爆発した。
『えぇ!? ちょっと!』
「これで大丈夫だ」
『え……?』
「けほ、けほけほ……えぇお陰様でね」
煙の中から、緋鳴が現れた。でも、いくら柱を壊すためだったとしても着爆弾じゃなくても……
「てか今さらだけど、ここでも変わるのね」
「……うん、そうみたい」
あれ?
「珀露、アンタ戻って…」
『戦いが終わったみたいだから俺は戻るぞ』
黒珀露の声がそれだけ言うと、聞こえなくなった。
「……」
「まぁ、終わったみたいだし良いじゃない。外で待ってるんでしょ? 行きましょ」
「うん。あ、先輩は……」
煙が消えたそこを見ると、
「きゅう〜」
七功先輩は目を回して倒れていた。
多分、さっきの爆発のせいだと思った。




