赤色と緋色
七功先輩の性格が変わった。
裏井先輩が言った通り、この空間でも性格が変わり、話し方が変わり、一人称が変わり、そして、武器までもが変わった。
「驚いたか?」
裏井先輩は腕時計を見ている。
「……十五時二十分、黄七から赤七へ……えっと、しりもちをついたから、てことにしといてくれ」
「は、はい」
ノートに記入する内容だ。
「最初にこの中で変わった時は驚いたぜ、まさか武器まで変わるなんてな」
「いったい、どういう原理で変わるんでしょうか」
「さぁな。けどこの武器は人により異なるってことで、それをカードは分かってるってことだな」
確かに、同じ七功先輩が持っているのに、人が変わったように性格が変わったのをカードは理解して武器を変えたのだ。それはかなり凄い事だ。
「さてと、赤七は見ての通り接近戦向けだ。これで勝敗が分からなくなったぞ、よく見とけよ」
「いっくぜー!」
赤色の七功先輩―――赤七先輩が刀を片手で持って前へ。緋鳴の薙刀の間合いより更に中へ入った。
「!?」
それに緋鳴は驚き、自分の間合いにしようと後ずさるが、先輩はそれを許さず、
「逃がさねぇ!」
柄を両手で握って刀を振るった。
「くっ……」
薙刀の棒部分で防ぐ。
「っ……ファイヤーボール!」
緋鳴は右手を素早く離して、火球を放った。
「おっと」
先輩はバックステップで火球から距離を取り、暫くしてから刀で火球を切った。
「アタシに飛び道具は効かないぜ、正面からかかってこい!」
刀の切っ先を緋鳴に向けて挑発する。
「……」
緋鳴は薙刀を構えたまま、先輩を見る。
緋鳴の目的は七功先輩がこの空間でも変わるのかを試す為だった。そしてそれが分かった今、戦う理由は無くなった……のだが、
「緋に燃える炎よ 我が獲物に集まりて 力を与えよ!」
あ、あれは……
「ふへー、横矢の奴、詠唱魔法まで使えるようになってんのか」
「そういや、何回目かの時に自分なりの詠を考えといた方が良いぞ、とは言ったがまさか使えるようになってるとは思わなかったぞ」
先輩方も驚嘆している。
いったい何が、緋鳴をあそこまで動かすんだ……
「緋炎ノ長柄!」
緋鳴が持つ薙刀に、緋色と言ってもいいような明るい赤が色づいた。
その見た目的に、暖かそう、だがそれよりも、熱そうと思えた。
「はぁぁ!」
薙刀を突く、
「甘いぜ!」
先輩はそれを刀で軌道をずらし、前へと飛ぶ、
「先輩こそ」
しかし緋鳴は冷静だった。
薙刀の間合いの中に居る筈なのに、薙刀を横に振る。すると先輩の横に棒の部分が触れるが、それだけでは何の意味も無いはず。
しかし、
「うわち!?」
棒が触れた瞬間、先輩は横っ飛びで素早く離れた。
棒が触れた脇腹を押さえて、
「つへー、そういう能力だったのか」
なにやら関心していた。
「なるほど、横矢の魔法には武器全体に火の熱を加えるものなのか」
表方先輩が冷静に分析する。そういう魔法もあるんだ。
「触れただけでダメージ、使い勝手が良さそうだな」
裏井先輩もふむふむと頷く。
「遠距離と武装系詠唱魔法。後は経験を積めば、横矢は学年上位クラスの戦士になるぞ」
凄い評価までもらった。
「ま、つまりはこの勝負、横矢に勝ち目が無いって事だけどな」
「え? それはどういう…」
「見てりゃ分かる」
僕は視線を2人に戻した。
「遠間だと刃、でも近間だと棒の熱、もっと遠ければこっちの攻撃が当たらない……やりにくい相手だな」
赤七先輩が腕を組んで悩んでいる。
「ま、それだけで負けるとは思ってねぇけどな」
腕組みを外し、刀を下に構えて目を瞑むり、
「燃え盛る炎よ 我が身にまといて 更に燃え盛りたまえ!」
「あれは、詠唱魔法……」
「赤七のヤツ、アレを出すのか」
赤七先輩が目を開けると、周りに炎が現れた。その炎は次第に大きくなり、ついには先輩の体を包み隠す。
「……」
緋鳴はその状態を見て、薙刀を前に構える。
「行くぜ……」
先輩の声が炎の中から聞こえた。
瞬間、
「フレイムカモフラージュ!」
炎が前進、緋鳴へと向かった。炎が動いたその場所に赤七先輩の姿はない。
「っ……! はぁ!」
一瞬怯んだが、緋鳴は薙刀を炎へと突き出す。
それにより炎は四散した。その中にも、先輩の姿は無かった。
「!? いったいどこに…」
緋鳴が辺りを見回す間、四散した炎は緋鳴の真後ろで再び集まり、
「ここさ!」
その炎の中から、赤七先輩が現れた。
「しまっ!?」
「はぁぁ!」
刀が横に一線、緋鳴の体を切り裂く。
「っう!?」
吹っ飛ばされた緋鳴は、床に叩きつけられた。
「緋鳴!?」
瞬間、緋鳴の体がバチバチと音をたて、電磁波のような光が包んだ。
あれが危険な状態だ。あの状態から後一撃何かをくらう事で、強制退場になってしまう。
あの状態でも一応、動くことは出来る筈だけど……
「うく……っう……」
緋鳴の顔が上がった。良かった、無事だったんだ。
「……先輩、さすが……ですね」
「いいや、横矢もなかなかだったぜ。黄七のままじゃ絶対ヤラレてたさ」
近づいた赤七先輩が手を伸ばし、緋鳴はそれを取り、立ち上がった。
「決着ついたな」
「なかなかやるねー、横矢」
いつの間にか2人の近くに裏井先輩方が向かっていた。僕も慌てて4人の元へ。
「横矢、気は済んだか?」
「はい、無理を言ってすみませんでした」
「戦闘における能力は誇ってもいい。下手な二年生よりもあるだろうからな、だが詠唱魔法の使い方や相手がどんなものを使うか、ようは実戦経験が必要だな。覚えておけ」
「はい」
裏井先輩は助言をした後、ふと上を見上げた。
「……そろそろ時間だな、キリが良いからもう出よう」
「マジで? やりぃ、メンドイ事やらずにすんだぜ」
ただ座って眺めていただけという表方先輩はニヤリと笑って喜び、
「次の時は、シイと珀露で模擬戦してみるかな」
「うぇー」
その瞬間に嫌そうな顔に早変わった。
「とにかく戻るぞ、皆準備しろ」
再び目を開けた時、僕達は修練所に戻ってきていた。
「とりあえず今日はこのまま解散に…」
その時、
「あれ? 裏井達じゃねぇか」
修練所入口から、男の人が歩いてきた。
服装は制服。下はズボンだけど、上は指定のブレザーが無く多少着崩したワイシャツのみ。一足早く夏の正装になっていた。
「なんだよー、チームの集まりなら連絡してくれたって良いじゃねぇか。たまには戦わないと腕が訛っちまうだろ」
「……」
先輩方3人の視線が男の人に注がれる。
「……いったい誰かしら」
緋鳴が僕に耳打ちする。
「さぁ……でも感じから先輩方と同い年、僕達の先輩だと思うけど…」
「お…」
裏井先輩が一言、
「お…」
続いて赤七先輩、
「おー…」
そして表方先輩が呟き、声を揃えて、こう言った。




