課題とは
修練所、それは課題を行う生徒が練習をするために設けられた、この高校特有の体育館の隣に建つ建物だ。
そこには様々なチームの生徒達が集まっていて、チームレインボーもその中の一つだった。
「揃ったな、じゃあ早速入るぞ」
建物の中は一見体育館と変わり無い、木製の床等が更にそう思わせる。違いと言えば、バスケットゴールなどの道具は一切無く、等間隔で四角い台が床に付いている事だ。
僕達はその内の一つの前へ立った。
初めてここに来て中に入った時は、まず、新入生パンフレットに書かれていた言葉を思い出した。
クラス・性別・学年の壁を乗り越えて様々な課題を行い、人とのコミュニケーション及び、コンビネーションを育む事を第一に考えた学校です
間違いではない。学年の壁を越え、こうしたチームが作られて課題を行う、コミュニケーション能力も自然と身に付くだろう。
問題なのは、コンビネーションの方だ。
せいぜい課題と言っても、運動会レベルの競技を想像していた僕は、度肝を抜かれた。
課題とは……本当にチームとチーム、生徒と生徒が戦いあうことを指していたのだ。
「行くぞ」
先輩の言葉に、僕はすっと目を閉じた。
その時、一瞬の浮遊感、一旦足が床から上がり、また下りた。
目を開けるとそこは、先まで居た木製の建物の中では無く、壁の見当たらない殺風景な平野だった。
いわゆるバーチャル空間。ここでは自分の姿をしながら自分の身体では無いため怪我の心配は無く、存分に戦える空間。と聞いている。……それ以上の説明は無かったが、実はとんでもない科学技術の結晶の中に居るんだろう。
「まずは、全員武器を用意しろ」
そう言って先輩がポケットから取り出したのは一枚のカード。他の先輩や緋鳴も同じくカードを持つ。
僕も服のポケットからカードを取り出した、全体的に灰色で、クラスと名前以外に特に柄も模様も無い。だがコレも、この空間と同じようなものだった。
「体現せよ、記すものを」
裏井先輩が唱えると、手に持ったカードの形が変わり始めた。カードから光が溢れ、形を造る。
形を残したまま光が消えると、先輩の手には身の丈程の大剣が握られていた。
このカードはチームの証明書にして、課題で戦う際の武器を収めた物。生徒個別のカードなので、同じ物は二つと存在しない。
「次はみんなだ」
浦井先輩の言葉に続き、
『体現せよ、記すものを』
残る4人全員で唱えた。
カードが変形し、それぞれ様々な形を作る。
緋鳴のは赤い薙刀。
七功先輩は黄色い杖。
表方先輩のは……かれこれ何回も見てるけど、実際に使ったところは見てないからどんな武器なのかは分からない、けど形はフリスビーみたいな物だ。
そして僕のは、六角形の銃。三角形を六つ合わせたような形で、白と黒で交互に色塗られている。珍しい形だと先輩方に言われた。
「揃ったな。んじゃまぁ、まずは各々武器に慣れたら軽く手合わせして…」
そんな時、
「……あの、裏井先輩」
緋鳴が小さく手を上げた。
「どうした?」
「一つ、よろしいですか」
「何だ? 改まって」
「あの…」
緋鳴は上げていた手を更に上へ、人差し指を伸ばしてビシッ! と下ろした。
七功先輩に向かって、
「七功先輩! 私と勝負してください!」
「……え?」
一瞬の間、最初は全員緋鳴が何を言ったのか理解する為に固まった。
そして、理解が済むと、
「えぇぇぇぇ!?」
七功先輩は驚き、
「にひひひ、面白いことを言うね横矢は」
表方先輩は笑い、
「ひ、緋鳴?」
僕は困惑して、
「んー……別に良いぞ?」
裏井先輩はそれを承諾した。
「えぇ!? ちょっと境くん何言ってるの!? わたしと緋鳴ちゃんが戦うって…」
「良い機会じゃないか、味方どうしで切磋琢磨するのも良い練習になるぞ」
「だからってぇ……」
「よーし、他の2人は七功達の戦いを見学な」
「へーい」
表方先輩は裏井先輩の横へと移動する。多分楽出来ると喜んでいると思う。
「どういうつもりなんだ?緋鳴」
僕は緋鳴に聞いてみる。
「これはアレよ、何事も実戦が一番力になるのよ」
「はぁ……」
「それに…」
緋鳴は僕に耳打ちで話した。
「…七功先輩のあの特性が、ここではどうなるのか知りたくないの?」
「……」
そういう理由だったのか。
確かに、今まで修練場で七功先輩が変わったのは見たことがない。ひょっとしたらここは変わらないのかもしれないと考えたこともあるけど、戦っている時はまだ確かめていない。
「じゃあわざわざ緋鳴がやらなくても僕が…」
「アンタにそんな勇気が無いのは分かってんのよ。いいから黙って見学してなさい」
僕から離れた緋鳴は、七功先輩から間合いを置いて立ち、
「先輩! よろしくお願いします!」
薙刀の先を向けて宣戦布告した。
「で、でもぉ……」
一方七功先輩は、乗り気ではないみたいだ。
僕は見学の為、裏井先輩達の方へ向かった。
「がんばれー、暦ー」
表方先輩が地面に座って、ひらひらと手を振っている。
「シイちゃぁん」
「いつもの調子で、サクッとやっちゃいなよ」
「あぅー……」
「あの、裏井先輩」
「なんだ?」
僕は裏井先輩に聞いてみた。
「この空間では、七功先輩はどうなるんですか?」
一年間一緒にいた先輩なら知っているだろう。
「どうも何も、あのままだ、普通に変わる」
「変わるんですか?」
「あぁ、性格も、話し方も一人称も、そして…」
その時、
「…うん! 分かった!」
七功先輩の声で、裏井先輩の声が聞こえなかった。
「勝負しよう緋鳴ちゃん! でもやるからには手加減しないからね!」
杖の先端を前に向け、緋鳴へと宣戦布告を返した。
「お、やる気になったか」
「にひひ、やっぱり黄色い暦は陥れやすいね」
陥れって……
「もうちょい他の言い方があるんじゃねぇか?」
「いいじゃんいいじゃん。横矢も喜ぶだろ、それに、新入生の実力を知る良いチャンスだし」
「まぁ、そうだが」
「んで、稲影、横矢って強さはどんくらい?」
強さ、と言われても……
「そうですね……僕達の田舎でやったチャンバラモドキでは、一つ上の強い2人と良い勝負してましたね」
「チャンバラモドキ? なんだよそれ?」
「簡単に説明しますと、紙風船を身体につけてそれを叩き合う遊びです。緋鳴は今のみたいに薙刀のような長さの道具でやってました」
「なんじゃそりゃ、ますます分からん」
「シイ、2人の戦いが始まるぞ」
「へーい」
「珀露もよく見ておけよ、特に七功の変化した時はな記録するからな」
「はい」
「先輩、行きます!」
先手を取ったのは緋鳴。薙刀を構えて前進、突きを放つ。
「なんの!」
七功先輩はひらりと避けた。
この空間では、一定以上の攻撃によるダメージを受けると動けなくなり、そこに更に一撃当たると空間から強制退場となる。
ダメージを与える手段は、今手に持っている武器か、あるいは、
「今度はこっちから行くよー!」
先輩は杖を右手に持ち、左手を前に出す。
「ライト・アロー!」
唱えると、先輩の左手から黄色い矢が一本放たれた。矢は緋鳴へと一直線に向かう。
「当たりません!」
緋鳴は横に跳び、矢をかわした。
この空間では、いわゆる魔法と呼ばれるものが使える。だが無限に使える訳ではなく、使い過ぎによる魔力切れという状態になると、一定時間経たないと使えなくなる。
更に魔法には属性の概念があり、それを魔法属性と呼ぶ。種類は生徒により様々で、七功先輩のそれは光だ。
「お返しです」
緋鳴が右手を前に出し、唱える。
「ファイヤーボール!」
複数の火球が放たれて、上下左右から七功先輩に向かった。
「くぅ……!」
避けきれず、先輩は杖で防御する。
「へー、横矢のやつ大したもんだな」
「場数では七功に分がある筈だが、それを上回るか……こりゃ当たりを引いたみたいだな。練習を続けてけば良いバランスアタッカーになるぞ」
先輩方が緋鳴の評価をする中、僕は七功先輩の方を見ていた。
「やるね緋鳴ちゃん。でも先輩として、そう簡単には負けられないんだよ」
先輩は両手で杖を持ち、先端を前、緋鳴へと向ける。
「光よ 形なきものよ 型を示しここに集まり 形を持ちて放たれよ!」
先輩が唱えると、杖の先端に黄色い光が集まった。
「お、詠唱魔法使うなんて暦が本気だ」
「詠唱魔法?」
「今みたいに言葉を唱えて発動する魔法だ。隙ができるが、その分強力だぞ」
なるほど。僕は七功先輩へと視線を戻す。
「シャインレーザー!」
集まった光が複数の線になり、覆うように緋鳴に向かう。
「っ……早い!」
先ほどの光の矢よりも速さ、数、範囲が段違いだ。
しかし、緋鳴は、
「けど……負けません!」
薙刀を振り上げ、切っ先を地面につけて、
「はぁぁ!」
「えぇ!?」
「おぉ!?」
「ほー」
先輩方の驚きの正体、それは棒高跳びの要領で宙に舞った緋鳴だ。
光線は数秒前まで緋鳴が居たところを通過、数本が薙刀にかすっただけだった。
「うへぇー、よくあんな事が出来るな。始めたてとは思えないぞ」
確かに、緋鳴だって僕と一緒に入ったのが初めての筈。練習だってほとんど同じことしかやっていない。
なのに、ここまでの動きが出来るなんて。
緋鳴はそのまま前へと降り、
「先輩、覚悟!」
後ろの薙刀を大きく振りかぶりながら先輩との間合いをつめて、振り下ろした。
「うぅ」
とっさに杖を横に構えて防御する。だが少し力及ばず、
「きゃう!」
先輩は後ろに押され、しりもちをついた。
「ありゃー、こりゃ横矢の勝ちか?」
「緋鳴……」
いくらなんでも、それはやり過ぎじゃ……
「いいや」
裏井先輩が前を指差した。
そこには七功先輩がいて…
「……あ」
ドクン
そんな音が聞こえた。
それとほぼ同時に、七功先輩の体がビクンと跳ねた。
「黄色の七功は魔法重視だから近接重視に不利なんだ。だが今の状態によっては、逆転もあり得る」
「……」
先輩が音もなく立ち上がる。緋鳴は薙刀を構えて万全の体制をとる。
「……」
杖を前に出す。
すると、杖が光に包まれた。カードが武器に変わった時のものと同じ光だ。
「え……?」
緋鳴が目を丸くする中、杖は形を変えた。
そして、完全に形を変えたそれに、先輩が触れて……
「っしゃあーー!」
横に思いっきり振った。
それで光が取れ、銀の刃を持つ刀が現れた。
それを持つ七功先輩は、
「戦いっつたらアタシだろ! さぁ、どっからでもかかってきな!」
性格が変わり、赤色の七功先輩へと変化していた。




