幼なじみ
「ひ、緋鳴?」
腰まである、先端がツンツンとした青みを帯びた髪。服装はまだ新しい制服、つまり一年生、そして、僕の知り合いだ。
横矢緋鳴、それが彼女の名前だ。
「何やってんのよ珀露! 廊下が騒がしいと思ったらアンタが連れ去られたって聞いたじゃない!」
緋鳴とは小学校からの仲、いわゆる幼なじみという間柄だ。だから2人ともお互いのだいたいの事は理解している。
緋鳴がこういう性格であるのも、そして、
「へぇ〜、珀露の知り合いにはすんごいの持ってるヤツがいんだね」
表方先輩が示した通り、今の緋鳴は自分の身長よりも長い棒を持っていた。先端に刀の刃のようなものがついている、薙刀だ。
緋鳴の実家は道場で、自身も薙刀を習っていることも。でもまさか、持ってきていたとは。
「何が目的なの!」
薙刀の先をこちら、裏井先輩に向けた。
「何だか知らんが落ち着け。珀露は俺達のチームに入ってくれただけだ」
刃に怯むことなく、先輩は答えた。
「ち、チーム? それって課題を行う時の集まりの、あの?」
あまりに冷静な裏井先輩に、緋鳴は目を丸くした。
「あぁ、俺はチームレインボーのリーダー、2年の裏井境太だ」
「で、でもその勧誘はまだ先の筈じゃ……」
「まぁフライングではあるが、他のとこもやってるだろうから平気だろ」
「そんな訳ないだろ」
と表方先輩が呟いた。そうか、フライングだったのか。
「……本当なの? 珀露」
視線が僕に向けられる。薙刀の先端はまだ先輩に向けられている。
「う、うん」
「……そっか、珀露が言うなら、本当なのね」
薙刀の刃が下を向いた。
「だったら…………私もこのチームに入れてください!」
「え!? ひ、緋鳴? 何を言って…」
「アンタが居るからよ!」
話が繋がってないような……
「ようこそ、チームレインボーへ」
しかも、あっさりと承諾された。
こうして、僕と緋鳴もチームレインボーに加入した。
―――それから約、二週間。
「―――月十九日、水曜日。十一時五十九分。黄七から赤七へ、転倒により変化……と」
部屋についた僕は早速、七功先輩の変化を黄色のノートに記録した。
「慣れたもんだな」
裏井先輩がノートを覗き見る。
「もう七つ全員に会った事あるよな?」
「はい」
七功係になってからこの間に、七功先輩の変化した人格の七つ全員と出会った。
最初は皆個性がバラバラで、対処法が異なるので苦労したけど、今となってはノートの表紙の裏……紙ではない部分にそれぞれの性格や特徴、困った時の対処法を記したので、どうにかなっている。
「てことは、珀露に任せても大丈夫そうだな」
「何をですか?」
「それは全員揃ったら話すさ」
今、裏井先輩をリーダーとするチーム、レインボーの部屋には僕と裏井先輩と七功先輩(赤七状態)だけ。
「うぃ〜す。待たせたな」
そこに扉が開き、表方先輩が姿を見せた。その後ろには、
「珀露、アンタいったいどこに居たのよ?」
すっかりチームに馴染んでいる緋鳴がいた。
「中庭で寝てたよ」
「なんでそんなところで?」
「うーん、何かがあって中庭に行ったんだろうけど、その前が思い出せないんだよ」
「あーそっか……なら良かった良かった」
緋鳴は安心したように肩を落とした。
「え? 緋鳴、何か知ってるの?」
「え!? う、ううん、知らないわよ?」
「?」
怪しいな……
「お喋りはそこまでだ」
パンパンと手を叩いて裏井先輩が会話を止める。視線が集まったのを確認して、口を開いた。
「皆を呼んだのは、ついにチームレインボーの初試合が組まれたことを報告する為だ。一年生の2人は初めてだから、気を引き閉めてかかるようにな」
初試合―――試合とはつまり、この高校特有行事の課題の事である。
なにをするのかと言うと…
「先に決まっていることを言っておく。相手はチームアルファベット、先にメンバーを全員倒した方が勝ちだ」
戦うのだ。チーム戦で。
「メンバーは最大で5人。分かると思うがここは全員参加だ」
「うぇー」
表方先輩が嫌そうに呻いた。
「はいそこ、嫌そうな顔しない」
「へーへー」
ひらひらと手を振って、近くにあった椅子に座った。
「ついに来たね〜、いつやるの?」
あ、先輩が元に戻ってる。ノートに書かなくては。
「日付はまだ決まってないが、戦うことは決定事項だ。早目に報告するが、あまり予定を入れないように頼むぞ」
それと、と先輩は言葉を続ける。
「試合が近いこともあって修練所が取れた。放課後にはここへ集合せずに向かってくれ、いいな?」
「はい」と僕と緋鳴と七功先輩が、「へーい」と表方先輩が返事をする。
「よし、それじゃあ解散」
それと同時に、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「珀露、行きましょ」
「うん」
ノートに書き終え、僕と緋鳴は教室を出た。一年生の教室は四階なので少し早足で向かう。
「……不安ね」
その途中、緋鳴が呟く。
「戦えるかどうか? 緋鳴は大丈夫だよ」
子どもの頃から薙刀をやって緋鳴だ。僕なんかより絶対強いに決まっている。
「喜んでいいのか分からないけど違うわ。不安なのは七功先輩よ、あんな状態で戦えるのかしら」
「うーん……」
いつ変わってしまうか分からない。つまり戦いの最中に変わる可能性だって十分にあり得るんだ。
「でも先輩は一年からやってるから、何とかなるんじゃないかな」
「……ねぇ、珀露」
「ん?」
二階から三階への踊り場についた。そこで、緋鳴が僕に訊いた。
「何であんな係を受けたの? 学校生活に支障があるに決まってるじゃない」
「……」
確かに、七功先輩の変化はいつ起きるか分からず、大変な事ばかりだ。
でも、
「なかなか楽しいんだよ。今までに無い、これが高校生か、って感じで」
「いや……これは異常よ」
「でも僕は嫌じゃないよ」
四階についた、手前が僕のクラスで、奥が緋鳴のクラスだ。
「……はぁ、珀露が決めた事なら別に文句は言わないわ。困るのはアンタだけだし、でもね、本当に困るようなら私に言いなさいよ?」
「うん。ありがとう緋鳴」
「っ! そ、それじゃあ放課後ね!」
緋鳴は急に走りだし、教室へと突っ込んで行った。
「?」
何故か、顔が赤かったような気がしたけど。
とりあえず僕も教室へ。まだ先生は来ていないみたいでみんな話し合っている。
自分の席につく。
「どこ行ってたの?」
前の席の赤星さんがこちらを向いて、聞いてきた。
「チームの集まりで」
「え! 稲影くんもチームに入ったんだ?」
「はい、試合もすぐにあるそうなんです」
「へー。あ、そうそう、私もチームに入ったんだよ」
「そうなんですか、どこのチームですか?」
「ナイショ。でもいつか戦うことになるかもね、その時はよろしくね」
「はい、手加減はしませんよ」
その時、先生が教室に入ってきた。
五時間目が始まる。




