七功係
「その言葉聞かせてもらった!」
ガラガラパーン!
何とか珀露と読んでもらおうと努力していると、扉を力強く開けてさっきの男の人が入ってきた。
少し暗めの茶髪で、服装は制服だ。七功先輩と同学年の二年生にしては珍しいかもしれない。
「稲影珀露くん、キミは先の言葉に二言はないな?」
「そ、その、つもりです」
「本当だな?」
「う……」
そこまで念を押すなんて……僕はとんでもない事に足を突っ込んでしまったのか?
「……は、はい」
それでも、僕が頷くと、
「よし……じゃあ、稲影珀露くん、キミを俺達チームレインボーに加入させる。それと同時に……七功係を任命する!」
ビシッ! と指をさされて宣言された。
「……はい?」
七功、係?
七功とは先輩の名字のことだろう。でも、係って?
「先に言っておくが、結構大変だぞ」
任命してからそれを言うのは、先にとは言わない気が……
「よし、早速…」
「バカ野郎」
男の人の頭に何かが当たった。ぺし、という音からそれは紙の束だと分かった。
「早速じゃなく、てまずは係の内容を説明しろよ」
男の人の隣に、先ほど紙で叩いた人が並んだ。
腰より下にまで届くほど長くて軽いウェーブのかかった黒髪。服装は白いワイシャツに黒のロングスカート、その上に白衣を着ている。そして顔に縁の無い丸レンズの眼鏡をかけていた。何だか、保険の先生みたいな格好だ。
その女の人は持っていた紙に目を落とし、
「えーと……稲影珀露、一年A組、出席番号2番か」
なぜそこまでの情報が?
「一般受験で合格、面接の時に『課題に興味がある』と言った……と」
「な、なぜそれを?」
「ここに書いてあるからだよ。新一年生の情報」
女の人が紙をこちらに見せた。そこには僕の顔写真と名前などの情報が記されている。
「新一年生を確保する為、特に普通とは違う能力とか持ってる奴を狙うためにこうして情報が配られてるんだよ……あー、ダメだ。暦、コレ持って」
女の人は七功先輩に紙の束を渡した。
「ったく、何で今のご時世で紙媒体なんだよ。あんま重いものは持てねえっの」
え? ここまで持ってきたんじゃ? それにそんなに重そうな物には見えない。
紙の束を七功先輩に渡した女の人は、僕の方へ歩いてきた。
「アタシは表方弑。チームメイトになるんならよろしく。呼び方はなんだっていいから」
おもてがた? 珍しい名字の表方先輩は僕の横を通り、奥にある椅子の一つに座った。
「はぁー、疲れた。元々体力系じゃねぇんだからあんな事させんなよ、境太」
「仕方ないだろ、お前以外出払ってたんだから」
「以外って、アンタと暦とアタシしかいないけどね」
先輩はけらけらと笑った。
「わざわざサンキューな」
「いえいえ」
「さてと、珀露っつたか、俺はこのチームのリーダー、裏井境太だ。これからよろしくな」
裏井さんは僕の前に立ち、右手を出した。
「はい、こちらこそ」
その手をとり、握手を交す。
「それじゃ、お前が担当する七功係について説明するぞ」
裏井さんは教室の奥にある机の中から何かを取り出した。それは数冊の大学ノートで、全て表紙の色が違う。
「まず1に、お前は課題の時以外も極力七功と行動を共にしてくれ、まぁさすがに全部とは言わないが極力な、具体的には昼を一緒にとったりだ」
七功先輩と行動を共に?
「よろしくね、ハクロウくん」
珀露です。
「次に、もしも七功に何かがあったら、その状況をこのノートに記す事」
「何かとは、病気とかですか?」
病弱な七功先輩はいつ具合が悪くなるか分からないから、監視役が必要という意味なのか?
「いや、コイツは健康極まりない。病気と言えばそうかもしれないが、病気と呼んでいいのかも分からん」
「では、何を記せばいいんですか?」
「あー……なんつうかな……」
少しの間が空き、裏井先輩は話し始めた。
「珀露、二重人格って知ってるか?」
「え……」
それは……
「珀露?」
「……一人に、2つ人格があるというやつですね」
「そうだ。じゃあ、多重人格は?」
「一人に、人格が複数ある。ということですか?」
「七功は、それなんだ」
それ、というのは多重人格の事……つまり。
「七功先輩は多重人格者。という事ですか?」
「そういうことだ。実際に見てもらえば早いだろうがいつ、何をして変わるか分からないから、こうして…」
机に置かれたノートを叩く。
「…記録をとって、変化の動きを見極めようとしてるんだ。ちょっと見てみてくれ」
一冊のノートを渡させれた。黄色い表紙のノートだ。
開いて見ると―――
05月10日(月)
13時06分 緑七→黄七
自然解消
こういった文面が、一行空きずつでびっしりと書かれていた。
「日付と時間、誰から誰になったか、どうやってなったかを記してある。どうしてなったか分からない場合はそうやって自然解消って書くんだ」
「はぁ……すごいですね」
僕は他のノートを手に取り、ペラペラと見ていく。
「あれ?」
ふと気付いた。
それは四冊目、赤色表紙のノートを見ていた時だ。
05月17日(月)
11時03分 黄七→赤七
転倒により
05月21日(金)
10時52分 橙七→赤七
自然解消
05月25日(火)
09時22分 藍七→赤七
とりあえず宥めたら
この赤いノートには、赤七というのになった時のことがまとめて書かれている。
ノートは全七冊の七色。ぱっと読んだ限りで七功先輩が変化する数も七つ。つまり一つにつき一冊なんだ。
それともう一つ、七冊全てのノートに目を通して分かったこと。
これらは全て同じ日付で―――
09時34分 黄七→緑七
転倒により
11時25分 黄七→赤七
転倒により
13時29分 黄七→青七
転倒により
14時18分 黄七→紫七
転倒により
14時30分 黄七→橙七
転倒で
15時59分 黄七→藍七
転倒
「……」
この黄七という人格は、どうもよく転ぶらしい。
一日に六回も転ぶなんて逆に凄い気がする。これを書いた人だって途中で簡略化してるし。
しかもその度に人格が変わっている。あまり出てくる事は無さそうな……でも、これだけ転ぶということは頻繁に出てきているという事でもあるのか?
「気になったか?」
裏井先輩が横からノートを覗いて見た。
「現段階で確認出来た七つの人格それぞれに虹の色をつけて呼んでるんだ。で、基本のアレは、黄七な」
「え?」
僕は七功先輩を見た。
「えへへ、わたしがいわゆるデフォルトなんだよ」
「この……よく転ぶと書かれている黄七さんですか?」
「あ、あはは……なんでかよく転ぶんだよね」
「しかも、凹凸の何も無い平坦な道でな」
表方先輩が椅子に背を預けながら呟いた。
「あー! それは言わない約束だったじゃん!」
「にひひ、どうせこれから先バレるに決まってんだから別にいいじゃねぇか」
「うぅー」
確かにそうだ。これから先七功係をやっていけば先輩が転ぶところに遭遇する確率がある。その度に性格が変わるとなると……結構大変な事を引き受けてしまったのかな……
等と考えていると、
ガラガラパーン!
「たのもぉぉぉぉぉ!!」
大声と共に、再び扉が開かれた。
室内全員の視線が向く先に居たのは―――




