霧の中での初陣
そして、ついに初めての課題の時が来た。
授業が終わり、放課後。一度部屋に集まった僕達は、課題の行われる場所に向かった。そこは修練所ではなく、体育館だった。
「んじゃ、アタシはここまでだね」
体育館に入ったところで、表方先輩が僕達の組みから離れた。
「課題を行わない生徒は同じチームでも二階からのみ観戦が許される。って決まりだからね、アタシは二階から応援してるよ」
ひらひらと手を振って、階段へと行ってしまった。
5人になった僕達はそのまま体育館の中、普段は床の下に終われている空間発生装置の前に向かった。それを見つけた先生が僕達へと訊ねた。
「揃ってますね」
「はい、チームレインボーの5人です」
裏井先輩が応える。
「すでにアルファベットは中に入っています。そちらは準備が整い次第入って下さい。その瞬間、課題の開始となります」
「分かりました」
僕達は円陣を組んだ。その中央には空間の地図だという一枚の紙が置かれている。
「いいか、作戦の通り俺と博二でAを叩く。おそらくその周りにも数人いるが、全員ではないだろう。まずAの周りにいる人数を連絡する。そうしたら3人は残りの人を頼むぞ」
「はい」
「もしも5人が集まっている場合は、すぐに合流してその場で総当たりだ」
「もし先にわたし達がAに会ったら?」
「その時は俺か博二に連絡。俺達がいる方に誘き寄せてくれ」
裏井先輩が地図の一点を指差す。
「まず最初はここに降りる。そこから俺達は先に行くから、合図があったら3人は動いてくれ。決して単体行動はするなよ。……よし、そろそろ行こう。皆準備はいいか?」
「はい」
まず緋鳴が応える。
「おぅ、早く行こうぜ」
続いて榎口先輩、
「絶対勝とうね!」
七功先輩がそれぞれ返事をして、
「精一杯、頑張ります」
最後に僕が応えた。
「平気だな……行くぞ」
装置の前に立ち、僕達は目を閉じた。
「境くん達、大丈夫かな」
空間に入って数分。七功先輩は裏井先輩達の向かった方を見て呟いた。
空間の景色は修練所のそれとあまり変わらない平原。ただし、若干霧がかっている為、先はよく見えない。
『聞こえるか』
裏井先輩の声が聞こえた。空間内限定の通信機で、一対一のみ通話が出来る。
「はい、聞こえます」
『Aを発見した。周りに他の4人も居たが、今3人が移動を始めた。そちらは任せたぞ』
「はい、分かりました」
『よし、悪いがこれからAと戦う間そちらからの通信に対応は出来ない。援護は期待しないでくれ』
「了解……です」
了解とは言うものの、自信はあまりない。
『頼んだぞ』
それを最後に通信が切れた。
「境くん、何だって?」
「Aを発見して、これから戦うそうです。こちらには3人向かっていて、対処するように、と」
「3人……という事は、一対一ね」
「そうだね……」
結局、榎口先輩との戦い以外に対人戦は出来なかった。しかもその時は僕ではなくて黒珀露が大部分戦ったか、僕には全く為になっていない。
つまり、いきなり本番という訳で……
「大丈夫だよ2人共、いざとなったら、わたし頑張っちゃうからね!」
えっへん、と七功先輩は胸をはった。
「あ……」
瞬間、はっとした顔になった。
「どうしました?」
「来るよ! 2人共構えて!」
杖を構えて前を睨んだ。
「背中合わせになって!」
僕達は互いに背中合わせになって、後ろを守る。
すると、霧の中から人影が現れた。
人影は僕達の状態を見て、何故か丁寧に一人一人の前に立った。
「アルファベットはこういう礼儀があってね、基本は一対一で戦う……って、先輩が教えてくれたんだ」
理由を七功先輩の声が教えてくれた。
「という事は、必然的に目の前の相手と戦えって事ですよね?」
緋鳴が先輩に訊ねる。
「そうなるね……2人共、絶対勝とうね!」
先輩の言葉を合図に、僕達は前に出た。
僕の前にいたのは、同じ一年生の男子。確か隣のクラスの人だった筈だ。
一年生なら、僕とあまり練習の時間は変わらないと思うけど……
でもすでに始まっている。後戻りは出来ないし、そんなことをしたら緋鳴と七功先輩に迷惑をかけてしまう。
やるしか、ないんだ。
グリップを両手で握り、狙いを定めて放つ。
男子は武器を前に構えて銃弾を防ぎ、前へと出走った。手に持っているのは斧のような物で、どことなく、英語のPに見えた。
振り上げて、僕目掛けて振り下ろす。
あれ? これって……
僕は斧を避け、両手で握った銃を振るった。
バシンッ!
銃身が男子の左手に当たった。
やっぱり、この人の武器は斧。榎口先輩のような戦斧じゃなくて手斧だけど、動作はほとんど一緒だ。
これなら、榎口先輩との練習が役に立つかもしれない。
僕は後退して、銃弾を放つ。二発は武器に防がれたが、二発は肩と膝に命中した。よし、当たる。後は練習を思い出しながら。
再び男子が迫る。その間で慌てずにトリガー変えた。振り下ろされる斧を避けながら、銃口を向け。引き金を引く。
バシュン!
散弾が炸裂して男子は後退り、続けて僕は散弾を放った。
バシュン! バシュン、バシュン!!
三発目を受けた男子は、一瞬その場で固まり、膝から崩れ落ちた。
その体にバチバチと光がまとった、後一撃の合図だ。
「や、やった……」
僕が勝ったんだ。初めてでほとんど初めての実戦で。
後は、一撃を……
「きゃあ!?」
七功先輩の悲鳴が聞こえた。
「先輩!?」
倒れている男子をそのままに、僕は先輩の声が聞こえた方に走っていた。
いつの間にか濃くなっていた霧の中から先輩を見つけた。杖を前に構えて、前に立つ相手を見ていた。
「七功先輩!」
「ハクロウくん!?」
先輩の隣に並んで、前の人を見た。
黒髪の女子生徒、制服の新しさから見るに僕と同じ一年生だろう。短めのナイフを両手に持っている。
そして、その表情が伺えなかった。
何故なら、その女子は目を被うゴーグルをかけていたからだ。
「……」
女子は突然増えた僕を正面に見る。
そして、
「あ、稲影くん」
僕の名前を呼んだ。
「え……?」
何で僕の名前を?
その疑問は、
「ほら、私だよ」
彼女がゴーグルを頭の上に上げた事で解決した。




