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第2話 ツンデレタマゴ

暇つぶし話を本気で書いてしまいました(^_^;)

何て言うか…。

1話は何だったんでしょう(^p^)

つか本気でこのクオリティwww

次の日、やっぱりタマゴはタマゴのままで変化なし。今日は金曜日だからまだ学校はある。

(どうしよう。学校に必要ないものは持って来てはいけませんって先生言ってたし…)

でもタマゴを家に置いてる内にピヨピヨとひよこが生まれたら困る。お母さんがその鳴き声を聞いて、捨ててしまうかもしれない。運が悪ければ料理されるかもしれない。

「何してるの?学校、遅れるわよー」

「う、うん!」

と、とりあえず学校に持って行こう。

先生にバレないように手提げに入れ、その上からタオルを被せた。これで外見からはタマゴが入っているなんてことはわからないはず。

「行ってきま~っす!」ランドセルと手提げは結構な重さだったけど、タマゴためならへっちゃら。

走って班の集合場所に行くといつものメンバーがいた。

オレと1番仲がいい冨士ふじ つばさ、ぽっちゃり系の小寺こでら 将平しょうへい、おとなしい五百井いおい 祐一ゆういち君。その他、5年生2人と、6年生3人、1年生4人、2年生3人の計15人の班。

「あと、5分で出発するからな」

6年生の低い声が呼びかける。

「はよ~礼人。それ、何だ?」

「おはよ~、翼。これは、その~…ちょっと……な」

ヤバい。うまい言い訳が思いつかない。

「もしかして、借りてたマンガとかか?」

「あ、ああ…そうそう。いい加減返さないと、って思っててさ~」

「そっか」

なんとかゴマかせたみたい。翼が単純な奴で助かった~。

「そろそろ行くぞ」

上級生の声でぞろぞろと2列に並び、歩き始めた。

学校までの距離は近くもなく、遠くもなく…まあ普通。でも今日はこのタマゴがあるからちょっとキツイ。

「大丈夫?持ってあげようか?」

ありがたいけど、この大事なタマゴはどんなに重くてもオレが持つ。

「へーき、へーき。ほら、もう校門見えてきたし」

校門の前に立ち、挨拶する先生が見える。何もないように平常を装い校門をくぐった。

「おはよう。重そうだね」

「おはようございます…。大丈夫です」

セーフ…。ヒヤヒヤした。…そんなに重そうに見えるのかな?

手提げの中のタオルの上からタマゴを撫でる。

丸みを帯びた感触。

よかった。ちゃんと割れずにあった。

「なぁにやってんだっ?」

「のぅわっ!!」

恐る恐る後ろを振り返る…とそこに立っていたのは翼だった。びっくりさせんなよ、まったく…。

「やっぱり何か隠してんだな?!見せろっ!」

「やーめーろーっ!割れたらどうすんだよ!!」

どうにかして守ろうとしたけれど、ランドセルだけの翼とランドセル+手提げ(タマゴ入り)のオレではどっちが不利かは目に見えている。あっという間に手提げは翼の手に渡った。

「さてさて、中身は何だろな~…」

「あ~っ…!!」

「おっ、何だこれ?…タマゴ?」

バレたーっ…。

こいつのことだから、くれぇっとか言ってせびりそうだな…。

「生まれたら教えてくれよ。真っ先に見に行くからな」

……あれ?

「ほしくないのか?」

「ああ。だって家に犬いるし」

よかった。タマゴは奪われなかった…。

「これ、先生に言わないでくれよな」

「わかってるって。それより、それ、食べたらうまいんじゃないの?」

な、何てことを言い出すんだ。誰がそんなことするんだっ!

「冗談だよ、冗談。早く教室行こうぜ」

今のは冗談に聞こえなかったぞ…。ま、何はともあれタマゴが無事でよかった。

翼も学校の誰にもタマゴのことを話さなかったから、家路につくまで何事もなく帰れた。特に小寺に知られなかっただけでもよかった。あいつはよく食べる奴だからなぁ。

「ただい…」

ガチャ。

ん?

ガチャガチャガチャ…。

開かない。家に入られない。母さんが家にいないということだ。もしかして美帆を迎えに行ったのかな?

手持ち無沙汰に郵便箱を開けて、中から郵便物を出そうとすると、紙の感触の他に硬くて冷たい小さな感触も入っていた。

(……?)

取り出してみると、それは家の鍵だった。チラシなどの郵便物の一番上には小さなメモが折りたたまれてあった。そのメモを開いてみると―――



礼人へ


美帆の調子が悪いって幼稚園から連絡があったの。病院に連れていくから5時になってもお母さんが帰って来なかったら夕飯よろしくね。礼人ならカレーくらい作れるよね。


母より



病院に行くってそんなに具合悪いのかな?…とりあえず家の中入ろう。

鍵を開け中に入るといつも誰かがいるんだけど今日は誰もいない。何か新鮮。

「ただいま…」

声が静寂に吸い込まれるように消えた。自分の家だけど何だか違って見える。階段を上がる足音さえも響いているように聞こえる。

自分の部屋に戻りランドセルと手提げを置く。

「ふぅー」

それにしても面倒なことを頼まれたな。夕飯作って…だもんな。

カレーくらい作れない訳ではないんだけど、玉ねぎを切るのにいつも苦戦するのだ。切っていると目が痛くなって涙が出てきて止まらなくなる。

(まだ3時半だし、母さん帰って来るよな?)

それまでオレは家でお留守番。仕方ない、ゲームでもするか。

そう思った時、ひとりでにタマゴが倒れた。

「え…?」

タマゴを手に取ってみるとグラグラと動いている。

「う、生まれる…!誰かーっ!!」

あっ…誰もいないんだった。って、本当にこれどうしたらいいんだよ?

慌てふためいている間に、タマゴにはジグザグの割れ目が。普通、こんなアニメみたいな綺麗な割れ目はありえないんだけど、慌てていたオレにはそんな考えが浮かばなかった。

パカッ。

「ふわぁぁ、よく寝た…」

…え?誰?っていうか、これ人なの?

「お前、何だ?」

最近はこういう人形も売ってるのか?

「オレか?オレはこの宇宙船EG・G7の船長のナツメだ」

宇宙船ってこんなに小さいものなのか?それにこれ、普通に喋ってるし…人形じゃないのか?

「なあ、お前…」

「お前じゃない。ナツメだ」

どっちでもいいよ、そんなこと…。

「じゃあナツメ、その、いーじーナントカの宇宙船に乗ってどこから来たんだ?」

見た目はタマゴそっくりの、宇宙船…らしいが。

「聞きたいか?」

ワクワクとした調子で聞いてくる。

「ああ、聞けるなら…」

「そんなに聞きたい?」

「いや、別にそこまでは…」

ちょっと知りたいって思っただけだしな…。

「そうか、そうか。そこまで言うなら聞かせてやろう」

人の話聞けよ!!

「聞いて驚くなよ。心の準備はできたか?」

「あー…できた、できた」

うっとうしいな。言うならさっさと言えよ。

「ふっふっふ…。オレはオーバル星から来たオーバル人なのだ!!」

へぇ、そりゃあすごい。…ちょっとうさん臭いけど。

「もっと驚けよ!!何だ、そのリアクションは?!」

うぜ。ちっこいくせにうるさい。

「うるさい、チビ!」

「おまっ……ふん。この船の光線に浴びたら元の大きさに戻れるんだ。見とけよ」

ちょこちょことさっきのタマゴ(宇宙船)へと向かい、何やらカチャカチャいじくり始めた。そしてボタンをポチッと押した。

ガタンガタタン、ビーーー、ぷしゅうぅ……。

何かすごい音がしてちょっとの間タマゴが光って揺れたけどそのあとは動かない。その少しの光を浴びたナツメはちょっと大きくなっていた。

「あれ?」

何度もボタンを押していたが反応なし。どうしたんだと覗き込むと、たしかにタマゴの中は何かのテレビで見たみたいに宇宙船っぽい。母さんや父さんが持っている携帯電話くらいの大きさの画面には赤字でemptyと点滅していたがしばらくすると画面が真っ暗に。

「ね、燃料切れだ…」

「それってまずいんじゃないの?」

ナツメの住むオーバル星に帰られないってことだよな。

「おい、ここは何星だ?」

何星って言われても正式名称知らないし。単純に“地球”…でいいのか?

「多分…、地球」

「地球…か。遠いな」

家に帰られないこいつを見てるとかわいそうに思えたけど、宇宙船が動かないんじゃ仕方ない。にしてもこれからどうすんだろな…。

「地球人、腹が減った」

これがさっきまで悲しそうにしていた奴が言うセリフなのか!?ってか、まず時間的に用意しなくてもいいんじゃ……。時計を見ると時刻は5時10分前。

…もうそろそろ用意した方がよさそうだ。

「待て。どこに行くんだ?」

しつこい奴だな。行動を起こす度に…。

「夕飯作んの」

「オレも行く。地球人、案内しろ」

「さっきからエラソーに…。それにオレは地球人って名前じゃない。礼人だ!あ・や・と!!」

「何でもいいから早くしろ、地球人」

完璧に無視か…。もう、いいや。地球人でも何人でも…。

部屋の戸を開けると後ろからひょこひょこナツメがついて来た。オレが階段を降りていると後ろからナツメが危なっかしい足取りで一段、また一段とそろそろ降りている。90cmほどの体では階段の一段は高く、手を使ってじゃないと危ないのだ。何より時間がかかる。

「…運んでやるよ」

変なところだけ強がるんだな。

「ふん…当たり前だ」

くそ、生意気だな。

抱えて階段を降り、洗面所に行き手を洗わせる。

「何をするんだ!!」

いやあ、この手を見てると赤ちゃんの頃の美帆を思い出すなぁ。美帆はおとなしかったけど。

「手を洗わねぇと夕飯作れないだろ?」

「作るのはお前だ。オレは食べるだけ」

なんちゅう性格。どんだけ俺様なんだ!

「食べるにしても手ぇ洗え。つか手伝おうとか思わないのか?」

「まったく。これっぽっちもない」

断言しやがった。おかしいな、オレは気の長い方のはずなんだけど…イライラする。

「早く作れ。腹が減りすぎて気がおかしくなりそうだ」

もう、すでにおかしいと思うんだけどな。こんなこと言ったらまたうるさく吠えるだろうから言わないけど。

台所へ行き、冷蔵庫からカレーの材料を出した。

にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、ニンニク、肉。

あとは付け合わせのサラダも作ろうかな。ゆで卵も欲しい。

ゆで卵は茹でるだけだから水を張った鍋に入れて放置。それからサラダに取り掛かった。

昨日買ったばかりのキャベツを洗って千切りにしたものとカイワレ大根と油を切ったツナ缶をボウルに入れた。マヨネーズを適当にかけて塩胡椒で味を調えてできあがりっ!

さっきからやけに静かになったと思い、後ろを向くと、勝手にバナナを剥いて食べていた。もう静かになったらそれでいいから特に何も思わなかった。

さて、次は主役のカレー…の前にゆで卵に塩入れてっと。こうすると殻が割れにくくなるんだよな~。

「随分と楽しそうだな」

テーブルの上にバナナの皮を放置したままこちらに来たナツメ。皮くらい捨てろ。

「別に。つか手伝え。ほら、包丁」

「刃先を人に向けるな!」

あ…でも受け取ったということは手伝うってことか。

「何を切るんだ?お前か?」

物騒なことを言うな!

「そんな訳ないだろ。…にんじんだ」

ピーラーで皮を剥いたにんじんを渡す。

しかしいつまで経っても切ろうとしない。まさか…

「ナツメ、もしかして料理したことない?」

「ああ。電子レンジで温めるとかならしたことあるけど」

本当なのか?

「今何歳なんだ?」

「10歳」

その身長でオレと同い年かよー!!そんなことより、今のオレくらいの奴は料理できない方が普通なのかな?

「あの鍋、なんか危ないぞ」

言われて、見るとやばいくらい沸騰している。慌てて火を止めた。

「じゃあ、にんじんはいいや。ゆで卵の殻剥いてて」

ざるにざあっとゆで卵を移して流水で冷やした。身長約90cmのナツメは流し台に手が届かないので、もちろん踏み台代わりの椅子を用意した。

野菜を切っていると隣からパリパリという殻の剥く音と、熱っ…という声が聞こえてくる。

料理をしたことがない奴が剥いてるからきっと卵の身まで剥いてるんじゃないかと思い見てみると、これが意外にも綺麗にツルンと剥けていた。

「うまいだろ?」

「自分で言うな」

オレはというと、野菜も肉もすべて切り終わり今から炒めるところ。

油をひいてニンニクを炒めているといい匂いがし始めた。

「もうできたか?」

この質問を聞いていると、ナツメが本当に料理経験ゼロなんだと思った。

「そんな訳ないだろ。見てわかれよ。まだニンニクしか炒めてないんだぞ」

「何だ、使えない奴だな」

なあ、もう殴ってもいい?いや、殴るはやりすぎだな…。せめて叩くくらいならいい?

「手が止まってる」

「はい……、って何でお前が注意すんだ!!話しかけてきたのはお前だろ?!」

「お前じゃなくてナツメだ。何度言えばわかるんだ?理解力のない奴め」

オレがまだ手を上げないのは料理中だということもあったけれど、こんな小さい子を叩いたら泣いてしまうと思ったからだ。本当は10歳らしいが…。

「黙って殻剥いてろ、チビ」

「黙って野菜炒めてろ、バカ」

売り言葉に買い言葉。これ以上口を開くとまた面倒なことになるので、文句を言いたいのをぐっと我慢した。

そうこうしている内に肉も野菜もすっかり火が通ったみたい。分量通りの水を入れ、待つこと数分―――

出た、これが面倒なんだよ…灰汁取り。すくっても掬ってもどっからか湧き出てくる。

「あ~、何捨ててるんだ?もったいないな」

オレが灰汁を捨てているのを見て言った。

「こうするとおいしくなるんだよ」

実のところよく理由は知らないんだよな…。

「ふむ。うまく作れよ」

背丈はオレよりはるかに低いのに常に上から目線。どんな風に育てられたんだろな。親の顔が見てみたい。

「ああっ、といけねぇ。コンソメ、コンソメ」

灰汁を取り終わった達成感の余韻に浸って、コンソメを入れ忘れるところだった。

弱火で15分くらい煮て、カットトマトを入れてからルーを入れてしばらくしてから火を切った。

これで20分くらい待てばできあがりだ。

「まだか?もう1時間は経ってるぞ」

「ああ、あともうちょっとだ」

6時10分。

まだ美帆と母さんは帰って来ない。父さんはきっと仕事で遅くなっているのだろう。

「美帆と母さん遅いな…」

何かますます心配になってきた。

「誰か待っているのか?」

「母さんと妹だよ」

「お前、妹がいるのか?」

「1人。5歳のな」

それより、このまま帰って来なかったら先にご飯食べてていいのかな。オレもお腹空いてきちゃった。

6時半になっても帰って来ないので先に食べることにした。

「もう食べるか」

「おう。早く入れろ」

座布団を積み重ねた椅子に座り、皿を突き出して言う。

高さ的にナツメ1人でご飯をよそってカレーをかけられないのはわかる。だけどもう少し頼み方ってものがあるだろう。

「まったく、もう…ブツブツ」

「地球人は口を開けば文句ばかりだな」

口を開けば命令ばかりのこいつに言われたくないし。

「ほら…」

トン、とご飯とカレーを盛った皿に半分に切ったゆで卵を添えたものと、取り分けたサラダを置く。オレ自身の分も隣の席に置いた。

「いただきます」

へえ、こういう礼儀はちゃんとあるんだ。何か意外…。

「うまいか?」

カレーを一口パクッと食べたのを見計らって聞いた。

「…うまい」

「そっか、よかった」

たとえ腹の立つ奴からでも、うまいと言われれば嫌な気はしない。むしろ嬉しい。

「ま、まあ、あれだけ待たされたら、何だってうまく思える」

す、素直じゃない奴…!せっかく見直しかけたのに。

「お前も遠慮せずに食え」

「オレが作ったんだよ!!」

何でこいつが仕切ってんだよ。本っ当に意味わからん。

「ただいまーっ」

母さんだ。

オレは食べかけのカレーを置いて玄関へ向かった。そこには大きなダンボールを重そうに置いた母さんと、顔の赤い美帆がいた。

「おかえり。美帆の具合は…ってそれ何?」

うふふと笑ってダンボールを開ける。

「風邪だって。病院行ったあと、スポーツドリンク買いに行ってついでに福引きやったら当たったの。たまご1年分!」

「うわぁーっ!すごい!!」

…でも、よく考えたらこれどうするんだろな。たまごって腐りやすいよな。

「カレー、ちゃんとできたのね。いい匂い…」

台所へと足を運ぶ母さん。たしかそっちにはナツメが…。

「あら、どちら様?」

「はじめまして。ナツメと申します。お先にお食事いただいてます」

何だ?その態度は?オレのときと大違いじゃん!

「小さいのにしっかりしているのね」

「そんなこと…」

性格違いすぎるだろ!!

「礼人、この子どうしたの?」

どうしたもこうしたも…。オーバル星人だって言っても信じてくれないだろうし…。

ここは適当にゴマかしとくか。

「友達のおばあちゃんが預かる予定だったんだけど、入院しちゃったんだって。その友達は家計が苦しいからってオレが頼まれたんだ」

こんなもんでどうだ!見事なゴマかしだと自分でも思う。

「そうなの…。好きなだけここにいていいからね、ナツメ君」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

この二重人格者め。何いい子ぶってんだ。

「わぁ~っ!みぃに弟ができた~」

こんな弟いらないよ。返品したい。いや、その前に借りた覚えもない。

「美帆、寝てなくていいのか?」

「ナツメちゃんとかれぇ食べる~」

聞いてないし。ていうか順応性早っ!!

「ただいま」

父さんだ!父さんならこいつの二重人格を見破ってくれるかもしれない。

「…その子は?」

「お帰りなさいませ、おじ様」

お前はどっかのメイドか!

「おかえり。預かり手がないから家で預かってもいいかしら?」

「おとぉさん、お願い…」

あっ、美帆のうるうる攻撃。未だこの家であれに打ち勝った者はいないんだよな…。

「いいぞ。ぼく、何て名前だい?」

「ナツメです」

「そうか、ナツメ君か。遠慮なんてしなくていい。たくさん食べるんだぞ」

「はい!」

オレ、もしかして区別されてる?何かもう人間として自信なくなってきた。

「お、礼人。いたのか?」

「いたよ!さっきからずぅっといたよ!!」

息子の存在に気がつかない父ってどうよ?

「ぷ…」

何かナツメに笑われてんのに怒鳴る気力さえない。気に入らないけどオレが拾ったんだし自業自得だよな。

拾ったことを初めて後悔した。

「礼人、食べ終わったんならお皿持ってきて。お母さんが洗うから」

オレは言われた通り食器をカチャカチャ運んだ。当然ナツメの分も。

「その内お風呂に入りなさいね。ナツメ君と」

「なぁんでオレがこいつと…」

冗談じゃない。風呂くらいゆっくり一人で入りたい。どうせ一人じゃないとしても美帆と入る方が100倍マシだ。

「ナツメ君はあんたに一番懐いてると思うんだけど」

「オレお兄ちゃんとがいい!」

オレはいつからお前の兄になったんだ?!こいつ、絶対何か企んでるな…。

母さんの押しも強く、オレがナツメの風呂入れ担当者になってしまった。

「美帆のお風呂入れはもういいから、これからはナツメ君をよろしくね」

そうなると思ってたよ。もう、いいや。宿題でもしよう…。

部屋に戻ってドリルを開く。先生からやってこいと言われた指定のページの問題を書き写す。

(この辺簡単だな…)

シャーペンを淀みなく動かすことができ、難無くクリアー!

「その辺とここ、間違ってるぞ」

「えっ…どこ?って、いつからそこにいた!?」

ドリルに夢中でまったく気がつかなかった。

「⑨と⑰と⑳。お前がドリル開くときからずっといた」

⑨と⑰と⑳…。本当だ。分母と分子が逆になってた。ていうかこいつ、勉強できたんだ…。

「風呂に行くぞ」

またこのパターン。世界はナツメ中心で回ってるんじゃねぇぞ。

「替えの服がない。地球人、用意しろ」

毎度、毎度…。

「あのなあ、お前は一体何様なんだ!?」

「お客様だ。それとお前じゃない。ナツメだ」

もうそのフレーズ聞き飽きたよ。お前って言われるのどんだけ嫌なんだよ…。

「あーもー。わかった、わかった。今用意するからちょっと待て」

たしかこの辺にオレの小さい頃の服とかあったんだよな~。…お、あった。

何でまだこんなもの置いてんのか謎だけど、今はとりあえず助かった。

「ほらよ、これで文句ないだろ?あと下着も」

あとはこいつが風呂入っている間に漢字ドリル終わらせるか…。

「…行くぞ」

「え?」

オレはランドセルから漢字ドリルを出す手を止めた。

「行くぞ」

オレの返事がないから聞こえてないと思ったのか、2度言った。

「風呂くらい1人で入れよ」

母さんはオレにナツメと入れと言ったけど風呂場までさすがに覗かれない。1人で入ってるのか2人で入ってるのか磨りガラス越しの外からじゃわからない。

「おばさんはお前と入れと言った」

それはナツメが小さい子どもだと思ったからだろう。オレ以外の人は事情を知らないからな。

「そんなの気にしなくていいんだよ。あ…でも長湯はすんなよ」

そこまで言ったのに動く気配がない。どうしたんだろう?ま、まさか、ナツメって…。

「もしかして、1人じゃ入られない…とか」

いや、でも4年生にもなってそれは…って頷いたーっ!

さっきまであんなにいばっていたのに急にしおらしくなった。耳まで真っ赤に染めて俯いている。

「…」

「……」

何だよ、この沈黙!気まずすぎるだろ!!なんかナツメがかわいそうっていうか惨めに思えてきた。仕方ないな。さすがに風呂くらいはおとなしく入ってくれるだろう。そう信じてオレは立ち上がった。

「…うし、行くか!」

オレは美帆のせいもあってか、小さい子に甘いようだ。ナツメを担いで風呂場まで行った。パジャマとバスタオル2枚をカゴに放り投げて服を脱いだ。

ナツメが服を脱ぐ姿を見て気がついたけど、ナツメの服は見かけないデザインをしている。

(やっぱり、宇宙人なのかな…?)

「えっち」

「はぁ?!意味不明なこと言うなよ」

オレがそんな目でお前を見るかっつーの!!ったく、こいつはオレを何だと思ってるんだ…。

「モタモタするな」

「うっせぇーな!!」

「風呂場でわめくな。うるさいのはお前だ」

オレ、いつまでこんな生活続けるんだろ?いつまでこの生活に耐えられるだろ?まだこいつと出会って一日も経っていないのになんか一週間くらいの疲れが溜まった。この疲れは湯舟に浸かるととれるかな?

かけ湯をし、ゆっくり湯舟に浸かる。少し熱めの湯がちょうどいい。

「なぁ、おま…ナツメはこれからどうするつもりだよ?」

溺れないようにオレの膝の上に座って湯舟に浸かっているナツメに聞く。

「聞かなくてもわかっているだろ?」

あー…ここにいるって訳ね。

落とし物って人でもいいのかな?交番に、これ、落とし者ですって言ったら引き取ってくれるかな?

……交番?

「そうだ、警察…」

「ムダだ。地球の警察なんてあてにならない」

「じゃあどうするんだよ?」

このままこの先ずーっとナツメと暮らすなんて何が何でも避けたい。オレの自由がなくなるどころか…、ストレスが溜まって死んじゃうよ!

「待てばいいだけだ」

そんな徳川家康みたいにオレは待てないって!!オレのこれからの自由がかかってんだぞ!

「そっちの方が何のあてにもならないじゃん!」

「警察を頼って託児所行きになるよりも、オレの宇宙船についている発信機をたどって誰かが迎えに来るのを待つ方がよっぽどあてになると思うが?」

「あれ、発信機なんてついていたのか!?」

あんな小さな船体にたくさんの機能がついている。

タマゴ型宇宙船、恐るべし…。

「当たり前だ。EG・G7をなめるな」

「はいはい。ほら頭出せよ~」

ナツメの頭にシャンプーハットを装着。

美帆のヤツだからピンク色。小学4年の男子がシャンプーハット…しかもピンク色のをつけているなんてかなり笑える。

「こっ、こんな物つけなくたって…」

風呂のせいなのか否か、真っ赤になって反論する。

なぜか今手のかかる子ほどかわいいっていうの、わかった気がする。

「かゆいところはございませんか~?」

散髪しに行ったときのセリフをふざけて言ってみる。

なんか今ナツメに勝った気がする。

「馬鹿にしやがって…!」

ナツメは急にこちらにくるりと向いた。何だよと聞こうと思ったそのとき、ふんっと掛け声を上げたかと思うとオレの急所を蹴ったのだ。

「~~~っ…!」

声にならない声で叫んだ。風呂場なので当然何も身にまとっている訳もなく、スッポンポン。

かなり痛い。声を出して叫ぶのは何とか堪えたけど、心の中じゃやまびこのように“痛い”がエコーしている。

「ざまあみろ」

お前も同じ男なんだったらこれがどれだけ痛いかわかるだろ…?

もう、こうなったら仕返しだっ!

「くらえっ、グリグリ百発!」

「うぎゃああぁ~っ!!」

握りこぶしで頭の側面をぐりぐりする攻撃。これをくらったらたいていの子どもは半ベソをかくんだよな~。いつもならそこで勘弁してやるんだけど、今日のオレは許さない。

「ふぇっ、ぐすっ…。や…めぇっろぉ~」

なんちゅう泣き方するんだっ!女子みたいだな…。なんかオレが罪悪感でいっぱいになっちゃったじゃん。

「ごめん…。やりすぎた……っていででででっ!!」

何なんだと思い、痛みを感じる二の腕を見るとナツメがつねっているのだった。

「こんな嘘泣きに引っかかるなんて、地球人も単純な奴だな」

にやーっと勝ち誇った笑みをこちらに向ける。

やられた…。こんな初歩的な手に引っかかるとは…。

「早く流せ。地球人」

くっそ~!オレが泣き落としに引っかかりやすいのを知ってんのか?

「早く流してくれたら…お前の背中を流してやらんこともない」

「え?!」

今ちょうど肩甲骨の下辺りがかゆいと思ったんだよ。流してくれるんならありがたい。けど…信じてもいいのかな。

ナツメの顔を覗き込むとなんだか照れた様子。どうやら信じてもよさそうだ。

「んじゃあ、頼もっかな」

何だかんだ言ってこいつ、そんなにオレのこと嫌ってなかったのかも…。

椅子に座り背中を洗ってくれるのを待った。

…オレは一体何度騙されるんだろうか。ただ単にオレが騙されやすい性格なんだろうか。

ぴたり。

背中に柔らかいタオル地が…って何か違うぞ!この肌触り、なんか固い。歯ブラシみたいな…。こ、これって…!

「ストーーップ!ストップ、ストップ!!」

「何だ?騒がしい奴め」

「お前、それ、タワシだろ?」

振り向きナツメの手を見ると、握っているそれはやっぱりタワシ。止めなかったら背中は擦り傷だらけになるところだった。何でタオルがそこにかかってるのにそれを使おうとしなかったんだよ…。

…わざとか?わざとなのか?

「よく汚れを落としてやろうと思ってな。どれ、前も洗ってやろう」

「やめろ!あぅっ……」

「汚い顔だな。サービスだ。顔も洗ってやろう」

「もう顔は洗ったよ!!これは自顔だ!」

失礼な奴だなぁ。ってか軽くショック…。オレ、けっこうモテる方だったんだけど…。去年のバレンタインとかチョコもらったんだけど…。あれは義理ってことだったのか。

「何をモタモタしている?早く洗い流せ」

…さっさと風呂上がっちゃおう。そうしたらもう早く寝よう。漢字をやるのは別に明日でもいい。ナツメを洗い流し、自身も洗い流して風呂を上がった。




乱暴に頭を拭きながらベッドに座る。目の前を見ると、普段何もないはずの場所に布団が敷かれていた。おそらく風呂に入ってる間に母さんが敷いたんだろう。

「お前、そこで寝ろよ」

それだけ言うと、俺はベッドに大の字になった。髪の毛は生乾き状態だったけど、明日は学校は休みだからどうでもいい。

「おい…」

「あーもーおやすみ、おやすみ」

ナツメは何か言いたそうだったけど、俺は無視して寝た。あいつは口を開けば文句ばっかり言うから、どうせ大した用事でもなかっただろ。あ…ほんとに眠い…。なんか考えんのも……。

オレは眠りの世界へ突入した。




何時間経ったんだろう。

トイレに行きたくて目が覚めた。夜遅くのトイレって嫌いなんだけどな…。そんなこと言ってても残された道はトイレに行くか、ここで漏らすか…。後者は絶対に選びたくないな。仕方なく電気の明かりで照らされた階段をゆっくり降りた。

しかし、何事もなく無事に用を足し、二階へと上がって自分の部屋に入った。

「ぅ…うぅっ…っく」

え……?な、何!?もしかして、幽霊?!

うぅ…変な汗が吹き出てきた。

「ぉか…さん……」

この声……ナツメ?

ナツメの方を見ると、布団がもぞもぞ動いている。やっぱり…。

「どうしたんだ?」

ビクッと布団が動いた。

「な、何でも…ない」

いやいや、そんな涙声で言われても説得力ないから。素直じゃないなぁ。

「怖い夢でも見たか?」

優しく頭を撫でてやるとしゃくりあげていたのがだんだんと落ち着いてきた。なんかよくわからんが一件落着。さぁて寝るか。……ん?何か引っ張られるぞ。ってナツメが引っ張ってたのか。

「…っ緒に…ろ」

「へ?」

何て言ったんだ?よく聞き取れなかった。

「一緒に…寝ろ」

「はぁ?」

またそんな訳わからんことを…。ナツメを見ると泣きそうな顔でぎゅっと唇を噛み締めている。

ったく、もう…。

「ほら、おとなしく寝ろよ」

オレって何でこう涙に弱いんだろう。

「じゃ、おやすみ」

とは言ったものの、目が冴えて眠れない。羊を数えても眠れない。

(羊が102匹、羊が10…。いくらだったっけ?)

たしか100匹は言ったよな。えーと…102くらい?…やめた、やめた。もうおとなしく無心になって寝よう。

「姉…ちゃん…、ぅぐっ…」

また泣いてる…。母さんの次は姉ちゃんか。もしかして、寂しいのか?

「…大丈夫だ」

後ろから抱きしめるように頭を撫でる。

オレの言葉に根拠なんてものは当然存在しなかった。けど、ナツメの不安を除くにはこの言葉しかかけようがなかった。

あれこれとオレに偉そうに言ってたけど、本当は寂しかったんだ。

「地球人のくせに…」

憎まれ口を叩いているのにオレには嬉しそうに聞こえた。

しばらくするとすやすやと規則正しい寝息をたてて眠り始めた。それにつられてオレも眠くなってきた。目を閉じると同時に意識を手放した。

次話はいつになることやら…(汗)

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